豊後高田市の災害リスクと防災|洪水・津波・地震の危険度と過去の災害年表
大分県の北東部、国東半島の西側付け根に位置する豊後高田市は、防災DB統合リスクスコア87/100(リスクレベル:極めて高い)を記録する。洪水・津波・高潮・地震の4項目でいずれも満点100を記録しており、九州の中でも複合的な災害リスクが突出して高い自治体のひとつだ。
1993年以降だけで108件を超える風水害の記録があり、台風が上陸するたびに桂川や寄藻川が氾濫危機に達してきた。さらに沖合にはM7.6を想定する周防灘断層帯が走り、1596年の慶長豊後地震では死者700名以上を出した歴史的な震災の記憶も残る。防災DB(bousaidb.jp)の125mメッシュ解析によれば、市内の一部エリアでは30年以内に震度6弱以上が発生する確率が44%を超える。
豊後高田市に住む人が知っておくべき災害リスクを、データに基づいて整理した。
なぜ豊後高田市はこれほど災害リスクが高いのか
豊後高田市の面積は約207km²。北側は周防灘(瀬戸内海西端)に直接面し、南側は両子山(721m)を頂点とする国東半島の火山性山地に囲まれる。この地形が、複数の災害リスクを同時に生み出している。
地形的な弱点は「短距離・急勾配の河川」と「海に開いた低平地」の組み合わせだ。 国東半島の山地は放射谷地形を持ち、山地に降った雨水が短距離で周防灘に向けて流れ下る。桂川(延長約29km)は両子山付近を源流とし、市中心部を縦断して周防灘に注ぐ。急峻な流域により、台風や集中豪雨時の増水速度が速く、市街地への浸水リスクが慢性的に高い。
一方、北部の海岸線は周防灘に向けて開口している。津波は沖合の周防灘断層帯や別府湾断層群から直進してくる経路にあたり、海底地形が浅いため波高が増幅しやすい条件が揃っている。
防災DBが保有する125mメッシュデータを市域で集計した結果(2024年時点):
| リスク種別 | スコア | 補足 |
|---|---|---|
| 洪水 | 100/100 | 最大浸水深20m想定(桂川)、168,386メッシュに浸水想定あり |
| 津波 | 100/100 | 最大浸水深10m想定、145,487メッシュに浸水想定あり |
| 高潮 | 100/100 | 周防灘沿岸低地全域に影響 |
| 地震 | 100/100 | 震度6弱以上30年確率: 最大44.6% |
| 土砂災害 | 50/100 | 土砂災害危険メッシュ2,868箇所 |
| 液状化 | 20/100 | 沿岸部の一部に想定あり |
過去の主要災害
1596年 慶長豊後地震(M7.0〜7.5推定)
豊後高田市の周辺を最も大きく揺るがした歴史地震が、1596年9月4日(慶長元年)の慶長豊後地震だ。別府–万年山断層帯の活動によるものとされ、推定マグニチュードは7.0〜7.5。大分県東部沿岸を大津波が直撃し、死者は708名以上(諸説あり)に上った。宣教師ルイス・フロイスの記録には「津波が内陸2.8km以上浸入した」とある。「瓜生島が海中に沈んだ」という伝承が残るほど、地盤変動も甚大だった。別府湾奥では7〜8mの津波高が記録されており、現代の想定でも豊後高田市の北部沿岸は高い津波リスクにさらされている(出典: 地震本部、Wikipedia「慶長豊後地震」)。
2005年 平成17年台風第14号(9月5〜6日)
気象庁のデータによれば、豊後高田市で床下浸水19件、河川被害12件が発生した台風。市内の複数河川が増水し、農地や道路にも被害が及んだ(出典: 豊後高田市地域防災計画 風水害等対策編)。
2020年 令和2年7月豪雨(7月6日)
九州南部・熊本を中心に甚大な被害をもたらした令和2年7月豪雨では、豊後高田市内でも床下浸水6棟、河川被害7件を記録。桂川・寄藻川の水位が急上昇し、市が警戒態勢を取った(出典: 内閣府 令和2年7月豪雨被害状況)。
2020年 令和2年台風第10号(9月6〜7日)
「大型で非常に強い」台風10号の接近に際し、豊後高田市は市内全域に「警戒レベル4 避難指示」を発令(8月29日8:30)。大分県と気象台は豊後高田市・国東市に土砂災害警戒情報を発表し、市内では約110戸の停電が発生した(出典: 豊後高田市公式サイト)。
過去の主な風水害年表(NIEDデータ)
| 発生年 | 主な災害名 | 被害の記録 |
|---|---|---|
| 2020年 | 令和2年台風第10号 | 市全域避難指示、停電110戸 |
| 2020年 | 令和2年7月豪雨 | 床下浸水6棟、河川被害7件 |
| 2005年 | 平成17年台風第14号・前線 | 床下浸水19件、河川被害12件 |
| 2004年 | 平成16年台風第18号 | 一部損壊9件 |
| 2003年 | 平成15年台風第14号 | 河川被害5件 |
| 1999年 | 平成11年台風第18号 | 床下浸水12件、河川被害6件 |
| 1993年 | 平成5年台風第13号 | 床下浸水8件、河川被害5件 |
※いずれも豊後高田市地域防災計画(風水害等対策編)および内閣府・気象庁資料をもとにNIED(国立研究開発法人防災科学技術研究所)が収録したデータ。1993年以前の記録は同データセットには未収録。
洪水・浸水リスク
防災DBの125mメッシュ解析によれば、豊後高田市内の洪水浸水想定は168,386メッシュ(約262km²相当)に及ぶ。市域面積207km²を大幅に上回る数字は、複数の河川氾濫が重複して想定されていることを示している。
市内で最もリスクが高い河川は桂川だ。 最大浸水深10m(洪水ハザードマップ上の最大区分)、氾濫想定メッシュ759を抱え、市中心部の玉津・高田地区を直撃する経路にある。続いて寄藻川(560メッシュ、最大5m)、真玉川(337メッシュ、最大5m)と続く。
| 河川名 | 浸水想定メッシュ数 | 最大浸水深 | 平均浸水深 | 最大浸水継続時間 |
|---|---|---|---|---|
| 桂川 | 759 | 10.0m | 2.69m | 72時間 |
| 寄藻川 | 560 | 5.0m | 1.36m | 24時間 |
| 真玉川 | 337 | 5.0m | 1.32m | 72時間 |
| 広瀬川 | 276 | 3.0m | 0.75m | 12時間 |
| 赤坂川 | 271 | 3.0m | 0.58m | 72時間 |
| 伊美川 | 256 | 5.0m | 2.50m | 72時間 |
| 都甲川 | 210 | 5.0m | 2.78m | 12時間 |
| 竹田川 | 203 | 5.0m | 1.38m | 24時間 |
| 朝来野川 | 99 | 5.0m | 3.16m | — |
浸水深の具体的なイメージを把握しておきたい。0.5mで膝下・歩行困難、1.0mで腰上・一般車両停止、3.0mで1階完全水没(2階床面)、5.0mで2階天井付近・家屋流失の可能性、10.0m超では3〜4階建て相当が水没し命に直結する高さだ。
桂川沿いの最大浸水継続時間72時間という数字は見逃せない。3日間の浸水が続くということは、避難のタイミングが遅れれば水が引くまで身動きが取れなくなる可能性を意味する。台風接近前の早期避難が命を守る最重要行動だ。
津波・高潮リスク
豊後高田市の北部海岸は周防灘に面しており、防災DBの津波浸水想定メッシュは145,487に達する。最大浸水深は10m想定で、津波スコアは100/100だ。
沖合に位置する周防灘断層帯の活動が最大のリスク源となる。 1596年の慶長豊後地震の例でも、地震発生から津波到達まで数分から十数分程度と考えられている。周防灘の海域は水深が浅く(最深部で70〜80m程度)、沖合からの津波が浅海域で波高を増幅させる特性がある。
高潮については、台風が周防灘を北上・通過するルートを取った際に顕著なリスクが生じる。令和2年台風10号(2020年)がまさにこのルートを通り、市全域に避難指示が出た事例は記憶に新しい。
地震リスク
周防灘断層帯(最重要)
豊後高田市沖合に走る周防灘断層帯は、山口県防府市南方沖から大分県国東半島北西沖(中津市・豊後高田市の沖合)まで延長約44kmに及ぶ活断層だ。
想定地震規模はM7.6、30年以内の発生確率は2〜4%(地震本部「高いグループ」)、断層タイプは右横ずれ主体で北西側が隆起する。
豊後高田市はこの断層の直近に位置するため、断層帯が活動した場合は強烈な揺れと大津波が同時に到来するシナリオが想定される。津波到達時間が短いため、揺れを感じたら即座に高台へ逃げることが唯一の正解だ(出典: 地震本部)。
別府–万年山断層帯
1596年の慶長豊後地震を引き起こしたとされる断層帯。大分県東部〜西部を横断する。現在も活断層として評価されており、長期的な活動リスクがある(出典: 地震本部)。
地震動データ(2024年時点)
防災DBの125mメッシュデータで市域内を集計した結果:
| 指標 | 市域平均値 | 市域最大値 |
|---|---|---|
| 震度5弱以上30年確率 | 68.4% | 96.7% |
| 震度6弱以上30年確率 | 6.5% | 44.6% |
| 地表地盤S波速度(AVS30) | 479.6 m/s | — |
震度6弱以上の確率が最大44.6%に達するエリアが市内に存在する点は深刻だ。発生確率44.6%とは「2〜3回に1回は30年以内に到来する」水準を意味する。地盤そのものは比較的安定しているが(AVS30=479m/sは国内平均より高め)、近接する断層の影響で揺れの強さが増幅される地点が存在する。
土砂災害リスク
市内の125mメッシュのうち2,868メッシュ(約44.8km²相当)が土砂災害危険域として把握されている。国東半島の急峻な山地に囲まれた豊後高田市では、台風・大雨時に土砂崩れが複数箇所で発生するリスクがある。
2020年台風10号の接近時には、大分県が豊後高田市と国東市に土砂災害警戒情報を発表している。市内の急傾斜地に隣接する集落では、大雨のたびに警戒レベルが引き上げられる状況が続いている。
市内の避難施設一覧
豊後高田市内の指定避難施設は33箇所(2024年時点)。いずれも「一次避難所・二次避難所」として指定されており、広域避難場所の指定はない。
| 施設名 | 所在地 |
|---|---|
| 大分県立高田高等学校 | 豊後高田市玉津1834-1 |
| 桂陽小学校 | 豊後高田市玉津1053 |
| 中央公民館 | 豊後高田市玉津987 |
| 真玉体育センター | 豊後高田市西真玉3331 |
| 真玉小学校 | 豊後高田市中真玉5809 |
| 真玉公民館(3階以上) | 豊後高田市中真玉2144-12 |
| 田染小学校 | 豊後高田市田染相原50 |
| 田染中学校 | 豊後高田市田染池部1742 |
| 河内小学校 | 豊後高田市佐野2107 |
| 河内中学校 | 豊後高田市佐野4993 |
| 都甲小学校体育館 | 豊後高田市新城83 |
| 都甲中学校 | 豊後高田市松行363 |
| 香々地中学校 | 豊後高田市香々地3400 |
| 大分県立香々地青少年の家 | 豊後高田市香々地5151 |
| 健康交流センター花いろ | 豊後高田市美和1335-1 |
| 三浦小学校 | 豊後高田市堅来4455 |
| 臼野小学校 | 豊後高田市臼野2874 |
| 草地小学校 | 豊後高田市草地292-2 |
※上記は主な施設の抜粋。全33施設・最新情報は豊後高田市公式サイトで確認のこと。
避難所への移動に備え、平時から自宅に最も近い避難所の場所と経路を確認しておくこと。特に洪水・津波時は道路が冠水する前に行動することが絶対条件だ。
今からできる備え
公式ハザードマップを確認する
豊後高田市は洪水・津波・土砂災害・ため池・高潮の5種類のハザードマップを公式サイトで公開している。まずは防災情報トップページから確認し、自宅周辺の状況を把握することを強く勧める。
- 総合防災ハザードマップ(WEB版) — スマートフォン対応、全ハザード一覧
- 洪水ハザードマップ
- 津波ハザードマップ
豊後高田市で特に重要な「事前行動」
豊後高田市の災害特性を踏まえると、以下の3点が特に重要だ。
1. 台風接近時の早期避難
桂川・寄藻川の最大浸水継続時間は72時間に達する。台風が接近し始めた段階でまだ雨が降っていなくても、上流域の降水量次第で急激に増水する。「まだ大丈夫」と思った時点で避難所へ動く判断が命を守る。
2. 沿岸部では地震後に即時逃げる
周防灘断層帯が活動した場合、津波到達まで時間がない。揺れが収まったら確認作業をせず高台へ。「大きな揺れを感じたら逃げる」のルールを家族で共有する。
3. 非常用持ち出し袋を玄関に
豊後高田市は洪水・地震・土砂崩れのいずれも突発的に起こりうる。持ち出し袋(水3日分、食料3日分、薬、充電器、現金少額)を玄関すぐの位置に置いておく。
データ出典
| データ | 出典 | 時点 |
|---|---|---|
| 統合リスクスコア・各リスクスコア | 防災DB(bousaidb.jp) | 2024年 |
| 洪水浸水想定(河川別・浸水深) | 国土交通省 洪水浸水想定区域データ(防災DBで集計・分析) | 2024年 |
| 津波浸水想定 | 国土交通省・内閣府 津波浸水想定データ(防災DBで集計・分析) | 2024年 |
| 地震動確率 | 地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版(防災DBで集計) | 2024年 |
| 活断層情報 | 地震調査研究推進本部(地震本部) | 2024年 |
| 過去の災害事例 | 国立研究開発法人 防災科学技術研究所(NIED)自然災害情報室 | 1993〜2020年 |
| 避難施設データ | 国土交通省 国土数値情報 避難施設データ(p20) | 2024年 |
| 市公式ハザードマップ | 豊後高田市公式サイト | 2024年 |
| 慶長豊後地震 | 地震本部、Wikipedia「慶長豊後地震」 | — |
著者: 防災DB編集部 | 最終更新: 2026年4月
本記事で使用したハザードデータはいずれも行政機関が公表したオープンデータを防災DB(bousaidb.jp)が収集・構造化したものです。最新の情報は各自治体公式サイトおよびハザードマップでご確認ください。
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