厚岸町の災害リスク完全ガイド|洪水・津波・地震が三重に重なる北海道有数のリスクエリア
北海道釧路管内に位置する厚岸町は、防災DBの統合リスクスコアで79点(5段階中「極めて高い」)を記録している。洪水・津波・地震の3つのリスクがいずれも最高スコア100を示すのは、道内でも特異な自治体だ。厚岸湾に深く食い込む地形、日本有数の活断層帯に近い太平洋沿岸という地理的条件が、複合的な災害リスクを生み出している。
防災DBが収集した厚岸町地域防災計画のデータによれば、記録に残るだけで1843年以降に44件の災害が発生している。今この町に住む人、移住を検討している人、企業のBCP担当者が知っておくべきリスクの全体像をデータから読み解く。
なぜ厚岸町は災害に弱いのか——地形が生む三重のリスク
厚岸町の地形を見れば、リスクの高さは一目瞭然だ。
町の中心部は厚岸湾に面した低地に立地している。面積102km²、最大水深24mの厚岸湾は内陸深くまで入り込み、厚岸湖・別寒辺牛湿原(ラムサール条約登録湿地)へと続く。この低平な湿原地帯が、洪水・津波・高潮の三方向からの水害リスクを集約している。
洪水リスクは北から南下する釧路川が主役だ。釧路川は厚岸町北部を流れ、防災DBの125mメッシュ解析では釧路川の氾濫想定区域が1,557メッシュ(約24km²)と最大規模を占める。最大浸水深は5m、浸水継続時間は最大168時間(7日間)に達する試算もある。2階建て住宅の1階がほぼ完全に水没する深さが、1週間続く可能性がある。
津波リスクは太平洋沿岸という立地に起因する。防災DBのコースタルメッシュ解析では、7,662メッシュが津波・高潮浸水リスクを抱えており、最大浸水深は10m以上を想定している。4階建てビルの屋上まで波が到達する規模だ。
地震リスクは確率の面から突出している。防災DBの地震確率データでは、厚岸町の30年以内の震度6弱以上の発生確率は平均61.6%、最高地点では95.7%に達する。日本の他地域と比較しても飛び抜けて高い数字であり、「南海トラフ地震が来るかどうか」ではなく「大地震はほぼ確実に来る」と読むべき水準だ。
180年の災害記録——主要被害の詳細
1843年5月22日 大地震(死者45名)
厚岸の歴史上、最大の被害をもたらした災害だ。防災DBのNIEDデータには「死者45名・全壊75棟」と記録されている。現代の厚岸町地域防災計画でも特記されているこの地震は、天保年間(江戸時代後期)に北海道太平洋側を襲った大地震と推定される。詳細な記録は限られるが、死者数45名は幕末期の厚岸の人口規模を考えると壊滅的な被害だったと言える。
1952年3月4日 十勝沖地震(死者3名・半壊62棟)
戦後最初の大きな地震被害が1952年の十勝沖地震(M8.2)だ。厚岸町では死者3名、半壊62棟の被害が記録されている。十勝沖地震は当時の釧路・根室地方に甚大な被害をもたらした広域地震であり、津波も発生した。厚岸の港や沿岸低地への被害が含まれていたと考えられる。
1954年5月9日 暴風雨(行方不明24名)
地震とは異なる大規模被害として記録に残るのが、1954年の暴風雨だ。行方不明者24名という深刻な被害は、厚岸の漁業関係者が海上で遭難した可能性が高い。厚岸は牡蠣・毛ガニなどの水産業が基幹産業であり、漁船の操業中の暴風による海難がこの数字を生んだと推察される(推測です)。
1960年5月24日 チリ地震津波
地球の裏側、チリで発生したM9.5の超巨大地震が引き起こした津波が太平洋を越えて厚岸に到達した。NIEDデータには建物被害の詳細数値は記録されていないが、厚岸町地域防災計画がこの災害を特記しているのは、沿岸低地の浸水被害が実際に発生したためだ。遠地津波であっても太平洋沿岸の厚岸が無被害でなかった事実は、津波リスクの深刻さを示している。
1973年6月17日 根室半島沖地震(全壊6棟)
M7.4の根室半島沖地震では、厚岸町で全壊6棟の被害が記録されている。根室・釧路地方を中心に被害をもたらした地震で、厚岸の沿岸部でも液状化や建物被害が発生した。
1993年1月15日 釧路沖地震(一部損壊574棟)
平成最初の大きな地震被害が1993年の釧路沖地震(M7.5)だ。厚岸町では一部損壊574棟という大規模な被害が記録されている。深さ101kmの深発地震だったため津波は発生しなかったが、地震動そのものの被害は広範囲に及んだ。釧路港では液状化に伴う噴砂現象が確認されており、厚岸の港湾・沿岸埋立地でも同様の地盤被害があったとみられる。
574棟の一部損壊は、当時の厚岸町の世帯数を考えると住民の多くが何らかの建物被害を受けた計算になる。
1994年10月4日 北海道東方沖地震(震度6・一部損壊89棟)
翌1994年10月4日、北海道東方沖でM8.2の巨大地震が発生した。厚岸町は震度6を記録し、道内で最大震度を観測した自治体の一つとなった。一部損壊89棟のほか、津波警報が発令されて沿岸住民が避難する事態となった。
1993年と1994年の連続地震は、厚岸が「太平洋プレートの沈み込み帯」という地震の巣の上に位置することを改めて示した。いずれも震源域は千島海溝沿いであり、今後も同規模の地震が繰り返し発生する地域だ。
過去の災害年表(全記録)
防災DBが集計した厚岸町の全44件の災害記録を年表で示す。
| 年 | 月日 | 災害種別 | 主な被害 |
|---|---|---|---|
| 1843 | 5/22 | 地震 | 死者45名・全壊75棟 |
| 1952 | 3/4 | 地震(十勝沖) | 死者3名・半壊62棟 |
| 1954 | 5/9 | 暴風雨 | 行方不明24名 |
| 1960 | 5/24 | 地震(チリ地震津波) | 津波被害 |
| 1970 | 1/31 | 低気圧 | 河川被害 |
| 1971 | 9/11 | 台風 | 建物被害 |
| 1972 | 2/27 | 暴風 | 全壊4棟 |
| 1972 | 9/17 | 台風20号 | 半壊1棟・河川2件 |
| 1973 | 4/17 | 暴風雨 | — |
| 1973 | 6/17 | 地震(根室半島沖) | 全壊6棟 |
| 1975 | 3/22 | 高波・高潮 | 床上20棟・床下115棟 |
| 1975 | 5/18 | 洪水 | 床上12棟・床下51棟・半壊1棟 |
| 1976 | 9/14 | 台風17号 | 床上3棟・床下5棟 |
| 1976 | 10/21 | 台風 | — |
| 1976 | 12/16 | 雪害 | — |
| 1977 | 4/18 | 暴風雨 | — |
| 1977 | 7/1 | 暴風雨 | — |
| 1978 | 4/6 | 暴風雨 | 河川5件 |
| 1979 | 4/8 | 高波・高潮 | 床上10棟・河川被害 |
| 1979 | 10/1 | 台風16号 | 建物被害 |
| 1979 | 10/19 | 台風20号(洪水) | 全壊2棟・半壊1棟・一部損壊3棟 |
| 1981 | 4/8 | 雪害 | — |
| 1981 | 4/21 | 雪害 | — |
| 1981 | 5/30 | 暴風雨 | 床下10棟 |
| 1981 | 8/5 | 豪雨(北海道豪雨) | — |
| 1981 | 8/22 | 台風15号 | — |
| 1982 | 10/19 | 台風 | — |
| 1983 | 2 | 雪害 | — |
| 1984 | 7/19 | 暴風雨 | 床上6棟・床下27棟・河川1件 |
| 1985 | 4/2 | 雪害 | — |
| 1985 | 7/1 | 豪雨・台風6号 | — |
| 1986 | 3 | 雪害 | — |
| 1986 | 9/3 | 台風 | 建物被害 |
| 1987 | 8/31 | 台風12号 | 建物被害 |
| 1987 | 10/17 | 台風 | 建物被害 |
| 1988 | 4/20 | 雪害 | — |
| 1988 | 5/13 | 暴風雨 | — |
| 1989 | 7/10 | 暴風雨 | — |
| 1989 | 8/16 | 暴風雨 | 床下13棟 |
| 1990 | 11/5 | 暴風雨 | 建物被害 |
| 1991 | 9/28 | 台風17・18・19号 | — |
| 1993 | 1/15 | 地震(釧路沖) | 一部損壊574棟 |
| 1994 | 10/4 | 地震(北海道東方沖) | 一部損壊89棟 |
| 1998 | 9/16 | 台風5号 | 床上1棟・床下5棟 |
(出典: 厚岸町地域防災計画 / NIED自然災害情報室)
洪水・浸水リスクの詳細
釧路川が最大の脅威
防災DBの125mメッシュ解析で、厚岸町の洪水リスクを支配するのは釧路川だ。
| 河川名 | 浸水想定メッシュ数 | 最大浸水深 | 継続時間 |
|---|---|---|---|
| 釧路川 | 1,557 | 5.0m | 168時間(7日間) |
| 尾幌川 | 480 | 3.0m | — |
| アレキナイ川 | 351 | 0.5m | — |
| モアレキナイ川 | 175 | 3.0m | — |
| オソベツ川 | 117 | 5.0m | 168時間 |
| チョウマナイ川 | 12 | 5.0m(平均4.3m) | 72時間 |
釧路川の氾濫では、1,557メッシュ(約24km²)の広範囲で浸水が想定され、その最大深度5mは2階建て住宅の1階天井まで水没する水準だ。さらに浸水が168時間(丸1週間)継続する想定であることが特に深刻で、通常の避難では済まない長期避難が必要になる。
オソベツ川も最大5m・168時間と同水準のリスクを持つ。河川名は少ないが、アイヌ語由来の小河川が多数存在し、それらの流域でも浸水リスクが広がる。
浸水深のリアルなイメージ
- 0.5m: 膝上まで。歩行が困難。車は水没しない。
- 1.0m: 大人の腰まで。ほとんどの車が走行不能。
- 3.0m: 2階の床上。1階は完全水没。
- 5.0m: 2階の天井まで。2階建て住宅は全没に近い。
釧路川や尾幌川、オソベツ川の氾濫想定区域に居住する場合、垂直避難(上の階への移動)でも命が危険にさらされる可能性がある。浸水前の水平避難(高台への移動)が唯一の手段となる。
地震・液状化リスク
30年以内に震度6弱が「ほぼ確実」
防災DBの地震ハザードデータ(2024年時点)では、厚岸町の地震リスクが数字で明確になる。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 震度6弱以上の30年確率(平均) | 61.6% |
| 震度6弱以上の30年確率(最大) | 95.7% |
| 震度5弱以上の30年確率(平均) | 99.4% |
| 平均地盤速度(Avs30) | 307.4 m/s |
震度6弱以上の確率が平均で61.6%というのは、「コインを投げて表が出る確率」より高い。最大地点では95.7%、つまりほぼ確実に大地震に見舞われる。地盤速度307.4m/sは標準的な数値だが、沿岸部の埋立地・低地では局所的な地盤増幅が起こりやすい。
1993年の釧路沖地震での液状化実績が示すように、厚岸の港湾部・沿岸低地では液状化リスクが現実のものだ。液状化が発生すると、建物が傾いたり道路が波打ったりして避難路が断たれる恐れがある。
千島海溝・日本海溝沿いの巨大地震リスク
厚岸は千島海溝に沿ったプレート沈み込み帯の上にある。政府の地震調査研究推進本部は、千島海溝沿いでM8〜9クラスの巨大地震(「超巨大地震」)が将来発生する可能性を示しており、北海道太平洋沿岸では10m以上の巨大津波が想定されている。
1952年の十勝沖地震(M8.2)、1994年の北海道東方沖地震(M8.2)がいずれも千島海溝周辺で発生していることは、この地域の地震活動の実態を示している。
津波リスク——10m超の浸水想定
厚岸町の津波リスクは特に深刻だ。防災DBのコースタルメッシュ解析では、7,662メッシュが津波・高潮浸水リスクエリアに含まれる。これは洪水リスクエリア(最大1,557メッシュ)の約5倍であり、津波の影響範囲が洪水を大きく上回る。
厚岸町は令和3年(2021年)に北海道が公表した「北海道太平洋沿岸の津波浸水想定」に基づき、令和3年10月に津波災害警戒区域を指定した。令和4年2月には最新版のハザードマップが公表されており、指定避難所の一覧も更新されている。
| リスク指標 | 値 |
|---|---|
| 津波スコア(防災DB) | 100(最高値) |
| 津波浸水想定最大深(下限) | 10.0m |
| 浸水想定メッシュ数 | 7,662 |
1960年のチリ地震津波は、震源から約17,000km離れた太平洋の反対側から来た津波が実際に厚岸に被害をもたらした事例だ。近地の千島海溝で同規模以上の地震が発生した場合、津波の到達時間は数分〜十数分と見られる。発生後に情報収集している時間はない。
土砂災害リスク
厚岸町は丘陵地の割合も多く、土砂災害リスクも存在する。防災DBの集計では、土砂災害ハザード区域数は5件(スコア50)と洪水・津波に比べると規模は小さい。しかし、土砂災害メッシュ数は231メッシュ(約3.6km²)が危険ゾーンに含まれる。
台風・豪雨時には沿岸部への洪水・津波リスクと同時に、丘陵部での土砂崩れが重なるシナリオを想定しておく必要がある。
指定避難所・避難場所一覧
厚岸町には106か所の避難場所(うち広域避難場所33か所)が設定されている。
主要な広域避難場所(抜粋)
| 施設名 | 住所 | 備考 |
|---|---|---|
| 厚岸中学校 | 梅香1-5 | 指定避難所兼用 |
| 厚岸小学校 | 梅香2-3 | 指定避難所兼用 |
| 真龍中学校 | 白浜1-5 | 指定避難所兼用 |
| 公民館苫多分館 | 苫多206 | 高潮・津波時の緊急避難場所 |
| 公民館末広分館 | 末広85 | 指定避難所兼用 |
| 上尾幌地区コミュニティセンター | 上尾幌11 | 指定避難所兼用 |
| 住の江公園 | 住の江1-3 | — |
| 役場庁舎駐車場 | 真栄3-1 | — |
公民館苫多分館(苫多206)は「高潮・津波時の緊急避難場所」として指定されており、沿岸部の緊急避難先として機能する。
津波避難の際は、津波が到達する前に高台の避難場所へ移動することが最優先だ。
最新の避難場所情報は厚岸町公式防災ページで確認できる。
今からできる備え
1. ハザードマップを必ず確認する
厚岸町は令和4年2月に最新ハザードマップを公表している。自宅の浸水深、避難経路、最寄りの避難場所を事前に確認しておくことが不可欠だ。
2. 津波への備えは特別に強化する
厚岸では「津波警報が発令されたら、情報確認より先に高台への避難を最優先にする」ことを家族で共有しておく。避難場所までの複数ルートを平時から歩いて確認しておきたい。
3. 7日間の備蓄
釧路川氾濫では168時間(7日間)の浸水継続が想定されている。最低限の備蓄は7日分の水(1人1日3L)・食料・常備薬を目安にする。
4. 地震後の液状化に注意する
強い地震の後は、沿岸部・低地での液状化に注意し、道路状況を確認してから移動する。液状化エリアは外見では判断しにくいため、避難路の複数確保が重要だ。
5. 防災DBで最新のリスクデータを確認する
防災DB(bousaidb.jp)では、125mメッシュ単位で厚岸町のリスクデータを確認できる。自宅住所を入力して、ピンポイントのリスクレベルを把握しておくことを推奨する。
データ出典
本記事のデータは以下の一次情報源に基づく。
| データ | 出典 |
|---|---|
| 過去の災害記録 | 厚岸町地域防災計画 / NIED自然災害情報室データベース |
| 洪水浸水想定 | 国土交通省 浸水想定区域図データ(防災DBが125mメッシュに集計) |
| 津波浸水想定 | 北海道太平洋沿岸の津波浸水想定(令和3年7月北海道公表) |
| 地震確率 | 地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版 |
| 避難場所 | 国土数値情報 避難施設データ(厚岸町地域防災計画に基づく) |
| 統合リスクスコア | 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ解析(2024年時点) |
| 活断層情報 | 産業技術総合研究所 活断層データベース |
| 1993年釧路沖地震 | 内閣府防災情報 / Wikipedia |
| 1994年北海道東方沖地震 | 内閣府防災情報 / Wikipedia |
本記事は防災DB編集部が一次データに基づき作成しました。データは2024年時点のものです。自治体の防災計画や公式ハザードマップは定期的に更新されますので、最新情報は厚岸町公式防災ページをご確認ください。
著者: 防災DB編集部
防災DB