北九州市の災害リスクと歴史年表|洪水・高潮スコア共に100、過去死者175人の大水害を記録

防災DBが算出した北九州市の統合リスクスコアは84点(極めて高い)。洪水スコアと高潮スコアは共に満点の100という、日本全国でも類を見ない水害リスクの高さを示している。

1953年6月、梅雨前線による猛烈な豪雨が北九州一帯を直撃し、死者175人・全壊1,079棟・半壊2,500棟という未曾有の大水害が発生した。それから70年が経過した今なお、遠賀川・小波瀬川・紫川といった複数の大河川と、響灘・周防灘・豊前海の三海に囲まれた北九州市の地理的条件は変わっていない。この街に暮らす100万人超の市民にとって、水害は「過去の出来事」ではなく、常に現在進行形のリスクである。


なぜ北九州市は水害に弱いのか

北九州市は本州最西端の関門海峡に面し、北は響灘、東は周防灘、東南は豊前海と、三方を海に囲まれた地形をもつ。市内を流れる主要河川は遠賀川・小波瀬川・紫川・祓川・今川の5河川で、いずれも洪水浸水想定区域が広大に広がる。

防災DBの125mメッシュ解析によると、北九州市内の洪水浸水想定メッシュは合計13,291メッシュ(1メッシュ≒125m×125m)。そのうち浸水深3m以上が6,190メッシュ、5m以上が1,308メッシュに上る。浸水深3mは木造住宅の1階が完全に水没する深さ、5mは2階の床上まで水が達する深さに相当する。

さらに深刻なのが高潮リスクだ。沿岸部の高潮・津波浸水想定メッシュは26,964メッシュと、洪水の約2倍に達する。台風が豊前海沿岸に接近した際の高潮は最大20mの浸水深が想定されており(防災DB解析値)、これは6〜7階建てビルの屋上に達する高さである。


過去の主要災害

昭和28年(1953年)北九州大水害 — この街最大の惨事

1953年6月下旬、梅雨前線が九州北部に長期停滞し、門司地区の風師・戸の上山系では降水量646mmを記録する未曾有の豪雨が降り注いだ。山腹崩壊が相次ぎ、崩落箇所は600か所超に及んだ。

被害(北九州市域): 死者175人、行方不明8人、負傷626人、全壊1,079棟、半壊2,500棟、一部損壊109棟
(出典:北九州市地域防災計画付属資料編)

なお当時は市町村合併前であり、門司・小倉・八幡3市全体での死者・行方不明者は183人。西日本全体では死者・行方不明者1,001人に及ぶ「昭和28年西日本水害」の一部を形成した(出典:気象庁、Wikipedia)。

この水害の直接的な原因は、急峻な山地地形と都市化が進んだ低地の組み合わせにある。門司区の中心部は風師山・戸の上山に囲まれた谷底地形に位置し、短時間で大量の雨水が流れ込む構造を持っている。「天災は忘れた頃にやってくる」——この大水害は北九州市民の防災意識の原点として、市立平和資料館でも記録・展示されている。


平成11年(1999年)台風18号 — 高潮が市街地を飲み込む

1999年9月24日、台風18号が九州に接近し、北九州市では高潮が発生した。

被害(北九州市域): 死者2人、負傷6人、床上浸水295棟、床下浸水236棟、全壊5棟、半壊95棟、一部損壊537棟

同台風では熊本県不知火町で12人が高潮により死亡するなど九州全体で甚大な被害が発生した。北九州市の高潮スコア100という評価は、こうした過去の被害実績を踏まえたものでもある。


平成3年(1991年)台風17〜19号連続接近

1991年9月、台風が連続して接近。同年9月27日の台風では死者2人、一部損壊966棟という住宅被害が記録されている。1ヶ月に複数の台風が連続上陸するという最悪のシナリオが現実に起きた年であった。


昭和56年(1981年)7月豪雨

1981年7月7日、集中豪雨により死者3人、全壊11棟、半壊20棟、一部損壊87棟の被害が発生した。記録的な降雨により河川が氾濫し、市内各地が浸水した。


昭和28〜令和2年 全災害年表

発生年月 災害名・原因 死者・行不明 建物被害
1953年6月 梅雨前線豪雨(昭和28年大水害) 死者175・不明8 全壊1,079・半壊2,500
1959年7月 台風 死者2・不明1 全壊87・半壊116
1966年6月 洪水 全壊6・半壊5
1972年7月 昭和47年7月豪雨 死者2 全壊20・半壊33
1977年6月 台風・前線 全壊5・半壊14
1978年9月 台風18号 死者1 半壊281
1980年7〜8月 前線・洪水(3件) 全壊6・半壊30
1981年7月 集中豪雨 死者3 全壊11・半壊20
1985年6月 前線豪雨 死者2 全壊4・半壊52
1985年8月 台風12〜14号 死者1 一部損壊111
1991年9月 台風17〜19号(2件) 死者2 一部損壊966以上
1995年7月 洪水 床上浸水4
1999年6月 前線豪雨 死者1 半壊1
1999年9月 台風18号 死者2 全壊5・半壊95
2002年8月 台風15号 一部損壊1
2003年7月 前線豪雨 床上浸水10
2004年8〜9月 台風16〜18号(3件) 一部損壊187
2005年4月 台風・前線 負傷8
2005年9月 台風14号 一部損壊27
2006年6月 前線豪雨 半壊1
2006年9月 台風13号 半壊2・一部損壊69
2019年8月 前線大雨 一部損壊1
2020年7月 令和2年7月豪雨 全壊1・半壊2
2020年9月 台風10号 一部損壊18

(出典:北九州市地域防災計画付属資料編、NIED自然災害情報室データベース)


洪水・浸水リスク — 5つの大河川が牙を剥く

防災DBの125mメッシュ解析により、北九州市内の洪水リスクは以下の河川ごとに分布していることが分かった(2024年時点のデータ)。

河川名 浸水想定メッシュ数 最大浸水深 最長継続時間
遠賀川 4,781 5.0m 168時間(7日間)
小波瀬川 1,455 10.0m 336時間(14日間)
紫川 1,363 5.0m 168時間
祓川 815 5.0m 168時間
今川 532 5.0m 168時間
板櫃川 248 5.0m 168時間

特筆すべきは小波瀬川の最大浸水深10mという数値だ。10mは3階建て建物の屋上に迫る深さであり、完全に建物が水没する想定を意味する。同河川はまた継続時間が336時間(2週間)と極めて長く、洪水が長期化した際の孤立リスクが懸念される。

遠賀川は北九州市で最も広域に洪水を引き起こす河川で、4,781メッシュ(面積換算で約75km²相当)が浸水想定区域に含まれる。平均浸水深2.53mは「2階の床上まで浸水」する深さに相当する。


高潮リスク — 沿岸26,964メッシュが浸水想定

北九州市の高潮スコアは100(満点)。これは市内の沿岸部が大規模な高潮に対して極めて脆弱であることを示している。

防災DBの解析では沿岸部で26,964メッシュが高潮・津波浸水想定区域に含まれており、想定最大高潮浸水深は20m(中心気圧900hPaの猛烈な台風を想定)。若松区・門司区・小倉北区・八幡西区の沿岸低地が特に危険エリアとなる。

台風が豊前海から接近するルートで最悪の高潮が発生する。1999年台風18号では295棟が床上浸水したが、より強力な台風が直撃すれば被害は数十倍に膨らむ可能性がある。

北九州市は高潮ハザードマップを公開しており、居住地点のリスクを確認できる。


土砂災害リスク — 8,168メッシュが危険地帯

防災DBの土砂災害解析では、北九州市内で8,168メッシュが土砂災害リスク区域に分類される。1953年大水害でも門司区の風師山・戸の上山系での崩落が死者の大半を生み出したように、市内の急傾斜地は集中豪雨時に土石流・崖崩れのリスクを持ち続けている。

特に門司区・小倉南区・若松区の丘陵地では、梅雨・台風シーズンの大雨時に福岡県が土砂災害警戒情報を発令するケースが多い。居住地付近の土砂災害警戒区域は福岡県砂防情報システムで確認できる。


地震・活断層リスク — 周防灘断層帯に要注意

北九州市直下に著名な活断層はないが、近傍の活断層として周防灘断層帯が重要だ。山口県防府市沖から大分県国東半島北西沖に至るこの断層帯は、M7.6程度の地震を引き起こす可能性があり、30年以内の発生確率は2〜4%(「高い」グループ)と評価されている(地震調査研究推進本部、2009年評価)。

また、2005年3月に発生した福岡県西方沖地震(M7.0)は、震源の玄界島では全壊107棟・負傷19人の甚大な被害をもたらした。北九州市は福岡市から離れているが、同規模の地震が市の近傍で発生した際の揺れに備えておく必要がある。

防災DBが解析した北九州市内の地震確率(125mメッシュ)は以下の通り(2024年時点):
- 今後30年以内に震度6弱以上の揺れが起きる確率: 平均3.5%、最大20.1%
- 今後30年以内に震度5弱以上の揺れが起きる確率: 平均44.8%、最大90.1%
- 表層地盤のVs30(S波速度)平均値: 403.7 m/s(比較的良好な地盤)


津波リスク — 最大浸水深5mを想定

沿岸部を中心に最大津波浸水深5mが想定される(防災DB解析値)。門司区・若松区・小倉北区の海岸線に近いエリアが主な対象で、平均浸水深は約1mとなっている。

北九州市は津波ハザードマップ(平成29年2月作成)を公開している。沿岸部に住む方は事前に確認し、高台への避難経路を家族と確認しておくことが不可欠だ。


避難施設一覧(主な広域避難場所)

北九州市内には593か所の避難施設があり、うち23か所が広域避難場所に指定されている(国土数値情報、2024年時点)。

施設名 所在地 種別
勝山公園 小倉北区城内 広域避難地・一次避難地
三萩野公園 小倉北区三萩野 広域避難地・一次避難地
山田緑地 小倉北区山田 広域避難地・一次避難地
手向山公園 小倉北区赤坂四丁目 広域避難地・一次避難地
足立公園 小倉北区大字足原 広域避難地・一次避難地
文化記念公園 小倉南区田原五丁目 広域避難地・一次避難地
中央公園 戸畑区金比羅町 広域避難地・一次避難地
夜宮公園 戸畑区夜宮 広域避難地・一次避難地
美術の森公園 戸畑区西鞘ヶ谷 広域避難地・一次避難地
都島展望公園 戸畑区牧山 広域避難地・一次避難地
和布刈公園 門司区旧門司 広域避難地・一次避難地
大里公園 門司区不老町 広域避難地・一次避難地
桃園公園 八幡東区桃園 広域避難地・一次避難地
城山緑地 八幡西区屋敷 広域避難地・一次避難地
本城公園 八幡西区御開 広域避難地・一次避難地
皇后崎公園 八幡西区青山 広域避難地・一次避難地
響灘緑地 若松区大字安屋 広域避難地・一次避難地
奥洞海緑地 八幡西区本城 広域避難地・一次避難地

避難場所の詳細(対応災害種別・収容人数)は、防災DB 北九州市の避難施設検索または北九州市の防災情報マップ(G-Motty)で確認できる。


今からできる備え

ハザードマップの確認(最優先)

北九州市が公開している各種ハザードマップで、自宅の浸水リスクを必ず確認してほしい。
- 防災ガイドブック・ハザードマップ(洪水・土砂・高潮)
- 津波ハザードマップ
- 液状化危険度分布図

台風・豪雨への備え

北九州市では梅雨期(6〜7月)と台風シーズン(8〜9月)が最もリスクが高い。1953年大水害は6月末に発生している。この時期は気象情報を毎日確認し、大雨・洪水警報が発令されたら早めの避難行動を心がけたい。

  • 避難経路を「昼間・夜間・雨天時」で3パターン確認する
  • 非常用持ち出し袋(水3日分、食料3日分、薬、充電器)を準備する
  • 「警戒レベル3(高齢者等避難)」が発令されたら迷わず避難する
  • 洪水避難は「垂直避難(自宅2階以上)」が有効なケースもあるが、浸水深5m超の想定区域では必ず高台・避難所への移動が必要

防災DB(bousaidb.jp)では北九州市の詳細な125mメッシュリスクデータを無料で提供している。住所を入力するだけで自宅周辺の洪水・高潮・地震リスクを数値で確認できる。


データ出典

データ 出典 時点
統合リスクスコア(洪水・高潮・津波・土砂スコア) 防災DB(125mメッシュ解析) 2024年
過去の災害事例(死者数・建物被害) 北九州市地域防災計画 付属資料編(NIED自然災害情報室収録) 1953〜2020年
1953年大水害被害詳細 北九州市立平和資料館、RKBオンライン 2023年掲載
洪水浸水想定区域(河川別メッシュ) 国土交通省・福岡県公表データを防災DBが集約 2024年
高潮・津波浸水想定 福岡県高潮浸水想定区域図・北九州市津波ハザードマップをDBが集約 2024年
周防灘断層帯評価 地震調査研究推進本部 2009年評価
地震確率・地盤データ 地震調査研究推進本部「地震動予測地図2024年版」を防災DBが集約 2024年
土砂災害情報 福岡県砂防情報システム・国土数値情報を防災DBが集約 2024年
避難施設データ 国土数値情報 避難施設データ(P20)を防災DBが集約 2024年

本記事のデータはすべて公的機関が公開した情報に基づいており、防災DBが一次データを集約・解析したものです。防災DBは政府・自治体オープンデータを活用した完全無料サービスです。データの誤りや最新情報との差異を見つけた場合は、フィードバックをお寄せください。