阿波市の災害リスクと歴史――吉野川・南海トラフ・中央構造線が重なる「三重リスク地帯」
防災DB編集部 | 2026年4月4日更新
徳島県阿波市は、防災DBの統合リスクスコアで89点(極めて高い)を記録する市のひとつだ。洪水・津波・高潮・地震の各スコアがいずれも100点満点の最高値を示しており、複数の致命的な災害リスクが同時に重なっている。この街に住む人が知っておくべき最も重要な事実がある。吉野川中流域に広がる平野と、南側に迫る中央構造線断層帯、そして南海トラフ巨大地震による津波遡上の危険性という「三重のリスク」が同時に存在する点だ。
阿波市では、防災DBが収集したNIEDデータによると684年から現在まで28件の災害記録がある。最古の記録は天武天皇時代の白鳳(天武)地震(684年)。1,300年以上にわたり繰り返されてきた大規模地震と洪水の歴史は、この地が日本でも有数の「災害常習地帯」であることを示している。
なぜ阿波市はこれほど災害リスクが高いのか――地形と地質から読む
阿波市の市域は、吉野川が大きく蛇行する中流域に位置する。市の南北は山地に囲まれ、中央部を東西に吉野川が貫く典型的な内陸の河川流域都市だ。
吉野川は別名「四国三郎」と呼ばれ、坂東太郎(利根川)・筑紫次郎(筑後川)と並ぶ日本三大暴れ川のひとつに数えられる。その最大の特徴は上流と下流の落差が大きいことで、上流の高知県側で大雨が降ると、阿波市内に雨が降っていなくても急激に水位が上昇する「上流集中型洪水」が発生しやすい。4〜5日間にわたる継続降雨で危機的な状況に至った例が歴史的に繰り返されている。
防災DBの125mメッシュ解析によると、阿波市域において洪水リスクのある地点は延べ145,251メッシュに及ぶ。これは市域の大半が何らかの洪水浸水想定区域に含まれることを意味する。中でも吉野川本川では最大浸水深が10m(吉田川合流点付近の局所最大は同等値)、平均でも4.43mという深刻な値が記録されている。浸水深4mといえば、2階建て一般住宅の1階が水没する水位だ。
さらに市の南側は中央構造線断層帯が走る地帯に接しており、地震・地盤の観点でも「安全な場所」とは言いがたい。
過去の主要災害——684年から続く被災の歴史
古代から繰り返された南海地震(684年〜)
阿波市に記録が残る最古の災害は684年(天武13年)11月26日の白鳳(天武)地震だ。推定Mw8.4〜8.7とされるこの地震は南海トラフを震源とし、土佐(高知)では田地が海に沈んだとも伝えられる。その後も南海トラフ由来の巨大地震が繰り返し阿波を襲い続けた。
- 1096年(永長元年)12月11日 — 永長東海地震(南海トラフ)
- 1099年(康和元年)2月16日 — 康和南海地震
- 1361年(正平16年)7月26日 — 正平南海地震
- 1498年(明応7年)9月11日 — 明応地震
- 1605年(慶長10年)2月3日 — 慶長地震(津波が甚大)
- 1707年(宝永4年)10月28日 — 宝永地震(推定M8.6、東海・東南海・南海が同時発生)
この中で最も被害が大きかったとされるのが1854年(安政元年)の連続地震だ。12月23日に安政東海地震(M8.4)、翌24日に安政南海地震(M8.4)が相次いで発生。2日間で日本の太平洋岸が壊滅的な打撃を受けた。阿波市地域防災計画資料編には両地震が明記されており、津波と地盤沈降による被害は広域に及んだ。
1866年「寅の水」——溺死者3万7千人の記録
文献に残る洪水被害の中で最も甚大なのが1866年(慶応2年)の「寅の水」だ。この大洪水では吉野川が各所で決壊し、阿波国全体で3万7,020人が溺死したと記録されている(当時の阿波国推定人口の数割に相当する規模)。上流での長期集中豪雨が吉野川の堤防を次々と決壊させた複合的な洪水で、現在の阿波市域も甚大な被害を受けた。
1946年南海地震——昭和の大地震
1946年(昭和21年)12月21日、南海道地震(南海地震、M8.0)が発生した。阿波市地域防災計画資料編に記録されたこの地震では、四国・近畿の太平洋岸に最大10m以上の津波が押し寄せた。死者・行方不明者は全国で約1,400人に達した。当時の阿波(現在の阿波市域)でも津波と地盤被害が記録されている。
1976年台風17号——死者10人・浸水2万155戸
1976年(昭和51年)の台風17号は吉野川流域に321.9mmの降雨をもたらし、上流域の総雨量は1週間で1,782mmに達した。吉野川流量は約11,400m³/sに達し、堤防の決壊と氾濫が相次いだ。死者10人、家屋全壊・流失187戸、浸水2万155戸という被害規模は、現代においても「過去最大クラス」の河川洪水として語り継がれている。
1995年阪神・淡路大地震——阿波市にも記録
1995年(平成7年)1月17日の兵庫県南部地震(阪神・淡路大地震、M7.3)は、阿波市地域防災計画資料編にも記録がある。被災地として直接的な被害はなかったが、中央構造線断層帯の隣接地域として地震動の影響が記録されたとみられる。
2020年——令和2年7月豪雨・台風10号
直近では2020年(令和2年)に2つの大規模気象災害が連続した。令和2年7月豪雨(7月4日・14日)と台風第10号(9月6日)だ。いずれも被害数値は記録されていないものの、徳島県全体で土砂崩れや河川増水が多発した。
主要河川の洪水リスク詳細
防災DBの125mメッシュ解析から、阿波市に影響する主要河川の浸水リスクをまとめた。
| 河川名 | 浸水危険メッシュ数 | 最大浸水深 | 平均浸水深 | 最長浸水継続 |
|---|---|---|---|---|
| 吉野川 | 7,336 | 10.0m | 4.43m | 168時間 |
| 湊川 | 573 | 5.0m | 0.97m | 72時間 |
| 新川 | 527 | 10.0m | 0.54m | 72時間 |
| 宮川内谷川 | 332 | 5.0m | 1.27m | 72時間 |
| 鮎喰川 | 218 | 5.0m | 1.39m | 168時間 |
| 与田川 | 231 | 3.0m | 0.64m | 72時間 |
| 津田川水系 | 219 | 3.0m | 0.57m | 24時間 |
出典:防災DB125mメッシュ解析(国土交通省ハザードマップポータルのデータを元に算出)
吉野川の浸水継続時間が最長168時間(7日間)という点は見逃せない。「浸水が1週間続く」という事態は、車での避難が不可能になることを意味する。上流の高知県高地で豪雨が続く限り水が引かないという構造は、現代においても根本的に変わっていない。左岸堤防の整備率は約99%に達しているものの、上流部には未整備の無堤地区が約18kmにわたって残存しており、そこからの溢水リスクが下流部の阿波市にも連鎖する可能性がある。
浸水深のイメージ:
- 0.5m: 車のドアが開かなくなる
- 1.0m: 大人の胸まで浸水、歩行が極めて困難
- 3.0m: 1階天井以上、2階床上浸水
- 5.0m: 2階が完全に水没
- 10.0m: 3〜4階建て建物が水没する規模
地震リスク――中央構造線断層帯と南海トラフの二重脅威
震度6弱以上の30年確率:平均37.75%、最大79.6%
防災DBの125mメッシュデータ(地震調査研究推進本部 2024年版)によると、阿波市の震度6弱以上30年超過確率は、市域平均で37.75%、最も危険なメッシュでは79.6%に達する。震度5弱以上の確率は平均82.45%、最大96.35%という高水準だ。全国平均と比較しても際立って高い。
中央構造線断層帯が直接影響
阿波市の地震リスクを語る上で外せないのが中央構造線断層帯だ。九州から近畿・四国を経て関東まで延びる日本最長の活断層系であり、阿波市の市域はその四国区間の近傍に位置する。防災DBの活断層データによると、主要な区間の評価は以下のとおり。
| 断層名 | 想定マグニチュード | 30年発生確率 |
|---|---|---|
| 中央構造線断層帯(五条谷区間) | M6.8 | 0.31% |
| 中央構造線赤石山地西縁断層帯 | M7.7 | 0.18% |
| 中央構造線断層帯(紀淡海峡-鳴門海峡区間) | M7.0 | 0.13% |
出典:防災DB 活断層マスタ(地震調査研究推進本部データ準拠)
「0.3%」という数字は小さく見えるかもしれないが、30年以内に活動する確率として「やや高い」と評価される閾値(3%)に近い数値だ。M7.7の活動が現実になれば、近隣の徳島県全体で壊滅的な被害が生じる可能性がある。
なお、市域の平均AVS30(表層30mのせん断波速度)は587.6 m/sで、軟弱地盤が卓越する沿岸都市と比較すると比較的良好な地盤条件といえる。ただし吉野川河川沿いのエリアは液状化リスクも存在する(液状化スコア40)。
南海トラフ巨大地震と津波遡上リスク
阿波市は内陸に位置するが、南海トラフ巨大地震(M9クラス)が発生した場合、吉野川河口から遡上する津波が市域まで到達する可能性が指摘されている。防災DBの津波スコアは100点(最高値)を記録しており、津波危険メッシュ数は137,803に及ぶ。想定最大浸水深は10mだ。
2025年3月に公表された徳島県の最新被害想定では、南海トラフ巨大地震での県内津波浸水想定面積は158.9km²。河川を遡上する津波は到達時間が遅い分だけ「大丈夫だろう」という過信につながりやすく、警戒が必要だ。
土砂災害リスク
防災DBの125mメッシュ解析では、阿波市の土砂災害危険メッシュ数は15,814、土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定数は172カ所。市の北部と南部に山地が迫るため、急傾斜地崩壊・土石流・地すべりの危険地帯が多数存在する。
近年では2020年の令和2年7月豪雨において、徳島県内でも土砂崩れが多発した。山際の集落では「浸水リスク」と「土砂災害リスク」の両方から避難計画を立てる必要がある。
主要避難施設一覧
阿波市には計63カ所の避難場所が指定されており、うち11カ所が広域避難所に指定されている(2024年時点のデータ)。主な広域避難所は以下のとおり。
| 施設名 | 所在地 |
|---|---|
| 一条小学校 | 阿波市吉野町西条字岡ノ川原135 |
| 久勝小学校 | 阿波市阿波町森沢28 |
| 伊沢小学校 | 阿波市阿波町南柴生172 |
| 八幡小学校 | 阿波市市場町大野島字稲荷138-1 |
| 土成小学校 | 阿波市土成町成当1203 |
| 大俣小学校 | 阿波市市場町上喜来字西原200 |
| 大影小学校 | 阿波市市場町大影字境目39-1 |
| 市場小学校 | 阿波市市場町市場字上野段670 |
| 御所小学校 | 阿波市土成町宮川内字広坪89 |
| 林小学校 | 阿波市阿波町東整理155 |
| 柿原小学校 | 阿波市吉野町柿原字ヒロナカ256 |
出典:国土数値情報 避難施設データ(nlftp_p20)
重要:浸水深10mが想定される地区では、指定避難所であっても1〜2階が水没する可能性がある。ハザードマップで自宅と避難所の浸水想定深を事前に確認し、場合によっては2階以上への垂直避難や、浸水しない高台への移動が必要だ。
今からできる備え
阿波市の公式防災ページ・ハザードマップ
- 阿波市総合ハザードマップ(吉野川浸水想定・中小河川氾濫等): https://www.city.awa.lg.jp/docs/2013062700014/
- 阿波市防災・危機管理ページ: https://www.city.awa.lg.jp/category/bunya/anshin/bousai/
- 危機管理課: 0883-36-8703
- 徳島県防災・減災マップ(GIS): https://maps.pref.tokushima.lg.jp/bousai/
防災DBで詳細データを確認する
防災DB(bousaidb.jp)では、阿波市の125mメッシュ単位の浸水深・地震動増幅率・土砂災害リスクをAPI/MCPで無料取得できる。「自分の自宅が何m浸水する可能性があるか」を正確に知るには、メッシュ単位の確認が欠かせない。
具体的な備え
吉野川流域では上流で豪雨が始まった時点で避難行動を開始することが重要だ。阿波市内に雨が降っていない段階でも、上流の吉野川上流域(高知県境付近)での大雨は即座に警戒レベルを上げる理由になる。
- 48時間分の避難物資を準備する(浸水が長期化する想定)
- 高台への避難ルートを複数確認しておく(浸水で道路が通れなくなる前提)
- 南海トラフ巨大地震の発生直後は強い揺れが収まったら即座に高台へ移動する(津波遡上は地震から30分〜1時間後に到達する可能性)
- 中央構造線沿いの活断層地震は短時間の警告で発生するため、日頃の備えが唯一の対策
全災害記録年表
| 発生年月日 | 災害名 | 種別 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 684年11月26日 | 白鳳(天武)地震 | 地震 | |
| 887年8月22日 | 五畿七道の地震 | 地震 | |
| 1096年12月11日 | 永長東海地震 | 地震 | |
| 1099年2月16日 | 康和南海地震 | 地震 | |
| 1331年8月7日 | — | 地震 | |
| 1360年11月14日 | — | 地震 | |
| 1361年7月26日 | 正平南海地震 | 地震 | |
| 1498年9月11日 | 明応地震 | 地震 | |
| 1586年1月18日 | — | 地震 | |
| 1605年2月3日 | 慶長地震 | 地震 | |
| 1707年10月28日 | 宝永地震 | 地震 | |
| 1789年5月11日 | — | 地震 | |
| 1854年12月23日 | 安政東海地震 | 地震 | |
| 1854年12月24日 | 安政南海地震 | 地震 | |
| 1866年 | 「寅の水」 | 洪水 | 阿波国溺死者3万7,020人(NIEDデータセット未収録・文献資料より補完) |
| 1905年6月2日 | 芸予地震 | 地震 | |
| 1946年12月21日 | 南海道地震(南海地震) | 地震 | |
| 1955年7月27日 | — | 不明 | |
| 1960年5月23日 | チリ地震津波 | 地震/津波 | |
| 1976年 | 台風17号 | 風水害 | 死者10人・全壊流失187戸・浸水2万155戸(NIEDデータセット未収録・文献資料より補完) |
| 1995年1月17日 | 兵庫県南部地震(阪神・淡路大地震) | 地震 | |
| 2000年10月6日 | 鳥取県西部地震 | 地震 | |
| 2003年9月26日 | 十勝沖地震 | 地震 | |
| 2004年10月23日 | 新潟県中越地震 | 地震 | |
| 2005年3月20日 | 福岡県西方沖地震 | 地震 | |
| 2007年3月25日 | 能登半島地震 | 地震 | |
| 2008年6月14日 | 岩手・宮城内陸地震 | 地震 | |
| 2020年7月4日・14日 | 令和2年7月豪雨 | 風水害 | |
| 2020年9月6日 | 令和2年台風第10号 | 台風 |
出典:阿波市地域防災計画資料編、国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース
データ出典
| データ | 出典 |
|---|---|
| 統合リスクスコア・125mメッシュ解析 | 防災DB(bousaidb.jp) |
| 洪水浸水想定区域 | 国土交通省 吉野川水系洪水浸水想定区域図(想定最大規模) |
| 地震30年確率 | 地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版 |
| 活断層データ | 地震調査研究推進本部 活断層評価 |
| 過去の災害事例 | 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース、阿波市地域防災計画資料編 |
| 避難施設データ | 国土数値情報(nlftp_p20避難場所データ) |
| 1866年「寅の水」被害 | 国土交通省 四国地方整備局 吉野川の現状と課題 |
| 1976年台風17号被害 | 吉野川ダム統合管理事務所 過去の主要な災害 |
| 南海トラフ被害想定(最新) | 内閣府・徳島県(2025年3月公表) |
| ハザードマップ | 阿波市総合ハザードマップ(2021年3月) |
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