あま市の災害リスクと歴史 | 洪水・地震・高潮が重なる日本有数のゼロメートル地帯
愛知県あま市は、防災DB(bousaidb.jp)の統合リスクスコアで91点(極めて高い)を記録する、全国でも最上位クラスの高リスク自治体だ。市内ほぼ全域が海抜ゼロメートル以下の低平地に広がり、西側では木曽川、北東側では庄内川という二大河川が市域を囲む。洪水・津波・高潮・地震のすべてでスコアが100を超える——つまり、複数の災害が同時に脅威となり得る複合リスク地帯だ。
1891年の濃尾地震では死者44人・全壊974棟。2000年の東海豪雨では甚目寺地区だけで床上288棟・床下783棟が浸水した。この街の歴史は、繰り返す水害と地震との戦いの記録でもある。
なぜあま市はこれほどリスクが高いのか
あま市は2010年3月22日、海部郡の七宝町・美和町・甚目寺町が合併して誕生した。面積27.49km²の小規模な市で、東西約7.9km・南北約7.8kmの範囲に約8万8,000人が暮らす(2024年時点)。
市域の地盤は、木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)と庄内川が長い時間をかけて堆積させた沖積層でできている。縄文・弥生時代には海底だった地域が多く、平均地盤速度(Avs30)は190m/s前後と極めて軟弱だ。防災DBの125mメッシュ解析では、市内の震度6弱以上30年確率の平均は65.1%、最大値では77.5%に達する。
このやわらかい地盤は、河川氾濫時の浸水長期化と地震動の増幅、液状化という三重のリスクを同時に抱える。伊勢湾に近いことから津波・高潮の浸水想定も広大で、防災DBのデータでは市内に約28,000メッシュ(一辺125m換算で約4,400ha)が高潮・津波の浸水想定エリアとして記録されている。
過去の主要災害
1891年 濃尾地震(M8.0)— 死者44人・全壊974棟
1891年10月28日午前6時38分、M8.0の濃尾地震が発生した。震源は岐阜県本巣市付近で、根尾谷断層の破壊が愛知・岐阜・三重にわたって甚大な被害をもたらした。
NIEDの統計によれば、甚目寺町(現あま市甚目寺地区)だけで死者44人・負傷者251人・全壊974棟・半壊287棟・一部損壊91棟が記録されている。市内全域が軟弱地盤上にあるため、地震動が増幅された。日本の内陸地震として最大規模のこの地震は、現在に至るまで「想定震源」のひとつとして地域防災計画に記載され続けている。
1944年 東南海地震・1945年 三河地震
1944年12月7日の東南海地震(M7.9)と、翌1945年1月13日の三河地震(M6.8)は、相次いで三河湾・伊勢湾沿岸を直撃した。現あま市域でも記録に残る被害が発生しており、特に東南海地震は南海トラフ沿いの地震で津波も伴った。「南海トラフ巨大地震」の前例として現在も防災計画に組み込まれている。
1959年 伊勢湾台風
1959年9月26日、伊勢湾台風(最大瞬間風速69.8m/s)が愛知・三重に上陸した。愛知・三重・岐阜の3県で死者・行方不明者は3,200人を超え、ゼロメートル地帯の浸水は2週間以上続いた。当時の海部郡(現あま市域)も甚大な被害を受けており、この災害を契機に日本の防災体制が根本から見直された。
1976年 台風17号(昭和51年)— 床上514棟・床下1,272棟
1976年9月8日、昭和51年台風第17号が上陸。甚目寺町では床上浸水514棟・床下浸水1,272棟・一部損壊35棟という大きな被害が記録された(甚目寺町地域防災計画資料)。庄内川・五条川流域の排水能力を超える雨量が短時間に集中し、周辺市町と合わせた広域浸水となった。
2000年 東海豪雨 — 甚目寺で床上288棟・床下783棟
2000年9月11〜12日、台風14号の影響で愛知県に停滞した前線が記録的な雨を降らせた。名古屋管区気象台の観測では2日間の総雨量567mm、最大時間雨量93mmを記録。愛知県全体で浸水家屋は6万棟超、浸水面積275km²と、伊勢湾台風以来最大規模の水害となった。
甚目寺町(現あま市)だけで床上浸水288棟・床下浸水783棟が記録されている(甚目寺町地域防災計画附属資料)。庄内川の溢水と内水氾濫が重なり、平屋住宅では1階全体が水没した地区も出た。あま市は東海豪雨から20年後の2020年にも市長メッセージ動画を公開するなど、継続的な教訓の語り継ぎを続けている。
過去の災害年表
| 年月日 | 災害名 | 種別 | 主な被害(甚目寺/あま市域) |
|---|---|---|---|
| 1891年10月28日 | 濃尾地震 M8.0 | 地震 | 死者44・負傷251・全壊974・半壊287 |
| 1944年12月7日 | 東南海地震 M7.9 | 地震 | 被害記録あり |
| 1945年1月13日 | 三河地震 M6.8 | 地震 | 被害記録あり |
| 1959年9月26日 | 伊勢湾台風 | 風水害 | 広域浸水(記録詳細なし) |
| 1961年6月24日 | 昭和36年梅雨前線豪雨 | 風水害 | 床下175棟 |
| 1967年7月9日 | 昭和42年7月豪雨 | 風水害 | 被害記録あり |
| 1974年7月25日 | 梅雨前線豪雨 | 風水害 | 床上89・床下862 |
| 1976年9月8日 | 昭和51年台風17号 | 風水害 | 床上514・床下1,272 |
| 1979年9月24日 | 秋雨前線豪雨 | 風水害 | 床上2・床下291 |
| 2000年9月11日 | 東海豪雨 | 風水害 | 床上288・床下783 |
出典: 甚目寺町地域防災計画附属資料・様式編(NIED自然災害データベース)
洪水・浸水リスク — 木曽川氾濫は最大10mの浸水想定
あま市で最大の脅威は洪水だ。防災DBの125mメッシュ解析(木曽川・庄内川等の洪水浸水想定区域データ)によれば、市内の洪水リスクメッシュ数は計20万超。主要河川の浸水リスクは以下の通りだ。
| 河川名 | 市内リスクメッシュ数 | 想定最大浸水深 | 平均浸水深 | 最大浸水継続時間 |
|---|---|---|---|---|
| 木曽川 | 約24,128 | 10m | 2.34m | 336時間(14日) |
| 庄内川 | 約4,509 | 5m | 2.01m | 336時間 |
| 矢田川 | 約2,361 | 5m | 0.69m | 336時間 |
| 天白川 | 約940 | 5m | 0.81m | — |
| 八田川 | 約410 | 3m | 0.32m | 72時間 |
出典: 防災DB 125mメッシュ解析(2024年時点)
浸水深10mとは3階建て建物のほぼ全高に相当する。木曽川の堤防が決壊した場合、浸水継続時間は最大336時間(14日間)にも及ぶと想定されており、逃げ遅れると2週間以上孤立する可能性がある。
浸水深の目安として覚えておきたい:
- 0.5m: 膝上まで。歩行困難になり始める
- 1m: 腰まで。高齢者・子どもは歩けない
- 3m: 1階天井まで(約1階分)。1階での避難は命取り
- 5m: 2階床上まで
- 10m: 3階建て建物がほぼ全没する水深
あま市ではハザードマップが木曽川・庄内川・新川・日光川・五条川・蟹江川・福田川の7河川に対応した洪水マップ(令和7年12月全戸配布版)として整備されている。愛知県の統合GIS「マップあいち」でピンポイントの浸水深を確認できる。
高潮・津波リスク — 市内の約4,400haが浸水想定エリア
あま市は伊勢湾岸の内陸部に位置するが、ゼロメートル地帯のため高潮の浸水想定エリアは広大だ。防災DBのデータでは、津波・高潮に関わるリスクメッシュが28,366メッシュ(約4,400ha相当)に及ぶ。
- 想定最大津波浸水深: 5m
- 想定最大高潮浸水深: 10m(防災DBデータ)
高潮スコアは100(最高値)であり、特に南海トラフ巨大地震に伴う高潮は市内の広域浸水を引き起こす可能性がある。あま市は水防法改正を受けて高潮ハザードマップを新規作成しており、浸水リスクの詳細はあま市公式の高潮ハザードマップで確認できる。
地震リスク — 30年以内に震度6弱以上が来る確率は最大77.5%
防災DBの地震確率データ(J-SHIS 2024年版に基づく)では、あま市内の地点別・30年以内の震度6弱以上発生確率は平均65.1%、最大77.5%に達する。震度5弱以上では平均94.5%とほぼ確実に起きる水準だ。
地盤の平均S波速度(Avs30)は約190m/s。東京23区の硬い地盤(400〜600m/s)と比べてはるかに軟弱で、同じ地震でも揺れが増幅されやすい。
近隣の活断層
あま市周辺には伊勢湾断層帯が存在する。
| 断層名 | 想定最大規模 | 30年発生確率 |
|---|---|---|
| 伊勢湾断層帯主部北部 | M6.7 | 0%未満(ほぼ0だが存在する) |
| 伊勢湾断層帯主部南部 | M6.4 | 0%未満(同上) |
出典: 防災DB 活断層データ(地震調査研究推進本部)
伊勢湾断層帯の30年確率は「0%未満」だが、これは「絶対に起きない」ではなく「100年に1回未満のごく低い確率」を意味する。より現実的な懸念は、南海トラフ沿いの地震(30年発生確率70〜80%)による強い揺れと津波だ。
液状化スコアも60と比較的高く、軟弱な沖積地盤が液状化するリスクがある。地震ハザードマップ(あま市作成版)では液状化危険度マップも確認できる。
土砂災害リスク — 限定的だが市内に9か所の警戒区域
あま市は平坦な低地がほとんどを占め、山地・丘陵はほぼ存在しない。土砂災害スコアは50と他のリスクと比べると低い水準だが、市内には9か所の土砂災害ハザード区域が記録されている。防災DBのメッシュ解析でも市内に約4,000メッシュの土砂リスクゾーンが存在する。主に旧河道沿いや人工盛土の不安定箇所が対象となる。
避難施設一覧
あま市内には計41か所の避難場所・避難所が整備されている(2024年時点)。市内全域がゼロメートル地帯のため、広域避難場所の指定はなく、浸水時は垂直避難(上階への避難)や市外への早期立退き避難が求められる。
主な避難施設(甚目寺地区)
| 施設名 | 住所 | 種別 |
|---|---|---|
| 甚目寺総合体育館 | あま市西今宿馬洗56 | 避難所、一時避難場所 |
| 甚目寺中学校 | あま市甚目寺二伴田76 | 避難所、一時避難場所 |
| 甚目寺南中学校 | あま市本郷八尻6 | 避難所、一時避難場所 |
| 甚目寺公民館 | あま市甚目寺二伴田65 | 避難所、一時避難場所 |
| 甚目寺小学校 | あま市甚目寺寺西40 | 避難所、一時避難場所 |
主な避難施設(七宝地区)
| 施設名 | 住所 | 種別 |
|---|---|---|
| 七宝総合体育館 | あま市七宝町伊福宮東3-1 | 避難所 |
| 七宝中学校 | あま市七宝町川部山王4 | 避難所 |
| 七宝公民館 | あま市七宝町安松小新田2337 | 避難所 |
| 七宝北中学校 | あま市七宝町遠島十坪117 | 避難所 |
重要: あま市全域が浸水リスクエリアのため、避難所自体が浸水する可能性がある。事前に各施設の浸水想定深をあま市ハザードマップで確認しておくことが不可欠だ。
今からできる備え
1. ハザードマップで自宅の浸水深を確認する
あま市のハザードマップは7河川分の洪水・内水・高潮・地震(液状化含む)の5編構成で整備されている。自宅や勤務先のリスクを把握するには次のリンクから。
- あま市防災ハザードマップ(公式)
- 防災DB — あま市の詳細リスクデータ — 125mメッシュ単位での洪水・地震・土砂・高潮リスクを無料で公開
2. 早期避難の徹底
市内全域がゼロメートル地帯のため、豪雨時は「警戒レベル3(高齢者等避難)」が出た段階で避難を開始する。木曽川の堤防が破堤した場合、浸水が14日間以上続く可能性がある。
3. 南海トラフ地震臨時情報への備え
南海トラフ沿いでM7.0以上の地震が発生した際には「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意/警戒)」が発表される。あま市は高潮・津波リスクも高いため、臨時情報が出た場合は速やかに垂直避難・市外への広域避難を検討すること。
4. 備蓄の目安
木曽川堤防決壊時の最大浸水継続時間は14日間。最低でも7日分(理想は14日分)の飲料水・食料・医薬品を備蓄しておきたい。
データ出典
| データ | 出典 | 時点 |
|---|---|---|
| 統合リスクスコア | 防災DB(bousaidb.jp) — 125mメッシュ解析 | 2024年 |
| 洪水浸水想定 | 国土交通省・愛知県洪水浸水想定区域データ(木曽川・庄内川等) | 2024年 |
| 地震確率データ | J-SHIS(地震ハザードステーション、防災科学技術研究所)2024年版 | 2024年 |
| 活断層データ | 地震調査研究推進本部 活断層データ | 2024年 |
| 過去の災害事例 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース | — |
| 避難場所データ | 国土交通省 国土数値情報(避難施設データ・P20) | 2024年 |
| 地形・地質情報 | 国土地理院 地理院地図、地質調査資料 | 2024年 |
| 市の被害記録 | 甚目寺町地域防災計画附属資料・様式編 | 各年 |
| 東海豪雨の概要 | 国土交通省庄内川河川事務所「東海豪雨から20年」資料 | 2020年 |
| あま市公式防災情報 | あま市防災ハザードマップ | 令和7年更新 |
この記事は防災DB編集部が公開データをもとに執筆しました。掲載情報は執筆時点のものです。最新のハザードマップや避難情報はあま市公式サイト(https://www.city.ama.aichi.jp/)をご確認ください。
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