千葉県我孫子市の災害リスクと過去の被害記録|利根川・手賀沼が生む複合危機
千葉県我孫子市は、利根川と手賀沼・手賀川に南北を挟まれた地形に位置する。防災DBが算出した統合リスクスコアは89/100(極めて高い)。洪水・地震・高潮の3項目でいずれも最高水準のスコアを記録しており、関東平野の中でも特に複合的な災害リスクを抱える都市のひとつだ。
1666年から記録が残る201件の災害事例が示すとおり、この土地は繰り返し水害と地震に見舞われてきた。2011年の東日本大震災では全壊134棟・一部損壊3,319棟という大規模な建物被害が発生し、布佐地区では大規模な液状化で50棟53戸が解体を余儀なくされた。
なぜ我孫子市は複合災害に弱いのか
北の利根川、南の手賀沼——低地に囲まれた地形の宿命
我孫子市の市域は、東西約14km・南北約4〜6kmにわたる下総台地が中心部を形成し、標高は約20mある。しかしその台地の北縁に利根川が、南縁に手賀沼・手賀川が接しており、両側の低地は大雨や洪水のたびに浸水リスクにさらされる。
手賀沼はもともと縄文海進の名残で形成された侵食谷であり、江戸時代の干拓は「天明の大水(1786年)」をはじめとする度重なる洪水で繰り返し失敗に終わった。戦後、昭和21年から国営干拓事業が進められ1968年に完成したが、周辺の旧沼底地盤は現在も軟弱なままだ。
防災DBの125mメッシュ解析では、市内の洪水想定メッシュのうち利根川に起因するものが6,610メッシュ(最大浸水深10m超、浸水継続最大336時間)と最多を占め、次いで小貝川が2,130メッシュ(最大5m)と続く。
地盤の軟弱さが地震被害を増幅する
地盤の強さを示すS波速度(Avs30)の市内平均は212 m/s。一般に300 m/s以下を「軟弱地盤」と位置付けており、我孫子市全体が増幅しやすい地盤に覆われていることを示す。
防災DBによる震度6弱以上の30年確率(2024年公表版)は市内平均で66.26%、最大値は99.36%に達する。震度5弱以上では市内全域でほぼ100%という数字が、この地域の地震頻度を如実に物語っている。
過去の主要災害
【最大被害】2011年東日本大震災:全壊134棟、液状化で50棟解体
2011年3月11日にマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震が発生し、我孫子市内では震度5弱を記録した。死者・行方不明者は市内ではゼロだったが、建物被害は深刻だった。
| 区分 | 棟数 |
|---|---|
| 全壊 | 134棟 |
| 半壊 | 101棟 |
| 一部損壊 | 3,319棟 |
特に深刻だったのが布佐東部地区の液状化だ。この地区は1952年の利根川河川改修工事に際し、川砂で埋め立てられた旧沼地・湿地を基盤としている。埋め立てから約60年が経過していたが、震度5弱という比較的中程度の揺れで地中から大量の砂が噴出し、地盤沈下・家屋傾斜が相次いだ。最終的に約12.5ヘクタールにわたって50棟53戸が解体された。
この被害は当時のハザードマップが液状化リスクを過小評価していたことを露呈した。市は震災後に微地形分類図(古地形・空中写真ベース)を活用してハザードマップを大幅改訂し、布佐地区等の危険区域を正確に反映させた。液状化対策工事補助金制度も創設し、個人の地盤改良工事を支援している(出典:「我孫子市の液状化被害とそれを教訓としたハザードマップの改訂」J-STAGE 2015年)。
【水害最大規模】2013年台風26号:床上浸水101棟・床下浸水309棟
2013年10月15日、平成25年台風第26号(暴風・大雨)が直撃した。この台風は伊豆大島で死者36人を出した「平成25年台風第26号による暴風・大雨」として知られる。我孫子市内でも床上浸水101棟、床下浸水309棟という記録的な浸水被害が発生した(出典:我孫子市地域防災計画 平成28年3月)。
この年の台風シーズンは台風18号・26号・27号が相次いで上陸・接近し、市内の中小河川や排水施設が連続降雨に耐えられなかったとみられる。
【頻発する風水害の年表】
NIEDデータベースに収録された我孫子市の主要な水害記録を以下に示す。
| 年 | 月日 | 災害名 | 主な被害 |
|---|---|---|---|
| 2019 | 9月 | 令和元年台風15号(房総半島台風) | 一部損壊1棟 |
| 2019 | 10月11日 | 令和元年台風19号(東日本台風) | 記録あり |
| 2013 | 10月15日 | 台風26号による暴風・大雨 | 床上浸水101、床下309 |
| 2011 | 3月11日 | 東日本大震災 | 全壊134、半壊101、一部損壊3319 |
| 2008 | 8月30日 | 平成20年8月末豪雨 | 床上28、床下145 |
| 2007 | 6月10日 | 洪水 | 床上17、床下67 |
| 2004 | 10月9日 | 台風22号・前線 | 床下16 |
| 2003 | 8月5日 | 大雨 | 床上30、床下82 |
| 1991 | 9月8日 | 台風 | 床下38 |
| 1986 | 9月13日 | 台風 | 床下24 |
| 1923 | — | 関東大震災 | (記録あり) |
記録の最古は1666年に遡り、利根川や手賀沼周辺で洪水が繰り返されてきた歴史が浮かび上がる。
洪水・浸水リスク:利根川が最大の脅威
最大浸水深20m超を想定
防災DBの125mメッシュ解析が示す市内の洪水リスクを河川別にまとめると以下のとおり。
| 河川名 | 影響メッシュ数 | 最大浸水深 | 最長浸水時間 |
|---|---|---|---|
| 利根川 | 6,610 | 10m以上 | 336時間(約14日) |
| 小貝川 | 2,130 | 5m | 336時間(約14日) |
| 大津川 | 107 | 5m | 168時間(約7日) |
| 大堀川 | 49 | 10m以上 | 336時間(約14日) |
| 大正堀川 | 79 | 3m | 336時間(約14日) |
利根川の氾濫は市北部の若松地区など低地全域に長期浸水をもたらすシナリオが想定されている。浸水深10mは3階建て建物の屋根付近まで到達する水位であり、垂直避難すら機能しない事態になりかねない。市の公式ハザードマップ(令和7年2月版)では、2階への垂直避難では不十分な地区があることを明示している。
浸水深の具体的イメージ
- 0.5m: 膝上まで。歩行困難
- 1m: 腰から胸まで。通常車は水没
- 3m: 1階天井まで。垂直避難が命綱
- 5m: 2階床上まで。2階への避難も危険
- 10m: 3階建て屋根付近。即時広域避難が必要
地震リスク:震度6弱が66%の確率で30年以内に到来
確率論的地震動予測(2024年版)
防災DBが収録する地震動予測(政府地震調査研究推進本部 2024年公表)によれば、我孫子市では以下の確率が算出されている。
| 指標 | 市内平均 | 市内最大 |
|---|---|---|
| 震度6弱以上の30年確率 | 66.26% | 99.36% |
| 震度5弱以上の30年確率 | ほぼ100% | 100% |
66%という数字は「30年以内に我孫子市で震度6弱以上の揺れが発生する確率が、コイントスよりやや高い」ことを意味する。2011年の震度5弱で全壊134棟・液状化多発が起きていることを踏まえれば、震度6弱超では被害が急増することが予想される。
液状化リスク
布佐地区の旧沼地・湿地を埋め立てた地盤は、震災後の改訂ハザードマップで最高危険度に引き上げられた。市内の液状化スコア(防災DB算出)は40/100だが、地区によって危険度の偏りが大きい。特に沼地・旧河道に隣接する低地や造成地は注意が必要だ。
土砂災害リスク:28か所の警戒区域
防災DBの125mメッシュ解析では、土砂災害の影響メッシュは68と洪水・高潮に比べて限定的だ。ただし市内には土砂災害警戒区域が28か所指定されており(防災DBリスクスコア算出値)、台地と低地の境界斜面で崖崩れリスクが局所的に存在する。
千葉県が公開する土砂災害警戒区域(我孫子市)の最新情報は千葉県防災ポータルから確認できる。
高潮・津波リスク:沿岸から離れていても要注意
高潮スコアは100/100、津波スコアも100/100。手賀沼・利根川沿いの低地は高潮の影響を受けやすく、防災DBの125mメッシュ解析では影響メッシュが803に上る。利根川の河口(銚子付近)から潮位上昇が遡上するシナリオも想定されており、「海から遠い内陸部」という安心感は禁物だ。
我孫子市の避難施設一覧
市内には49か所の避難場所・避難所が整備されており、うち広域避難場所は5か所。
広域避難場所(大規模火災・地震時)
| 施設名 | 所在地 |
|---|---|
| 布佐南公園 | 我孫子市布佐平和台5丁目地内 |
| 布佐南小学校 | 我孫子市布佐平和台5-1-1 |
| 白山中学校 | 我孫子市白山3-7-3 |
| 第四小学校 | 我孫子市白山3-2-1 |
| 財団法人電力中央研究所 | 我孫子市我孫子1646 |
主な避難所(一部)
| 施設名 | 所在地 | 種別 |
|---|---|---|
| 中央学院大学 | 久寺家451 | 避難所 |
| 中央学院高等学校 | 都部765 | 避難所 |
| 布佐中学校 | 布佐1301 | 避難所 |
| 久寺家中学校 | つくし野171 | 避難所 |
| 並木小学校 | つくし野7-30-1 | 避難所 |
最寄りの避難所は地区によって異なる。利根川沿いの低地(若松・新木・布佐地区など)では、洪水時の早期避難が特に重要だ。
今からできる備え
公式防災情報・ハザードマップ
我孫子市は令和7年2月に最新版のハザードマップを作成している。洪水・内水・地震・土砂災害の4種を網羅した内容で、住所別の浸水シミュレーションも国交省「浸水ナビ」との連携で確認できる。
- あびこハザードマップ(令和7年2月版): https://www.city.abiko.chiba.jp/anshin/bousai/bousai_info/abikohazard_map.html
- 利根川・手賀川水位情報(リアルタイム): https://www.city.abiko.chiba.jp/anshin/bousai/bousai_info/tone_tega_suii.html
- 我孫子市防災情報: https://www.city.abiko.chiba.jp/anshin/bousai/index.html
具体的な備え
- 液状化リスクの確認: 自宅の地盤履歴(旧沼地・旧河道かどうか)を市のハザードマップで確認する。特に布佐・新木・若松エリアの方は必須
- 洪水時の避難計画: 利根川氾濫では2階への垂直避難では不十分な地区がある。ハザードマップで自宅の浸水深を確認し、早期広域避難の判断基準を決めておく
- 水位情報の監視: 利根川・手賀川の水位情報をリアルタイムで確認できる市のページをブックマーク
- 備蓄: 利根川氾濫時は最大14日間(336時間)の浸水継続が想定される。食料・水の備蓄は最低3日間、可能なら1週間分を目安に
- 地盤改良補助の活用: 液状化対策工事を検討する場合、市の補助制度(震災後創設)を確認する
データ出典
本記事は以下のデータソースに基づいて作成しています。
| データ | 出典 | 時点 |
|---|---|---|
| 統合リスクスコア(89/100) | 防災DB(bousaidb.jp)算出 | 2024年版 |
| 洪水メッシュデータ | 国土交通省 洪水浸水想定区域(想定最大規模) | 2024年収録版 |
| 地震動予測 | 政府地震調査研究推進本部「全国地震動予測地図2024年版」 | 2024年公表 |
| 過去の災害事例(201件) | 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース | 2024年収録版 |
| 避難場所情報 | 国土数値情報「避難施設(P20)」 | 2023年版 |
| ハザードマップ・液状化情報 | 我孫子市公式(令和7年2月改訂版) | 2025年2月 |
| 液状化被害・ハザードマップ改訂 | J-STAGE「我孫子市の液状化被害とそれを教訓としたハザードマップの改訂」 | 2015年 |
| 土砂災害警戒区域 | 千葉県防災ポータル | 2024年 |
著者:防災DB編集部 / 公開日:2026年4月5日
防災DB