別府市の災害リスクと歴史年表|洪水・津波・地震が重なる温泉都市の備え
別府市は、大分県の別府湾に面した国際観光温泉都市だ。源泉数2,300ヶ所超、湧出量日本一を誇る温泉地である一方、防災DBが算出する統合リスクスコアは83点(極めて高い)——洪水・津波・高潮の3部門がそれぞれ満点(100点)を記録し、地震スコアも85点に達する。温泉の恵みと災害リスクは、同じ地質構造の表裏一体だ。
1596年の豊後大地震では津波で「瓜生島」という有人の島が別府湾に沈み、708人が溺死した記録が残る。2016年の熊本地震では大分県内で一部損壊だけで8,075棟に及ぶ被害が発生した。この街に住む・訪れるすべての人が、複合的な災害リスクを正しく理解しておく必要がある。
なぜ別府市は「極めて高い」リスクを抱えるのか
火山麓扇状地という立地
別府市の市街地は、活火山・鶴見岳(1,375m)と伽藍岳から別府湾に向かって広がる火山麓扇状地の上に広がっている。扇状地地形は、山地からの土石流や洪水が平野部に堆積してできたものであり、水が集まりやすく浸水しやすい宿命を持つ。
さらに別府は「島原-別府地溝帯」と呼ばれる地質構造上に位置する。幅20〜30kmに及ぶこの地溝帯は、活断層が集中し、地殻変動が活発な地域だ。日本最多の温泉が湧き出すのはこの地質活動の恵みであると同時に、地震・火山・津波リスクの源でもある。
防災DBが示す複合リスク
防災DB(bousaidb.jp)の125mメッシュ解析データによると、別府市のリスクは以下のとおりだ(2024年時点)。
| リスク種別 | スコア | 主な指標 |
|---|---|---|
| 洪水 | 100/100 | 最大浸水深下限20m、浸水想定区域168,386メッシュ |
| 津波 | 100/100 | 最大浸水深下限10m、浸水想定区域145,487メッシュ |
| 高潮 | 100/100 | 最大浸水深5m |
| 地震 | 85/100 | 震度6弱以上30年確率 平均10.85%、最大57.66% |
| 土砂災害 | 50/100 | 土砂災害ハザード区域3件 |
| 液状化 | 20/100 | — |
| 総合 | 83/100 | 極めて高い |
洪水・津波・高潮がすべて満点というのは全国でも珍しい。別府市は「どの方向からも被害を受けうる街」だと言える。
歴史に刻まれた主要災害
NIEDの自然災害データベースには別府市に関連する13件の災害記録が残る。西暦867年から2020年まで、1,150年以上にわたる記録だ。
1596年慶長豊後地震(豊後大地震)——島が沈んだ
1596年9月4日(文禄5年閏7月12日)、別府湾一帯を巨大地震が襲った。慶長豊後地震(別称:豊後大地震)と呼ばれるこの地震はM7.0〜7.1と推定され、発生と同時に大規模な津波を引き起こした。
被害の中でもっとも衝撃的なのは、別府湾に浮かぶ「瓜生島(うりゅうしま)」と「久光島」の沈没だ。当時、両島には人が住んでおり、溺死者は708人に上ったと記録されている。津波の高さは別府湾口の奈多地区で推定7〜8m、大分市内でも4〜5.5mに達したとされる(出典:別府湾沿岸の津波調査)。
地震動による被害は陸上でも深刻で、大分一帯の死者は800余人とされる。島が沈み、集落が流され、歴史的に別府湾が地震と津波の舞台であることを証明する出来事だった。
1707年宝永地震——南海トラフからの揺れ
1707年10月28日、南海トラフを震源とするM8.6の宝永地震が発生した。この地震は東海・南海・日向灘を同時に破壊した超巨大地震であり、別府市にも影響が記録されている。この地震の49日後には富士山の宝永大噴火が発生した。
1854年安政南海地震——2日連続の巨大地震
1854年12月24日と26日、2日連続で大地震が発生した。24日の安政東海地震(M8.4)と26日の安政南海地震(M8.4)だ。いずれも南海トラフを震源とし、別府市でも記録が残る。この2地震は、南海トラフ沿いでの連動型地震の典型事例として防災研究でも重要な位置を占める。
2007年平成19年大分県中部の地震——震度5強
2007年6月6日、大分県中部を震源とするM4.9の地震(最大震度5強)が別府市を直撃した。建物の一部損壊が確認されている。
2016年熊本地震——別府でも震度6弱
NIEDの本データセットには未収録だが、2016年4月16日の熊本地震(M7.3)は別府市に甚大な被害をもたらした。大分県全体では、死者3人、負傷者44人、全壊9棟、半壊222棟、一部損壊8,075棟、総被害額約49億4,200万円に上った(出典:大分県発表)。別府市鶴見地区では震度6弱を記録。温泉地の観光施設や古い木造建物が多く集まる地区で被害が集中した。
令和2年(2020年)7月豪雨——1名負傷、浸水被害
2020年7月6日、令和2年7月豪雨により別府市でも負傷者1名、床上浸水1件、建物一部損壊2件の被害が発生した。九州各地に甚大な被害をもたらしたこの豪雨では、大分川流域の浸水リスクが改めて浮き彫りになった。
令和2年(2020年)台風第10号
同年9月6日の台風10号では建物の一部損壊が2件確認されている。
過去の災害年表(全件)
| 年 | 月日 | 災害名 | 種別 | 主な被害 |
|---|---|---|---|---|
| 867 | — | (不明) | 地震 | — |
| 1596 | 9/4 | 豊後大地震 | 地震 | 島沈没、溺死708人 |
| 1698 | 10/24 | — | 地震 | — |
| 1707 | 10/28 | 宝永地震 | 地震 | — |
| 1769 | 8/29 | — | 地震 | — |
| 1854 | 12/24 | 安政南海地震 | 地震 | — |
| 1854 | 12/26 | — | 地震 | — |
| 1946 | 12/21 | 南海地震 | 地震 | — |
| 1949 | — | — | 地震 | — |
| 1974 | — | — | 地震 | — |
| 2007 | 6/6 | 平成19年大分県中部の地震 | 地震 | 一部損壊 |
| 2020 | 7/6 | 令和2年7月豪雨 | 洪水 | 負傷1、床上浸水1、一部損壊2 |
| 2020 | 9/6 | 令和2年台風第10号 | 台風 | 一部損壊2 |
13件中10件が地震関連という事実は、別府市における地震リスクの深刻さを端的に示している。
洪水・浸水リスク——大分川氾濫で最大20mの浸水想定
別府市には複数の河川が走るが、洪水リスクの中心は大分川だ。防災DBの解析では、大分川の氾濫による浸水想定メッシュは2,171区画(125m×125m単位)と最も多く、最大浸水深20mというデータが示されている。これは最悪ケースの想定値だが、木造4〜5階建て全体が水に沈む規模だ。
| 河川名 | 浸水想定メッシュ数 | 最大浸水深 | 継続時間(最長) |
|---|---|---|---|
| 大分川 | 2,171 | 20m | 72時間 |
| 七瀬川 | 102 | 5m | 72時間 |
| 住吉川 | 132 | 3m | 72時間 |
| 大野川 | 116 | 3m | 72時間 |
| 朝見川 | 47 | 3m | 24時間 |
浸水深の目安として、1mで歩行が困難、2mで1階が完全水没、5mで2階床上浸水、20mは5〜6階建てビルに相当する。浸水が72時間続く想定もあり、大分川沿岸に住む市民は特に早期避難が求められる。
大分川は上流域の降雨による急激な水位上昇が特徴だ。市街地を流れる区間では、堤防が決壊すると下流の低地部(北浜・浜脇・別府地区など)が一気に浸水する。令和2年7月豪雨はその予兆ともいえる。
津波・高潮リスク——別府湾沿いに最大10mの浸水想定
別府市の東側は全域が別府湾に面する。防災DBの解析では、津波浸水想定メッシュは145,487区画に及び、最大浸水深は10m以上と想定される。高潮についても最大5m、8,099メッシュの浸水想定がある。
1596年の事例が示すとおり、別府湾は津波を増幅しやすい地形だ。湾の形状が波のエネルギーを集中させる「湾口絞り」効果が生じうる。日向灘地震や南海トラフ地震が発生した場合、別府市の海岸線は特に注意が必要な地域となる。
津波は地震発生から数分〜十数分で到達する可能性がある。海辺や低地に滞在中に強い揺れを感じたら、揺れが収まるのを待たずにすぐに高台へ向かうことが最重要の行動だ。
地震リスク——別府-万年山断層帯と中央構造線が近傍に
別府-万年山断層帯
別府市の直下および周辺には、別府-万年山断層帯が東西方向に走る。この断層帯は中央構造線断層帯(豊予海峡-由布院区間)の一部を構成し、最近傍部は市街地から約4.5kmと極めて近い。想定最大マグニチュードは7.6〜7.9に達する。
30年以内の地震発生確率
防災DBの125mメッシュ解析(地震ハザードステーション2024年公表データ)によると、別府市における震度6弱以上の30年確率は以下のとおりだ。
- 市内平均: 10.85%
- 市内最大値: 57.66%
日本の活断層の平均的な発生確率(概ね数%)を大幅に上回る地点が存在する。2007年と2016年の地震被害を踏まえると、震度6弱〜6強クラスの地震が繰り返し発生しうる地域だと認識すべきだ。
地盤の特性
市内の平均S波速度(AVs30)は411m/sで、比較的安定した地盤である一方、扇状地末端部や埋立地・海岸沿いの低地では地盤が軟弱になる。液状化スコアが20点と低い区画も存在するため、住宅所在地の地盤を個別に確認することを推奨する。
土砂災害リスク——火山性山地に隣接する市街地
別府市の西側は鶴見岳・伽藍岳の急峻な火山性山地が迫る。防災DBの解析では、市域内の土砂災害ハザードメッシュは21,362区画に上る。火山岩の風化した地盤は水を含むと崩れやすく、大雨時の土砂災害リスクが高い。
市街地の縁辺部——特に山際の住宅地や谷部——は土砂災害警戒区域に指定されている地点が多い。自宅周辺が土砂災害警戒区域に含まれるか、別府市のハザードマップで事前確認することが不可欠だ。
別府市内の主な避難施設
防災DBに収録されているデータによると、別府市内には112ヶ所の避難場所・収容避難所が整備されている。
主要な収容避難所(一部)
| 施設名 | 住所 | 種別 |
|---|---|---|
| べっぷアリーナ(別府市総合体育館) | 別府市青山町8-37 | 収容避難所 |
| 別府中央小学校体育館 | 別府市京町818-26 | 収容避難所 |
| 中部中学校体育館 | 別府市大字鶴見4530-1 | 収容避難所 |
| 亀川小学校体育館 | 別府市大字内竈1179 | 収容避難所 |
| 別府市コミュニティーセンター | 別府市上野口町29-13 | 収容避難所 |
| 上人小学校体育館 | 別府市大字北石垣171 | 収容避難所 |
注意点: データ上、広域避難場所(0件)の登録が確認されていない。津波・大規模洪水時の避難行動については、最新の別府市ハザードマップで広域避難場所の位置を直接確認すること。低地・海岸近くの避難所は津波浸水想定区域に含まれる可能性があるため、垂直避難(高層階への移動) または高台の避難施設への移動を優先すること。
今からできる備え
ハザードマップを確認する
優先的な確認事項
- 自宅の浸水想定を確認する:大分川・七瀬川の浸水ハザードマップで自宅の位置を確認。浸水想定区域内なら垂直避難先または早期立退き避難先を決めておく。
- 津波避難ルートを決める:海岸から直線距離が近い地区(北浜・別府・浜脇など)は、最短で高台に逃げられるルートを徒歩で実際に確認する。
- 土砂災害警戒区域を確認する:山際や谷沿いの住宅は土砂災害警戒区域マップで確認。大雨警報が出たら早期避難を検討する。
- 非常持出品の準備:飲料水(3日分)、食料、救急セット、充電器、避難場所の場所を記した地図。
- 家具の固定:震度6弱で家具が転倒する。L字金具での固定や、就寝場所周辺の安全確保を行う。
データ出典
本記事に使用したデータの出典は以下のとおりです。
| データ | 出典 |
|---|---|
| 統合リスクスコア・メッシュ解析 | 防災DB(bousaidb.jp) — 国土数値情報・J-SHIS・各省庁オープンデータを独自集計 |
| 洪水浸水想定区域 | 国土交通省 洪水浸水想定区域(計画規模・想定最大規模) |
| 津波浸水想定 | 大分県・国土交通省 津波浸水想定 |
| 土砂災害ハザード | 国土交通省 土砂災害警戒区域・特別警戒区域 |
| 地震ハザード | 地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版 |
| 過去の災害事例 | 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース |
| 1596年慶長豊後地震の被害 | 歴史地震研究・別府湾沿岸の津波調査論文(土木学会等) |
| 2016年熊本地震の被害 | 大分県発表・別府市熊本地震記録 |
| 活断層情報 | 地震調査研究推進本部 別府-万年山断層帯評価 |
| 避難場所データ | 国土数値情報 避難施設(国土交通省) |
| 自治体防災情報 | 別府市防災情報 |
著者:防災DB編集部 / 最終更新:2026年4月
本記事のデータは各省庁が公表するオープンデータと防災DBの独自解析に基づいています。最新情報は別府市公式サイトおよび防災DBでご確認ください。
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