青森県南部町の災害リスクと被害年表|洪水・地震・台風が繰り返す川沿いの町
青森県三戸郡南部町(なんぶちょう)は、防災DBの統合リスクスコアで83点・「極めて高い」と評価される自治体だ。洪水・津波・高潮の3リスクでいずれも満点(100点)、地震スコアも85点と、青森県内でも特に複合的な災害リスクを抱える町である。
過去に記録された災害事例は84件(南部町地域防災計画収録分)にのぼり、特に1968年の十勝沖地震では死者が確認され、2011年・2013年には台風による床上浸水が相次いだ。この記事では、防災DB(bousaidb.jp)の125mメッシュ解析データと公的記録をもとに、南部町の災害リスクを詳しく解説する。
この町の災害リスクの全体像
南部町は、一級河川・馬淵川(まべちがわ)の中流域に位置する内陸型の自治体だ。馬淵川は町の中心部を横断し、下流で八戸市を経て太平洋に注ぐ。この地形的特性が、南部町を水害に対して脆弱にしている最大の要因である。
| リスク種別 | スコア | 評価 |
|---|---|---|
| 洪水 | 100/100 | 極めて高い(馬淵川等6河川) |
| 津波・高潮 | 100/100 | 極めて高い(河川遡上リスク含む) |
| 地震 | 85/100 | 高い(十勝沖地震の履歴) |
| 土砂災害 | 50/100 | 中程度(49ハザード区域) |
| 液状化 | 20/100 | 低い |
統合リスクスコア: 83点(「極めて高い」)
出典: 防災DB 市区町村別統合リスク評価(2024年時点)
なぜ南部町は水害に弱いのか
馬淵川は岩手県北部に源を発し、南部町付近で流路を北東に転じ、八戸平野を経て太平洋に至る全長135kmの一級河川だ。南部町内を流れる区間では流域が狭まり、大雨時に水位が急激に上昇しやすい地形となっている。
防災DBの125mメッシュ解析では、南部町内で6つの河川に浸水想定区域が確認されている。
| 河川名 | 影響メッシュ数 | 最大浸水深 | 平均浸水深 | 最大継続時間 |
|---|---|---|---|---|
| 馬淵川 | 2,857 | 10.0m | 4.32m | 168時間(7日間) |
| 浅水川 | 712 | 5.0m | 1.02m | 72時間 |
| 五戸川 | 465 | 5.0m | 3.27m | 168時間 |
| 瀬月内川 | 219 | 10.0m | 6.56m | 72時間 |
| 雪谷川 | 183 | 10.0m | 4.09m | 72時間 |
| 新井田川 | 136 | 20.0m | 8.68m | 72時間 |
特筆すべきは新井田川の最大浸水深20mだ。これは1,000年に一度を想定した計画規模の数値だが、20mという深さは3〜4階建てのビルが完全に沈むレベルを意味する。平均でも8.68mという数値は、2階建て住宅の屋根近くまで水が来ることを示している。
浸水深の目安:
- 3m: 1階の天井まで(1階の人は逃げ場がない)
- 5m: 2階の床上まで
- 10m: 3〜4階建て相当の高さ
- 20m: 6〜7階建て相当の高さ
馬淵川の最大継続時間168時間(7日間)も深刻だ。一度浸水すると長期間水が引かない可能性がある。
過去の主要災害
1968年十勝沖地震(死者確認・全壊113棟)
1968年5月16日、青森県東方沖を震源とするM7.9の十勝沖地震が発生した。南部町では死者が確認されており、三戸郡内で全壊113棟に及ぶ建物被害が記録されている(出典: 南部町地域防災計画 風水害等災害対策編)。
青森県全体では死者・行方不明者48名を記録し、うち33名が地すべり・山崩れなどの土砂災害による犠牲者だった(内閣府防災情報より)。三戸郡を含む南部地方は火山岩屑地帯や沖積地が広がり、地震による液状化・地盤変状が起きやすい地質であることも被害拡大の要因とされている。
南部鉄道(五戸町〜尻内間、12.3km)は全線にわたって路盤被害が発生し、事実上壊滅的な打撃を受けた。
2011年台風15号(床上92戸・半壊69棟)
2011年9月21日、台風15号による大雨・暴風で南部町は大きな浸水被害を受けた。NIEDデータベース(南部町地域防災計画 地震災害対策編収録)によると:
- 床上浸水: 92戸
- 床下浸水: 73戸
- 全壊: 1棟
- 半壊: 69棟
前日の東日本大震災から半年後、復旧途上での追い打ちとなった。
2013年台風18号(床上58戸・半壊74棟)
2013年9月16日、台風18号による大雨で再び甚大な被害が発生した。
- 床上浸水: 58戸
- 床下浸水: 54戸
- 半壊: 74棟
2年続けて大規模な台風被害を受けたことになる。馬淵川流域の連続的な水害は、南部町が台風シーズンのたびに直面するリスクを端的に示している。
1999年・2002年の大雨被害
1999年10月の大雨では床上浸水65戸・床下浸水144戸を記録。2002年7月の台風6号・梅雨前線による大雨では床上浸水42戸・床下浸水65戸の被害が出た。いずれも馬淵川や五戸川の増水が原因とみられる。
近年の記録(2019〜2020年)
令和元年(2019年)台風19号では床上浸水1戸・床下浸水2戸。令和2年(2020年)7月豪雨でも洪水警報が発令され、被害が確認されている(出典: 「7月11日からの大雨・洪水警報による被害について(第10報)」)。
過去の災害年表(1960年代〜2020年)
| 発生年 | 種別 | 主な被害 | 出典資料 |
|---|---|---|---|
| 1966年9月 | 洪水 | 死者3名・行方不明1名 | 南部町地域防災計画 |
| 1968年5月16日 | 地震(M7.9 十勝沖) | 死者7名・全壊113棟 | 南部町地域防災計画 風水害等 |
| 1985年6月28日 | 洪水(梅雨前線・台風6号) | 死者1名・負傷2名 | 南部町地域防災計画 |
| 1990年9月 | 台風19号 | 床上浸水26戸 | 南部町地域防災計画 地震災害対策編 |
| 1993年7月 | 大雨 | 床上4戸・床下27戸 | 同上 |
| 1999年10月 | 大雨 | 床上65戸・床下144戸 | 同上 |
| 2002年7月 | 台風6号・梅雨前線 | 床上42戸・床下65戸 | 同上 |
| 2006年10月 | 大雨 | 床上21戸・床下27戸 | 同上 |
| 2011年9月21日 | 台風15号 | 床上92戸・床下73戸・全壊1・半壊69 | 南部町地域防災計画 地震災害対策編 |
| 2013年9月16日 | 台風18号(平成25年) | 床上58戸・床下54戸・半壊74 | 同上 |
| 2019年10月 | 台風19号 | 床上1戸・床下2戸 | 内閣府被害状況とりまとめ |
| 2020年7月 | 令和2年7月豪雨 | 洪水警報発令・被害確認 | 青森県第10報 |
地震リスク:30年以内に震度6弱が起きる確率
防災DBの125mメッシュデータ(2024年時点)によると、南部町内の地震確率は以下のとおりだ。
| 指標 | 平均値 | 最大値 |
|---|---|---|
| 震度6弱以上30年確率 | 9.01% | 50.26% |
| 震度5弱以上30年確率 | 79.03% | 99.77% |
| 表層地盤Avs30(平均) | 390 m/s | — |
「30年以内に震度6弱以上が起きる確率9.01%」は、30年間で約1割の確率だ。最大値50.26%となる地点では、2人に1人が生涯のうちに震度6弱を経験する計算になる。
関連する活断層として「青森湾西岸断層帯」(M6.8想定、30年発生確率0.664%)が存在する。過去の十勝沖地震(1968年)が示すように、太平洋プレートの動きによる海溝型地震が南部町にとって最大の地震脅威だ。
土砂災害リスク:49ハザード区域
南部町内には土砂災害警戒区域等が49箇所確認されており、125mメッシュ解析では1,229メッシュが土砂災害リスクゾーンに該当する。
南部町南部には標高615mの名久井岳がそびえ、その山麓斜面には急峻な地形が広がる。1968年十勝沖地震では、三戸郡を含む南部地方の山間部で地すべりや崩落が多発したことからも、南部町の土砂災害ポテンシャルは無視できない。
津波・高潮リスク:馬淵川を通じた遡上
防災DBの統計では、津波・高潮スコアが100点(最高)となっている。南部町は直接の海岸線を持たないが、馬淵川が太平洋(八戸市付近)に注ぐ河川流域の一部に位置するため、大規模な津波が発生した場合には河川遡上による影響が及ぶ可能性がある。
125mメッシュ解析では4,175メッシュが津波・高潮リスクゾーンに含まれており、最大浸水深20mが想定されている(2024年時点データ)。
主な避難場所(南部町内)
南部町は76箇所以上の避難場所を整備している(nlftp_p20避難場所データより)。以下は指定避難所の一部だ。
| 施設名 | 住所 | 区分 |
|---|---|---|
| 剣吉小学校 | 南部町剣吉字大館10-1 | 指定避難所 |
| 南部小学校 | 南部町沖田面字久保10-1 | 指定避難所 |
| 南部公民館 | 南部町沖田面字沖中51番地2 | 指定避難所 |
| チェリウス | 南部町上名久井字大渋民山23-4 | 指定避難所 |
| 介護予防拠点施設「げんき館」 | 南部町斗賀字土口前26-2 | 指定避難所 |
| 上名久井公民館 | 南部町上名久井字上町16 | 指定避難所 |
| ふれあい交流プラザ | 南部町大向字泉山道9-87 | 指定避難所 |
| なんぶ保育園 | 南部町沖田面字下村30-3 | 指定避難所 |
洪水時は2階以上への垂直避難も有効だが、最大浸水深が10m超と想定される区域では早期の水平避難(高台への移動)が不可欠だ。
今からできる備え
公式防災リソースの確認
- 南部町防災マップ: 南部町公式ホームページ 防災マップ
- 青森県ハザードマップ: 青森県庁 ハザードマップ確認ページ
- 重ねるハザードマップ(国土地理院): https://disaportal.gsi.go.jp/
リスクが高い場合の行動指針
- 馬淵川・五戸川・新井田川の浸水想定区域を自宅と照合する — 最大10〜20mの浸水想定区域に自宅が含まれる場合、台風接近前の早期避難を原則とする
- 土砂災害警戒区域の確認 — 名久井岳周辺の山麓地域では、大雨時の土砂災害に備える
- 地震時の避難場所を2か所以上事前に確認 — 十勝沖地震の教訓として、地震直後に道路が損壊する可能性がある
- 72時間分の備蓄 — 2011年台風15号の事例では、広域浸水で物流が長期間停止した
- 防災DBで自宅周辺の125mメッシュリスクを確認 — 登録不要・完全無料で利用できる
データ出典
| 項目 | 出典 |
|---|---|
| 統合リスクスコア・各種メッシュデータ | 防災DB(bousaidb.jp) — 125mメッシュ解析(2024年) |
| 過去の災害事例(1966〜2020年) | 自然災害情報室(NIED)災害事例データベース(南部町地域防災計画収録分) |
| 馬淵川流域情報 | 国土交通省 東北地方整備局 青森河川国道事務所 |
| 洪水浸水想定区域(1,000年確率) | 青森県庁 洪水浸水想定区域(平成30年公表) |
| 1968年十勝沖地震被害 | 内閣府防災情報・Wikipedia(十勝沖地震1968年) |
| 避難場所データ | 国土交通省 国土数値情報(nlftp_p20 避難場所)2024年時点 |
| 活断層データ | 地震調査研究推進本部 活断層評価 |
記事作成日: 2026年4月4日
著者: 防災DB編集部
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