一関市の災害リスクと過去の災害年表|洪水・地震・台風75年の記録

岩手県一関市は、北上川とその支流が流れ込む複雑な河川地形を持ち、過去75年間に記録された主要な水害だけで十数件に上る"水害常習地帯"だ。防災DBの統合リスクスコアは73点(極めて高い)、洪水スコアは満点の100点を記録する。1947年のカスリン台風に始まり、令和元年の東日本台風(台風19号)に至るまで、北上川流域は繰り返し住民の生活を脅かしてきた。

本記事では、防災DBが保有する125mメッシュ解析データと過去の災害事例データベース(NIED)を基に、一関市の災害リスクの全体像と75年にわたる記録を公開する。


なぜ一関市は水害に弱いのか

一関市が繰り返し水害に見舞われる背景には、北上川の地形的な構造上の弱点がある。

北上川は一関市の狐禅寺付近から宮城県境にかけて約26kmにわたる狭窄部(きょうさくぶ)が存在する。川幅が著しく狭まるこの区間では流下能力が大幅に低下し、上流から流れ込んだ大量の水が行き場を失う。この「詰まり」が、一関平野への溢水を繰り返す根本的な原因だ。

国土交通省は「溢水・ショートカット型」「河道集中型」「背水型」の3種類の洪水形態を識別しており、それぞれのパターンで浸水域と深度が変わる。想定最大規模の降雨に基づく最新のシミュレーションでは、北上川沿いの一部地区で浸水深20m超(2階建て家屋が完全水没するレベル)が想定されている。

磐井川はさらに危険な特性を持つ。扇状地型の洪水形態をとる磐井川は、破堤時の破壊力が北上川よりも強く、防災DBのメッシュデータでは磐井川流域の平均浸水深が7.58mと全流域で最大値を示す。これは2階建て住宅の屋根すれすれまで水が達する深度だ。

主要河川の浸水リスク一覧(防災DB・125mメッシュ解析)

河川名 浸水メッシュ数 想定最大浸水深 平均浸水深 継続時間(最大)
北上川 8,471メッシュ 20m超 3.72m 336時間(14日)
迫川 6,639メッシュ 20m超 1.29m 336時間
夏川 2,889メッシュ 20m超 1.53m 336時間
荒川 1,800メッシュ 5m 1.96m 336時間
砂鉄川 1,038メッシュ 20m超 4.25m 336時間
磐井川 979メッシュ 20m超 7.58m 336時間
衣川 478メッシュ 10m 3.97m 168時間
気仙川 474メッシュ 20m超 4.18m 72時間

出典:防災DB(bousaidb.jp)、125mメッシュ洪水解析(国土交通省ハザードマップポータルサイト準拠)

浸水深の具体的なイメージ:1m=成人の胸まで、3m=1階天井まで(脱出困難)、5m=2階床上まで、7m超は2階が完全水没する深度だ。磐井川流域の平均7.58mという数値が示す危険性は、数字以上に深刻である。


過去の主要災害(詳細解説)

1947年 カスリン台風 ——「最大の水害」

1947年9月、カスリン台風(台風第9号)は東日本各地に記録的な豪雨をもたらした。一関市(旧一関市・周辺町村)では北上川・磐井川が軒並み氾濫し、床上浸水492棟を記録。当時の集計では死者1名、全壊10棟、床下浸水数を含めると被害は市域全体に及んだ。

カスリン台風の翌年にもアイオン台風(1948年9月)が襲来し、床上浸水257棟・全壊16棟・死者複数名の被害が続いた。2年連続の大水害は地域住民の記憶に深く刻まれ、その後の北上川治水対策の出発点となった。

1981年 台風15号 ——「185棟が床上まで」

1981年8月21〜23日、台風第15号が北東北を直撃した。一関市では北上川・磐井川が再び氾濫し、床上浸水183棟・床下100棟の被害が発生、死者1名を出した。NIEDデータベースには「昭和56年8月21日から23日までの間の台風第15号による災害」として記録されている。

1987年 集中豪雨 ——「記録的な床上237棟」

1987年8月の集中豪雨では、短時間の強雨が磐井川・砂鉄川流域に集中し、床上浸水237棟・床下48棟が記録された。1981年の台風15号を超える浸水被害で、一関平野の水害脆弱性が改めて浮き彫りとなった事例だ。

2011年 東日本大震災 ——「津波は来なかったが、揺れで45棟全壊」

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9.0)では、一関市は内陸部に位置するため津波は到達しなかった。しかし、震度6弱の強烈な揺れが市内を襲い、全壊45棟の建物被害が確認された。NIEDデータには東日本大震災関連として複数の記録があり、地震による道路・インフラ被害も広範に及んだ。

防災DBの地震リスクデータによると、一関市の30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は平均9.4%、最大値では60.5%に達するメッシュ(特に活断層近接地)も存在する。

2019年 令和元年台風19号(東日本台風)

2019年10月12〜13日、令和元年東日本台風は東日本を縦断し、過去最大級の被害をもたらした。全国での被害は全壊3,273棟・浸水29,556棟・土砂災害952件(統計開始以来最多)に上った。

一関市では北上川・磐井川が氾濫危険水位を超え、NIEDデータには床上13棟・一部損壊12棟の被害が記録されている(最終集計)。一関遊水地が洪水調節機能を発揮したことで、過去の台風に比べ浸水規模は抑制されたとされている。


過去の災害年表(全記録)

災害名 死者 全壊 床上浸水 床下浸水
2020 令和2年7月豪雨 6棟
2019 令和元年台風19号(東日本台風) 13棟 5棟
2011 東日本大震災 45棟
2002 台風6号・梅雨前線 73棟 58棟
1998 風水害 46棟 45棟
1990 風水害 1名 2棟 106棟 19棟
1987 集中豪雨 237棟 48棟
1981 台風15号 1名 183棟 100棟
1979 風水害 51棟 28棟
1978 宮城県沖地震
1958 風水害 67棟 252棟
1955 風水害 32棟 44棟
1951 風水害 4名
1948 アイオン台風 複数 16棟 257棟 32棟
1947 カスリン台風 1名 10棟 492棟
1941 風水害 1名 15棟 230棟

出典:防災科研(NIED)災害事例データベース / 一関市被害集計記録

「—」は被害なし、またはデータ未記録を示す。


土砂災害リスク

防災DBの125mメッシュ解析では、一関市域内の土砂災害関連メッシュ数は5,440に上る。市内南部から東部にかけての丘陵地帯では土砂災害警戒区域が設定されており、土砂災害スコアは50点(中程度)を記録する。

北上山地から続く地形は急峻な谷地形が多く、大雨時には斜面崩壊・土石流・地すべりが発生しうる。市内の土砂災害ハザード区域数は91箇所が把握されている(防災DBデータ)。


地震リスク

一関市周辺には北上低地西縁断層帯(想定M7.2、30年以内発生確率:低い)と滝沢鵜飼西断層(北上残部)(想定M6.9、30年確率0.104%)の2つの活断層が確認されている。

地震確率データ(防災DB・2024年時点):
- 30年以内に震度5弱以上の揺れが発生する確率:平均79.3%、最大99.97%
- 30年以内に震度6弱以上の揺れが発生する確率:平均9.4%、最大60.5%

地盤の平均S波速度(AVS30)は483.4m/sで、これは比較的安定した地盤を示す値だ。ただし、北上川沿いの低地では液状化リスク(液状化スコア20点)が存在する。

2011年の東日本大震災では、太平洋沖を震源とする地震で一関市が震度6弱を観測。内陸部では宮城県沖地震(1978年)も建物被害を発生させている。


避難施設一覧(主要)

一関市には計298箇所の避難場所が指定されている。主要な避難施設を以下に示す。

施設名 所在地 種別
げいびレストハウス 東山町長坂字町376 水害時避難場所
さわやかトイレ前駐車場 藤沢町藤沢字仁郷 一次避難場所
なかひなた会館 千厩町奥玉字石ノ御前285-3 一次避難場所・災害時避難場所
いずみの森幼稚園 花泉町涌津字悪法師38-312 災害時避難場所

上記は一例。全298箇所の避難場所情報と最寄り施設の検索は、一関市WEB版防災マップで確認できる。事前に自宅から最寄りの避難場所への経路を確認しておくことを強く推奨する。


今からできる備え

一関市の公式防災情報

水害への具体的な備え

一関市の最大リスクは洪水浸水だ。以下を今すぐ確認してほしい。

  1. 自宅の浸水想定区域を確認する(WEB防災マップで確認できる)
  2. 避難場所と経路を複数ルートで把握する(増水時は通常ルートが通行不能になるケースが多い)
  3. 早めの避難を原則とする——一関市では磐井川が短時間で急上昇するケースがあり、警戒レベル4(避難指示)が出てからでは手遅れになる可能性がある
  4. 非常用持ち出し袋の準備:水・食料3日分、薬、現金、充電バンク
  5. 北上川・磐井川の水位情報:国交省川の防災情報(https://www.river.go.jp/)でリアルタイム水位を確認可能

データ出典

データ種別 出典
統合リスクスコア・メッシュ浸水解析 防災DB(bousaidb.jp) — 国土交通省ハザードマップポータルデータ準拠
過去の災害事例・被害数値 防災科研(NIED)自然災害データベース
活断層データ 産業技術総合研究所 活断層データベース(J-SHIS準拠)
地震確率データ 地震調査研究推進本部(防災DBが加工・提供)
避難場所情報 国土数値情報(避難施設データ)p20
一関遊水地・河川地形情報 国土交通省東北地方整備局岩手河川国道事務所
台風19号全国被害 内閣府防災情報(2020年3月時点最終報)
一関市公式防災情報 一関市防災情報ページ(2024年確認)

本記事のデータは公表時点(各項目記載の年次)のものであり、最新のハザードマップや自治体の地域防災計画は随時更新される。必ず一関市の公式情報も併せて確認いただきたい。


著者:防災DB編集部 / 公開日:2026年4月4日 / カテゴリ:エリア別リスク解説