階上町の災害リスク完全ガイド|津波・洪水・地震の歴史と備え

青森県三戸郡階上町(はしかみちょう)は、三陸海岸の最北端に位置する人口約1万4,000人の小さな町だ。太平洋に面したリアス式海岸を抱え、背後には階上岳(標高739m)を主峰とする山塊が迫る。この地形的条件が、この町の災害リスクを極めて複雑なものにしている。

防災DBが算出した統合リスクスコアは87点(100点満点)、評価は「極めて高い」。洪水・津波・高潮・地震の4リスクがいずれもスコア100を記録するという、全国でも稀な多重リスク地帯だ。過去には1933年の昭和三陸地震津波で死者・行方不明者3名(階上町域)を記録し、2011年の東日本大震災でも津波被害を受けた。

この記事では、防災DB(bousaidb.jp)の125mメッシュ解析データと公的記録をもとに、階上町が直面する災害リスクの全貌を解説する。


1. 階上町の地形と「多重リスク」の構造

階上町は東西約22km、南北約12kmの細長い形状を持つ。東端は三陸海岸に面し、西部には内陸の丘陵地が広がる。この東西の地形的落差が、この町が複数の異なる災害リスクを抱える根本的な理由だ。

東部沿岸部: 三陸海岸特有のリアス式地形。複雑に入り組んだ入り江はV字型の地形で、沖合から来る津波エネルギーを増幅させる。1896年の明治三陸地震津波、1933年の昭和三陸地震津波、2011年の東日本大震災津波——この地域は繰り返し巨大津波に襲われてきた歴史がある。

西部内陸部: 新井田川・馬淵川などの河川が流れる低地。山地から流れ下る河川は台風や大雨のたびに氾濫し、農地や住宅地を浸水させてきた。

全域: 三陸沖プレート境界を震源とする大規模地震の影響下にある。防災DBの解析では、今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は平均14.9%、最大51.75%に達する。


2. 過去の主要災害

1933年3月3日|昭和三陸地震(死者1名・行方不明2名・全壊29棟)

昭和三陸地震は、岩手県釜石沖約200kmを震源とするM8.1の巨大地震だ。震源が遠方のため、揺れ自体は比較的穏やかだったものの、地震から約30分後に最大遡上高28.7m(岩手県綾織村)を記録する大津波が三陸海岸を襲った。

階上町域では死者1名、負傷者14名、行方不明2名、住宅全壊29棟の被害が記録されている(出典:階上町地域防災計画、NIED自然災害データベース)。三陸沿岸全体では死者・行方不明者3,064名に上る大惨事となった。

この地震は「アウターライズ地震」の典型例として知られる。海溝のさらに外側(陸側プレートに引きずり込まれた側)で発生するため、直接の揺れが小さくても巨大津波を引き起こす。津波が小さく見えるからといって安心できない典型的な事例だ。

1960年5月24日|チリ地震津波(床下浸水3棟)

南米チリ沖で発生したM9.5の超巨大地震による津波が、地球を半周して約22時間後に三陸海岸に到達した。階上町では床下浸水3棟の被害が記録されている(出典:階上町地域防災計画)。

遠方で発生した地震でも深刻な津波被害が起こりうることを示した歴史的事例であり、気象庁の遠地津波情報への注意が重要だ。

1968年5月16日|十勝沖地震(住宅全壊)

十勝沖を震源とするM7.9の地震。階上町では住宅の全壊被害が発生した(具体的棟数はNIEDデータベースの記録形式による制約により「全壊あり」の記録にとどまる)。この地震は青森県内陸部でも大きな被害をもたらした。

1994年12月28日|三陸はるか沖地震(負傷8名・半壊35棟・一部損壊431棟)

青森県八戸市沖を震源とするM7.6の地震。階上町は震央から近く、強い揺れに見舞われた。負傷者8名、住宅半壊35棟、一部損壊431棟という大きな被害が出た(出典:階上町地域防災計画)。1995年1月7日にも余震(同じ規模の記録として両日付で収録)が発生している。

この地震の教訓として、三陸はるか沖地震の震源域は階上町に近く、発生確率の観点でも注視が必要な地震帯であることが再確認された。

2011年3月11日|東日本大震災(NIEDデータベース未収録のため本文で別途記載)

M9.0の超巨大地震と大津波。階上町は三陸海岸の最北端に位置するため、沿岸部は大きな津波被害を受けた。青森県の東日本大震災記録によれば、階上町の沿岸では津波が海岸段丘部まで遡上し、道仏・小船渡・大蛇など海岸集落で浸水被害が発生した。隣接する八戸市や岩手県洋野町も同様の被害を受けた。

防災DBの津波浸水解析データでは、津波スコア100(最高値)、最大浸水深20m以上が記録されており、2011年の実績がこの評価に反映されている。

台風・大雨による洪水(1933年〜2006年)

階上町地域防災計画には1933年から2006年にかけて14件の風水害・洪水が記録されている。主な被害事例:

  • 1982年9月 台風18号:床上浸水5棟・床下浸水22棟・河川被害4か所
  • 1982年5月 洪水:床上浸水1棟・床下浸水6棟・河川被害21か所(最多)
  • 1990年9月 台風19号:床上浸水2棟・床下浸水24棟・河川被害3か所
  • 1999年10月 風水害:河川被害10か所

台風・大雨のたびに新井田川・馬淵川・雪谷川などが氾濫し、住宅や農地に繰り返し被害をもたらしてきた歴史がある。


3. 全災害記録(年表)

年月日 災害名 死者 負傷 行方不明 主な被害
1933年3月3日 昭和三陸地震(津波) 1 14 2 全壊29棟
1933年10月 風災(台風系)
1958年9月 狩野川台風
1960年5月24日 チリ地震津波 床下浸水3棟
1965年9月 台風
1966年6月 台風4号
1966年10月 台風
1967年9月 高潮 床上浸水4棟
1968年5月16日 十勝沖地震 全壊あり
1977年2月 雪害
1981年8月 台風15号 全壊あり
1982年5月20日 洪水 河川被害21か所
1982年9月12日 台風18号 床上5・床下22・河川4
1990年9月20日 台風19号 床上2・床下24・河川3
1991年9月 台風19号 全壊あり
1993年7月 台風 河川被害3か所
1994年2月17日 雪害 河川被害6か所
1994年9月15日 台風 河川被害4か所
1994年12月28日 三陸はるか沖地震 8 半壊35・一部損壊431
1995年1月7日 三陸はるか沖地震(余震) 8 半壊35・一部損壊431
1995年8月5日 台風 河川被害3か所
1998年8月28日 大雨
1999年10月27日 台風 河川被害10か所
2006年10月8日 台風
2011年3月11日 東日本大震災 ※別途記載 ※別途記載 沿岸部浸水・家屋被害

(出典:階上町地域防災計画、NIED自然災害データベース。「—」は被害記録なしまたは記録不明。2011年はNIEDデータセット未収録のため公的情報から補記)


4. 洪水・浸水リスク——新井田川と馬淵川が主要リスク

防災DBの125mメッシュ解析では、階上町に影響する主要河川の洪水リスクとして以下が特定されている。

河川名 浸水影響メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大継続時間
新井田川 1,379メッシュ 20.0m 6.6m 72時間
馬淵川 1,350メッシュ 10.0m 1.92m 168時間
雪谷川 332メッシュ 10.0m 3.58m 72時間
浅水川 305メッシュ 5.0m 1.01m 72時間
五戸川 301メッシュ 5.0m 0.81m 72時間
有家川 265メッシュ 5.0m 2.44m 12時間
川尻川 222メッシュ 5.0m 2.50m 72時間
瀬月内川 101メッシュ 10.0m 6.9m 72時間

浸水深のイメージ: 3mは一般的な1階の天井付近、5mは2階の床上、10mは3〜4階建て相当、20mは6〜7階建て相当の高さだ。新井田川の最大浸水深20mは、5〜6階建てビルが完全に水没する規模を意味する。

馬淵川の最大継続時間168時間(7日間)という数値も重要だ。浸水が長時間続けば、避難の長期化や建物の構造被害が拡大する。

洪水スコア: 100(最高値)


5. 津波・高潮リスク——三陸海岸の「増幅地形」

階上町の東端は三陸リアス式海岸に面している。リアス式海岸は岬と入り江が複雑に入り組んだ地形で、津波が入り江のV字型の地形に収束されることで波高が著しく増大する。

防災DBの解析では、津波・高潮の影響を受ける125mメッシュ数は5,667メッシュに上る。これは町域のかなりの部分が津波浸水の潜在的リスク圏内にあることを示している。

津波スコア: 100(最高値)、最大浸水深: 20m以上

過去の津波被害(この地域全体):
- 1896年 明治三陸地震津波: 三陸海岸で死者21,959名
- 1933年 昭和三陸地震津波: 死者・行方不明3,064名
- 1960年 チリ地震津波: 床下浸水被害
- 2011年 東日本大震災: 沿岸集落で大規模浸水

高潮スコア: 100(最高値)

青森県が公表している津波浸水想定区域図(基準水位)は、町公式サイト(https://www.town.hashikami.lg.jp/index.cfm/9,727,43,174,html)で確認できる。


6. 地震リスク——三陸はるか沖地震の再来

防災DBの解析によれば、階上町域における今後30年以内の震度6弱以上の確率は平均14.9%、最大51.75%に達する。震度5弱以上では平均84.71%、最大99.85%という高い数値だ。

特に注目すべき点は、最大値との開きが大きいこと(平均14.9% vs 最大51.75%)。これは町域内でも地盤条件や立地条件によってリスクが大きく異なることを意味する。地盤のS波速度(Vs30)の平均値は395m/sと比較的良好だが、軟弱地盤のエリアでは増幅率が高まる。

近隣の主要活断層として青森湾西岸断層帯(想定M6.8)が確認されている。30年発生確率は0.66%と比較的低いが、活断層による被害の特徴は「直下型」で即座に大きな揺れをもたらすことだ。

さらに、三陸はるか沖地震(1994年)の震源域は階上町に近く、同様の地震が再発した場合には深刻な被害が想定される。

地震スコア: 100(最高値)


7. 土砂災害リスク

土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定数は4か所。防災DBの125mメッシュ解析では土砂災害リスクメッシュが231メッシュ確認されている。

土砂災害スコア: 50(中程度)

階上岳周辺の山腹や渓流沿いに警戒区域が存在する。大雨や地震との複合災害時に崩壊リスクが高まる。


8. 避難場所一覧

階上町の指定避難場所(35か所)のうち主要施設を示す。

施設名 住所 施設種別
ハートフルプラザ・はしかみ 道仏字天当平1-182 避難場所
中央体育館 鳥屋部字狐平8 避難場所
大蛇小学校 道仏大蛇30-1 避難場所
小船渡小学校 道仏廿一2-1 避難場所
石鉢小学校 角柄折字石鉢14-2 避難場所
道仏中学校 道仏蓬窪4-7 避難場所
道仏小学校 道仏外窪21-1 避難場所
登切小学校 平内上道1-1 避難場所
金山沢小学校 金山沢大畑16 避難場所
赤保内小学校 赤保内耳ヶ吠6-1 避難場所
町民体育館 道仏字天当平1-150 避難場所
森の交流館 鳥屋部字行人17-2 避難場所
田代集会所 田代字蛇平19-28 避難場所
晴山沢集会所 晴山沢字松長根3-1 避難場所

(全35施設は階上町公式防災情報ページで確認できる)

注意: 津波浸水が想定される沿岸集落では、まず高台への垂直避難が最優先となる。指定避難場所であっても浸水区域内にある場合は安全ではない。事前にハザードマップで各施設の浸水リスクを確認すること。


9. 今からできる備え

階上町は多重リスクを抱える地域だ。しかし、リスクを正確に把握し適切に備えることで、被害を大幅に軽減できる。

まず確認すべきこと
- 階上町公式防災ページ: https://www.town.hashikami.lg.jp/index.cfm/9,0,43,174,html
- 津波ハザードマップ: https://www.town.hashikami.lg.jp/index.cfm/9,727,43,174,html
- 防災DBで自分の住所のリスクを確認: bousaidb.jp

津波・高潮への備え:
- 沿岸集落に住む場合、揺れを感じたら迷わず高台へ避難(津波は揺れから30分以内に到達した事例がある)
- 夜間・早朝の地震に備え、素早く動ける服装と懐中電灯を寝室に置く
- 「遠地津波」(チリ地震のように遠方で発生する地震による津波)にも対応できる緊急アラートの設定を確認

洪水への備え:
- 新井田川・馬淵川の氾濫危険水位情報をリアルタイムで確認(国土交通省川の防災情報: https://www.river.go.jp/)
- 浸水継続時間が長い(168時間=7日間)ことを念頭に、1週間分以上の備蓄を確保

地震への備え:
- 家具の固定と寝室の安全確保
- 三陸はるか沖地震(1994年)の記録が示すように、431棟が一部損壊するような揺れが今後も想定される


10. データ出典

本記事は以下のデータソースに基づいて作成した。

出典 内容
防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ洪水・津波・地震・土砂災害解析データ
階上町地域防災計画 1933年〜2006年の災害記録
NIED自然災害データベース(防災科学技術研究所) 過去の災害被害統計
階上町公式ウェブサイト ハザードマップ、防災情報
昭和三陸地震(Wikipedia・防災科研) 1933年三陸地震の詳細
地震調査研究推進本部 青森湾西岸断層帯評価
国土交通省 ハザードマップポータルサイト 洪水・津波想定データ

防災DBは国土交通省・防災科学技術研究所等の公開データを125mメッシュで統合・解析したオープンデータプラットフォームです。全機能無料・登録不要でご利用いただけます。→ bousaidb.jp


著者: 防災DB編集部 | 最終更新: 2026年4月 | データ時点: 2024年