岩沼市の災害年表|東日本大震災で181人が犠牲、市域の48%が浸水した宮城県の防災記録

著者: 防災DB編集部 | 最終更新: 2026年4月

宮城県岩沼市は、日本でも屈指の多重災害リスクを抱える自治体だ。2011年の東日本大震災では181名が犠牲となり、市域の約48%が津波と洪水によって水没した。さらに、東側の仙台湾からの津波リスク、西側を流れる阿武隈川の洪水リスク、そして宮城県沖地震の歴史が重なる。防災DB(bousaidb.jp)の統計では、岩沼市の統合リスクスコアは79点(100点満点)で「極めて高い」リスク区分に分類されている。

この街で暮らす、あるいは事業を展開するなら、複数の災害シナリオを同時に想定した備えが必須となる。


この街の災害リスクの特徴——なぜ岩沼市は複合リスクが高いのか

岩沼市は宮城県南部に位置し、東は仙台湾(太平洋)に、西は阿武隈川に挟まれた沖積低平地だ。市域の大半は海抜数メートルの平野部で、仙台空港とJR東北本線が通る交通の要衝でもある。

この地形的特性が災害リスクを複合化させている。海側からの津波内陸側からの洪水の両面からリスクを受ける構造であり、しかもどちらの水害でも市街地全域に浸水が広がりやすい。

防災DBの125mメッシュ解析では:

リスク種別 スコア(0-100) 最大想定浸水深
洪水 100 20m以上
津波 100 20m以上
地震 100
土砂災害 50
液状化 40
高潮 0

洪水・津波・地震の3カテゴリでいずれもスコア100を記録しているのは、宮城県内でも稀な事例だ。

地震リスクの高さ

地盤の平均S波速度(AVS30)は289.9 m/s(2024年時点)。関東平野の軟弱地盤(150〜200 m/s程度)と比べると固めだが、沿岸の低湿地では液状化リスクも存在する。防災DBの解析では、今後30年以内に震度6弱以上の地震が発生する確率は平均26%、最大62%に達する地点もある。震度5弱以上の確率は平均93%に迫る。

宮城県沖地震は歴史的にも繰り返し発生しており、岩沼市はその影響圏内に入り続けている。


過去の主要災害——詳細年表

2011年3月11日:東日本大震災

岩沼市史上、最も深刻な災害だ。

午後2時46分に発生したM9.0の超巨大地震は、最大震度7を宮城県内各地で記録した(岩沼市内は震度6強)。その後に押し寄せた津波は沿岸部の集落を次々に飲み込んだ。

被害の全容(復興庁・岩沼市公式資料より):

項目 数値
死者 181名
行方不明 1名
建物被害 5,428戸
市域の浸水面積 市域の約48%
農地被害 耕地1,870haのうち1,248ha(66.7%)が津波被害

特筆すべきは、海岸線に近い6地区が壊滅的な被害を受けたことだ。住宅が津波で流出し、集落そのものが消滅した地区もあった。仙台空港も浸水し、発災後しばらく機能停止に追い込まれた。

この災害はNIED(防災科学技術研究所)の当データセットには未収録のため、本記事では公的資料(復興庁・宮城県)をもとに記載している。

復興への道のりは長く、被災した沿岸集落の一部は現在も整備途上にある。岩沼市は「千年希望の丘」と呼ばれる防潮緑地公園を整備し、震災の記憶を後世に伝える取り組みを続けている。


2019年10月12日:令和元年東日本台風(台風第19号)

令和元年に東日本を縦断した台風第19号は、岩沼市でも浸水被害をもたらした。

項目 数値
床上浸水 9戸
床下浸水 37戸

(出典:令和元年台風第19号及び10月25日低気圧による災害に係る被害状況等について)

東日本大震災に比べると規模は小さいが、阿武隈川流域での越水・内水氾濫が発生した記録として重要だ。洪水ハザードマップが指定する浸水想定区域と被害地域がほぼ一致しており、「ハザードマップ通りの被害が起きる」という現実を示す事例となった。


1982年:台風第18号(9月10〜13日)

台風18号の影響で風水害が発生。床上浸水8戸を記録した。記録は岩沼市地域防災計画に基づく。


1981年:台風第15号(8月21〜23日)

台風15号による洪水。床上浸水3戸、河川被害12か所。特に河川への被害が多く、阿武隈川支流の護岸等が損壊したと記録されている。(出典:岩沼市地域防災計画)


1978年6月12日:1978年宮城県沖地震

宮城県沖を震源とするM7.4の地震。仙台市では死者28名が出た(宮城県全体)が、岩沼市での死者はゼロだった。しかし建物への被害は大きく:

項目 数値
全壊 2棟
半壊 31棟
一部損壊 267棟

(出典:岩沼市地域防災計画)

この地震以降、宮城県は地震対策の抜本的強化に取り組み、建物の耐震基準も見直された。岩沼市内の建物のうち、この年代以前に建てられた旧耐震基準の建物は現在も存在しており、リスク評価の際には注意が必要だ。


1958年:風水害

床上浸水221戸、負傷者11名、河川被害7か所。(出典:岩沼市地域防災計画)

1950年代の記録ではあるが、今日でも同様の台風・大雨が来れば同等以上の被害が発生し得る地形条件は変わっていない。


1956年:風水害

負傷者2名、河川被害1か所。(出典:岩沼市地域防災計画)


過去災害の全年表

災害名 種別 主な被害
2019年10月 令和元年東日本台風 風水害(洪水) 床上9、床下37
2011年3月 東日本大震災 地震・津波 死者181名、建物5,428戸、市域の48%浸水(※公的資料より)
1982年 台風第18号 風水害 床上浸水8
1981年 台風第15号 風水害 床上3、河川被害12か所
1978年6月 宮城県沖地震 地震 全壊2、半壊31、一部損壊267
1958年 風水害 風水害 床上221、負傷11、河川被害7か所
1956年 風水害 風水害 負傷2、河川被害1か所
1941年7月 風水害 風水害 河川被害(詳細不明)

洪水・浸水リスク——阿武隈川が最大の脅威

岩沼市の洪水スコアは100点満点だ。防災DBの125mメッシュ解析では、最大想定浸水深20m以上のメッシュも存在し、阿武隈川氾濫時の破壊的なポテンシャルがデータに表れている。

阿武隈川の脅威

阿武隈川(全長239km)は福島・宮城を縦断し、岩沼市で太平洋に注ぐ一級河川だ。河口付近の岩沼市は勾配がほぼゼロの沖積低地であり、水はけが極めて悪い。台風が日本列島を北上する際、台風の進行方向と阿武隈川の流向(北向き)が一致するため、流量が増加しやすいという構造的リスクを持っている。

防災DBが集計した洪水浸水想定区域の河川別データ:

河川名 浸水想定メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最長浸水継続時間
阿武隈川 12,035 10m 2.05m 336時間(14日間)
増田川 983 5m 0.67m 168時間
広瀬川 797 5m 0.86m 168時間
白石川 585 5m 2.03m 168時間
坪沼川 269 5m 2.53m 24時間
名取川 254 5m 0.91m 168時間
尾袋川 73 10m 2.47m 168時間

阿武隈川の最大浸水深10m、継続時間336時間(14日間)は特に深刻だ。浸水深2mは成人が立てない水位、3mは1階天井まで、5mは2階床上に達する。14日間の浸水継続は、建物の構造的ダメージと住民の長期避難を意味する。

1986年台風10号——駅と空港が水没した洪水

1986年8月、台風10号によって阿武隈川が破堤した。岩沼市内の鳩原地区堤防(右岸)が決壊し、JR岩沼駅と仙台空港が浸水した。宮城県全体では浸水面積15,117ha、浸水戸数20,105戸に上った。交通インフラへの被害は「岩沼市の洪水脆弱性」を全国に示す出来事となった。

(出典:みやぎ水害記録集・昭和61年8月洪水(宮城県))

この経験から、国と県による阿武隈川の大規模改修が加速した。しかし現在のハザードマップでも最大浸水深10mが想定されており、過去の洪水が「想定外」ではなく「想定内の繰り返し」であることを示している。


津波リスク——仙台湾に面する沿岸部の脅威

津波リスクスコアも100点満点。防災DBの解析では津波浸水想定メッシュが17,221に達し、沿岸部から内陸にかけて広範な浸水想定域が広がっている。

2011年東日本大震災では、市域の約48%が実際に浸水した。これは防災科学技術研究所の事後分析でも確認されており、岩沼市の津波ハザードマップが想定する浸水域とほぼ一致していた。

「一度起きたことは、また起きる」——これが岩沼市の津波リスクを考えるうえで最も重要な教訓だ。

岩沼市公式の津波ハザードマップ:
https://www.city.iwanuma.miyagi.jp/kakuka/010800/010801/tunamiHM.html


地震リスク——繰り返す宮城県沖地震

岩沼市を含む宮城県沿岸部は、歴史的に宮城県沖地震の影響圏内にある。1978年のM7.4、2011年のM9.0はいずれも宮城県沖を震源とし、岩沼市に甚大な被害をもたらした。

防災DBの地震確率データ(2024年時点):

指標
震度6弱以上・30年確率(市内平均) 26.4%
震度6弱以上・30年確率(市内最大) 62.2%
震度5弱以上・30年確率(市内平均) 92.9%

確率26%という数字はサイコロの1/6より大きい。30年後に同じ場所に住んでいるなら、「次の大地震」を経験する可能性は低くない。

なお、防災DBの活断層データでは岩沼市周辺に命名済み活断層の記録は存在しないが、これはプレート境界型地震(海溝型)のリスクが支配的であることを示唆している。


土砂災害リスク

土砂災害リスクスコアは50点。防災DBの125mメッシュ解析では土砂災害ハザード区域が2,760メッシュに及ぶ。ただし岩沼市の地形は大半が低平地であり、急傾斜地が集中する山間部に比べると相対的なリスクは低い。市西部の丘陵地帯には土砂災害警戒区域が指定されており、台風接近時には注意が必要だ。

土砂災害ハザードマップ(岩沼市公式):
https://www.city.iwanuma.miyagi.jp/bosai/bosai-bohan/bosai/hazardmap.html


岩沼市内の指定避難所一覧

以下は防災DBに収録された岩沼市内の指定避難所(28施設)の主要施設だ。

施設名 住所 種別
岩沼市民会館中央公民館 里の杜一丁目2-45 指定避難所
岩沼市総合体育館 里の杜一丁目1-1 指定避難所
岩沼中学校 桑原四丁目8-1 指定避難所
岩沼北中学校 相の原二丁目3-1 指定避難所
岩沼西中学校 三色吉字竹11 指定避難所
岩沼南小学校 桑原四丁目4-1 指定避難所
岩沼小学校 中央二丁目1-1 指定避難所
岩沼西小学校 松ヶ丘一丁目17 指定避難所
玉浦中学校 押分字新田東1 指定避難所
玉浦小学校 早股字小林396-1 指定避難所
名取高校 字朝日50 指定避難所
市民体育センター 桜二丁目8-30 指定避難所
ハナトピア岩沼 三色吉字雷神7-1 指定避難所
竹駒神社 稲荷町1-1 指定避難所

市内には指定避難所が28か所設置されている。居住地区に応じた最寄り避難所を事前に確認しておくこと。

公式避難所一覧:https://www.city.iwanuma.miyagi.jp/bosai/bosai-bohan/bosai/hinanjo.html


今からできる備え

岩沼市のリスクプロファイルは「洪水・津波・地震すべてが高リスク」だ。このことが意味するのは、単一の災害シナリオではなく、複数の複合シナリオを前提にした準備が必要ということだ。

公式防災リソース(最優先で確認)

具体的なアクション

  1. ハザードマップで自宅の浸水想定を確認する——洪水・津波それぞれの浸水深と避難経路を確認する
  2. 最寄りの指定避難所と複数の避難ルートを決める——複数の経路を把握し、浸水時に使えない道路を想定しておく
  3. 備蓄は最低7日分(可能なら14日分)——2011年震災では1〜2週間の物資不足が生じた
  4. 地震後の津波・洪水を念頭に置く——地震発生後は速やかに高台または避難所へ移動する習慣を持つ

より詳細なリスク情報は防災DB(bousaidb.jp)で岩沼市を検索してください。125mメッシュ単位のリスクマップと避難施設情報を無料で確認できます。


データ出典

データ 出典
洪水・津波・地震・土砂災害リスクスコア 防災DB(bousaidb.jp)125mメッシュ解析(2024年時点)
東日本大震災被害数値 復興庁「東日本大震災による岩沼市の被害状況」、宮城県「東日本大震災 岩沼市の記録」
過去の災害事例(1941〜2019年) NIED(防災科学技術研究所)自然災害データベース、岩沼市地域防災計画
洪水浸水想定区域(河川別) 国土交通省 阿武隈川水系洪水浸水想定区域(防災DBが集計)
1986年洪水 宮城県「みやぎ水害記録集・昭和61年8月洪水(台風10号)」
地震確率データ 地震調査推進本部 全国地震動予測地図(2024年版、防災DBが集計)
避難場所 国土数値情報 避難施設データ(nlftp_p20、2024年時点)
地形・河川情報 国土交通省「日本の川 阿武隈川」、阿武隈川水系河川整備計画