えびの市の災害リスクと歴史的災害年表|川内川洪水・えびの地震・霧島火山の複合リスク

宮崎県えびの市は、霧島山の直北に広がる加久藤カルデラの盆地に形成された都市だ。周囲を外輪山に囲まれた地形は美しい高原景観をつくり出す一方、洪水・地震・火山・土砂災害が複合するきわめて高い災害リスクを抱えている。防災DBの統合リスクスコアは85点(極めて高い)で、洪水スコアは満点の100点。1968年には一連の地震で全壊498棟・罹災世帯5,175世帯という甚大な被害をもたらした「えびの地震」が発生し、以来も繰り返す台風豪雨が集落を危機にさらし続けてきた。この街に住む、あるいは訪れるすべての人が知るべき災害リスクの実像をまとめる。


なぜえびの市は「極めて高い」リスクに分類されるのか

えびの市(人口約19,000人、宮崎県南西部)が高リスクに分類される理由は、地形そのものにある。

市街地の大部分は加久藤カルデラの底部に位置する。約34万年前の破局的噴火(「加久藤火砕流」)によって形成されたこのカルデラは、東西約15km・南北5kmの楕円形の盆地をつくっている。盆地の底には川内川が流れ、外輪山からの水が集中する構造になっているため、大雨のたびに洪水リスクが高まる。

さらに南側に霧島山(韓国岳、えびの高原、硫黄山など)が迫っており、近年も噴火活動が確認されている活火山地帯の直近に市街地がある。盆地底を構成する火砕流堆積物・火山灰層は、地震動を増幅させやすい軟弱地盤にもなりやすい。

防災DBの125mメッシュ解析によると:

リスク種別 スコア(0-100) 主な要因
洪水 100(最高) 川内川、想定最大浸水深20m
地震 85 加久藤・霧島の火山性地震・断層帯
土砂災害 50 外輪山・霧島山麓の急斜面、54箇所の警戒区域
統合リスクスコア 85(極めて高い)

※データ出典:防災DB(bousaidb.jp)125mメッシュ解析、2024年更新


過去の主要災害:えびの地震から令和豪雨まで

1968年2月21日——えびの地震(M6.1)

えびの市の災害史で最も深刻な被害をもたらしたのは、1968年2月21日10時44分に発生した「えびの地震」だ。震源は韓国岳北西約15kmの霧島山系直下。マグニチュード6.1、最大震度6(えびの町・真幸地区)を記録した。

この地震の特徴は前震・余震を含む一連の群発地震だった。本震の約2時間前(8時51分)にM5.7の前震が発生し、翌22日にはM5.6の余震、さらに3月25日の余震でも165棟が全半壊する追加被害が生じた。震度5以上の地震が1か月余りの間に計5回発生するという、住民にとって極めて不安な状況が続いた。

えびの地震の被害概要(1968年2月21日〜3月25日)

項目 数値
死者 3名
負傷者 44名
住家全壊 498戸
住家半壊 1,278戸
住家一部損壊 4,866戸
罹災世帯数 5,175世帯
罹災者数 20,242人
林地崩壊 449箇所
耕地埋没 57.3ha

出典:えびの地震 Wikipedia、宮崎県「えびの地震の記録」

市の総世帯数に匹敵するほどの罹災規模だった。住家の一部損壊だけで4,866戸という数字は、市内のほぼ全戸に被害が及んだことを意味する。火山性地震が活断層を刺激したとも考えられ、加久藤カルデラ内の軟弱地盤が被害を増幅させた可能性が高い。


1972年7月6日——昭和47年7月豪雨(死者3名)

えびの地震から4年後、1972年7月に昭和47年7月豪雨が九州を襲った。えびの市では死者3名・行方不明1名という人的被害が出た。外輪山の急斜面から発生した土砂崩れが主因とみられる。NIEDの分類では土砂災害に分類されており、この地域の急峻な地形の危険性を示す事例となった。


1997年9月16日——台風19号(床上浸水122棟・全壊2棟)

1997年9月16日、台風19号がえびの市を直撃。川内川が増水し、床上浸水122棟・床下浸水214棟・全壊2棟・一部損壊4棟の被害が出た。盆地地形の川内川は、上流からの増水が一気に市街地に押し寄せる構造を持っており、台風シーズンのたびに市民が神経をとがらせる要因となっている。


2006年7月18日——平成18年7月豪雨(半壊94棟)

2006年7月18日の平成18年7月豪雨では、床上浸水92棟・床下浸水181棟・半壊94棟・一部損壊11棟。1997年台風を上回る住家半壊被害が発生し、台風だけでなく梅雨前線豪雨でも甚大な洪水被害が起こることを改めて示した。川内川水系の洪水ハザードマップが整備されたのも、こうした繰り返す水害への対応が背景にある。


全災害年表

月日 災害名・種別 主な被害
1965 7月5日 洪水 全壊11棟
1968 2月21日〜 えびの地震(M6.1) 死者3名、全壊498戸、一部損壊4,866戸、罹災者20,242人
1972 7月6日 昭和47年7月豪雨(土砂) 死者3名、行方不明1名
1997 9月16日 台風19号 床上122棟、床下214棟、全壊2棟
2006 7月18日 平成18年7月豪雨 床上92棟、床下181棟、半壊94棟
2011 6月15日 平成23年6月豪雨 床上1棟、床下14棟
2019 6月下旬 梅雨前線豪雨 被害あり(詳細調査中)
2020 7月3日 令和2年7月豪雨 床上2棟
2020 9月 台風10号 被害あり(詳細調査中)

出典:NIED自然災害データベース、えびの市地域防災計画


洪水リスク:川内川の想定最大浸水深は「20m以上」

えびの市最大の水害リスクは、川内川(せんだいがわ)の氾濫だ。川内川は加久藤カルデラを東から西へ横断する幹川で、上流では霧島山系からの水が集中して流れ込む。

防災DBの125mメッシュ解析(想定最大規模・川内川水系)では:

河川名 影響メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大継続時間
川内川 2,023 20.0m 2.36m 168時間(7日間)
岩瀬川 345 10.0m 4.01m 72時間
長江川 251 5.0m 0.53m 72時間
鳩胸川 151 10.0m 1.84m
胸川 104 10.0m 2.18m 72時間

出典:防災DB 125mメッシュ解析(2024年更新)

川内川の想定最大浸水深20m——これは、ビルの6〜7階に相当する。最悪シナリオとはいえ、盆地という地形特性上、水が集まり逃げにくい構造であることは変わらない。浸水継続時間の最大168時間(7日間)という数値も見逃せない。浸水が長引けば避難所生活の長期化や食料・医療物資の供給断絶につながる。

浸水深の目安として:

  • 0.5m:膝下まで。歩行困難、転倒リスク
  • 1m:腰まで。車が流され始める
  • 3m:1階天井まで。建物への取り残しリスク
  • 5m:2階床上まで。2階への垂直避難も機能しなくなる
  • 20m:建物ごと流失の危険

えびの市のハザードマップ(令和5年4月改訂)では、川内川水系の洪水浸水想定区域が市内の広範囲をカバーしている。自宅・職場がハザードマップのどの浸水深ゾーンにあるかを必ず確認しておきたい。


土砂災害リスク:72,000超のメッシュに危険ゾーン

えびの市内では、防災DBの125mメッシュ解析で72,416メッシュが土砂災害の危険ゾーンに含まれる。これは市内面積の相当部分をカバーする規模だ。自治体の土砂災害警戒区域指定数は54箇所

外輪山(矢岳高原)と霧島山麓の急斜面が直接的な危険源だ。加久藤カルデラの縁はいわば急崖状になっており、大雨時には斜面崩壊・土石流・地すべりのリスクが高まる。1972年7月豪雨での死者3名も、こうした急傾斜地の崩壊に起因する可能性が高い。


地震リスク:30年以内に最大24%の震度6弱以上確率

えびの地震(1968年)は活断層よりも火山性地震の性格が強かったとされるが、周辺には複数の活断層帯が存在する。

周辺の主な活断層帯(防災DBデータ)

断層名 想定M 30年発生確率
鹿児島湾東縁断層帯 M6.9 0.52%
日奈久断層帯 日奈久区間 M6.9 0.47%
布田川断層帯 宇土区間 M6.5 0.62%
人吉盆地南縁断層 M6.6 0.26%
布田川断層帯・日奈久断層帯(全体同時活動) M7.4

出典:防災DB fault_master(地震調査研究推進本部データ)

防災DBの地震確率データ(地震調査研究推進本部 2024年版)では、えびの市内の震度6弱以上30年確率の最大値は24.21%に達するメッシュがある。平均でも3.59%と全国水準を上回る。2016年熊本地震では布田川断層・日奈久断層帯が連動して動き、隣接する人吉・球磨地域も大きな揺れに見舞われた。えびの市もその揺れを体験しており、今後も同様の被害リスクがある。


霧島火山のリスク:えびの高原・硫黄山の近さ

えびの市の固有リスクとして忘れてはならないのが、霧島山の火山活動だ。市の南端に位置するえびの高原(韓国岳北麓)と硫黄山は、日本でも有数の活火山地帯の一角を担う。

2018年には硫黄山が噴火し、噴火警戒レベルが引き上げられた。えびの市は霧島山の火山防災マップ(噴火ハザードマップ)も作成しており、溶岩流・火砕流・火山灰・火山性地震の各ゾーンが示されている。加久藤カルデラ自体がかつての破局噴火の産物であることも、地下の火山活動が活発な証左だ。


避難施設一覧

えびの市内には27箇所の避難所が整備されている(2024年時点)。広域避難場所の指定はなく、各地区の学校体育館・公民館・運動公園が避難拠点となっている。

施設名 住所 種別
えびの市文化センター えびの市大字大明司2146番地2 避難所
えびの市民体育館 えびの市大字原田3056 避難所
えびの市国際交流センター えびの市大字榎田388番地1 避難所
加久藤中学校体育館 えびの市大字栗下1269-1 避難所
飯野中学校体育館 えびの市大字原田190 避難所
上江中学校体育館 えびの市大字上江1735 避難所
真幸地区体育館 えびの市大字向江1188番地10 避難所
永山運動公園 えびの市大字永山785番地 避難所
王子原運動公園 えびの市大字島内2044番地 避難所
大河平小学校体育館 えびの市大字大河平2410 避難所

(全27箇所の一覧は防災DBのえびの市ページで確認できます)

避難所への移動は「浸水・土砂崩れが起きる前」が原則。夜間・雨天時の移動はリスクが高い。事前に複数の経路を確認し、家族で合流場所を決めておくことが重要だ。


今からできる備え

えびの市公式の防災情報
- 防災ページ(ハザードマップ含む):えびの市 防災
- ハザードマップ一覧:えびの市 ハザードマップ
- 防災ハザードマップ(令和5年4月改訂):川内川水系・土砂災害
- 霧島山火山防災マップ:地域防災計画に収録(えびの市地域防災計画

具体的な備え

  1. ハザードマップの確認:自宅の浸水深ゾーン・土砂災害警戒区域の有無を確認する。川内川の想定最大浸水深20mゾーンに入っている場合は、早期避難が最優先
  2. 避難所の確認:最寄りの避難所2〜3か所と経路を家族で確認。浸水時は徒歩ルートが使えない場合を想定する
  3. 非常用持ち出し袋:飲料水3日分・食料3日分・薬・携帯充電器・ラジオ。浸水継続168時間(7日間)を考慮し、1週間分の備蓄が理想
  4. 情報収集手段の確保:えびの市の防災メール・スマートフォンのJ-Alert設定・気象庁防災情報
  5. 火山情報の把握:霧島山の噴火警戒レベルを定期確認

データ出典

出典 用途
防災DB(bousaidb.jp) 統合リスクスコア、洪水・地震・土砂災害 125mメッシュ解析
NIED 自然災害データベース(国立研究開発法人防災科学技術研究所) 災害事例データ(1965年〜2020年)
えびの市地域防災計画 市内の過去被害記録、避難施設情報
地震調査研究推進本部(2024年版全国地震動予測地図) 活断層データ、震度確率
えびの地震 Wikipedia・宮崎県「えびの地震の記録」 1968年えびの地震の詳細被害
えびの市公式HP(令和5年4月改訂 防災ハザードマップ) 川内川水系洪水浸水想定、土砂災害警戒区域
国土交通省 川内川水系洪水浸水想定図(想定最大規模) 洪水浸水深データの元ソース

この記事は防災DB編集部が防災DBの公開データおよび公的機関の情報をもとに作成しました。データは2024年時点のものです。最新情報はえびの市公式ページおよび防災DBでご確認ください。ご意見・データの誤りはこちらからご連絡ください。