青ヶ島村の災害リスクと歴史|噴火で全島廃村になった東京の離島

東京都青ヶ島村は、本土から南へ約358kmに浮かぶ伊豆諸島最南端の離島だ。人口わずか169人(2024年住民基本台帳)、アクセスは就航率50%程度のヘリコプターか高波に翻弄される船便のみ。「日本一行きにくい有人島」として知られるこの村には、その孤立地形が生む深刻な災害リスクが凝縮されている。

防災DBの統合リスクスコアは92点(極めて高い)。洪水スコア100・津波スコア100・高潮スコア100というトリプルフルスコアを叩き出す。過去には全島民の約43%が命を落とした火山噴火により50年間の無人島期間を経験しており、現在も気象庁の常時観測火山に指定されている。本記事ではNIED自然災害データベースのデータおよびウェブ調査に基づき、青ヶ島村の災害リスクと歴史を詳述する。


二重式カルデラ火山という宿命

青ヶ島は地球上でも極めて珍しい二重式カルデラ(複式カルデラ)を持つ火山島だ。外輪山(標高150〜423m)の内側に、さらに直径1.7km×1.5kmの内カルデラがあり、その中央に中央火口丘「丸山」がそびえる。島全体の長径は約3.5km、短径約2.5kmで、島そのものがひとつの巨大な火山体だ。

最高点は外輪山の大凸部(423m)。内カルデラ「池の沢」からは今も噴気・硫気が上がり続けており、島には地熱を利用した「ふれあいサウナ」や地熱で蒸した料理文化が根付いている。

気象庁は青ヶ島を常時観測火山(24時間体制で監視)に指定しており、現在の噴火警戒レベルは1(活火山であることに留意)。静穏な状態を維持しているが、それは「安全」を意味しない。最後の大規模噴火から240年が経過した今、地下ではマグマ活動が継続している。


歴史的大噴火:天明5年(1785年)の全島廃村

青ヶ島の歴史を語るとき、避けて通れない事件がある。天明5年(1785年)4月18日の大噴火だ。

噴火は前年の1780年から段階的に激化していた。NIEDデータベースによると、1780年7月28日・1781年6月2日にも噴火が記録されており、1783年4月10日には地滑りで14名が死亡するなど、島は4年以上にわたって複合的な災害に見舞われ続けていた。

そして天明5年4月18日、島を消し去るような規模の噴火が発生する。マグマ噴火により大量の噴石と泥土が噴出し、8日間にわたって島全体が暗黒に覆われた。植生はすべて枯死した。当時の島の人口は約327名。このうち140名が死亡し、生き残った約200名は八丈島へ命からがら逃れた。

犠牲者数は全人口の約43%。一度の噴火でほぼ半数の住民が命を失ったという事実は、青ヶ島が「どれほど危険な火山島であるか」を歴史として刻んでいる。

50年の無人島期間と「還住」

噴火後、青ヶ島は無人島となった。八丈島に避難した島民たちは帰島を繰り返し願い出たが、幕府の許可はなかなか下りなかった。やっと1817年(文化14年)になって先発隊20名が上陸を開始し、農地の再整備が始まった。そして1835年(天保6年)、ついに全島民の「還住(かんじゅう)」が成就した。

噴火から実に50年後のことだ。

現在、還住の歴史は青ヶ島の精神的支柱となっており、島内では還住太鼓などの文化として受け継がれている。だが防災の視点では、この歴史が意味するのは「次に同規模の噴火が起きたとき、避難は早くて数十年単位の離島となる」という厳然たる現実だ。


過去の災害年表(NIEDデータベース)

発生年月日 災害種別 死者数 概要
1652年 噴火 不明 記録あり(詳細不明)
1780年7月28日 噴火 不明 天明噴火の前駆活動
1781年6月2日 噴火 不明 天明噴火の前駆活動
1782年7月5日 暴風 不明 強風被害
1783年4月10日 地滑り 14名 天明噴火期の斜面崩壊
1785年4月18日 噴火(天明5年) 140名 全島廃村。人口の約43%が犠牲
1972年12月4日 地震 不明 八丈島東方沖地震による揺れ
1982年10月8日 洪水 不明 建物一部損壊あり

出典:防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース「青ヶ島の生活と文化」「青ヶ島島史」


現在の火山リスク:噴火警戒レベル1でも油断できない理由

現在の青ヶ島の火山活動は静穏だ。しかし専門家が指摘するのは、「静穏な期間が長いほど、次の噴火のエネルギーが蓄積される」という火山のメカニズムだ。

最後の大規模噴火(1785年)から2024年現在で約239年が経過した。カルデラからの噴気・硫気活動は現在も継続しており、地下にはマグマが存在することは確実だ。気象庁は以下の異変を検知した場合に噴火警戒レベルを引き上げる:
- 地震活動の急増(特に火山性地震)
- 地盤変動(膨張・収縮)
- 噴気の温度・量の急変

青ヶ島のリスクは「噴火するかどうか」ではなく「いつ噴火するか」という問題だ。島の地形的特性(完全なカルデラ火山島)を考えると、大規模噴火が発生した場合、島内での安全確保は極めて困難となる。


津波・高潮リスク:全島を飲み込む20mの想定水位

防災DBの125mメッシュ解析では、青ヶ島の沿岸部に191メッシュ(約3.0km²相当)で津波・高潮リスクが検出された。最大想定浸水深は20m以上

青ヶ島は周囲を断崖絶壁に囲まれた島だが、沿岸の低地部分では津波や高潮による浸水が想定されている。島の面積が小さいこと(約9km²)と標高差が大きいことにより、高台への垂直避難は有効な戦術だ。ただし外輪山内側(カルデラ内部)へ逃げると、噴火時の有毒ガスや火砕流のリスクが逆に高まる。

津波スコア100・高潮スコア100の意味

防災DBの津波スコア100は「解析対象エリア内で最大クラスの浸水リスクが存在する」ことを示す。外洋に完全露出した孤立離島として、あらゆる方向からの波浪に対して脆弱であることを示している。特に南海トラフ地震や相模トラフ地震が発生した場合、伊豆諸島南端に位置する青ヶ島は初期の津波到達地点となる可能性がある。


洪水リスク:川なき島の「崖崩れ型浸水」

興味深いことに、防災DBのBQデータでは青ヶ島の洪水河川データは0件(河川がない)だ。しかし洪水スコアは100、最大浸水深は20mを示す。これは河川氾濫ではなく、断崖からの直接流入カルデラ内部の湛水によるリスクを反映していると考えられる(推測)。

島は切り立った断崖に囲まれており、大雨時には外輪山上から大量の水が一気にカルデラ内に流れ込む可能性がある。1982年10月8日には洪水による建物被害が記録されており、離島特有の地形が水害リスクを生み出している。


土砂災害リスク

防災DBの解析では、青ヶ島の土砂災害警戒区域は1箇所(土砂災害ハザードメッシュ6単位)。スコアは50(中程度)。しかし1783年4月の地滑りで14名が死亡した歴史が示すように、急峻な火山地形では崩壊のリスクが常に存在する。

特に噴火活動期には、火山噴出物が斜面を覆うことで地盤が不安定化し、土砂災害の発生リスクが急増する。現在は静穏期であっても、大雨や地震をトリガーとした崩壊には注意が必要だ。


地震リスクと地盤特性

防災DBの地震データ(2024年時点の確率的地震動予測地図)による青ヶ島の地震リスクは以下の通りだ。

指標 平均値 最大値
震度6弱以上30年確率 1.3% 1.34%
震度5弱以上30年確率 35.8% 36.3%
表層地盤S波速度(Avs30) 274.8 m/s

震度6弱以上30年確率1.3%は、内陸の主要都市と比べると低い水準だ。しかし問題は「地震が少ない」のではなく、「地震が起きたときの島の逃げ場がない」ことにある。

Avs30(274.8 m/s)は中程度の地盤強度を示しており、大きな地盤増幅は想定されていない。ただしカルデラ内部と外輪山では地盤条件が大きく異なる可能性がある。

1972年12月4日に発生した八丈島東方沖地震では、NIEDデータベースに青ヶ島の被害記録が残っている。伊豆諸島は太平洋プレートとフィリピン海プレートの会合部に位置しており、海溝型大地震のリスクが常に存在する。


離島防災の核心問題:「島を出る手段がない」

青ヶ島最大の防災リスクは、数値で測れない「孤立」だ。

本土(八丈島経由)へのアクセスは:
- ヘリコプター:1日1便(就航率約50%、天候次第で欠航)
- 定期船:週3〜4便(就航率約50%、高波で欠航多発)

大規模噴火や大地震が発生した場合、島内の道路が寸断され、港も損傷する可能性がある。その状態で天候が悪化すれば、ヘリも船も来られない。1785年の噴火時も、住民たちは決死の海上脱出を試みて多くが波にのまれたとされる。

現代においては、自衛隊・海上保安庁・東京都のヘリによる島外搬送が可能だが、搬送能力は限定的だ。169人全員を安全に島外に搬送するためには相当の時間と機材が必要となる。


避難施設一覧

青ヶ島村には以下3箇所の避難所が整備されている。

施設名 種別 住所
おじゃれセンター 避難所 東京都青ヶ島村無番地
青ヶ島村小中学校 避難所 東京都青ヶ島村無番地
青ヶ島村老人福祉館 避難所 東京都青ヶ島村無番地

※火山噴火の場合は島内避難所ではなく島外避難が優先される。東京都の離島防災計画では火山島の全島避難を想定した計画が策定されている。


今からできる備え

最優先事項:島外避難計画の策定

火山噴火に備えるための最重要行動は「島外避難計画を家族で共有すること」だ。以下を確認しておきたい。

  1. 東京都の島しょ地区防災計画を確認する
  2. 気象庁の噴火警戒レベル情報をブックマークする(気象庁 火山監視
  3. 連絡先・緊急連絡体制を家族・知人と整えておく
  4. 非常持ち出し袋を玄関に置く(島では物資補給に時間がかかる)
  5. 薬・医療品を多めにストックする(孤立時の医療アクセスが限定的)

関連情報


データ出典

本記事のデータは以下の公的機関の情報に基づいている。

データ 出典 時点
統合リスクスコア(92点) 防災DB 125mメッシュ解析 2024年時点
過去の災害事例 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース「青ヶ島島史」「青ヶ島の生活と文化」 収録時点まで
地震確率(30年) 地震調査研究推進本部 確率的地震動予測地図2024年版 2024年
津波・洪水・高潮リスク 国土交通省 ハザードマップポータルデータ(125mメッシュ) 収録時点まで
火山活動・噴火警戒レベル 気象庁 活火山情報 2024年時点
地形・カルデラ情報 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
天明噴火の経緯 還住(青ヶ島)- Wikipedia・内閣府防災情報
避難施設 国土数値情報 避難施設データ(nlftp P20) 収録時点まで

著者:防災DB編集部 / 公開:2026年4月4日

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