足立区の災害リスクと過去の水害全記録:荒川氾濫で区内最大10mの浸水が想定される東京の「最高リスク区」

足立区は防災DBの統合リスクスコアで93点(極めて高い)を記録する、東京23区のなかで最も水害リスクが高いエリアの一つです。荒川・綾瀬川・中川・毛長川に四方を囲まれた低地であり、大規模な荒川氾濫が起きれば区内の広域が最大10mを超える浸水に見舞われると想定されています。1947年のカスリーン台風では近隣3区で床上浸水8万棟超、令和元年台風19号では区内135か所の避難所に33,154人が避難しました。この記事では、防災DBの125mメッシュ解析データをもとに、足立区の水害・地震・液状化リスクを具体的な数値で整理します。


この街の災害リスクの全体像

リスク種別 スコア(0-100) 評価
統合リスク 93 極めて高い
洪水 100 荒川氾濫で最大浸水深10m以上
高潮 100 東京湾から遡上する高潮リスク
地震 100 首都直下地震で23区中最大の被害想定
液状化 80 荒川沿い低地は全域で液状化リスク
土砂災害 50 台地が少なく該当箇所は限定的(34箇所)

出典:防災DB(2024年データ)

足立区の最大の脅威は水害です。区の総面積53.2km²のほぼ全域が洪水浸水想定区域に含まれ、268,399メッシュ(125m×125m単位)が何らかの浸水想定を持ちます。地震リスクも深刻で、東京都の首都直下地震被害想定(東京湾北部地震M7.3)では足立区の全壊建物数・死者数・負傷者数が23区の中でいずれも最大になると試算されています。


なぜ足立区はこれほど水害に弱いのか

答えは地形にあります。足立区は「河川に囲まれた低湿地」そのものです。

区の南側を旧江戸川の本流である隅田川が流れ、北西から南東にかけて荒川放水路(1911〜1930年に開削)が縦断します。東側には綾瀬川・中川、北側に毛長川。これらすべての河川の標高は周辺市街地と同程度か、それより高い位置にあります。つまり足立区の市街地は川に挟まれた「お皿」の底に位置しており、どこかで堤防が破れれば水が逃げる場所がない構造です。

防災DBの125mメッシュ解析による平均地盤S波速度(Avs30)は190.8m/s。固い岩盤の目安とされる400m/sを大きく下回る軟弱地盤であり、地震動は増幅されやすく、液状化しやすい状態にあります。

区内の大半の地域は海抜1〜3m程度。東部の新田・千住・堀之内周辺は海抜がほぼゼロか、それ以下のいわゆる「海抜ゼロメートル地帯」に相当するエリアも存在します。


過去の主要災害

1947年9月 カスリーン台風(昭和22年)— 戦後最大の荒川大洪水

1947年9月15〜16日、カスリーン台風は東海〜東北を縦断しました。埼玉県北部で利根川の堤防が決壊し、濁流が荒川水系を通じて東京の東部低地へ流れ込みました。足立区・葛飾区・江戸川区の3区で床上浸水82,931棟、床下浸水22,551棟という戦後最大の水害となりました(出典:国土交通省関東地方整備局)。この水害が、荒川放水路の整備強化と大規模な堤防工事を推進するきっかけとなりました。

NIEDデータセットに当水害は収録されていませんが、公的文書から被害を確認済みです。

1991年9月19日 台風第17・18・19号(平成3年)

1991年秋の台風集中は足立区に大規模な浸水をもたらしました。防災DBのNIEDデータでは床上浸水221棟・床下浸水1,109棟を記録。当時の足立区地域防災計画がこの災害を事例として参照しており、区内の排水能力の限界を示した記録として残っています。

1993年8月27日 平成5年梅雨前線・台風第7・11号

1993年8月は連続する台風と梅雨前線の活発化により、記録的な大雨となりました。足立区では床上浸水758棟・床下浸水514棟(NIEDデータ)。2年連続で大規模浸水が起きたことで、区が内水排除ポンプの強化に乗り出す契機となりました。

2019年9〜10月 令和元年台風第15号・第19号

台風15号(令和元年房総半島台風)では足立区内で全壊1棟・半壊6棟・一部損壊20棟の建物被害(NIEDデータ)。

その1か月後、台風19号(令和元年東日本台風)が直撃すると状況は一変します。荒川の河川敷が完全に水没し、西新井橋の橋脚が水流で隠れるほど水位が上昇。足立区は区内135か所の避難所を開設(過去最大規模)し、ピーク時の避難者数は33,154人に達しました(足立区公式発表)。台風の進路がわずかにずれていれば堤防越流・決壊に至った可能性があり、区が「大規模水害で足立区が沈む」という表題のページを公式サイトで公開するほど深刻な状況でした。


過去の災害年表(NIED記録分)

年月日 災害名 床上浸水 床下浸水 全壊 半壊 一部損壊 資料
1991年9月19日 台風第17・18・19号 221棟 1,109棟 足立区地域防災計画
1993年8月27日 梅雨前線・台風第7・11号 758棟 514棟 足立区地域防災計画
2019年9月 台風第15号(房総半島台風) 1棟 6棟 20棟 総務省報告
2019年10月 台風第19号(東日本台風) 10棟 内閣府報告

※NIED(国立研究開発法人防災科学技術研究所)自然災害データベースより。カスリーン台風(1947年)等の戦前・戦後初期の災害は同データセット未収録。


洪水浸水リスク:荒川が氾濫したとき何が起きるか

防災DBの125mメッシュ解析によると、足立区に影響する主要河川ごとの浸水想定は以下のとおりです(2024年データ)。

河川名 影響メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 想定継続時間
荒川 15,663 10m以上 2.44m 最大336時間(14日)
江戸川 6,674 10m以上 2.74m 最大336時間
利根川 5,279 10m以上 2.62m 最大336時間
神田川 3,582 5m 0.40m 最大336時間
芝川流域 1,475 10m以上 0.96m 最大336時間
隅田川 1,466 5m 0.28m 最大336時間

荒川氾濫を想定した場合、区内の影響メッシュ数は15,663で、最大浸水深は10m超です。浸水深をイメージするために言えば:

  • 1m:自動車が水没し、動けなくなる水位
  • 2m:1階が完全に水没、2階の窓から出入りできる水位
  • 5m:2階建て住宅がほぼ水没
  • 10m:3〜4階建て建物の2〜3階まで水没

特に深刻なのは継続時間です。荒川・江戸川・利根川すべてで最大336時間(14日間)の浸水が想定されており、「長期浸水」による孤立リスクが極めて高くなります。足立区が「垂直避難(ビルの上層階への移動)」ではなく、事前の「水平避難(区外への早期脱出)」を強く推奨している理由がここにあります。


高潮・津波リスク

防災DBの125mメッシュ解析では、足立区で16,994メッシュが高潮・津波浸水想定区域に含まれます。高潮スコアは洪水と並ぶ100点満点。東京湾から遡上した高潮が荒川・隅田川・旧江戸川を通じて内陸部に達するリスクがあります。足立区のハザードマップでは「荒川氾濫」と「高潮」の複合リスクも考慮する必要があると示されています。


地震・液状化リスク

足立区の地震リスクは洪水に匹敵するほど深刻です。

防災DBの確率論的地震ハザード評価(2024年版)によると:

  • 30年以内に震度6弱以上を観測する確率:区内平均68.5%、最大値95.9%
  • 30年以内に震度5弱以上を観測する確率:区内平均99.98%(ほぼ確実)

全国平均の30年間震度6弱以上確率が26%程度(2020年版全国地震動予測地図)であることを考えると、足立区の確率は際立って高く、首都圏が震源となる地震が繰り返し予測されていることを反映しています。

地盤の軟弱さ(Avs30平均190.8m/s)は地震動の増幅を招きます。東京都の被害想定(2022年改訂版)では、東京湾北部を震源とするM7.3の首都直下地震が発生した場合、足立区の全壊棟数・死者数・負傷者数が23区のなかで最大水準に達するとされています。

液状化スコアは80点。荒川・綾瀬川沿いの沖積低地では地震時に地面が液状化し、建物の沈下や傾き、ライフラインの破断が広範囲に起きる可能性があります。


土砂災害リスク

防災DBのメッシュ解析では土砂災害危険箇所が34箇所、対応メッシュ数は59メッシュと比較的少ない数値です。足立区は平坦な低地が大部分を占め、急傾斜地が少ないため、土砂災害リスクは他のリスクと比べると相対的に低い水準です。ただし、台地の縁辺部や一部の造成地では土砂崩れのリスクがゼロではありません。


避難場所一覧

足立区内には合計201か所の避難場所があり、うち29か所が広域避難場所(火災・大規模水害時に対応)です。

施設名 種別
舎人公園一帯 広域避難場所
荒川北岸・河川敷緑地一帯 広域避難場所
荒川南岸・河川敷緑地一帯 広域避難場所
花畑団地一帯 広域避難場所
総合スポーツセンター一帯 広域避難場所
竹の塚小学校一帯 広域避難場所
栗原団地一帯 広域避難場所
東綾瀬団地一帯 広域避難場所
みやぎ水再生センター一帯 広域避難場所
中川公園一帯・大谷田団地一帯 広域避難場所

重要:大規模水害時には荒川河川敷の広域避難場所は使用できない場合があります。足立区は水害発生前の「早期の区外避難」を推奨しており、事前に自宅の浸水リスクを確認したうえで避難先を検討することが不可欠です。


今からできる備え

足立区の水害リスクの特徴は「氾濫後の長期浸水(最大14日間)」と「複数河川の同時氾濫リスク」です。垂直避難だけでは命を守れない可能性があるため、以下を確認してください。

1. 自宅の浸水深を確認する

足立区は荒川・江戸川・利根川・中川・綾瀬川・芝川の計6種類のハザードマップを公開しています。自宅に最も近い河川のマップで想定浸水深を必ず確認してください。

足立区洪水・内水・高潮ハザードマップ(令和4年4月改訂)

2. 早期避難のタイミングを決めておく

「荒川に大雨洪水警報が出たら区外に移動する」など、家族でルールを決めておきます。台風19号のときと同様に避難所が33,000人超で混雑することを想定し、安全な親族宅・ホテル等の代替避難先もリストアップしておきましょう。

3. 防災グッズと3日分の備蓄

浸水が14日間継続すると想定されるため、できれば7日分以上の水・食料・医薬品を用意することが推奨されます。

4. 地震への備え

軟弱地盤のため地震の揺れが増幅されます。家具の転倒防止・耐震診断(木造住宅は無料診断あり)を実施し、液状化リスクの高い地区では地盤改良も選択肢です。

足立区防災・災害対策ページ


データ出典

出典 利用したデータ
防災DB(bousaidb.jp) 統合リスクスコア、125mメッシュ洪水・土砂・高潮・地震データ
国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース 過去の災害事例(1947〜2019年)
国交省関東地方整備局「カスリーン台風〜荒川の戦後最大の大洪水〜」 1947年カスリーン台風の被害
足立区地域防災計画 概要版 1991年・1993年浸水被害
足立区公式発表(令和元年台風19号対応記録) 2019年台風19号の避難者数
国立研究開発法人防災科学技術研究所 全国地震動予測地図2024年版 30年以内震度6弱以上確率
東京都「首都直下地震等による東京の被害想定(2022年改訂版)」 地震被害想定
足立区「洪水・内水・高潮ハザードマップ(令和4年4月改訂)」 ハザードマップ情報

著者:防災DB編集部 / 最終更新:2026年4月