愛知県安城市の災害リスクと歴史【防災DB】

安城市は、1945年三河地震で300人超の死者を出した土地です。洪水スコア・高潮スコア・地震スコアがいずれも100点満点を記録し、防災DBの統合リスク評価では89点(最高区分:極めて高い)に達します。矢作川沿いの広大な浸水想定区域、南海トラフ巨大地震への高い曝露、そして深溝断層帯・猿投−高浜断層帯という活断層の直下型リスク——複数のハザードが重なるこの市で、今何を備えるべきかを数値で示します。


安城市の災害リスクスコア(防災DB 2024年版)

リスク区分 スコア 評価
統合リスクスコア 89/100 極めて高い
洪水 100/100 最大浸水深10m超
高潮 100/100 高潮浸水メッシュ1.8万件超
地震 100/100 震度6弱以上30年確率 最大80.7%
津波 100/100 想定浸水エリア大
土砂災害 50/100 ハザード区域9か所
液状化 40/100 河川沿いに分布

出典:防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ解析 / 防災DB Gold層(2024年版)


なぜ安城市は多重のリスクを抱えるのか

安城市(人口約19万人)は愛知県西三河地方の中央に位置し、矢作川の下流域が形成した沖積平野の上に広がります。市の中心部は洪積台地(碧海台地)上にありますが、市域の東側から南側にかけては矢作川・乙川・猿渡川が流れる低地地帯で、軟弱地盤が広く分布しています。

地形上の弱点は3つです。

まず河川に囲まれた低地。矢作川(流路117km、流域1,830km²)が市の西から南へと流れ、その支川・乙川が市東部を縦断します。「1000年に一度の大雨」を想定した安城市水害ハザードマップでは、市域の約33%が浸水想定区域に含まれます。

次に活断層の至近距離。深溝断層帯(最近接0.2km)と猿投-高浜断層帯(同0.2km)が市域に極めて近く走っています。いずれも地震調査研究推進本部の評価対象断層で、1945年三河地震の震源となった深溝断層帯は市南部(幸田町付近)を走ります。

3つ目が南海トラフへの曝露。30年以内に震度6弱以上の揺れが発生する確率は市域平均で62.6%、最大値では80.7%に達します(防災DB 125mメッシュ解析)。これは全国平均を大幅に上回る水準です。


過去の主要災害

1945年1月13日 三河地震(M6.8)——深夜に市を直撃した直下型地震

これが安城市に最大の人的被害をもたらした災害です。

午前3時38分、三河湾を震源とするM6.8の直下型地震が発生しました。震源深さはわずか10kmで、現在の安城市域(当時:碧海郡桜井町ほか)は震度7相当の揺れに見舞われました。深夜就寝中の発生が、被害を大きく拡大させた要因とされています。

安城市地域防災計画(平成24年度修正)に基づく安城市域の記録では、各地区を合計すると死者428人・負傷813人・全壊家屋1,318棟・半壊1,576棟に上ります。とりわけ碧海郡桜井町(現・安城市桜井地区)での被害が甚大で、同地区だけで死者約200名超が記録されています(安城市地域防災計画による)。

1944年12月7日の東南海地震(M7.9)からわずか37日後の発生であり、前震による地盤の緩みが被害を拡大させた可能性が研究者の間で指摘されています。全国では死者2,306人・行方不明1,126人にのぼりましたが、戦時中の報道統制により長年その実態は広く知られませんでした。

1944年12月7日 東南海地震(M7.9)

東南海地震は南海トラフを震源とするプレート境界型地震です。安城市域では死者3人・負傷20人・全壊156棟・半壊497棟の被害が記録されています(安城市地域防災計画)。直後の三河地震に比べると人的被害は限定的でしたが、建物被害の規模は匹敵するものがありました。

2020年7月豪雨

令和2年7月豪雨では、安城市でも床下浸水10件の被害が発生しました(防災DB・NIED災害事例より)。矢作川流域では豪雨により各支流の水位が上昇し、低地地帯での内水氾濫リスクが顕在化しました。

過去の災害年表

年月日 災害名 被害概要
1586年1月18日 天正地震 記録あり(詳細不明)
1854年12月23日 安政東海地震 記録あり(詳細不明)
1891年10月28日 濃尾地震(M8.0) 記録あり(詳細不明)
1944年12月7日 東南海地震(M7.9) 死者3・全壊156棟・半壊497棟
1945年1月13日 三河地震(M6.8) 死者428・全壊1,318棟・半壊1,576棟
2020年7月5日 令和2年7月豪雨 床下浸水10件

出典:国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース、安城市地域防災計画(平成24年度修正)


洪水・浸水リスク——矢作川氾濫で最大浸水深20m

防災DBの125mメッシュ解析によると、安城市内の洪水浸水想定メッシュは20万件超に及び、主要河川別の浸水リスクは以下の通りです。

河川名 浸水メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 継続時間(最大)
矢作川 15,460 20.0m 3.41m 336時間(14日)
乙川 615 10.0m 3.46m 336時間(14日)
猿渡川 789 5.0m 1.84m 72時間
阿久比川 655 5.0m 1.78m 24時間
天白川 496 5.0m 1.46m

浸水深3mは1階天井まで、5mは2階床上まで、10mは3階以上まで水が達する水準です。矢作川が最悪シナリオで氾濫した場合、2週間にわたって浸水が継続するリスクがあります。

矢作川は1000年に一度の大雨(基本高水流量:安城市付近で6,300m³/s)を想定した設計断面での管理が続いていますが、気候変動による降雨強度の増加に伴い、将来的なリスクの高まりが指摘されています。

安城市の公式水害ハザードマップでは、主要18施設の壁面に想定最大浸水深を青いラインで表示しています。市東南部(矢作川・乙川の合流点周辺)は特に浸水リスクが高く、当該地区にお住まいの方は早めの避難行動が不可欠です。


地震リスク——30年確率80%超の地点も

南海トラフ巨大地震

安城市の30年以内の震度6弱以上発生確率は市域平均62.6%、最大地点では80.7%です(防災DB 125mメッシュ解析、2024年時点)。震度5弱以上では平均89.6%に達します。

安城市の被害想定調査(平成26年度実施)では、南海トラフ最大想定モデルにより市全域で震度6強以上が想定されており、局所的に震度7に達する地点があります。主要な被害原因は建物倒壊と火災の延焼とされています。

近隣の活断層

断層名 最近接距離 想定マグニチュード 30年発生確率
深溝断層帯 0.2km M6.6 低い(評価中)
猿投-高浜断層帯 0.2km M7.1 低い(評価中)
天白河口断層 0.3km M6.7 0.02%
加木屋断層帯 1.0km M6.9 0.10%
鈴鹿沖断層 17.6km M6.7 0.73%

出典:防災DB 125mメッシュ 近傍断層解析(政府地震調査研究推進本部データに基づく)

深溝断層帯はまさに1945年三河地震の震源断層です。同断層は幸田町から安城市南部にかけて走り、市域にごく近接しています。猿投-高浜断層帯もM7.1という規模を持ち、最近接距離がわずか200mという点は見逃せません。

市内の平均地表S波速度(AVS30)は319.1m/sで、中程度の地盤硬さです。河川低地では局所的に軟弱地盤が分布しており、建物の揺れが増幅する可能性があります。


高潮リスク——南海トラフ時の内陸浸水に注意

安城市は三河湾から距離があるため直接的な津波上陸リスクは限定的ですが、南海トラフ巨大地震に伴う高潮浸水への対策は必要です。防災DB解析では高潮スコアが100点満点、浸水想定メッシュは1万8千件超(市内広域)に及びます。南海トラフ地震では数メートル規模の高潮が三河湾に発生する可能性があり、矢作川・乙川を遡上するシナリオも想定されています。


土砂災害リスク

安城市は全体として平地が多いため土砂災害リスクは相対的に低く(スコア50/100)、ハザード区域は9か所、浸水想定メッシュは162件(市内)にとどまります。ただし市南部の丘陵地や河川沿いの急傾斜地では崖崩れ・地すべりのリスクがあります。


避難施設一覧(主要施設)

安城市内の指定避難施設は163か所です(防災DBデータ、nlftp_p20_evacuation_siteより)。広域避難場所(3か所)を中心に、一時避難場所・避難所が市内各地に分散しています。

広域避難場所(大規模火災等の際に避難する場所)

施設名 所在地
安城公園 安城市桜町289
秋葉公園 安城市大山町1丁目7-1
総合運動公園 安城市新田町池田上1

主要避難所(一部)

施設名 所在地 種別
丈山小学校 安城市和泉町南本郷1 避難所
三河安城小学校 安城市箕輪町昭和47 避難所
えのき保育園 安城市榎前町北榎5-1 避難所

最寄りの避難所の確認は、安城市公式ハザードマップから行うことをお勧めします。


今からできる備え

1. ハザードマップで自宅のリスクを確認する

安城市公式の水害ハザードマップでは、矢作川・乙川・猿渡川ほか各河川の「想定最大規模(1000年に一度)」の浸水深が確認できます。

2. 三河地震の教訓——深夜の直下型地震に備える

1945年の三河地震は深夜3時38分の発生でした。就寝中に突然の揺れに見舞われた際、家具の転倒・倒壊家屋の下敷きになることが主要な死因です。家具の固定と、建物の耐震診断・補強が最優先の対策です。

3. 矢作川氾濫への早期避難

矢作川の氾濫が始まると、低地では数時間以内に数メートルの浸水が生じる可能性があります。気象庁・安城市からの「避難指示」が出る前に、自主的な早期避難を検討してください。

4. 南海トラフ臨時情報への対応準備


データ出典

出典 用途
防災DB(bousaidb.jp) — 125mメッシュ解析 統合リスクスコア・洪水メッシュ・地震確率・活断層
国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース 過去災害事例(死者・建物被害数)
安城市地域防災計画(地震災害対策計画編、平成24年度修正) 三河地震・東南海地震の被害データ
安城市 水害ハザードマップ(令和版、1000年に一度想定) 浸水想定区域・浸水深
安城市 地震ハザードマップ 震度分布・建物被害想定
安城市 南海トラフ地震被害予測調査(平成26年度) 南海トラフ被害想定
政府地震調査研究推進本部 活断層評価・確率論的地震動予測地図
国土交通省 矢作川洪水浸水想定区域図 矢作川浸水想定
国土数値情報(避難施設データ) 避難施設一覧

本記事は防災DB編集部が公的データに基づき作成しました。数値は出典の更新により変動することがあります。最新情報は各公式サイトでご確認ください。

著者:防災DB編集部 | 公開:2026年4月5日