神奈川県海老名市の災害リスクと過去の災害年表|洪水・地震・水害の記録

神奈川県の内陸部に位置する海老名市は、防災DBによる統合リスクスコアが91点(100点満点)で「極めて高い」に分類される市です。相模川が市の西側を縦断し、その氾濫原の上に市街地が展開しているこの街は、1884年から現在まで60件以上の災害記録を持ちます。2019年の台風第19号では観測史上2番目となる日降水量256.5mmを記録し、市内5,000人が避難する事態となりました。

防災DB(bousaidb.jp)の125mメッシュ解析によると、洪水スコア・高潮スコア・地震スコアはいずれも100点満点。市内の一部エリアでは震度6弱以上の30年確率が91.4%に達します。「住みやすい街ランキング」上位常連のこの街が抱える、見えにくいリスクの全貌を整理します。


海老名市はなぜ災害リスクが高いのか

海老名市の地形を理解すれば、リスクの高さは必然です。市の西側を相模川が南流し、市域の大部分は相模川が長年にわたって形成した沖積低地(氾濫原)の上に立地しています。川に削られ堆積した平坦な土地は農耕には適していましたが、近現代の都市化によって住宅地・商業地として開発が進みました。

主要リスク要因は三つです。①相模川の洪水リスク防災DBの解析では相模川の浸水想定メッシュが市内で2,427メッシュにのぼります。最大浸水深5m、最長168時間(7日間)の浸水継続が想定されています。②地震リスク:南海トラフ地震・首都直下地震の影響域に位置し、平均AVS30が241.4m/s(軟弱地盤の目安400m/s以下)と地震動増幅が起きやすい地盤です。③多数の河川包囲:相模川のほかに目久尻川、境川、引地川など複数の河川が市内・市境を流れており、大雨時には複合的な浸水が生じます。

防災DB統合リスクスコア(2024年時点)

リスク区分 スコア(0-100) 評価
統合スコア 91 極めて高い
洪水 100 最高水準
高潮 100 最高水準
地震 100 最高水準
液状化 60 中程度
土砂災害 50 中程度

出典: 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ解析・2024年時点


過去の主要災害

関東大震災(1923年9月1日)

1923年9月1日午前11時58分、マグニチュード7.9の関東地震が相模湾北西沖を震源として発生しました。神奈川県は震源に最も近い地域の一つであり、海老名市(当時の高座郡各村)も激しい揺れに見舞われました。相模川の沖積低地に広がる砂質地盤は液状化や地盤変動が起きやすく、広範囲での被害が記録されています(出典: 海老名市地域防災計画 資料編)。

震災の2週間後の9月15日には台風が追い打ちをかけ、弱った構造物への被害がさらに拡大しました。NIEDデータベースには、この年の9月だけで地震と台風の二つの記録が並んでいます。

アイオン台風(1948年9月16日)

第二次世界大戦後まもない1948年、アイオン台風が東日本を縦断しました。神奈川県各地で洪水が発生し、海老名市域でも相模川の氾濫による被害が記録されています(出典: 海老名市地域防災計画 資料編)。当時の堤防設備は現在と比較して脆弱であり、流域各所で越水・破堤が発生しました。現代の市民には知られていませんが、明治・大正から昭和前期にかけても毎年のように大雨被害が繰り返されてきた歴史がこの街にはあります。

令和元年台風第15号・第19号(2019年)

近年の海老名市で最も語り継がれるのが、2019年秋の連続台風です。

台風第15号(2019年9月) では建物の一部損壊1件が記録されました。しかしこれはあくまで序章でした。台風第19号(2019年10月12日) は「令和元年東日本台風」として気象庁が命名した大型台風で、海老名市では観測史上2番目となる日降水量256.5mmを記録。市内28か所の避難所に最大約5,000人(4,942人)が避難しました(出典: タウンニュース 2019年10月18日)。

停電は市内6地区・約2,710戸に及び、相模川の河川敷には大量の流木が漂着。城山ダムの緊急放流が相模川の水位上昇を加速させ、流域全体に警戒が強いられました。人的被害こそゼロでしたが、5,000人規模の避難という数字は、この街の水害脆弱性を如実に示しています。


過去の災害年表(1884〜2019年)

以下は1884年から2019年にかけて記録された、海老名市・旧高座郡域の災害一覧です。

発生年 月/日 主な災害名・気象庁名称 種別
1884 9/15 風水害 風水害
1889 9/11 風水害 風水害
1897 9/8 風水害 風水害
1907 8/24 風水害 風水害
1908 6〜8月 風水害(複数記録) 風水害
1914 8〜9月 風水害(複数記録) 風水害
1917 9/30 風水害 風水害
1923 9/1 関東大震災(関東地震) 地震
1923 9/15 台風 風水害
1924 1/15 地震 地震
1924 9/16 風水害 風水害
1948 9/16 アイオン台風 風水害
1965 9/17 風水害 風水害
1972 7/14 梅雨前線豪雨・台風 風水害
1976 9/9 昭和51年台風第17号 風水害
1977 9/10 風水害 風水害
1978 7/11 風水害 風水害
1979 3/24 風水害 風水害
1979 10/19 昭和54年台風第20号 風水害
1981 4/20 風水害 風水害
1981 10/22 洪水 洪水
1982 4/15 風水害 風水害
1982 8/1 昭和57年台風第10号 風水害
1982 9/12 台風第18号・豪雨 風水害
1985 6/30 梅雨前線豪雨・台風第6号 風水害
1986 3/23 雪害 雪害
1988 8/12 風水害 風水害
1989 10/14 地震 地震
1990 9/30 豪雨・暴風雨(9/24〜10/1) 洪水
1991 9/19 前線・台風第17・18・19号 洪水
1993 8/27 梅雨前線・台風第7・11号 風水害
1994 2/12 雪害 雪害
1994 7/12 洪水 洪水
1994 7/18 風水害 風水害
1995 4/23 風水害 風水害
1995 9/17 前線・台風第12号 風水害
1996 7/21 洪水 洪水
1996 9/22 台風第17号 風水害
1997 6/20 風水害 風水害
1998 1/8 雪害 雪害
1998 8/28 風水害 風水害
1999 9/16 強風 強風等
2000 9/16 洪水 洪水
2001 9/10 風水害 風水害
2002 10/7 風水害 風水害
2003 5/31 風水害 風水害
2003 6/1 洪水・河川被害 洪水
2004 10/9 台風第22号・前線 洪水
2004 12/5 風水害 風水害
2005 9/6 風水害 風水害
2010 4/2 大雨・強風 風水害
2010 9/8 大雨・台風第9号 風水害
2010 12/3 大雨(床上浸水2件・床下浸水10件) 風水害
2019 9 令和元年台風第15号(一部損壊1件) 風水害
2019 10/12 令和元年東日本台風(台風第19号) 風水害

出典: 防災科学技術研究所 自然災害データベース、海老名市地域防災計画 資料編


洪水・浸水リスクの詳細

相模川が支配する浸水リスク

相模川は神奈川県最大の一級河川で、流域面積は1,675km²に及びます。上流の山梨県内に源を発し、丹沢山系からの水を集めながら海老名市の西側を流れます。この川が氾濫した場合、海老名市内の広大な低地は浸水を免れません。

防災DBの125mメッシュ解析によると、主要河川の浸水リスクは次のとおりです。

河川名 浸水リスクメッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大継続時間
相模川 2,427 5.0m 1.49m 168時間(7日間)
金目川 601 5.0m 0.96m 168時間
境川 584 5.0m 2.04m 24時間
目久尻川 448 5.0m 1.58m 72時間
引地川 379 5.0m 2.62m 24時間
中津川 372 5.0m 1.48m 24時間
小鮎川 363 5.0m以上 2.9m 72時間
玉川 326 5.0m 0.53m 72時間

出典: 防災DB 125mメッシュ洪水浸水解析(2024年時点)

浸水深の感覚的なイメージも押さえておきましょう。0.5mは膝下まで浸水して歩行困難な水位、1.5mは人の首まで達し車は完全水没、3.0mは2階床面まで、5.0mは2階天井(3階床面相当)まで浸水するレベルです。

神奈川県の公表する相模川氾濫時の浸水想定では、海老名駅周辺でも約1.5mの浸水が想定されています。市西部の門沢橋・大谷エリアでは3〜5mに達するとされており、この水位では1〜2階の居住空間はほぼ水没します(出典: タウンニュース 2017年4月21日、神奈川県公表)。

また、令和7年(2025年)10月31日に神奈川県が相模川の家屋倒壊等氾濫想定区域の誤りを修正公表しています。現行のハザードマップには更新前のデータが含まれる場合があり、令和8年度に更新予定です(出典: 海老名市防災ガイドブック)。

相模川の浸水継続時間が最長168時間(7日間)という点は見逃せません。これは1週間にわたって市内が水没し続けることを意味します。台風が過ぎ去った後も、上流の貯留水が流れ込むことで長期間の浸水が継続するリスクがあります。


地震リスクの詳細

震度6弱以上の30年確率が市内平均58.7%

防災DBの2024年版確率論的地震ハザード解析によると、海老名市内における震度6弱以上の30年発生確率は平均58.7%、市内最高で91.4%に達します。全国平均(約6%)と比較すると、約10倍の水準です。

指標 数値
震度6弱以上・30年確率(市内平均) 58.7%
震度6弱以上・30年確率(市内最大) 91.4%
震度5弱以上・30年確率(市内平均) 99.8%
表層地盤S波速度(平均AVS30) 241.4 m/s

出典: 防災DB 125mメッシュ地震ハザード解析(J-SHIS 2024年データ利用)

AVS30が241.4m/sという数値は「軟弱地盤」の水準(400m/s以下)に位置します。軟弱地盤では地震動が増幅されやすく、同じ震源の地震でも揺れが大きくなります。相模川の沖積低地に広がる砂質土は、地震時の液状化リスク(スコア60点)とも表裏一体です。

南海トラフ・相模トラフ地震

海老名市は相模トラフを震源とする地震(関東大震災型)の影響域に位置します。国の地震調査研究推進本部は、30年以内の南海トラフ巨大地震の発生確率を70〜80%と評価しており(2024年時点)、神奈川県全域で最大震度7の揺れが想定されています。1923年の関東大震災では海老名市域にも甚大な被害をもたらした事実が、この地域の地震リスクを端的に示しています。


土砂災害リスク

市内の土砂災害リスクメッシュは165メッシュ(防災DB解析)、土砂災害ハザード区域は6か所に指定されています。市の大部分は平地ですが、東部の丘陵地帯(国分寺台・東柏ケ谷周辺)では土砂崩れのリスクがあります。過去の記録では洪水・風水害が圧倒的に多く、土砂災害による深刻な被害記録は限定的です。ただし大雨と地震が複合した場合は、斜面崩壊のリスクが高まる点には注意が必要です。


避難場所・避難所一覧

海老名市内の避難所は42か所に指定されています(国土交通省 国土数値情報 P-20、2024年時点)。

施設名 住所
海老名中学校 国分南3-11-1
北部体育館 上今泉6-14-1
柏ケ谷中学校 柏ケ谷884
中央公民館・文化会館 上郷476-2
国分寺台文化センター 国分寺台2-10-23
有馬中学校 本郷4601
今泉中学校 上今泉1840
上星小学校 上今泉1-23-1
東柏ケ谷小学校 東柏ケ谷6-9-7
有鹿小学校 河原口816
中新田小学校 中新田1-15-1
杉久保小学校 杉久保1781
大谷中学校 大谷南2-10-1
勝瀬文化センター 勝瀬4-40
今泉小学校 上今泉2028

全42か所の最新情報は海老名市防災ページで確認できます。台風19号では市内28か所に約5,000人が避難しました。混雑・満員を避けるためにも、複数の避難所と経路を事前に確認しておくことが重要です。


今からできる備え

ハザードマップで自宅のリスクを確認する。 現行のハザードマップには修正が入っており、令和8年度更新予定です。最新情報は海老名市防災ガイドブック(ハザードマップ)で確認してください。相模川の浸水域に自宅が含まれる場合は、浸水が1週間続く可能性を前提に準備する必要があります。

相模川・城山ダムの水位情報を事前登録する。 国土交通省のリアルタイム水位情報や、神奈川県の防災情報は避難判断の重要な指標です。城山ダムの緊急放流情報が出た場合は、その時点で即時避難を開始してください。台風19号ではダムの緊急放流が相模川の水位急上昇を引き起こしました。

地震への備え(特に沖積低地エリア)。 家具の固定と非常食3日分以上の備蓄は最低限の備えです。相模川沿いの低地では液状化リスクもあるため、避難経路が地震後に使用できるかも確認しておきましょう。

早めの自主避難を心がける。 台風19号の経験が示すとおり、避難所は満員になることがあります。避難指示が出る前の自主避難が命を守ります。

防災DB(bousaidb.jp)では海老名市を含む全国市区町村のリスク情報を無料で確認できます。


データ出典

データ 出典 取得・参照時点
統合リスクスコア・各種スコア 防災DB(bousaidb.jp) 2024年時点
125mメッシュ洪水浸水解析 防災DB(国土交通省 洪水浸水想定区域データ利用) 2024年時点
地震確率・地盤データ 防災DB(J-SHIS 2024年版利用) 2024年時点
過去の災害事例(60件) 防災科学技術研究所 自然災害データベース、海老名市地域防災計画 資料編 2024年時点
避難所データ 防災DB(国土交通省 国土数値情報 P-20) 2024年時点
相模川浸水想定区域 神奈川県・国土交通省(令和7年10月修正含む) 2025年時点
台風19号被害(2019年) タウンニュース 2019年10月18日 2019年
海老名市公式防災情報 海老名市防災ホームページ 2025年時点
ハザードマップ 海老名市防災ガイドブック 2025年時点

記事作成: 防災DB編集部 / 2026年4月4日