葛飾区の災害リスクと過去の被害年表|カスリーン台風で床上浸水5万棟超——荒川・江戸川・中川に囲まれた水害の街
1947年9月、カスリーン台風の濁流が利根川の堤防を突き破り、3日後に葛飾区に到達した。中川の堤防も亀有で決壊し、区全体が水没。床上浸水52,758棟、死者3人——東京都内最大の被害額を記録した大水害である。
防災DBの統合リスクスコアは91(極めて高い)。洪水100・津波100・高潮100・地震100と主要4項目がすべて最高値だ。葛飾区は荒川・江戸川・中川の3本の大河川に囲まれ、区のほぼ全域がゼロメートル地帯に含まれる。
葛飾区の地形——3本の大河川に囲まれた低地
葛飾区は東京都の東端に位置し、面積34.8km²。東に江戸川、西に荒川・綾瀬川、区内を中川が縦断し、南は新中川が流れる。この「河川に囲まれた低地」という地形が、葛飾区の水害リスクの根源である。
かつての地下水汲み上げによる地盤沈下でゼロメートル地帯が広がり、現在は堤防とポンプで水位を管理している。しかし堤防が越水・決壊した場合、水の逃げ場はない。
河川別の洪水リスク
防災DBの125mメッシュ解析によると、葛飾区内の主要河川の浸水リスクは以下の通りである。
| 河川名 | 影響メッシュ数 | 最大浸水深 | 平均浸水深 |
|---|---|---|---|
| 荒川 | 3,514 | 10.0m | 2.82m |
| 利根川 | 1,879 | 5.0m | 3.38m |
| 江戸川 | 1,704 | 10.0m | 3.18m |
| 綾瀬川 | 97 | 0.5m | 0.5m |
| 中川 | 93 | 5.0m | 1.26m |
荒川・江戸川で最大浸水深10m、利根川で5mが想定されている。利根川の平均浸水深3.38mは他の河川と比べても突出して高く、1階天井を優に超える水位が区の広範囲にわたって想定されている。
過去の主要災害
カスリーン台風(1947年9月)——都内最大の被害
1947年9月16日、利根川の堤防が埼玉県東村(現加須市)で決壊。濁流は3日間かけて南下し、19日に金町・柴又に流入した。同日、中川の堤防も亀有で決壊し、葛飾区全域が水没した。
- 床上浸水: 52,758棟
- 床下浸水: 1,370棟
- 死者: 3人
- 負傷者: 3人
- 行方不明: 1人
- 流失家屋: 27戸
- 倒壊: 67戸
- 浸水最深: 3.2m(新宿町1丁目・水元飯塚町付近)
損害総額は東京都内最高であった。この災害を契機に、1949年から中川放水路(現在の新中川)の建設が始まり、1963年に完成した。
キティ台風(1949年8月)
カスリーン台風からわずか2年後、キティ台風が東京湾に高潮をもたらし、葛飾区も再び浸水被害を受けた。
治水対策の進展
カスリーン台風・キティ台風の甚大な被害を受け、以下の治水事業が推進された。
- 新中川(中川放水路): 1949年着工・1963年完成。中川の水を東京湾に直接放流するバイパス河川
- 荒川放水路の強化: 堤防のかさ上げと強化
- 排水ポンプ場の整備: ゼロメートル地帯の内水排水
これらの対策により、1960年代以降、葛飾区で大規模な浸水被害は記録されていない。しかし、これは「水害が起きなくなった」のではなく、「インフラが想定内の災害を防いでいる」状態にすぎない。想定を超える降雨や複合災害が発生した場合、カスリーン台風級の被害が再現される可能性は否定できない。
地震リスク——震度6弱以上の確率は平均77.5%
防災DBの125mメッシュ解析(J-SHIS 2024年データ):
| 指標 | 平均値 | 最大値 |
|---|---|---|
| 30年以内に震度6弱以上 | 77.45% | 93.34% |
| 表層地盤S波速度(AVS30) | 169.9 m/s | — |
AVS30が169.9m/sと軟弱地盤であり、地震動が増幅されやすい。首都直下地震が発生した場合、震度6強以上の激しい揺れに見舞われる可能性が高い。
液状化スコアは60。区内の大部分が沖積低地であり、液状化のリスクは面的に広がっている。
高潮・津波リスク
高潮スコア100、津波スコア100。沿岸メッシュは6,237にのぼる。
葛飾区は直接海に面していないが、荒川・中川を遡上する高潮・津波の影響を受ける。江東5区の広域避難計画においても、葛飾区は浸水域に含まれている。
江東5区の広域避難計画
葛飾区は墨田区・江東区・足立区・江戸川区とともに「江東5区」として、大規模水害時の広域避難計画を策定している。
- 対象人口: 約249万人
- 避難方針: 浸水域外への「域外避難」が原則
- タイミング: 台風接近の3日前から段階的に
カスリーン台風の浸水深3.2mは2階床上に相当する。現在の想定はそれを大きく上回る10mが含まれており、区内での避難は困難。域外避難の準備が不可欠だ。
避難施設
葛飾区内には189箇所の避難施設が指定されている。ただし大規模水害時は区外避難が推奨される。地震などの水害以外の災害では区内避難所が有効。
今からできる備え
1. ハザードマップを確認する
2. 域外避難先を確保する
荒川・江戸川の同時氾濫シナリオでは区のほぼ全域が浸水する。浸水域外の知人宅・ホテルなど「区外に逃げる先」を事前に決めておくことが最重要。
3. 備蓄は2週間分
浸水継続が最大14日間と想定されている。電気・水道・ガスが長期間停止する可能性がある。
4. カスリーン台風の教訓を忘れない
1947年の被害は「過去の出来事」ではない。利根川の堤防が同じ場所で決壊すれば、濁流は再び葛飾区に到達する。治水インフラの限界を理解し、自らの避難計画を持つことが最大の備えとなる。
データ出典
- 防災DB(bousaidb.jp) — 統合リスクスコア、125mメッシュ解析データ、避難施設データ
- J-SHIS(地震ハザードステーション) — 地震動予測データ(2024年版)
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 洪水浸水想定区域、津波浸水想定
- 葛飾区史 — カスリーン台風の被害記録
- 葛飾区水害ハザードマップ — 区公式浸水想定
- 内閣府 カスリーン台風報告書 — カスリーン台風の詳細
防災DB