青森県五戸町の災害リスクと過去の被害記録【防災DB完全解説】

五戸町は青森県三戸郡に位置する人口約1万6千人の町だ。馬淵川・五戸川・奥入瀬川という三つの大河川が流域をつくり、その地形が洪水リスクを高めている。防災DBが算出した統合リスクスコアは85点(リスク区分:極めて高い)。これは全国上位水準に位置する数値であり、洪水・地震・土砂災害の三重のリスクが重なり合っていることを示している。

1968年の十勝沖地震では町内だけで11人が死亡し、293棟が全壊した。戦後最大の被害として町の防災計画に刻まれたこの地震は、今もなお五戸町の地震対策の根拠となっている。この記事では、防災DBの125mメッシュ解析データと国立防災科学技術研究所(NIED)の災害事例データをもとに、五戸町が抱える災害リスクを詳細に解説する。


この町の災害リスクの特徴

三河川が交差する地形がもたらす高い洪水脆弱性

五戸町は青森県南東部の山間・丘陵地帯に位置し、総面積の半分以上を森林が占める。しかし問題は山地そのものではなく、その山地から流れ出す河川だ。

町を流れる主要河川は以下の三系統がある。

  • 馬淵川(一級河川):岩手県葛巻町を源に青森県を縦断し、八戸市で太平洋に注ぐ。五戸町南部を流れる。
  • 五戸川:馬淵川水系の支流。五戸町中心部を貫流し八戸市内で馬淵川と合流する。
  • 奥入瀬川:十和田湖を源とし、流域は五戸町の北部にかかる。

防災DBの125mメッシュ解析によると、これら三河川の洪水浸水想定区域が五戸町全体で約5,800メッシュ(約900平方キロメートル相当の面積)に及ぶ。洪水スコアは100点満点という最高値だ。

火山灰土の地質が地震時の土砂崩れリスクを高める

五戸町の地盤は火山灰土が多く堆積している。この土質は降雨時に多量の水分を吸収し、地震動が加わると流動化しやすい特性を持つ。1968年十勝沖地震での山崩れ被害の主因もこの火山灰土の挙動にあった。

地震確率データでは、30年以内に震度5弱以上の揺れを受ける確率が平均84.1%、最大では99.8%に達するメッシュもある。震度6弱以上の確率は平均12.6%、最大51.1%。山間部に近いほど地盤の揺れが増幅されやすい地形的条件がある(平均AVS30: 331.8m/s)。


過去の主要災害

1968年5月16日|昭和43年十勝沖地震(M7.9)

五戸町の災害史において最大の被害をもたらした地震だ。死者11人、全壊293棟、半壊161棟、一部損壊1,800棟というこの被害規模は、昭和の東北を代表する大災害の記録として防災科学技術研究所に残されている。

震源は青森県東方沖(M7.9)。五戸町内では地震前の連続降雨で水分を含んだ火山灰土が、地震動によって一斉に崩壊した。尻内〜五戸間の山間部では大規模な山崩れが相次ぎ、南部鉄道(尻内〜五戸間12.3km)は路盤沈下・亀裂・盛土崩壊が49か所に及ぶ壊滅的被害を受けた(被害総額約2億円)。

青森県全体では死者・行方不明48名、全壊646棟。うち33名は土砂災害による死亡であり、五戸町周辺の山間部はその主要な被災地となった。この地震を契機に、五戸町の地域防災計画の地震編が整備された。

1994年12月28日|三陸はるか沖地震(M7.5)

全壊25棟、一部損壊124棟の建物被害が発生した。死者は記録されていないが、冬季という時期的な条件のなかで多数の住宅が損傷を受けた。震源は三陸沖(M7.5)で、青森県八戸市を中心に広範な被害をもたらした地震だ。五戸町でも地震による建物被害が集中し、26年前の十勝沖地震と合わせてこの地域の地震リスクを改めて示す事例となった。

1999年10月27日|秋季大雨

死者1名、床上浸水33棟、床下浸水91棟の被害が記録されている(出典:五戸町地域防災計画 風水害等編)。秋雨前線の影響による集中的な降雨で、五戸川・馬淵川流域の低地に浸水被害が広がったとみられる。

2002年7月11日|平成14年台風第6号・梅雨前線

死者1名、一部損壊1棟。台風と梅雨前線の複合による豪雨で、河川沿いの低地での浸水や斜面崩壊が発生した。

2020年7月11日|令和2年7月豪雨

九州から東北にかけて広範な被害をもたらした令和2年7月豪雨は五戸町にも影響した(出典:7月11日からの大雨・洪水警報による被害について 第10報)。人的被害の記録はないが、河川の増水・氾濫リスクが高まった事例として記録されている。

風水害の年表

過去の風水害(saigai_syurui=4)が集中した時期は以下の通りだ。いずれも夏〜秋の台風・前線絡みの豪雨が主因とみられる。

発生年月 種別 主な被害
2020年7月 洪水(令和2年7月豪雨) 増水被害(洪水警報)
2002年7月 台風第6号・梅雨前線 死者1名、一部損壊1棟
1999年10月 大雨 死者1名、床上浸水33棟、床下浸水91棟
1990年10月 風水害 記録あり
1982年5月 風水害 記録あり
1981年8月 台風第15号 記録あり
1980年8月 風水害 記録あり
1980年12月 風水害 記録あり
1979年8月 風水害 記録あり
1977年8月 風水害 記録あり
1976年10月 風水害 記録あり

1976年から2020年の45年間に11件の風水害が記録されており、約4年に1度の頻度で河川氾濫・浸水被害が発生してきたことがわかる。


洪水・浸水リスク

なぜ五戸町の洪水リスクが最高スコア100点になるのか。その答えは三河川の規模と想定浸水深にある。

河川別の洪水浸水想定

防災DBの125mメッシュ解析から、五戸町の洪水浸水想定を河川別に示す。

河川名 浸水メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大継続時間
奥入瀬川 1,967 5.0m 1.33m 72時間
馬淵川 1,950 10.0m 4.49m 168時間
五戸川 1,869 5.0m 2.07m 168時間
浅水川 686 5.0m 0.97m 72時間
明神川 217 3.0m 0.81m 72時間

中でも注目すべきは馬淵川だ。最大浸水深10m、平均でも4.49mという数値は、浸水した場合に2階建て住宅の屋根付近まで水没する深刻な状況を意味する。さらに継続時間が最大168時間(7日間)に達する点も見逃せない。一週間水が引かない事態は、救助活動や生活再建に深刻な影響を与える。

浸水深の目安として知っておきたい数字がある。

  • 0.5m:床上浸水開始。歩行困難になる。
  • 1m:乗用車が浮き始め、立っていられない。
  • 2m:1階天井付近まで浸水。
  • 3m:2階床上まで浸水。
  • 5m:2階建て住宅の屋根近くまで浸水。
  • 10m:3〜4階建て相当の水位。

馬淵川の平均浸水深4.49mは「2階床上~屋根近く」に相当し、垂直避難が機能しない深さだ。早期の水平避難が生命を守る唯一の選択肢となる。

五戸川も平均2.07mで「1階天井付近」に達する想定がある。五戸川は町の中心部を流れるため、中心市街地への影響が大きい。

複合氾濫のリスク

馬淵川・五戸川・奥入瀬川は互いの支流・本流の関係にある。大規模な降水時には複数河川が同時に増水し、互いの水位上昇が合流点で相乗効果を生む「複合氾濫」のリスクが高い。1999年や2002年の洪水はその典型例であり、複数河川の同時氾濫が被害を拡大させた可能性がある。

青森県は馬淵川水系の河川整備計画(2014年策定)で概ね10年に1度の規模の洪水を目標洪水として設定しているが、近年の気候変動に伴う降水強度の変化を考慮すると、計画規模を超える出水への備えも重要だ。


土砂災害リスク

防災DBのデータによると、五戸町の土砂災害危険区域は44か所、土砂災害リスクメッシュは976メッシュに及ぶ(土砂災害スコア50点)。

五戸町の地質的特性として、火山灰に由来する脆い土質が山間部に広く分布している。これは水を含みやすく、1968年十勝沖地震での山崩れ多発の一因となった土質だ。台風や大雨の際にも同じメカニズムで斜面崩壊が起きやすく、特に地震後の降雨期は複合リスクが最大化する。

土砂災害の警戒が必要な時期は、主に梅雨期(6〜7月)と台風期(8〜10月)だ。前述の過去被害データをみると、秋季の台風・豪雨での被害が多く、1999年10月の事例がその典型にあたる。


地震リスク

活断層の影響

五戸町の地震リスクに影響を与える主要な活断層として、青森湾西岸断層帯が挙げられる。

断層名 想定マグニチュード 30年以内の発生確率
青森湾西岸断層帯 M6.8 約0.66%

地震調査研究推進本部の評価によると、青森湾西岸断層帯のM6.8地震の30年発生確率は0.66%程度だ。確率としては低く見えるが、「30年間で0.66%」は「いつ起きても不思議ではないレベル」であり、発生した場合には五戸町に直接的な揺れをもたらす可能性がある。

地震動確率

防災DBが解析した五戸町域内の地震動確率データを示す。

指標 平均値 最大値(最もリスクの高いメッシュ)
30年以内に震度5弱以上 84.1% 99.8%
30年以内に震度6弱以上 12.6% 51.1%

平均84.1%という「30年以内に震度5弱以上を受ける確率」は、日本の防災基準で「長期的に必ず発生するリスク」として扱われる水準だ。特定の場所では震度6弱以上の確率が51.1%に達するメッシュもあり、建物の耐震性能が避難の成否を左右する。

1968年以降、1994年と2011年(東日本大震災)にも地震被害を記録している五戸町は、歴史的に見て東北太平洋側の地震の影響圏内に入り続けている。


沿岸・河川洪水リスク(高潮・津波関連)

防災DBの解析では、五戸町の沿岸洪水関連メッシュ数は4,305メッシュに達する(高潮スコア100点)。五戸町の中心部は内陸に位置するが、馬淵川・五戸川の流域は八戸市内で太平洋につながっており、大規模津波発生時には河川を遡上する形で内陸部へ浸水被害が及ぶ可能性がある。

2011年3月の東日本大震災では、馬淵川の下流域(八戸市)が津波による深刻な被害を受けた。五戸町の河川に対するこの教訓は、五戸町地域防災計画にも反映されている。

沿岸・河川洪水リスクの観点からは、馬淵川の上流域に位置する五戸町でも、大規模地震時の早期避難を徹底することが重要だ。


避難施設一覧

五戸町内には110か所の避難施設が整備されている(2024年時点)。主な施設は以下の通りだ。

施設名 所在地 種別
五戸小学校 五戸町天満後21 屋内・屋外避難所
五戸中学校 五戸町豊間内地蔵平1-276 屋内・屋外避難所
五戸高等学校 五戸町根岸6番地1 屋内・屋外避難所
五戸ドーム 五戸町豊間内地蔵平1番地398 屋内避難所
五戸町保健福祉センター 五戸町幸神道前15 屋内避難所
上市川小学校 五戸町上市川御兵糧3 屋内・屋外避難所
中市小学校 五戸町田茂平40 屋内・屋外避難所
倉石コミュニティセンター 五戸町上ミ平20-4 屋内・屋外避難所
倉石中学校 五戸町上ミ平36 屋内・屋外避難所
倉石スポーツセンター 五戸町幸神94-1 屋内避難所

重要:馬淵川・五戸川流域の低地に居住している場合、洪水時には浸水を免れる「高台にある施設」への避難が原則だ。水害時と地震時では「最適な避難場所」が異なるため、日頃から居住地のハザードマップで確認しておくことを強く推奨する。


今からできる備え

自治体の防災情報を確認する

具体的なアクション

  1. 避難経路の確認:洪水ハザードマップで自宅の浸水深想定を確認し、浸水しない高台への避難経路を事前に確認する。馬淵川・五戸川は168時間(7日間)浸水が続く可能性がある。
  2. 早期避難の習慣化:五戸川・馬淵川の洪水時は垂直避難では対応できない深さになる可能性がある。警戒レベル3(高齢者等避難)が発令された時点で迷わず動く判断を日頃から共有しておく。
  3. 耐震性能の確認:1968年十勝沖地震時の全壊棟数293棟は当時の木造住宅の脆弱性を示している。旧耐震基準(1981年以前)の建物は耐震診断・補強を検討する。
  4. 備蓄の確保:馬淵川の最大浸水継続時間168時間(7日間)を想定すると、少なくとも7日分の飲料水・食料の備蓄が必要だ(一般的に推奨される3日分を上回る)。
  5. 土砂災害警戒情報の確認:大雨時には気象庁の「土砂災害警戒情報」をリアルタイムで確認する。五戸町は44か所の土砂災害危険区域を抱えており、台風・大雨時には同時多発的な崩壊リスクがある。

データ出典

本記事のデータは以下の一次情報をもとに構成されている。

データ種別 出典 備考
統合リスクスコア・メッシュ解析 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ、2024年時点
過去の災害事例 国立防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース 五戸町地域防災計画(地震編・風水害等編)が出典
洪水浸水想定 国土交通省・青森県(ハザードマップポータルサイト準拠) 計画規模降雨に基づく想定浸水深
地震確率 地震調査研究推進本部(防災DBが解析) 2024年版全国地震動予測地図
活断層情報 産業技術総合研究所(防災DBが加工) 青森湾西岸断層帯
避難施設 国土数値情報(p20避難場所データ)、五戸町 2024年時点
地形・河川情報 国土交通省 河川局、青森県 馬淵川水系河川整備計画(2014年)
十勝沖地震詳細 青森県防災、防災科学技術研究所災害報告書 1968年(昭和43年)記録
五戸町防災ページ 五戸町公式ウェブサイト https://www.town.gonohe.aomori.jp/saigai.html

著者:防災DB編集部
最終更新:2026年4月
本記事のデータは2024年時点の情報に基づいています。最新情報は五戸町公式防災ページおよび防災DBでご確認ください。