稲沢市の災害リスクと過去の被害記録|洪水・地震・伊勢湾台風の歴史年表

愛知県稲沢市は、防災DBによる125mメッシュ解析で統合リスクスコア91/100(極めて高い)を記録している。洪水・地震・高潮の全スコアが最高値100に達しており、濃尾平野に立地する宿命ともいえる複合的な災害リスクを抱える街だ。NIEDの災害事例データベースには稲沢市(旧稲沢市・祖父江町・平和町)の計91件の被害記録が残り、1891年の濃尾地震では地域全体で死者394人・全壊6,098棟という壊滅的な被害を受けた。

稲沢市の災害リスクの全体像

防災DBが125mメッシュデータを用いて算出した稲沢市のリスクプロファイルは以下の通りだ。

リスク種別 スコア(0-100) 特記事項
洪水 100 木曽川氾濫で最大浸水深10m想定
津波・高潮 100 高潮浸水メッシュ13,510件
地震 100 30年以内震度6弱以上確率 最大75%
土砂災害 50 市内ハザード区域9箇所(平坦地のため限定的)
液状化 60 沖積低地・旧河道で危険性高い
統合リスクスコア 91 リスクレベル:極めて高い

なぜ稲沢市はこれほど災害リスクが高いのか

答えは地形にある。稲沢市は濃尾平野の中央部に位置し、木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)が形成した沖積平野の上に立地している。平野西部は養老断層を境に傾斜しており、河川が西側へ水を集める構造になっているため、稲沢市周辺は歴史的に「水が来れば逃げ場のない低地」となりやすかった。

平均表層地盤S波速度(AVs30)は172m/sと軟弱で、地震動増幅率は2.04倍に達する。つまり、震源から距離があっても地盤が揺れを増幅させる。濃尾地震の被害がこれほど深刻だったのも、柔らかい沖積地盤が揺れを何倍にも増幅したためだ。

江戸末期〜明治初期にかけて木曽三川流域には輪中(集落を堤防で囲む水害対策)が80箇所以上形成されたが、その9割が木曽川右岸(西岸)側に集中していた。輪中という文化的遺産が、この地域の水害の深刻さを物語っている。

稲沢市の過去の主要災害

1891年(明治24年)濃尾地震 ― 死者394人・全壊6,098棟

1891年10月28日午前6時38分、岐阜県根尾谷断層がM8.0の巨大地震を引き起こした。日本史上最大規模の内陸地殻内地震であり、全国で死者7,273人・全壊家屋142,177棟の被害をもたらした。

稲沢地域(現稲沢市・祖父江町・平和町に相当する旧中島郡各村)では、NIEDデータベースに記録された被害合計だけで死者394人・全壊6,098棟・半壊4,000棟超に及ぶ。被害が特に大きかった地区では1集落だけで死者51人・全壊484棟、別の集落で死者45人・全壊493棟という壊滅的な記録が残る。

被害が甚大だった理由は二つある。まず、軟弱な沖積地盤が地震動を大幅に増幅させたこと。次に、当時の農家建築は重い瓦屋根を細い柱で支える構造で、強震に耐えられなかったことだ。震源(根尾谷)から稲沢まで直線距離で約60kmあるにもかかわらず、これほどの被害が生じたことは、地盤増幅の恐ろしさを如実に示している。

濃尾地震は現在の稲沢市の防災計画においても「想定外の大地震」の歴史的事例として参照されている(出典:稲沢市地域防災計画付属資料)。

1959年(昭和34年)伊勢湾台風 ― 死者7人・全壊300棟

1959年9月26日、台風15号(伊勢湾台風)が紀伊半島に上陸し、記録的な高潮と暴風が東海地方を直撃した。愛知県全体の死者は1,000人を超え、戦後最大の自然災害として記録された。

稲沢市では死者7人、全壊300棟・半壊690棟・床下浸水414棟の被害が記録されている(出典:稲沢市地域防災計画付属資料)。伊勢湾からの高潮は河川を逆流し、低平な稲沢市域を大きく浸水させた。この経験が、その後の伊勢湾沿岸の海岸堤防整備を促し、現在の高潮対策の原点となった。

1961年(昭和36年)6月 集中豪雨 ― 床下浸水4,173戸

1961年6月24日の集中豪雨では、市内複数エリアで大規模な浸水が発生した。床上浸水が874戸(388+246+240戸)、床下浸水が4,173戸超に達し、市内の相当範囲が水に覆われた。死者の記録はないが、生活への影響は甚大だった。

2020年(令和2年)台風10号 ― 河川被害1件

2020年9月5日、台風第10号の影響で市内河川に被害1件が記録されている。

稲沢市の過去の災害年表

年月 災害名 死者 主な被害
1891年10月28日 濃尾地震(M8.0) 394人 全壊6,098棟・半壊4,000棟超
1959年9月26日 伊勢湾台風 7人 全壊300棟・半壊690棟
1961年6月24日 集中豪雨 0人 床上874戸・床下4,173戸浸水
1979年 台風(記録あり) 記録なし 床下浸水多数
2004年 台風6号・23号 記録なし 被害記録あり
2020年9月5日 台風10号 0人 河川被害1件

※NIEDデータベース(稲沢市地域防災計画付属資料をもとに作成)

洪水・浸水リスク ― 木曽川氾濫で「14日間浸かる」可能性

防災DBの125mメッシュ解析によると、稲沢市内には洪水浸水想定区域が20万件以上のメッシュに及ぶ。主要な浸水リスク河川は以下の通りだ。

河川名 最大浸水深 平均浸水深 最長浸水継続時間
木曽川 10m 2.59m 336時間(14日間)
庄内川 5m 2.02m 336時間
矢田川 5m 0.52m 336時間
香流川 5m 0.55m 336時間

浸水深の感覚的なイメージを押さえておきたい。

  • 0.5m: 大人の膝上まで。歩行困難になり始める。
  • 1m: 大人の腰まで。歩行はほぼ不可能。
  • 2m: 1階天井まで浸水。木造住宅は浮く可能性。
  • 3m: 2階の床上まで。垂直避難でも危険な水位。
  • 10m: 3階以上の建物でなければ全滅する水位。

木曽川が計画規模を超えた大洪水を起こした場合、稲沢市の平坦な市街地の広範囲が最大2〜3メートル超の浸水に見舞われ、しかも2週間にわたり水が引かない可能性がある。これは「浸水したら数日で引く」という一般的な想定をはるかに超えるシナリオだ。

稲沢市はインタラクティブなWebハザードマップを公開しており、住所を入力することで自分の家の浸水深を確認できる(洪水ハザードマップWeb版)。

地震リスク ― 30年以内に震度6弱以上の確率は最大75%

防災DBの125mメッシュ地震確率データ(J-SHIS 2024年版)によると、稲沢市内の地震リスクは以下の通りだ。

  • 30年以内に震度6弱以上が起きる確率:平均66%、最大75%
  • 30年以内に震度5弱以上が起きる確率:平均95%、最大97%

これは全国平均と比べても極めて高い確率だ(全国平均の震度6弱以上確率は概ね5〜26%程度)。

周辺の活断層

稲沢市周辺には複数の活断層が存在する。

断層名 想定M 30年発生確率
養老山地西縁断層帯 7.0 0.5%
長良川上流断層帯 6.8 0.33%
濃尾断層帯主部 三田洞断層帯 6.5 0.2%
養老−桑名−四日市断層帯 7.2 0.003%
濃尾断層帯主部 根尾谷断層帯 6.8 ほぼ0
伊勢湾断層帯主部北部 6.7 ほぼ0

注目すべきは濃尾断層帯だ。1891年の濃尾地震を引き起こしたこの断層は、現在「次の大地震」の確率が「ほぼ0」とされているが、それは前回の地震(1891年)からまだ133年しか経っていないためだ。断層の「回帰間隔」(同じ断層が再び動くまでの平均時間)を考えると、1,000年〜数千年単位の話だが、断層がそこに存在すること自体が変わらないリスクである。

津波・高潮リスク ― 伊勢湾台風が示した内陸浸水の現実

稲沢市は海から約20kmの内陸に位置するが、防災DBの高潮浸水想定メッシュは13,510件にのぼる。これは伊勢湾の奥に位置する地理的条件を反映している。

伊勢湾は南向きの奥まった内湾で、南からの台風が直撃すると湾内の水位が急上昇する「高潮」が発生しやすい。1959年の伊勢湾台風時、伊勢湾では最大潮位が3.5mを超え、低平な稲沢市域まで浸水が到達した。

避難施設の一覧(主な広域避難場所)

稲沢市には計62か所の避難場所が指定されており、うち41か所が広域避難場所だ。代表的な施設を以下に挙げる。

施設名 住所 種別
三宅小学校 稲沢市平和町下三宅北出1 避難所・広域避難場所
六輪小学校 稲沢市平和町塩川52 避難所・広域避難場所
丸甲小学校 稲沢市祖父江町甲新田芝八5-2 避難所・広域避難場所
祖父江中学校 稲沢市祖父江町上牧下川田456 避難所・広域避難場所
市民会館 稲沢市正明寺三丁目114 避難所・広域避難場所
勤労福祉会館 稲沢市朝府町5-1 避難所・広域避難場所
国分小学校 稲沢市矢合町三島屋敷3440 避難所・広域避難場所
大塚小学校 稲沢市大塚北九丁目68 避難所・広域避難場所
千代田中学校 稲沢市福島町比舎田17 避難所・広域避難場所
治郎丸中学校 稲沢市次郎丸柳町1-1 避難所・広域避難場所

木曽川沿い(市西部)は大洪水時に全域が浸水する可能性があるため、平時から避難所の場所と行き方を確認しておくことが重要だ。特に「垂直避難(上の階への避難)」と「水平避難(高台・指定避難場所への移動)」のどちらが自宅周辺で有効かを事前に判断しておく必要がある。

今からできる備え

まず確認すること

稲沢市の公式防災ページでは、各リスクに対応したハザードマップが無料で公開されている。

稲沢市で特に重要な備え

  1. 洪水の「336時間(2週間)」を想定した備蓄: 木曽川氾濫の場合、最長2週間水が引かない可能性がある。飲料水・食料・医薬品は最低2週間分を確保することを検討したい。

  2. 早期避難の徹底: 木曽川が氾濫した場合、短時間で浸水深が数メートルに達する地区がある。「まだ大丈夫」と判断して避難が遅れると逃げられなくなる危険がある。市からの早期避難情報(レベル3〜4)が出た段階で即座に行動すること。

  3. 自宅の耐震補強: 30年以内の震度6弱以上確率が75%に達する地域では、建物の耐震性が命を守る直接の手段になる。旧耐震基準(1981年以前に建設)の建物は早急に耐震診断を受けることを推奨する。稲沢市では耐震診断・補強の補助制度が設けられている。

  4. 避難所の事前確認: 洪水時と地震時では最適な避難所が異なる場合がある。市のWebマップで自宅から最寄りの避難所までの経路を確認し、家族全員で共有しておこう。

データ出典

出典 種別
防災DB(bousaidb.jp)/ 125mメッシュ解析 統合リスクスコア・洪水深・地震確率・高潮メッシュ
NIED 自然災害データベース(稲沢市地域防災計画付属資料収録) 過去の災害事例(死者数・建物被害)
J-SHIS 地震ハザードステーション 2024年版 30年地震発生確率・地盤データ
国土交通省 洪水浸水想定区域データ 浸水深・継続時間
国土交通省 避難場所・施設データ(p20) 避難場所一覧
地震調査研究推進本部 活断層評価 断層諸元・発生確率
稲沢市 公式防災ページ ハザードマップURL・避難所情報
内閣府 濃尾地震報告書 1891年地震の概要

著者:防災DB編集部|最終更新:2026年4月4日|データ基準日:2024年

本記事のリスクデータは防災DB(bousaidb.jp)の125mメッシュ解析に基づいています。データや記事内容へのフィードバックはサイト内のお問い合わせフォームからお寄せください。