下松市の災害リスクと歴史年表|洪水・津波・台風が重なる山口県の臨海都市

防災DB編集部 / 2026年4月更新


山口県下松市は、瀬戸内海に面した人口約5.6万人の臨海都市だ。日立製作所の工場群が集積する工業都市として知られる一方、防災DBの125mメッシュ解析によると、統合リスクスコアは81/100(極めて高い)を記録している。洪水・津波・高潮の3つのスコアがいずれも100/100という、臨海部特有の複合リスクを抱える市だ。

1981年以降のNIEDデータベースには、下松市に関連する災害記録が21件残っている。その中でも2004年の台風第18号は、笠戸島でインドネシア人船員19名が死亡するという衝撃的な被害をもたらした。この記事では、過去の災害履歴と現在のハザードデータを統合し、下松市で暮らす人が知るべきリスクを整理する。


下松市はなぜ災害に弱いのか——地形・地質から読む複合リスク

下松市は、中国山地から瀬戸内海へと流れ下る末武川・切戸川・平田川の3つの主要河川の下流部に位置する。市域の北部は山岳地形、南部は瀬戸内海に接する低地で、市街地の多くが沖積平野に形成されている。

この地形が意味するのは、大雨のたびに河川氾濫リスクが発生するという事実だ。北部の山地では土砂災害警戒区域が75カ所指定されており、山から海まで一体的な災害リスクが存在する。さらに市の南沖には笠戸島が浮かび、この島を含む海域では台風時の高波・高潮も深刻な脅威となる。

防災DBの地盤データによると、市内の平均表層地盤S波速度(Vs30)は531.7m/sで、軟弱地盤の多い沿岸低地としては比較的硬い値を示している。一方で、30年以内に震度5弱以上の揺れが発生する確率は平均53.4%、最大で94.3%に達するメッシュも存在し、地震リスクも無視できない水準だ。


過去の主要災害

2004年9月——台風第18号「ソングダ」、笠戸島で貨物船が座礁し19名死亡

下松市の災害史上、最も多くの人命が失われた事例が2004年9月の台風第18号による被害だ。

台風第18号は2004年9月7日、長崎県付近に上陸し、最大瞬間風速50m/sを超える暴風とともに山口県を直撃した。この台風で、下松市沖の笠戸島(かさどじま)にインドネシア船籍の貨物船「トリ・アルディアント号」が座礁。乗組員のインドネシア人19名が死亡、2名が行方不明となった。

台風第18号による山口県全体の死者は23名に上り、その多くがこの船舶事故による犠牲者だった。笠戸島は下松市の沖合に浮かぶ離島で、平時には海水浴場やキャンプ場で知られるが、台風時は高波が猛威を振るう。この事故は、日本の臨海部・離島特有のリスクを改めて示す出来事となった。

(出典:内閣府防災情報、平成16年台風第18号 被害情報)

1991年9月——連続台風(第17・18・19号)で1名死亡、建物16棟半壊

1991年秋、台風が相次いで日本に上陸した。9月から10月にかけて台風17号・18号・19号が連続して山口県に接近・上陸し、下松市では9月27日を含む複数の降雨事例で被害が発生した。死者1名、負傷者10名、半壊家屋16棟という人的・物的被害が記録されている。河川被害も2カ所で確認された。

1982年7月——昭和57年7月豪雨、床上浸水57件

1982年(昭和57年)7月は、西日本各地で記録的な豪雨が相次いだ。「昭和57年7月豪雨(長崎大水害)」として知られるこの豪雨は、長崎県を中心に甚大な被害をもたらしたが、山口県・下松市も例外ではなく、床上浸水57件、負傷3名、半壊1棟の被害が発生した。河川被害は10カ所に及んだ。

2009年7月——平成21年中国・九州北部豪雨

2009年7月21日、「平成21年7月中国・九州北部豪雨」が下松市を含む山口県を直撃した。下松市では床上浸水4件、床下浸水100件の水害が発生。半壊家屋も1棟確認された。

2001年3月——芸予地震(M6.7)

2001年3月24日、広島県・愛媛県境付近を震源とするM6.7の「芸予地震」が発生した。下松市でも揺れが観測され、山口県内で被害が確認されたことがNIEDデータベースに記録されている(下松市での具体的な被害数値は未集計)。


過去の災害年表

災害名・概要 主な被害
2009 7月 平成21年7月中国・九州北部豪雨 床上浸水4件、床下浸水100件、半壊1棟
2005 9月 台風第14号・前線 記録あり(被害数値未集計)
2005 3月 福岡県西方沖地震(M7.0) 記録あり
2004 9月 台風第18号(ソングダ) 死者20名(笠戸島船舶事故19名含む)、行方不明2名
2004 8月 台風第16号 床上浸水18件、河川被害2カ所
2004 6月 台風第6号 記録あり
2001 3月 芸予地震(M6.7) 記録あり
1996 8月 台風第12号 床下浸水2件
1993 8月 平成5年8月豪雨 河川被害2カ所
1993 7月 豪雨・洪水 河川被害2カ所
1991 9月 台風第17・18・19号(連続) 死者1名、負傷10名、半壊16棟、河川被害2カ所
1991 7月 豪雨 河川被害5カ所
1989 7月 豪雨 記録あり
1987 8月 台風第12号 一部損壊1棟
1987 7月 豪雨 記録あり
1985 6月 豪雨 床下浸水82件、一部損壊2棟
1984 8月 豪雨 記録あり
1982 7月 昭和57年7月豪雨 負傷3名、床上浸水57件、半壊1棟、河川被害10カ所
1981 6月 豪雨 床下浸水25件、河川被害12カ所

洪水・浸水リスク——末武川・切戸川・島田川の複数河川が氾濫リスクを抱える

防災DBの125mメッシュ解析によると、下松市では複数の河川が洪水浸水想定区域を持ち、洪水スコアは100/100という最高水準だ。

主要河川の洪水リスク

河川名 浸水リスクメッシュ数 想定最大浸水深 最大浸水継続時間
島田川 870メッシュ 5.0m 72時間
富田川 545メッシュ 5.0m 168時間(7日間)
末武川 341メッシュ 5.0m 72時間
切戸川 320メッシュ 5.0m 72時間
島地川 48メッシュ 10.0m 12時間
錦川 28メッシュ 10.0m 12時間
夜市川 117メッシュ 5.0m 72時間

浸水深の目安として覚えておきたいのが次の数値だ——浸水深1m前後で歩行が困難、2mで1階が完全水没、5mで2階軒下まで、10mになると3階建ての建物も1階・2階が完全に水没する。

特に富田川の最大浸水継続時間が168時間(7日間)という点は見逃せない。一度氾濫すると長期間にわたって浸水が続く可能性があり、早期避難が命綱となる。

下松市が公式に公開しているハザードマップでは、切戸川・平田川・末武川の3河川を対象とした浸水想定区域が示されている。山口県が令和2年3月に公表した「想定最大規模降雨」のデータに基づいており、計画規模を大幅に超える豪雨時の浸水深を把握できる。


土砂災害リスク——75カ所の警戒区域が山間部に集中

防災DBのデータによると、下松市内の土砂災害ハザード区域数は75カ所で、土砂災害スコアは50/100(中程度)だ。

市内の土砂災害ハザード区域は125mメッシュで35,862メッシュに及ぶ(市域概算範囲内)。これは市の北部から中部にかけての山間地・傾斜地に広く分布する。特に笠戸島は急峻な地形が多く、台風時には斜面崩壊のリスクも高い。

下松市のハザードマップでは、令和3年3月までに指定された土砂災害(特別)警戒区域が公開されている。山沿いに居住する方は必ず事前に確認しておきたい。


地震リスク——岩国・五日市断層帯が近接、30年確率最大36%の地点も

下松市は瀬戸内海北岸に位置し、岩国−五日市断層帯の影響圏内にある。防災DBのデータが捉えた関連断層は以下の通りだ。

断層名 想定マグニチュード 30年発生確率
岩国−五日市断層帯(己斐断層区間) M6.6 0.65%
広島湾−岩国沖断層帯 M6.9 0.37%
岩国−五日市断層帯(岩国断層区間) M7.0 0.28%
岩国−五日市断層帯(己斐・岩国同時活動) M7.3 0.09%

地震動の観点から見ると、下松市内で30年以内に震度6弱以上の揺れが発生する確率は平均4.76%、最大値のメッシュでは36.36%に達する。30年以内に震度5弱以上は平均53.4%だ。

地盤(Vs30)の平均値531.7m/sは、一般的な沿岸低地としては比較的硬い部類だが、軟弱な沖積地に建つ建物では液状化の可能性もある(液状化スコア5/100)。


津波・高潮リスク——瀬戸内海でも油断禁物、最大5mの浸水想定

「瀬戸内海は津波が来ない」という誤解は危険だ。下松市の津波スコアは100/100、想定最大浸水深は5.0mで、海岸線に近い低地は壊滅的な被害を受ける可能性がある。

防災DBの125mメッシュ解析によると、市内の海岸・沿岸リスクメッシュ数は11,989メッシュに及ぶ。高潮スコアも100/100で、台風接近時に海水が市街地に流入するシナリオは十分あり得る。

下松市は津波ハザードマップを公式に公表しており、最大クラスの津波が悪条件下で発生した場合の浸水域と浸水深を確認できる。沿岸部・海抜の低い地区に住む方は、ハザードマップで自宅の位置を確認しておくことが強く推奨される。


指定避難所・広域避難場所一覧

下松市には計30カ所の指定避難場所が設置されており、うち6カ所が広域避難場所として指定されている。

広域避難場所(主要6カ所)

施設名 住所
下松スポーツ公園 下松市大字河内140
下松工業高等学校 下松市美里町4-13-1
久保中学校運動場 下松市大字山田122
市民運動場 下松市大字末武下620-1
恋ヶ浜緑地公園 下松市大字東豊井551-1
華陵高校運動場 下松市大字末武上217-2

その他の主な指定避難所

下松中央公民館(大手町)、下松中学校体育館(古川町)、下松小学校体育館(西豊井)、下松市市民体育館(西柳)、下松市文化会館・スターピアくだまつ(中央町)、末武中学校体育館(美里町)、花岡小学校体育館(末武上)、東陽小学校体育館(東陽)など。

笠戸島には「セミナーハウス」「深浦公民館」「笠戸島公民館」が指定避難所として設定されているが、台風・高潮時には早めの本土への移動が重要だ。


今からできる備え

1. ハザードマップを今すぐ確認する

下松市公式のハザードマップは以下から取得できる。

自宅・職場・学校の位置をハザードマップ上で確認し、浸水深と土砂災害リスクを把握することが第一歩だ。

2. 防災DBで詳細な125mメッシュデータを確認する

防災DB(bousaidb.jp)では、下松市の125mメッシュ単位での洪水・土砂・津波・地震確率データを無料で確認できる。自宅の住所を入力することで、より精細なリスクデータを取得できる。

3. 避難タイミングを事前に決める

  • 台風接近時: 笠戸島や海岸沿いに住む方は、台風上陸の24〜48時間前に内陸・高台への避難を検討する
  • 大雨警報発令時: 末武川・切戸川・平田川の水位情報をYahoo!天気・災害などで継続監視する
  • 津波警報時: 沿岸から速やかに高台(標高5m以上)へ避難する

4. 非常用持ち出し袋を準備する

下松市は富田川の最大浸水継続時間が168時間(7日間)に達するリスクがある。短期的な避難で済まない可能性を考慮し、1週間分の食料・水・医薬品を準備しておきたい。


データ出典

データ 出典 時点
統合リスクスコア・洪水浸水想定 防災DB(bousaidb.jp) / 国土交通省 浸水想定区域データ 2024年時点
過去の災害事例 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース 1981年〜2009年の記録
活断層データ 地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図 2024年版
避難場所データ 国土数値情報 避難施設データ(nlftp_p20) 2024年時点
台風第18号被害詳細 内閣府防災情報、Wikipedia「平成16年台風第18号」 2004年
ハザードマップ情報 下松市役所公式ウェブサイト 令和2〜3年公表版
地震確率 防災DB 125mメッシュ地震確率データ(J-SHIS元データ基づく) 2024年版

この記事は防災DB編集部が公的データをもとに作成しました。数値は各データソースの公表時点における情報です。最新のハザードマップは下松市公式サイトでご確認ください。