柏市の災害リスクと歴史:利根川・江戸川に挟まれた水害の街
千葉県柏市は、利根川・江戸川・小貝川という三大河川に囲まれた低地帯を抱え、関東屈指の洪水リスクを持つ都市だ。防災DBの統合リスクスコアは89点(極めて高い)。過去に記録された浸水被害は136件に上り、1947年のカスリーン台風では利根川の堤防が決壊し死者4名を出した。近年でも2019年の令和元年東日本台風(台風19号)で154棟が一部損壊した。
首都圏有数のベッドタウンとして人口約43万人を擁する柏市だが、その地盤の多くは軟弱な沖積低地。震度6弱以上の地震が30年以内に起きる確率は市内平均で63.2%に達し、水害・地震ともに対策が欠かせない街だ。
なぜ柏市は水害に弱いのか
柏市の地形を理解することが、防災の第一歩になる。
市域は大きく二つの地帯に分かれる。北東部の下総台地(標高20〜30m)は関東ローム層(火山灰土)が厚く堆積し、地盤は比較的安定している。一方、市の東側を南北に流れる利根川沿いの低地、南西部の江戸川沿いの低地、そして中央部の手賀沼・大堀川流域は標高0〜5m前後の沖積低地で、地盤が柔らかく水はけも悪い。
問題は、この低地帯に市街地・住宅地が広がっていることだ。
利根川は千葉県と茨城県・埼玉県の境界を流れる流域面積16,840km²の大河川で、流量は国内最大。柏市の東縁をかすめるように南下した後、野田市付近で江戸川と分岐する。この利根川と江戸川の「三角地帯」の内側に柏市の低地が広がっており、上流で大雨が降れば二重の洪水リスクにさらされる構造だ。
防災DBの125mメッシュ解析では、柏市内の洪水ハザードメッシュ数は以下の通りだ。
| 河川名 | 影響メッシュ数 | 想定最大浸水深 | 平均浸水深 | 浸水継続時間(最大) |
|---|---|---|---|---|
| 利根川 | 7,313 | 10.0m | 4.12m | 336時間(14日) |
| 江戸川 | 3,405 | 10.0m | 3.77m | 336時間(14日) |
| 小貝川 | 2,475 | 5.0m | 2.2m | 336時間(14日) |
| 利根運河 | 478 | 5.0m | 3.36m | 336時間(14日) |
| 大堀川 | 126 | 10.0m | 1.69m | 336時間(14日) |
浸水深の目安を示しておく。3mは1階天井まで、5mは2階床上まで、10mは3階建て建物が完全に水没するレベルだ。利根川・江戸川が最悪ケースで氾濫した場合、市内低地の一部では最大10mの浸水が想定されており、垂直避難も困難になる。
市内の低地では浸水継続時間が最長336時間(2週間)に達する想定もある。浸水が引くまで孤立が長期化するリスクは見逃せない。
過去の主要災害
1947年カスリーン台風:花野井で堤防決壊、死者4名
柏市最大の水害として語り継がれるのが、昭和22年(1947年)9月15日のカスリーン台風だ。
台風の上陸後、大量の降雨が利根川流域に集中。増水した利根川は各地で堤防を超え、埼玉県栗橋付近で決壊した水が関東平野を覆い尽くした。柏市の花野井地区でも利根川の堤防が長さ30〜50mにわたって決壊。農作業中だった一家3人と、救助に向かった消防団員1人が犠牲となった。
柏市が公式サイトで「かしわ・その時」として記録するこの水害は、戦後の利根川治水工事を加速させる契機となった。昭和30年(1955年)には船戸に揚水機場が完成し、排水能力が大幅に強化されたのは、この教訓によるものだ。
カスリーン台風による利根川の氾濫は、下流一帯で戦後最大の水害とされており、当時の浸水面積は埼玉・茨城・千葉の3県にまたがる広大なものだった。
1981年台風24号:柏市史上最大の浸水棟数
昭和56年(1981年)10月22日の台風24号では、柏市で床上浸水273棟、床下浸水432棟という、戦後最多の住宅被害が記録された(柏市地域防災計画より)。
市内全域で浸水被害が発生し、特に低地の住宅街で甚大な被害となった。
1982〜1990年代:繰り返す中規模水害
1980〜90年代は断続的な浸水被害が続いた。
| 年月 | 主な原因 | 床上浸水 | 床下浸水 |
|---|---|---|---|
| 1982年11月 | 台風・前線 | 97棟 | 446棟 |
| 1982年9月 | 台風18号 | 23棟 | 50棟 |
| 1983年9月 | 台風 | 4棟 | 53棟 |
| 1984年7月 | 前線豪雨 | 79棟 | 298棟 |
| 1985年6月 | 梅雨前線・台風6号 | 2棟 | 38棟 |
| 1991年9月 | 台風18号 | 81棟 | 180棟 |
出典: 柏市地域防災計画(風水害等編)
特に1984年7月11日の前線豪雨は、床上79棟・床下298棟と台風を超える被害を出した。梅雨期の集中豪雨も柏市にとっては深刻なリスクであることがわかる。
2004年台風22号:一部損壊も発生
平成16年(2004年)10月9日の台風22号では、床上浸水71棟・床下浸水98棟のほか、半壊2棟・一部損壊7棟が発生した。
2019年令和元年東日本台風(台風19号):154棟が一部損壊
令和元年(2019年)10月の台風19号は、関東・東北に甚大な被害をもたらした。柏市では床上浸水2棟・床下浸水1棟と浸水は限定的だったものの、一部損壊154棟を記録。強風による建物被害が市内各地で相次いだ。
洪水・浸水リスクの詳細
利根川氾濫シナリオ
柏市のハザードマップが想定する最悪ケースでは、利根川が氾濫した場合、市の東部・北東部の低地帯で最大10mの浸水が生じる。10mの浸水深は3階建て建物が完全に水没するレベルで、いかなる垂直避難も意味をなさない。
重要な点は浸水継続時間だ。利根川・江戸川・小貝川のいずれも、最大浸水継続時間は336時間(14日間)と想定されている。浸水が引くまでの2週間、孤立した状態で生活することになる可能性がある。
手賀沼・大堀川流域
市の中央部を流れる大堀川は手賀沼に注ぐ支流で、柏市内の住宅地と近接している。防災DBのデータでは最大浸水深10mと記録されており、特に北柏エリアでは5〜10mの浸水想定区域が広がる。
柏市は「内水ハザードマップ」も別途作成しており、下水道・排水路の能力を超えた際の浸水(内水氾濫)についても確認できる。
地震・液状化リスク
首都直下地震のリスク
防災DBの125mメッシュデータによると、柏市内で30年以内に震度6弱以上の地震が起きる確率は市内平均63.2%、最大値は99.4%に達する。震度5弱以上の確率は99.98%とほぼ確実で、何らかの大きな地震への備えは必須だ。
柏市が想定している地震シナリオは主に3つある。
- 柏市直下地震 — 市の直下で発生する地震
- 千葉県北西部直下地震 — 首都直下地震の一形態
- 大正型関東地震 — 1923年関東大震災の再来シナリオ
このうち千葉県北西部直下地震は、首都直下地震の一形態として政府が特に警戒するシナリオだ。
地盤と液状化
市内の平均地盤速度(Vs30)は216m/sで、軟弱地盤に分類される(一般に300m/s未満が軟弱地盤の目安)。下総台地の台地面では地盤が強い一方、利根川・手賀沼周辺の低地は液状化リスクが高い。
2011年の東日本大震災では、柏市の利根川周辺低地で液状化が発生したことが記録されている。千葉県の液状化しやすさマップでも、震度6強の地震ケースで柏市東部の河川沿い低地は「液状化の危険性が高い」エリアに該当する。
活断層については、関東平野の地下には複数の断層が存在するものの、柏市の近辺で地表に露出した主要活断層は確認されていない。地震リスクは断層型よりも、プレート境界の歪み蓄積や首都直下型地震によるものが主体だ。
土砂災害リスク
防災DBの土砂災害ハザードメッシュ数は132メッシュで、洪水・地震リスクに比べると相対的に低い。これは市域の多くが平坦な台地・低地で構成されているためだ。急傾斜地が少なく、崖崩れや土石流のリスクは限定的だが、台地縁辺部の傾斜地には注意が必要だ。
柏市のハザードマップでは土砂災害警戒区域についても確認できる。
避難施設
広域避難場所(4箇所)
| 施設名 | 住所 |
|---|---|
| 中原ふれあい防災公園 | 千葉県柏市中原1-28 |
| 廣池学園 | 千葉県柏市光ケ丘2-1-1 |
| 県立柏の葉公園 | 千葉県柏市柏の葉4-1 |
| (株)日立製作所柏総合グランド | 千葉県柏市日立台1-2 |
指定避難場所・避難所(合計140箇所)
市内140箇所の避難場所が指定されており、市立小中学校・公民館・体育館などが中心だ。主な施設の一部を紹介する。
| 施設名 | 住所 | 施設種別 |
|---|---|---|
| 中原中学校 | 柏市中原1816-2 | 指定避難場所・避難所 |
| 中原小学校 | 柏市中原1821-1 | 指定避難場所・避難所 |
| 二松學舎大学・付属沼南高校 | 柏市大井2590 | 指定避難場所・避難所 |
| 光ケ丘中学校 | 柏市光ケ丘4-23-1 | 指定避難場所・避難所 |
| 中央体育館 | 柏市柏下73 | 避難所 |
| 中央公民館 | 柏市柏5丁目8-12 | 避難所 |
| あけぼの山公園 | 柏市布施1940 | 指定避難場所 |
注意: 洪水時には浸水エリア内の避難所が使えなくなる可能性がある。特に低地にある避難所は、洪水ハザードマップと照合して自宅周辺の安全な避難先を事前に確認しておくことが不可欠だ。
最寄りの避難所は、柏市のウェブ版防災・ハザードマップで確認できる。
今からできる備え
自治体の公式防災情報を確認する
- 柏市洪水ハザードマップ(PDF): https://www.city.kashiwa.lg.jp/bosaianzen/anshinanzen/disaster/disaster_ready/bosaimap/hazardmap.html
- 柏市ウェブ版防災・ハザードマップ(PC・スマホ対応): https://www.city.kashiwa.lg.jp/bosaianzen/anshinanzen/disaster/disaster_ready/bosaimap/webmap.html
- 柏市内水ハザードマップ(下水道氾濫対応): https://www.city.kashiwa.lg.jp/gesuikomu/living_environment/gesui/hazardmap.html
- 水害(浸水等)履歴: https://www.city.kashiwa.lg.jp/bosaianzen/anshinanzen/disaster/disaster_ready/fusuigai/suigairireki.html
具体的な行動チェックリスト
洪水リスクが極めて高い柏市では、以下の備えが特に重要だ。
今すぐ確認
- ウェブ版ハザードマップで自宅・職場・学校の浸水想定深さを確認する
- 浸水継続時間(最大14日)を念頭に、2週間分の食料・飲料水を備蓄する
- 「いつ・どこに・どうやって」避難するかを家族で決めておく
洪水時の行動原則
- 水深50cmでは歩行が困難になる。早めの避難が命を守る
- 浸水が深い場合、垂直避難(上の階へ移動)を選択する
- 車での避難は冠水道路での水没リスクがあるため、台風接近前に移動を完了させる
地震対策
- 震度6弱以上確率が高い地域のため、家具固定・ブロック塀の点検が優先度が高い
- 低地に住む場合は液状化リスクを意識した建物調査(地盤調査)を検討する
柏市は20のコミュニティエリアごとに「防災カルテ」を作成しており、地区ごとの詳細なリスク情報を公開している。市役所(防災安全課)・各近隣センターでハザードマップの紙版を入手できる。
データ出典
| データ | 出典 | 時点 |
|---|---|---|
| 統合リスクスコア・洪水メッシュ | 防災DB(bousaidb.jp) | 2024年時点 |
| 洪水浸水想定(利根川・江戸川等) | 防災DB / 国土交通省洪水浸水想定区域 | 2024年時点 |
| 過去の災害被害 | 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース | 各災害発生時 |
| 過去の災害被害(詳細) | 柏市地域防災計画(風水害等編) | 2024年改訂版 |
| 1947年カスリーン台風の詳細 | 柏市公式サイト「かしわ・その時(第三回)」 | — |
| 地震30年確率 | 防災DB / 地震調査研究推進本部(2024年版) | 2024年時点 |
| 地盤Vs30 | 防災DB / 防災科学技術研究所 | — |
| 液状化リスク | 千葉県液状化しやすさマップ | 2016年時点 |
| ハザードマップ | 柏市公式サイト(防災安全課) | 最新版 |
| 避難場所情報 | 防災DB / 国土数値情報(nlftp) | — |
記事作成: 防災DB編集部 / 最終更新: 2026年4月
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