北海道厚真町の災害リスク|2018年震度7・明治以降最大規模の土砂崩れが証明したこと
北海道勇払郡厚真町は、2018年9月6日の北海道胆振東部地震によって、日本の防災史に刻まれた。最大震度7(北海道観測史上初)を記録したこの地震は、厚真町全体で同時多発的な土砂崩れを引き起こし、死者36人・崩壊面積13.4㎢という明治以降最大規模の土砂災害をもたらした。
防災DBの統合リスクスコアは79点(極めて高い)。洪水・津波・地震の3リスクがいずれもスコア100という、北海道内でも極めてリスクの高い自治体だ。この町に住む・訪れる人は、過去に何が起き、今どんなリスクがあるかを正確に知っておく必要がある。
なぜ厚真町はこれほどリスクが高いのか
地形・地質が生む複合リスク
厚真町は夕張山地南部を水源とする厚真川が南流し、勇払平野(低平な沖積平野)を経て太平洋に注ぐ地形を持つ。この南北縦長の地形が複数のリスクを重ね合わせている。
丘陵・山地エリアの土砂災害リスク: 町の内陸部の丘陵地は「海成堆積層(砂岩・泥岩互層)+火山噴出物(テフラ)」の二重構造を持つ。支笏カルデラ噴火(約4万年前)や樽前山・恵庭岳の噴火が残した火山灰・降下軽石層は透水性が高く、風化すると粘土化してすべり面を形成しやすい地質だ(産総研 地質調査総合センター調査より)。
平野部の洪水・津波リスク: 厚真川下流の勇払平野は標高が低く、厚真川・安平川・鵡川など複数河川が交差する。さらに太平洋岸に面する浜厚真地区は津波リスクを抱える。
防災DBの125mメッシュ解析では、津波・高潮影響メッシュが8,252にのぼり、町域の相当部分が浸水リスクゾーンに含まれる。
地震活動の活発さ
30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は、地域によって最大49.4%(防災DBの125mメッシュ地震確率データより)。平均でも11.5%と高水準で推移している。太平洋プレートの沈み込みによる胆振・日高沖の地震活動が継続する地域に位置する。
過去の主要災害
2018年9月6日 北海道胆振東部地震(NIEDデータセット未収録・本文で別途記載)
厚真町の防災を語る上で、この地震を避けることはできない。
2018年9月6日午前3時7分、北海道胆振地方中東部(深さ37km)でM6.7の地震が発生した。厚真町で最大震度7を観測——北海道で初めての震度7記録だった。
被害規模(公的出典より):
- 厚真町の死者: 36人(全道43人のうち)
- 吉野地区だけで住民34人中19人が犠牲
- 住家全壊: 222棟(全道469棟の47%を厚真町が占める)
- 住家半壊: 308棟
- 住家一部破損: 1,045棟
- 斜面崩壊: 東西・南北各20km圏内に約6,000〜8,000か所が同時多発
- 崩壊土砂量: 約3,000万㎥
- 崩壊面積: 13.4㎢(明治以降の土砂災害で日本最大規模)
なぜこれほどの規模になったのか。発生直前の9月4日に台風21号が北海道を通過しており、さらに6〜8月の降水量が平年比1.6倍——地中は多量の水分を含んでいた。そこに震度7の強振動が加わり、テフラ層がすべり面となって斜度15〜30°の緩傾斜地で表層崩壊が一斉に発生した(産総研 地質調査総合センター)。
「震度7で崩れるのは険しい急斜面だけ」という先入観を打ち砕いた災害だった。緩い丘陵地でも、地質と水分条件が重なれば広域崩壊が起きる——この教訓は日本全国の防災に影響を与えた。
1952年3月4日 十勝沖地震(M8.2)
M8.2という巨大規模の十勝沖地震が厚真町を直撃した。NIEDデータによれば、死者1人、住家全壊35棟・半壊36棟・一部損壊141棟という大きな被害を記録している。震度7の2018年地震より住家被害は限定的だったが、M8.2という規模の地震がこの地域で過去に発生している事実は、将来リスクを評価する上で重要だ。
1933年8月7日 豪雨
1933年の豪雨では死者1人・全壊18棟・半壊42棟の被害が記録されている(NIED災害データより)。当時は河川改修が不十分であり、厚真川流域での洪水被害が中心だったとされる。
1975年 台風5号・6号による豪雨(8月〜9月)
床上浸水82棟・床下浸水140棟という浸水被害が記録されている(NIEDデータより)。台風の大雨で厚真川や支川が氾濫し、下流の平野部集落が浸水した。
歴代の台風・風水害(1970〜2005年)
NIEDデータには1970年代〜2000年代にかけて台風・豪雨による被害が13件記録されている。特に目立つのは以下の事例だ:
| 年月日 | 災害名 | 主な被害 |
|---|---|---|
| 2005年9月7日 | 台風第14号・前線 | 風水害(詳細未集計) |
| 2003年10月25日 | 豪雨 | 一部損壊2棟 |
| 2003年9月26日 | 十勝沖地震 | 一部損壊13棟 |
| 2003年8月10日 | 台風第10号 | 風水害 |
| 2001年9月 | 台風第15号・第11号 | 風水害 |
| 1999年9月25日 | 台風第18号 | 風水害 |
| 1993年1月15日 | 釧路沖地震 | 一部損壊1棟 |
| 1992年8月9日 | 台風第10号 | 全壊相当・河川被害 |
| 1981年8月 | 北海道豪雨・台風第15号 | 全壊相当・河川被害 |
| 1975年8月〜9月 | 台風第5・6号 | 床上82・床下140浸水 |
| 1952年3月4日 | 十勝沖地震 | 死者1・全壊35・半壊36 |
| 1933年8月7日 | 豪雨 | 死者1・全壊18・半壊42 |
つまり、厚真町は「地震」と「台風・豪雨」が交互に来るという、北海道の複合リスクを体現した地域だ。2018年の土砂崩れもまた、台風通過後の地盤水分過多という「豪雨後の地震」という組み合わせで発生した。
洪水・浸水リスク
防災DBの解析では、厚真町の洪水スコアは100点満点。複数の一級・二級河川が町内を流れ、それぞれに浸水リスクを抱えている。
主要河川の浸水リスク(防災DB 125mメッシュ解析)
| 河川名 | 影響メッシュ数 | 最大浸水深 | 平均浸水深 | 最大継続時間 |
|---|---|---|---|---|
| 厚真川 | 4,333 | 5.0m | 0.87m | 168時間(7日) |
| 安平川 | 4,264 | 10.0m | 2.43m | 336時間(14日) |
| 鵡川 | 3,537 | 10.0m | 1.77m | 72時間(3日) |
| 沙流川 | 701 | 10.0m | 3.98m | 72時間 |
| 遠浅川 | 691 | 5.0m | 0.51m | 336時間 |
| 入鹿別川 | 577 | 5.0m | 0.68m | 72時間 |
安平川・鵡川・沙流川ではいずれも「想定最大浸水深10m超」のシナリオがある。浸水深10mとは、3階建て建物の屋上近くまで水が来る高さだ。
厚真川については2018年の地震後、土砂崩れによって複数の支川で天然ダム(河道閉塞)が発生。国土交通省は2024年3月までに緊急・本格対策工事を完了させているが、上流域の不安定土砂は引き続き監視対象だ。
浸水深の目安
- 0.5m: 膝下まで浸水、歩行困難
- 1.0m: 腰まで浸水、車が水没
- 2.0m: 1階天井まで浸水
- 5.0m: 2〜3階まで完全浸水
- 10.0m: 3階建て屋上近くまで浸水
土砂災害リスク
2018年の経験が問い直す「警戒区域外」という概念
landslide_score: 50点という数値は、ハザードマップ上の土砂災害警戒区域の少なさ(5箇所)を反映したものだ。しかしこの数字は、2018年の現実と正面から向き合う必要がある。
2018年の土砂崩れは、当時の土砂災害警戒区域の多くが「想定外」の場所でも発生した。緩傾斜地・農地・林地が突然崩れた。そのため2018年以降、厚真町は土砂災害警戒区域の大幅な見直しを行い、令和4年(2022年)版ハザードマップに反映させた。
防災DBの125mメッシュ解析では土砂災害影響メッシュは37箇所。これは現行の警戒区域に基づくデータだが、2018年の経験から「地図上の警戒区域外だから安全」という発想は通用しないことが証明された。内陸の丘陵・山地エリアに居住・滞在する際は、特に降雨後・地震後の移動に細心の注意が必要だ。
地震リスク
震度6弱以上30年確率——最大49.4%
防災DBの地震確率データ(2024年)によれば、厚真町内でのエリア別に見た「30年以内に震度6弱以上」の確率は最大49.4%。平均でも11.5%と、全国的に見ても高い水準だ。
2018年の胆振東部地震(M6.7)は記憶に新しいが、1952年のM8.2十勝沖地震、1993年の釧路沖地震など、太平洋プレートの沈み込みに関連した地震が繰り返されてきた。地震活動は今後も継続するリスクがある。
平均地盤速度(AVS30)は366.8m/sと比較的硬質な地盤を示しているが、2018年の土砂崩れが示すように、地震動よりも「地盤水分+地質構造」の影響が大きい地域だ。
津波リスク
厚真町の太平洋岸(浜厚真地区)は津波リスクを抱える。津波スコアは100点満点。防災DBの125mメッシュ解析では、津波・高潮影響メッシュは8,252箇所にのぼり、海岸線から広範囲にわたって浸水想定区域が設定されている。
1952年の十勝沖地震では津波も発生した(日高・十勝沿岸に被害記録)。将来の太平洋沖の巨大地震発生時には、再び津波が浜厚真海岸を襲う可能性がある。
浜厚真生活会館(住所:厚真町浜厚真132-2)は避難所に指定されているが、津波の際は内陸の避難所への移動が優先される。
主要避難施設一覧(厚真町指定避難所)
厚真町は全域に38箇所の避難所を指定している(令和4年版ハザードマップ時点)。主な施設を以下に示す。
| 施設名 | 住所 |
|---|---|
| あつまスタードーム1階・2階 | 本郷234-6 |
| スポーツセンター | 本郷234-6 |
| 厚真高等学校体育館・教室 | 本郷234-3 |
| こぶしの湯あつま | 本郷229-1 |
| 厚真中央小学校体育館・教室 | 新町92-1 |
| 厚真中学校体育館・教室 | 新町464 |
| 総合福祉センター1階・2階 | 京町165-1 |
| 上厚真小学校体育館・教室 | 厚和59-3 |
| 富野小学校体育館・教室 | 富野311-1 |
| 厚南中学校体育館・教室 | 富野75-2 |
| ルーラルマナビィハウス | 豊沢1209 |
| 幌内生活館 | 幌内601-7 |
なお、2018年の地震発生時は早朝3時という時間帯だったこともあり、多くの住民が自宅在住中に被災した。「地震の際は家の外に出る」という一般的な行動が土砂崩れと重なるリスクもある。厚真町が公表した「地区ごとの防災マップ」での事前確認が重要だ。
今からできる備え
公式ハザードマップの確認(必須)
- 厚真町Web版ハザードマップ(令和4年版): https://www.town.atsuma.lg.jp/hazardmap/
- 厚真町 防災ページ: https://www.town.atsuma.lg.jp/office/reception/disaster_prevention/
- 土砂災害警戒区域: https://www.town.atsuma.lg.jp/office/reception/disaster_prevention/sediment_disaster/
- 問い合わせ: 厚真町役場 総務課 防災グループ(TEL: 0145-27-2481)
厚真町特有のリスクに備えた行動
- 地震後は屋外移動を慎む: 2018年の教訓として、地震直後に屋外へ出たことで土砂崩れに巻き込まれた事例がある。揺れが収まった後も、内陸丘陵部では崩壊リスクが継続する
- 台風・大雨後の外出自制: テフラ地質は降雨後に崩れやすい。台風通過後は地盤水分が高く、余震が来ると危険
- 河川氾濫への備え: 厚真川・安平川の氾濫ハザードマップを確認し、自宅の浸水想定を把握する
- 非常用持ち出し袋の備蓄: 2018年は北海道全域でブラックアウト(大規模停電)が発生。電源不要の情報収集手段(手回しラジオ等)の備蓄が有効
データ出典
| データ | 出典 | 時点 |
|---|---|---|
| 統合リスクスコア・洪水・津波・地震確率データ | 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ解析 | 2024年 |
| 過去の災害事例(死者数・建物被害) | NIED 自然災害データ室 災害事例データベース | 〜2005年 |
| 2018年北海道胆振東部地震の被害 | 内閣府 令和元年版防災白書・国土地理院・国土交通省砂防 | 2019年 |
| 地盤・地質データ | 産総研 地質調査総合センター | 2018年調査 |
| 避難施設 | 国土数値情報 避難施設データ(p20)・厚真町 | 2024年 |
| ハザードマップ | 厚真町 総合防災マップ(令和4年版) | 2022年 |
この記事は防災DB編集部が公的データと現地調査に基づいて作成しました。数値は記載時点のものであり、最新情報は各出典をご確認ください。
著者: 防災DB編集部
公開日: 2026年4月5日
防災DB