大分県杵築市の災害リスクと歴史年表|洪水・津波・高潮が三重に迫る城下町

大分県杵築市は、国重要伝統的建造物群保存地区に指定された江戸時代の城下町として知られる一方、洪水・津波・高潮のスコアがすべて100という、全国でも屈指の複合災害リスクを抱える地域でもある。防災DBが算出した統合リスクスコアは87/100(リスクレベル:極めて高い)。別府湾に面した地形と、市内を縦横に走る河川網が、この街の防災上の急所となっている。

本記事では、NIEDの災害事例データベースに収録された16件の過去災害と、防災DBの125mメッシュ解析データをもとに、杵築市の災害リスクの全体像を解説する。


この街の災害リスクの特徴──なぜ杵築市は複合リスクが高いのか

杵築市は大分県北東部、国東半島の南側に位置し、別府湾(守江湾)に面した低地と、背後の山地が複雑に入り組む地形を持つ。この地形的条件が、洪水・津波・高潮という三つの水害リスクをいずれも最大レベルに押し上げている。

洪水リスクが100の理由

市内には桂川・安岐川・八坂川・武蔵川・高山川など多数の河川が流れる。これらの河川は山地から急勾配で流れ下り、別府湾へと注ぐ。防災DBの浸水想定データによれば、武蔵川沿いでは最大浸水深20m(想定し得る最大規模の降雨時)という数値が記録されている。20mとは6〜7階建てのビル相当の水位であり、低地部の住宅への影響は甚大となる。

主要河川の洪水浸水想定(防災DB・125mメッシュ解析、2024年時点)は以下のとおりだ。

河川名 浸水想定メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大継続時間
桂川 544メッシュ 10.0m 2.81m 12時間
八坂川 377メッシュ 5.0m 1.86m 24時間
安岐川 343メッシュ 10.0m 2.33m 24時間
武蔵川 257メッシュ 20.0m 1.11m 24時間
高山川 183メッシュ 5.0m 0.79m 24時間
双子川 176メッシュ 5.0m 1.27m
荒木川 158メッシュ 10.0m 2.41m 12時間
朝来野川 142メッシュ 5.0m 3.13m
都甲川 83メッシュ 5.0m 2.79m 12時間
吉松川 65メッシュ 5.0m 2.68m 12時間

浸水深の目安として覚えておいてほしい。0.5m(膝下)で歩行困難、1m(腰高)で転倒危険、3m(1階天井)で木造住宅倒壊リスク、5m(2階床上)で2階への垂直避難も危険となる。

津波・高潮リスクが100の理由

市の北東部には守江湾が広がる。守江湾は別府湾の入り口に位置し、安岐川・高山川が流れ込む遠浅の湾だ。この地形が南海トラフ巨大地震による津波を湾内に溜め込みやすくする。大分県は2023年11月に杵築市内の一部地区を津波災害警戒区域に指定しており、市の対策は標高8m以下の住民43地区を対象としている。

防災DBのデータでは、津波・高潮の浸水想定メッシュ数は6,797メッシュ(125m区画)にのぼり、最大浸水深は10m(2階建て住宅が完全に水没する水位)を記録している。

地震リスクと地盤

防災DBの地震確率データ(国土地理院・地震調査研究推進本部、2024年時点)によると、杵築市内の30年以内に震度6弱以上となる確率の平均は8.61%、最大値は55.9%に達する地点もある。震度5弱以上では平均75.4%という高水準だ。

一方、地盤の硬さを示すS波速度(AVS30)の平均は424.1m/sであり、これは比較的安定した岩盤に近い地盤を示している。ただし、河川沿いの低地や埋立地では軟弱地盤が局所的に存在するため、液状化や地盤増幅に注意が必要な地点もある。

大分県内の活断層については、別府−万年山断層帯が北方の別府市・由布市方面に位置し、杵築市全域に地震動の影響を及ぼす可能性がある(想定最大規模M7.6程度)。


過去の主要災害(詳細)

令和2年7月豪雨(2020年7月6日)──河川被害45件

2020年7月4日から続いた記録的大雨は、九州全土に甚大な被害をもたらした。杵築市でもNIEDデータによれば河川被害45件、床上浸水1件、床下浸水1件、一部損壊1件が記録されている。令和2年7月豪雨は熊本・球磨川流域での被害が特に大きく報じられたが、大分県内でも複数の市町村で浸水・土砂崩れが相次いだ。杵築市では特に内水氾濫と河川護岸への被害が集中した。

令和2年台風第10号(2020年9月6日)

同年9月には台風第10号が接近・上陸し、強風と豪雨が杵築市を直撃した。NIEDデータでは被害数値が未集計(最終報として登録)だが、大分県全体で停電・浸水・農業被害が発生した台風だ。

昭和57年(1982年)の連続災害

1982年は杵築市にとって試練の年だった。NIEDの杵築市地域防災計画添付資料によれば、同年7月23日の昭和57年7月豪雨、8月26日の台風第13号(8月25日〜28日の暴風雨)、そして9月28日の台風と、わずか2か月の間に3度の大型風水害に見舞われた。この連続被害は杵築市の地域防災計画が現在の体制へ改訂される契機の一つとなったとされている。

昭和54年台風第20号(1979年10月22日)

台風第20号では全壊棟数のデータが記録されており(数値は-2のコードで記録)、住家への被害が生じた。


過去の災害年表(全記録)

NIEDデータベースおよび杵築市地域防災計画添付資料に基づく記録一覧(2024年時点)。

年月日 災害名 種別 主な被害 出典
2020年9月6日 令和2年台風第10号 台風・暴風雨 大分県全域で停電・農業被害 NIED
2020年7月6日 令和2年7月豪雨 洪水・豪雨 河川被害45件、床上浸水1、床下浸水1、一部損壊1 NIED
1982年9月28日 台風(詳細不明) 台風 記録あり 杵築市防災計画
1982年8月26日 台風第13号 台風 8/25〜28の暴風雨 杵築市防災計画
1982年7月23日 昭和57年7月豪雨 豪雨 記録あり 杵築市防災計画
1981年7月10日 集中豪雨 豪雨 記録あり 杵築市防災計画
1981年7月1日 集中豪雨 豪雨 記録あり 杵築市防災計画
1980年9月9日 台風 台風 記録あり 杵築市防災計画
1980年7月8日 集中豪雨 豪雨 記録あり 杵築市防災計画
1980年6月29日 集中豪雨 豪雨 記録あり 杵築市防災計画
1979年10月22日 昭和54年台風第20号 台風 全壊あり 杵築市防災計画
1977年8月27日 豪雨 豪雨 記録あり 杵築市防災計画
1977年6月15日 豪雨 豪雨 記録あり 杵築市防災計画
1976年9月10日 昭和51年台風第17号 台風 記録あり 杵築市防災計画
1976年6月22日 豪雨 豪雨 記録あり 杵築市防災計画
1975年6月17日 豪雨 豪雨 記録あり 杵築市防災計画

※被害数値が「-2」と記録されている項目は、NIEDのコード上「被害なし」または「数値不明」を示す場合がある。


洪水浸水リスクをさらに深掘りする

桂川(最大浸水深10m)は杵築市の南部を流れ、市の中心部に近い地域を通過する。平均浸水深2.81mというデータは、「洪水が発生すれば多くの家屋が1階完全浸水となる」状況を意味する。

武蔵川の最大浸水深20mという数値は特に注意が必要だ。これはいわゆる「計画規模を超える想定最大降雨」シナリオ下の数値であり、武蔵川の谷部や旧河道沿いに位置する集落では、逃げ遅れが生死を分ける事態になりかねない。朝来野川の平均浸水深3.13mも見逃せない。平均値がこれだけ高いということは、浸水区域内のほぼ全域で1階が水没する規模の洪水が想定されているということだ。

市内の洪水浸水想定メッシュ総数は168,386メッシュ(125m区画)。1メッシュあたり約1.56ヘクタールと換算すると、広大な面積が浸水リスクゾーンに入っている計算になる。


土砂災害リスク

防災DBの土砂災害データによると、杵築市エリアの土砂災害警戒・特別警戒区域に関連するメッシュ数は14,168メッシュにのぼる。国東半島の山地を背後に持つ杵築市は、大雨時に土砂崩れ・急傾斜地崩壊・土石流が発生しやすい地形だ。特に内陸部の谷間や山麓に住む場合、洪水だけでなく土砂災害のリスクも考慮した避難行動が必要となる。


主な避難施設一覧

杵築市には90か所の避難施設が指定されている(2024年時点、防災DB調査)。主な施設の一部を示す。

施設名 所在地 種別
城山公園 杵築市大字杵築 一次避難所
天満公園 杵築市大字南杵築184-1 一次避難所
天満神社 杵築市大字南杵築 一次避難所
一松会館 杵築市大字南杵築184-1 一次避難所
大内小学校 杵築市大字大内4353-2 二次避難所
北杵築小学校 杵築市大字溝井454 二次避難所
八坂小学校 杵築市大字八坂2782-1 二次避難所
奈多公民館 杵築市奈多959番地2 二次避難所

自分の自宅から最寄りの避難施設を事前に確認しておくことが重要だ。特に洪水・津波警戒時は、低地にある施設への避難は逆効果になるケースがある。杵築市のハザードマップで自宅周辺の浸水想定と避難施設の位置を照らし合わせておこう。


今からできる備え

公式防災情報を確認する(必須)

具体的な備えのポイント

1. マイタイムライン(避難計画)を作る
台風や大雨は事前に進路が予測できる。「警戒レベル3(高齢者等避難)」が発令されたタイミングで動けるよう、家族で話し合っておく。

2. 非常用持ち出し袋の準備
最低3日分の水・食料、常備薬、充電バッテリー、防水袋に入れた重要書類(保険証のコピー、通帳)を準備する。

3. 南海トラフ地震への備え
地震発生後、津波到達まで数分〜数十分の猶予しかない。「揺れを感じたら即座に高台へ」という行動を家族で共有しておくことが命綱になる。

4. 防災DBで詳細データを確認
防災DB(bousaidb.jp)では杵築市の125mメッシュ単位の洪水浸水深・津波浸水深・地震確率データを無料で参照できる。自宅の住所を入力して、具体的なリスク数値を把握しておこう。


データ出典

本記事のデータは以下の公的一次情報に基づいている。

データ種別 出典 時点
統合リスクスコア・各種スコア 防災DB(bousaidb.jp) 2024年
洪水浸水想定(125mメッシュ) 国土交通省 洪水浸水想定区域データ(防災DBで処理) 2024年
津波・高潮浸水想定 国土交通省・各都道府県 津波浸水想定(防災DBで処理) 2024年
地震確率データ 国土地理院・地震調査研究推進本部 確率論的地震動予測地図 2024年版
地盤S波速度(AVS30) 国土地理院 表層地盤特性データ 2024年
過去の災害事例 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース・杵築市地域防災計画添付資料 2020年までの記録
避難施設情報 国土数値情報 避難施設(p20)(防災DBで処理) 2024年
土砂災害警戒区域 国土交通省 土砂災害警戒区域等データ(防災DBで処理) 2024年
津波災害警戒区域(大分県指定) 大分県(2023年11月28日指定) 2023年

著者:防災DB編集部
最終更新:2026年4月

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