平取町の災害リスクと歴史|沙流川・鵡川水害と地震に備える

北海道沙流郡平取町(びらとりちょう)は、日高山脈の西麓に広がる人口約4,700人の町だ。日本最長クラスの清流・沙流川が町の中央を流れ、アイヌ文化の聖地「二風谷」を有することで知られる。しかしこの美しい川は、繰り返し町に壊滅的な洪水をもたらしてきた。

防災DBの統合リスク評価では、平取町はスコア79「極めて高い」に分類される。洪水・津波・地震のすべてで満点(スコア100)を記録しており、北海道内でも突出して複合リスクが高い自治体だ。1961年から2012年までの記録だけで61件の災害事例があり、死者を出した洪水は6件を超える。

この記事では、防災DBの125mメッシュ解析データと過去の災害記録をもとに、平取町の災害リスクの全体像を整理する。


なぜ平取町はこれほど水害に弱いのか

平取町を理解する上でまず知るべきは、その地形的な構造だ。

町の東側には標高2,000m級の日高山脈がそびえる。西側の海まではわずかな距離しかなく、急峻な山から流れ出した水は一気に低地へ向かう。沙流川は全長104km、流域面積1,350km²を誇る日高一の大河川だが、流域の大半が山地であるため、降雨がそのまま短時間で河川に集中する特性を持つ。

沙流川の平均勾配は急で、上流で発生した洪水は数時間のうちに平取市街・富川地区へ到達する。河川沿いの低地に市街地や農地が広がるため、氾濫時の被害は広範囲に及ぶ。

防災DBの洪水浸水データでは、平取町内の沙流川流域だけで1,715メッシュ(約2,700ヘクタール)が浸水想定区域に含まれ、最大浸水深は10mに達する。10mという数値は2階建て住宅がほぼ完全に水没する高さだ。同じく隣接する鵡川流域では2,621メッシュが浸水想定区域となり、こちらも最大浸水深10m。平取町は複数の大河川が重なる形で洪水リスクにさらされている。


統合リスクスコアの内訳

リスク種別 スコア 詳細
洪水 100 最大浸水深20m想定(複数河川合算)、浸水区域数77万超
津波・高潮 100 最大浸水深10m想定
地震 100 震度6弱以上30年確率 最大53.49%
土砂災害 50 土砂災害警戒区域 5ヶ所
高潮 0
液状化 40
統合スコア 79(極めて高い)

(出典:防災DB risk_by_municipality、2024年時点のデータ)


過去の主要災害

1898年9月 — 29名が犠牲になった台風

NIEDの平取町地域防災計画に記録された最も古い大規模被害が、1898年9月17日の暴風災害だ。種別は風害・水害系で、死者29名。明治期の平取は現在より人口が少なかったことを考えると、これがいかに壊滅的だったかがわかる。

1961年4月 — 雪崩で12名死亡

1961年4月5日には雪害(雪崩を含む冬季災害)が発生し、死者12名、家屋全壊3棟が記録されている。春先の融雪期に日高山脈の斜面から大規模な雪崩が発生したと推定される。平取町が抱える雪害リスクを示す記録だ。

1961年7月 — 戦後最大規模の洪水

1961年7月24日の洪水は、戦後の平取町を直撃した最大規模の水害の一つとされる。床上浸水63棟・床下浸水224棟、全壊1棟・半壊5棟、河川被害25箇所。集落全体が浸水し、長期にわたって地域の復旧に迫られた。

1962年8月 — 死者2名、床上浸水60棟

翌1962年8月3日にも大規模洪水が発生した。死者2名・負傷者2名、床上浸水60棟・床下浸水21棟、全壊1棟・半壊1棟。前年の洪水からわずか1年後の被災であり、沙流川流域の繰り返す水害の深刻さを示している。

1968年5月16日 — 十勝沖地震(M7.9)

1968年5月16日、M7.9の十勝沖地震が発生した。震源は襟裳岬南南東沖約120km。日高地方は震度5を記録し、北海道全体で死者2名・負傷者133名・住家全半壊515棟の被害が出た。鵡川下流部では河川堤防に大きな被害が生じ、平取町でも地盤の揺れによる被害が記録されている(NIEDデータより)。

1992年8月 — 台風10号で河川77箇所被害

1992年8月9日、台風第10号による豪雨が平取町を直撃。河川被害が77箇所に及ぶ大規模な水害となった。床上・床下浸水の被害こそ少なかったものの、河川護岸の広域的な損壊が翌年以降の水害リスクを高めた。

1993年1月15日 — 釧路沖地震(M7.5)

1993年1月15日、M7.5の釧路沖地震が発生(深さ101km)。北海道全体で死者2名・負傷者966名・住宅全壊53棟。日高地方にも被害が及んでおり、平取町でもNIEDデータに記録が残る。

2003年8月9日 — 二風谷ダム問題が浮上した大水害

2003年の台風10号水害は、近年の平取町における最大の水害だ。床上浸水45棟・床下浸水25棟、全壊家屋3棟、河川被害77箇所。

この水害では、停電により二風谷ダムの操作が困難になるという深刻な問題が露呈した。大量の流木がダムに流入し、ダム決壊を防ぐための緊急放流が行われた際、本流・支流間の水門が閉鎖されないまま操作員が避難したことで支流への逆流が発生。日高町富川地区では約55ヘクタールが冠水した。

その後、被災住民9名が国に対して損害賠償訴訟を提起。2012年に国が上告を断念し、約3,190万円の支払いを命じた札幌高裁判決が確定している(出典:水源連)。

2006年8月18日 — 河川被害80箇所(記録最多)

2006年8月18日の水害では、床上浸水2棟・床下浸水25棟に加え、河川被害が80箇所と記録上最多となった。町内全域にわたって護岸が損壊した大規模な水害だ。


過去の災害年表(1876年〜2012年)

月日 種別 主な被害
1876 洪水
1898 9/17 暴風害 死者29名
1922 8/20 洪水
1931 冷害
1934 冷害
1935 冷害
1954 洞爺丸台風
1955 7/4 洪水 死者1名
1956 冷害
1961 4/5 雪害 死者12名、全壊3棟
1961 7/24 洪水 床上63・床下224棟、全壊1・半壊5棟、河川25箇所
1962 8/3 洪水 死者2名・負傷2名、床上60・床下21棟、全壊1・半壊1棟
1964 冷害
1966 8/17 洪水 床上4・床下53棟
1968 5/16 十勝沖地震(M7.9) 日高地方震度5
1973 8/17 洪水 床下4棟
1975 5/17 洪水
1975 8/22 台風5・6号 床下5棟、全壊1・半壊1棟、河川29箇所
1979 4/8 雪害 河川7箇所
1981 7/5 洪水 河川5箇所
1981 8/4 洪水 床上3・床下31棟、河川31箇所
1981 8/22 台風15号 一部損壊9棟、河川4箇所
1984 7/16 洪水 河川1箇所
1985 7/11 洪水 河川4箇所
1985 9/1 台風12・13・14号
1987 3/24 洪水 河川8箇所
1987 8/31 台風12号 一部損壊1棟
1989 8/28 台風17号 河川1箇所
1989 9/4 洪水
1990 4/8 洪水
1990 4/22 洪水 河川21箇所
1990 8/15 洪水 河川6箇所
1990 11/10 洪水
1991 8/21 洪水
1991 9/28 台風17・18・19号
1992 8/9 台風10号 河川77箇所
1992 9/25 洪水 河川31箇所
1993 1/15 釧路沖地震(M7.5)
1993 8/12 梅雨前線・台風7・11号 河川1箇所
1994 5/27 洪水 河川4箇所
1997 8/9 洪水 河川23箇所
1998 8/28 洪水 河川26箇所
1999 5/5 洪水 河川29箇所
2000 5/12 洪水 河川8箇所
2001 8/22 台風11号 河川6箇所
2001 9/11 台風15号 河川55箇所
2003 8/9 台風10号 床上45・床下25棟、全壊3棟、河川77箇所
2004 9/8 台風18号
2005 8/21 洪水
2005 9/7 台風14号・前線 河川18箇所
2006 2/26 雪害
2006 8/18 洪水 床上2・床下25棟、河川80箇所
2007 1/7 洪水
2008 7/23 洪水 河川17箇所
2010 8/11 洪水 河川34箇所
2010 8/23 洪水 河川5箇所
2010 12/4 雪害 全壊1棟
2012 4/23 洪水
2012 11/27 洪水

(出典:NIED自然災害データベース「平取町地域防災計画」)


洪水・浸水リスクの詳細

主要河川別の洪水リスク

防災DBの125mメッシュ解析による洪水リスクは以下のとおりだ。

河川名 浸水メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大継続時間
鵡川 2,621 10.0m 3.52m 72時間
沙流川 1,715 10.0m 4.46m 72時間
新冠川 461 10.0m 5.92m 336時間
額平川 1,249 5.0m 3.29m 12時間
日高門別川 981 5.0m 1.69m
厚別川 974 10.0m 2.69m 72時間
穂別川 549 5.0m 2.67m 12時間

(出典:防災DB mesh_125m_flood_cluster、国土交通省洪水浸水想定区域データより)

浸水深の具体的なイメージはこうだ——

  • 0.5m: 膝まで。歩行困難
  • 1m: 腰まで。要注意
  • 2m: 1階の腰窓まで浸水
  • 3m: 1階天井まで浸水
  • 5m: 2階床上まで浸水
  • 10m: 2階建て住宅がほぼ完全に水没

新冠川では平均浸水深5.92m、最大継続時間336時間(14日間)という極めて長期にわたる浸水が想定されている。これは一度浸水すると2週間近く水が引かないことを意味する。

二風谷ダム・平取ダムによる治水

2003年水害の教訓を受け、沙流川の治水対策が強化されている。

  • 二風谷ダム(1998年管理開始): 堤高32m、総貯水容量3,150万m³。河口から約21km地点に位置
  • 平取ダム(2022年竣工): 堤高55m、総貯水容量4,580万m³。沙流川支流・額平川に建設

2ダムにより、平取地点の基本高水ピーク流量6,600m³/sを計画高水流量5,000m³/sまで調節できる体制が整った(出典:室蘭開発建設部)。ただし想定を超える豪雨や流木流入による想定外の事態は常にリスクとして残る。


地震リスク

震度6弱以上の発生確率

防災DBの125mメッシュデータ(2024年版)によれば、平取町の今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は、エリアによって大きく異なる。

  • 平均確率: 6.69%
  • 最大確率: 53.49%

エリアの一部では30年以内に震度6弱以上を経験する確率が5割を超えるという驚くべき数値だ。

平均Avs30(地表付近のS波速度)は556.2 m/sと比較的硬い地盤を示しているが、河川沿いの沖積低地では局所的に軟弱地盤が存在し、揺れの増幅が起こりうる。

過去の主要地震

1968年十勝沖地震(M7.9)

1968年5月16日に発生したM7.9の大地震。日高地方は震度5の揺れを記録した。北海道全体で死者2名・負傷者133名・住家全半壊515棟(内閣府記録)。鵡川下流部では河川堤防に大きな被害が生じた。

1993年釧路沖地震(M7.5)

1993年1月15日、釧路市沖でM7.5の地震が発生(深さ101km)。北海道全体で死者2名・負傷者966名・住宅全壊53棟・半壊254棟。日高地方を含む広範囲で被害が記録されている。

2003年十勝沖地震(M8.0)※NIEDデータ未収録

2003年9月26日、M8.0の十勝沖地震が発生。日高地方で最大震度6弱を記録。このNIEDデータセット(平取町地域防災計画からの抽出分)には収録されていないが、近隣地域で大きな被害をもたらした地震であり、平取町でも揺れを体感した記録がある。


土砂災害リスク

防災DBの125mメッシュ解析では、平取町内の土砂災害リスクメッシュ数は357メッシュ。また平取町地域防災計画が指定する土砂災害警戒区域は5ヶ所が登録されている。

日高山脈の急峻な斜面に面した地域では、豪雨時に崩落や土石流のリスクが高まる。1961年4月の雪崩災害(死者12名)はその典型だ。今後も急峻な地形を抱える山間部では、大雨や融雪時の警戒が求められる。


平取町の避難施設一覧

防災DBが収録する平取町内の避難場所は43箇所(2024年時点)。主要な施設は以下のとおりだ。

施設名 住所 種別
中央公民館 本町88-1 指定避難場所
平取中学校 本町116-3 指定避難場所
平取小学校 本町105-6 一時避難所
町民体育館 本町88-1 指定避難場所
みどりが丘住民センター 本町114-5 指定避難場所
平取生活館 本町19 指定避難場所
本町生活館 本町44-4 指定避難場所
二風谷小学校 字二風谷28-1 指定避難場所
ぺナコリ生活館 字荷負33-1 一時避難所・指定避難場所
振内中学校 振内町101-1 指定避難場所
振内小学校 振内町30-2 指定避難場所
振内町民センター 振内町28-11 一時避難所
振内青少年会館 振内町28-11 指定避難場所
岩知志ふれあい館 字岩知志55-9 一時避難所・指定避難場所
上岩知志住民センター 字岩知志95-1 一時避難所・指定避難場所
小平生活館 字小平3-6 一時避難所・指定避難場所
本村生活館 字貫気別20-2 一時避難所・指定避難場所
旭生活館 字旭67-3 一時避難所・指定避難場所
幌毛志生活改善センター 字幌毛志49-1 一時避難所・指定避難場所
沙流川アート館 字川向33-8 指定避難場所
紫雲古津生活館 字紫雲古津34-1 指定避難場所
紫雲古津小学校 字紫雲古津38-5 一時避難所
ふれあいセンターびらとり 本町35-1 一時避難所
去場生活館 字去場66-4 指定避難場所
芽生ふれあいセンター 字芽生39-1 一時避難所
川向生活館 字川向61-3 一時避難所

(出典:国土数値情報「避難施設(指定緊急避難場所等)」)

注意: 広域避難場所の指定は現在0ヶ所。大規模災害時は近隣市町村への広域避難も想定しておく必要がある。


今からできる備え

平取町の公式防災情報を確認する

平取町防災ガイドマップ(2022年11月改訂版)が最新のハザードマップだ。2022年版では土砂災害警戒区域等の指定箇所が追記されている。

具体的な備えのチェックリスト

  1. 自宅の浸水リスクを確認する — 防災ガイドマップで自宅が浸水想定区域に含まれるか確認。含まれる場合は早期避難を計画する
  2. 最寄りの避難場所を確認する — 上記一覧から2〜3箇所の避難場所ルートを事前に歩いて確認する
  3. 早期避難を意識する — 沙流川は急勾配のため水位上昇が速い。気象情報で「大雨特別警報」が予告されたら、夜間でも早期避難を選択する
  4. 水・食料を備蓄する — 新冠川の浸水継続時間336時間(14日間)のデータが示すように、長期孤立のリスクがある。最低2週間分の備蓄を推奨
  5. 緊急連絡先を確認する — 平取町防災担当: 01457-2-2222

データ出典

データ 出典
統合リスクスコア 防災DB(bousaidb.jp) risk_by_municipality
洪水浸水想定 防災DB mesh_125m_flood_cluster(国土交通省洪水浸水想定区域データをもとに解析)
地震確率 防災DB mesh_125m_grid_cluster(地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版)
土砂災害 防災DB mesh_125m_sediment_cluster(国土交通省砂防部門データ)
避難施設 防災DB nlftp_p20_evacuation_site(国土数値情報「避難施設」)
過去の災害事例 NIED自然災害データベース(平取町地域防災計画より収録)
二風谷ダム・平取ダム 国土交通省 室蘭開発建設部 沙流川総合開発事業ページ
2003年水害・訴訟 水源連(2012年10月18日記事)、沙流川ダム水害訴訟関連報道
十勝沖地震(1968年) 内閣府「北海道西南沖地震における被害状況」データベース
釧路沖地震(1993年) 内閣府「北海道西南沖地震における被害状況」データベース
平取町防災ガイドマップ 平取町公式ウェブサイト(2022年11月改訂版)

著者: 防災DB編集部
公開日: 2026年4月5日
データ基準: 防災DBデータは2024年時点。過去の災害記録は「平取町地域防災計画」掲載データより。