荒川区の災害リスクと災害年表|洪水・地震・高潮すべてが最高危険度の街

東京都荒川区は、防災DB(bousaidb.jp)の統合リスク評価で91点(極めて高い)を記録した、都内でも突出して災害リスクの高い区です。洪水・地震・高潮・津波の4カテゴリがすべて満点(100点)という地域は荒川区を含むごく一部に限られます。

この記録が単なる数字でないことは、歴史が証明しています。1923年の関東大震災で壊滅的な火災を経験し、2019年の台風19号では荒川が「あと少しで決壊」という極限状態に追い込まれた荒川区。荒川と隅田川の両河川に挟まれた「ゼロメートル地帯」に約21万人が暮らすこの区の実態を、公的データに基づいて解説します。


荒川区はなぜこれほど危険なのか——地形が生み出す複合リスク

荒川区を理解するうえで欠かせないのが「地形」です。区は北と東を荒川(正確には隅田川の旧流路から分岐した人工河川)に、南を隅田川に挟まれた細長い低地に位置しています。平均海抜は0〜2m程度で、一部地域では海面以下のゼロメートル地帯が広がっています。

この地形的特性が、荒川区の災害リスクを多重に高めています。

第一のリスクは「逃げ場がない」こと。 両岸を大河川に挟まれているため、どちらか一方が氾濫すると浸水域が区全体に広がります。台風19号(2019年)でも、荒川の水位が危険水位を超える中、区内の多くの住民が避難を余儀なくされました。

第二のリスクは「水が自然に引かない」こと。 川の水面のほうが地面より高いため、浸水後はポンプで強制排水するしかありません。東京都の試算では、荒川が大規模氾濫した場合の浸水継続時間は2週間以上に及ぶとされています。地震と洪水が同時発生(複合災害)した場合、この状況はさらに深刻化します。

第三のリスクは「地盤の軟弱さ」。 防災DBの125mメッシュ解析では、荒川区のS波速度(Avs30)は平均185.9 m/s、最低値は116.1 m/sです。一般的に300 m/s以下は軟弱地盤とされており、荒川区の地盤は東京都内でも特に揺れが増幅しやすい条件が揃っています。


統合リスクスコアの内訳

防災DBの125mメッシュ解析(2024年時点)による荒川区のリスク評価:

リスク区分 スコア 評価
統合リスク 91/100 極めて高い
洪水 100/100 最大浸水深10m想定
高潮 100/100 区の約5割が浸水想定域
津波 100/100 最大浸水深20m想定
地震 100/100 震度6弱確率 最大93.22%
土砂災害 50/100 中程度(平坦地のため限定的)
液状化 60/100 軟弱地盤由来

洪水・高潮・津波・地震の4カテゴリが揃って満点というデータは、荒川区の「多重リスク」構造を端的に示しています。


洪水リスク——荒川が決壊したら区全域が水没する

荒川区の洪水リスクの中心は荒川です。防災DBの解析では、荒川による浸水想定区域内のメッシュ数は2,729(125m×125m換算で区面積の大部分をカバー)、想定最大浸水深は10m、浸水継続時間は336時間(約14日間)に達します。

浸水深10mは「2階建て住宅がほぼ全滅する」深さです。5m = 2階の床上まで水が来る水位で、3m = 1階の天井まで水が来る水位です。荒川区の平均的な住宅地では、荒川の最悪シナリオが現実になった場合、2階以上に避難したとしても浸命の危険が伴います。

荒川以外の河川の状況:

河川 浸水想定メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深
荒川 2,729 10m 3.32m
神田川 469 5m 0.3m
隅田川 261 5m 0.34m
利根川 174 5m 4.54m
石神井川 50 3m 0.21m
芝川流域 7 10m 4.43m

利根川についても荒川区に影響するメッシュが174あり、平均4.54mという深刻な浸水深が想定されている点は見逃せません。首都圏の複数河川が同時に危機的状況になる「複合洪水」の可能性は、温暖化に伴う極端降水の増加とともに現実的なシナリオとして浮上してきています。


過去の主要災害——記録された11件の水害

NIEDの災害事例データベースには、荒川区で1993〜2019年の間に11件の風水害が記録されています。主な事例:

令和元年台風19号(2019年10月)——最大の試練

2019年10月12日、台風19号が関東に上陸。荒川の岩淵水門が21時17分に閉鎖されました。荒川の水位は危険水位を超え、橋桁の直下まで水位が上昇する極限状態が続きました。閉鎖は2007年9月以来12年ぶりのことでした。

荒川区では一部損壊21件が記録されましたが、「本当の危機はすぐそこにあった」というのが実態です。国交省の記録では荒川の決壊寸前の状況が詳述されており、防災の専門家はこのケースを「ヒヤリハット」として重要視しています。

令和元年台風15号(2019年9月)

同年9月の台風15号でも荒川区で一部損壊24件が発生。同一年に2度の深刻な台風被害が記録された年です。

平成16年台風22号・23号(2004年)

2004年10月9日の台風22号で床上浸水49件・床下浸水18件、同年10月20日の台風23号で床上浸水37件・床下浸水9件。わずか11日間で2度の浸水被害が発生しました。

1999年8月29日(集中豪雨)

床上浸水5件・床下浸水101件。記録された中では床下浸水件数が最多のケースです。集中豪雨による排水能力の限界が原因とみられます。

1993年梅雨前線・台風(1993年8月)

平成5年の梅雨前線と台風7・11号の影響で床上浸水31件・床下浸水18件。1990年代以降の荒川区の水害の中でも規模の大きい事例のひとつです。

全災害事例年表

年月日 災害名 床上浸水 床下浸水 一部損壊
1993年8月27日 梅雨前線・台風7・11号 31件 18件
1994年7月18日 10件 2件
1996年9月22日 台風17号 0件 3件
1999年8月29日 5件 101件
2001年10月10日 0件 3件
2003年10月13日 2件 2件
2004年10月9日 台風22号・前線 49件 18件
2004年10月20日 台風23号・前線 37件 9件
2005年8月12日 1件 1件
2019年9月 台風15号(房総半島台風) 24件
2019年10月 台風19号(東日本台風) 21件

出典: NIED(防災科学技術研究所)災害事例データベース、荒川区地域防災計画修正案 資料編

なお、NIEDデータセットには関東大震災(1923年9月1日)の荒川区固有の被害記録は収録されていませんが、隣接する旧本所区(現墨田区)の被服廠跡では約3万8,000人が一箇所で焼死しており、荒川区南部の南千住・三河島地域も甚大な火災被害を受けたと記録されています。


地震リスク——30年以内震度6弱確率は最大93.22%

防災DBの125mメッシュ解析(2024年地震動予測地図ベース)によると、荒川区の30年以内の震度6弱以上の発生確率は次のとおりです。

  • 区内平均: 71.36%
  • 区内最大: 93.22%
  • 震度5弱以上の確率(平均): 99.98%

震度5弱以上がほぼ確実(99.98%)という数字は、30年以内に少なくとも一度の強い揺れは避けられないことを意味します。地盤のS波速度(Avs30)が平均185.9 m/sという軟弱地盤は、揺れをさらに増幅します。

活断層については、防災DBの広域解析では荒川区直下に特定の活断層は確認されていませんが、首都直下地震(プレート境界型地震、M7.3想定)の影響が最も懸念されます。政府の地震調査研究推進本部は、首都直下地震の今後30年以内の発生確率を約70%と推定しています(2023年時点)。

また、1923年の関東大震災(M7.9)は、荒川区一帯に強震動をもたらしました。現在も木造密集市街地が残る荒川区は、東京都の地域危険度調査でも火災延焼危険度・建物倒壊危険度の高い地域として評価されています。


高潮・津波リスク——海なし区でも最高危険度

荒川区は海に面していませんが、防災DBの高潮・津波スコアはともに100点です。これは荒川区の海面以下の地形と東京湾への接続性を反映しています。

防災DBの125mメッシュ解析では、区内に2,357メッシュ(約36.8 km²相当)の高潮・津波影響エリアが存在します。荒川区公式の高潮ハザードマップでは、区内約5割の地域が浸水想定域に指定され、最大浸水深は約3mに達します。

荒川の両岸には高潮対策の堤防が整備されていますが、大地震が発生した場合に液状化で堤防が沈下・変形するリスクも指摘されています。


広域避難場所と避難施設——95か所が指定

荒川区内には防災DBの避難施設データによると95か所の避難施設が指定されています(2024年時点)。

広域避難場所(3か所)

施設名 住所
荒川自然公園一帯 東京都荒川区
都立尾久の原公園一帯 東京都荒川区
都立汐入公園一帯 東京都荒川区

主な避難所

施設名 住所 種別
サンパール荒川 荒川区荒川1-1-1 避難所
ムーブ町屋 荒川区荒川7-50-9 避難所
南千住第二中学校 荒川区南千住7-25-1 避難所
原中学校 荒川区町屋5-12-6 避難所
尾久八幡中学校 荒川区西尾久3-13-1 避難所

重要な注意事項: 荒川が大規模に氾濫した場合、区内の多くの避難所自体が浸水する可能性があります。荒川区は「水害時には垂直避難(上層階への避難)か区外への広域避難を検討すること」を推奨しています。荒川区の水害時の避難先として、荒川より内陸側(台東区・足立区北部など標高の高い地域)への避難計画を事前に立てておくことが重要です。


今からできる備え

公式防災ページ・ハザードマップ

荒川区の災害リスクを詳細に把握するための公式情報源:

具体的な備え

  1. 自宅の海抜・浸水深を確認する: 荒川区防災地図で自宅のアドレスを確認し、荒川氾濫時の想定浸水深を把握しましょう。
  2. 垂直避難 vs 広域避難の計画を立てる: 浸水深が3m以上想定される場合、自宅での垂直避難は危険です。区外への早期避難ルートを事前に検討してください。
  3. 2週間分の備蓄を準備する: 荒川の大規模氾濫時は排水に2週間以上かかります。食料・水・医薬品の2週間分備蓄が推奨されます。
  4. 早めの避難を心がける: 台風19号の事例が示すように、荒川は警戒レベルが引き上げられてから急速に危機的状況になります。「避難勧告が出てから」ではなく、「警戒レベル3で行動開始」を目安にしましょう。
  5. 防災アプリを導入する: NHK防災アプリ、Yahoo!防災速報、荒川区の防災メール登録で最新情報を受け取れる体制を整えてください。

データ出典

本記事のデータは以下の情報源に基づいています。

データ 出典
統合リスクスコア・メッシュデータ 防災DB(bousaidb.jp):国土交通省・内閣府の公開データを125mメッシュで統合解析(2024年)
過去の災害事例 防災科学技術研究所(NIED)災害事例データベース・荒川区地域防災計画修正案 資料編
洪水浸水想定区域 国土交通省 荒川下流河川事務所(2024年最大規模降雨想定)
地震確率 地震調査研究推進本部「全国地震動予測地図2024年版」
避難施設 国土数値情報 避難施設データ(p20)
高潮ハザード情報 荒川区公式 防災地図(水害版)
台風19号の状況 国土交通省 荒川下流管内出水状況報告(2019年)
関東大震災 内閣府 防災情報ページ・防災科学技術研究所

本記事は公的データに基づく情報提供を目的とします。実際の避難判断は荒川区や東京都の最新情報に従ってください。

著者: 防災DB編集部
最終更新: 2026年4月
データ基準日: 2024年(防災DB統合リスクスコア)