串間市の災害リスクと歴史:洪水・津波・台風が繰り返す宮崎最南端の街
宮崎県串間市では、1959年以降だけでも134件の災害被害がNIED(防災科学技術研究所)に記録されている。最南端という地理的条件が重なり、防災DBの統合リスクスコアは89/100(極めて高い)。洪水・津波・高潮・地震のすべてが満点(100点)という、複合リスクの極致ともいえる市だ。
この街に住む・働く・不動産を購入するのであれば、まず把握すべきは「どの災害が、いつ、どこで、どれほどの規模で起きたか」という事実だ。本稿ではBQデータとWeb調査をもとに、串間市の災害リスクを構造的に解説する。
串間市の地理:なぜこれほど災害に脆弱なのか
串間市は宮崎県の最南端に位置し、東は日向灘、南は志布志湾に面する半島状の地形を持つ。市街地中心部は福島川の長年の沖積作用によって形成された低平地にあり、背後は起伏の激しい丘陵地帯が広がる。
この地形は3つの大きな脆弱性をもたらしている。
第一に、河川氾濫リスク。福島川(全長約28km、流域152km²)は市中心部を南流して志布志湾に注ぐ。市街地が川の最下流部の低地に集中しているため、上流での大雨が即座に市街地への浸水につながる構造だ。防災DBの125mメッシュ解析では、福島川の氾濫区域で最大浸水深20mが記録されており、これは国内の河川氾濫想定としても突出した数値だ。
第二に、海からの脅威。日向灘・志布志湾の両方に面することで、台風による高潮・波浪を東西どちらからも受ける。さらに南海トラフ巨大地震による津波のリスクが常に存在する。
第三に、山地の土砂。背後の丘陵地帯は土砂災害ハザード区域を54箇所抱え、集中豪雨時には土石流・崖崩れの危険がある。
防災DB リスクスコア(2024年時点)
| 災害種別 | スコア(/100) | 詳細 |
|---|---|---|
| 洪水 | 100 | 最大浸水深20m(福島川)、浸水区域195,215区画 |
| 津波 | 100 | 最大浸水深10m、浸水区域108,599区画 |
| 高潮 | 100 | 日向灘・志布志湾の双方から |
| 地震 | 100 | 震度6弱以上30年確率:平均8.6%、最大56.0% |
| 土砂災害 | 50 | ハザード区域54箇所 |
| 液状化 | 40 | 沖積低地の一部 |
| 総合 | 89(極めて高い) | — |
洪水・津波・高潮・地震の4項目が満点という市は、全国的にも稀だ。これは単なる「リスクの高さ」ではなく、「複数の深刻なリスクが同時に存在する」ことを意味する。
過去の主要災害(詳細)
1959年7月の台風(最大規模の被害)
1959年7月15日、台風による大雨が串間市を直撃した。死者1名、床上浸水397棟・床下浸水1,018棟、全壊20棟・半壊36棟という戦後最大規模の浸水被害が記録されている。床上浸水397棟は、当時の市街地の大半が水没したことを示す。出典:NIED自然災害データベース。
1964年9月の台風(構造物被害が深刻)
1964年9月23日の台風では、死者等の人的被害の記録は残っていないが、全壊82棟・半壊87棟という構造物への甚大な被害が生じた。昭和30〜40年代の木造住宅密集地において、これだけの全半壊が記録された台風は特筆に値する。NIED記録。
1961年の連続被害
1961年は3度の大きな被害を受けた。
- 7月31日:床上32棟・床下321棟浸水
- 9月14日:全壊3棟・半壊4棟、床下101棟
- 11月21日:床上120棟・床下292棟
1年間で計453棟超が床上・床下浸水した計算になる。この年の繰り返し浸水が、後の河川改修の原動力になったとされている。NIED記録。
1966年7月の風水害
1966年7月7日の風水害では床上浸水24棟・床下浸水540棟。同年6月22日にも別の大雨で65棟床下浸水が記録されており、この年も被害が続いた。NIED記録。
2020年7月豪雨
令和2年7月豪雨(令和2年7月3日〜)でも串間市で床下浸水4棟・半壊1棟が記録された。気象庁命名災害が直撃した現代においても、洪水被害は継続している。出典:NIED災害事例データベース。
全災害年表
| 年 | 月日 | 種別 | 主な被害 |
|---|---|---|---|
| 1959 | 7/15 | 台風・風水害 | 死者1、床上397、床下1,018、全壊20、半壊36 |
| 1961 | 7/31 | 風水害 | 床上32、床下321 |
| 1961 | 9/14 | 風水害 | 全壊3、半壊4、床上3、床下101 |
| 1961 | 11/21 | 風水害 | 床上120、床下292 |
| 1962 | 5/26 | 風水害 | 床下15 |
| 1963 | 8/7 | 風水害 | 床下20 |
| 1963 | 8/28 | 風水害 | 死者1 |
| 1964 | 8/23 | 風水害 | 半壊1 |
| 1964 | 9/23 | 台風 | 全壊82、半壊87 |
| 1965 | 5/26 | 風水害 | 床上17 |
| 1966 | 6/22 | 風水害 | 床下65 |
| 1966 | 7/7 | 風水害 | 床上24、床下540、全壊2、半壊4 |
| 1966 | 8/12 | 台風 | 床上5、床下50 |
| 1971 | 8/27 | 台風 | 床上7、床下207、全壊3、半壊4 |
| 1975 | 6/16 | 風水害 | 床下36、全壊1、半壊1 |
| 1976 | 6/22 | 風水害 | 床下9、半壊1 |
| 1983 | 9/25 | 台風 | 床上10、床下33 |
| 1984 | 8/25 | 台風 | 床上1、床下19 |
| 2020 | 7/3 | 令和2年7月豪雨 | 床下4、半壊1 |
※ NIEDデータベースに被害数値のない記録は除外。1959〜2020年の主要被害記録のみ掲載。
洪水・浸水リスク:河川別の深刻度
防災DBの125mメッシュ解析(洪水浸水想定データ)によれば、串間市域の洪水リスクは以下の6河川が支配的だ。
| 河川名 | 浸水想定区域(メッシュ数) | 最大浸水深 | 平均浸水深 |
|---|---|---|---|
| 広渡川 | 1,693区画 | 10.0m | 3.26m |
| 福島川 | 978区画 | 20.0m | 3.33m |
| 細田川 | 602区画 | 5.0m | 1.49m |
| 潟上川 | 212区画 | 10.0m | 2.0m |
| 本城川 | 181区画 | 3.0m | 1.19m |
| 市木川 | 151区画 | 5.0m | 0.91m |
浸水深の目安として押さえておきたい数値がある:浸水深0.5〜1mで膝から腰まで水が来て自力避難が困難になる。1〜2mで1階が水没。3mで1階天井まで到達。5mで2階床上まで。そして福島川の最大20mという想定は、2階建て住宅の屋根を大きく超える。
広渡川は浸水面積(メッシュ数)でトップだが、福島川の最大浸水深は国内でもかなり極端な数値だ。これは「河川の計画規模」を超えた最大規模の洪水(L2)を想定したものであり、千年に一度クラスの降水量が発生した場合の推計値だが、過去134件の災害記録が示すように、串間市では「想定外」が現実になってきた歴史がある。
津波・高潮リスク
南海トラフ巨大地震による津波
串間市の沿岸部は南海トラフ地震発生時に深刻な津波リスクを抱える。防災DBの津波浸水想定データでは、最大浸水深10m、浸水区域108,599区画(125mメッシュ)という数値が記録されている。
串間市は東の日向灘・南の志布志湾の双方に開口した海岸線を持ち、南海トラフ地震では複数方向からの津波エネルギーを受ける構造にある。串間市が公開する津波ハザードマップ(福島地区等)では地区別の浸水深が確認できる。
高潮リスク
高潮スコアも100/100。台風が南岸または南東から接近した際、志布志湾や日向灘沿岸部では高潮による浸水が発生しやすい。1959年・1961年の台風被害は台風本体の雨だけでなく高潮が複合した可能性が高い。
沿岸部のメッシュ解析では8,778区画(125mメッシュ)が津波・高潮浸水リスク域に含まれる。
地震リスク:南海トラフが支配する確率
防災DBの125mメッシュ地震動解析(2024年版)によれば、串間市域の震度6弱以上30年発生確率は以下の通りだ。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 市域平均(震度6弱以上・30年確率) | 8.6% |
| 市域最大(震度6弱以上・30年確率) | 56.0% |
| 市域平均(震度5弱以上・30年確率) | 69.0% |
| 市域最大(震度5弱以上・30年確率) | 99.7% |
| 表層地盤S波速度(平均Avs30) | 498.7 m/s |
市域の最大値56%というのは、市内に局所的に「過去30年で半分以上の確率で震度6弱以上が来る」エリアが存在することを示す。主因は南海トラフの巨大地震リスクだ。2011年の東北地方太平洋沖地震以降、南海トラフでのM9クラスの地震への備えが急務とされており、串間市はその影響圏の最南端部に位置する。
活断層としては、日向峠-小笠木峠断層帯(M6.7想定、30年発生確率0.1%)が宮崎県北部に存在するが、串間市への直接的な影響は限定的と推定される。むしろ南海トラフ地震の海溝型地震が主要リスクだ。
土砂災害リスク
串間市域の土砂災害ハザード区域数は54箇所(2024年時点)。防災DBの土砂災害リスクメッシュは55,161区画に及ぶ。
市の大部分を占める丘陵地帯は軟弱な地質も含み、集中豪雨時に土石流・地すべり・急傾斜地崩壊が発生しやすい。過去の台風被害でも、洪水と土砂崩れが同時多発したケースが記録されている。2020年7月豪雨でも県内で土砂災害が相次いだ。
避難施設一覧(主要箇所)
串間市内の指定避難場所は計83箇所(広域避難場所は指定なし)。主な公共施設系の避難所を以下に示す。
| 施設名 | 住所 | 区分 |
|---|---|---|
| 串間市役所 | 串間市西方5550 | 避難所 |
| 串間市総合体育館・中央公民館 | 串間市大字西方9050番地 | 避難所 |
| りんぽかん保育園 | 串間市大字西方14894 | 避難所 |
重要:各地区の公民館・集落センターが避難所の中心。津波・洪水の際は海岸や低地から離れた高台の施設を選ぶことが前提だ。市の公式ハザードマップで自宅近くの避難所と経路を事前確認することを強く推奨する。
今からできる備え
公式情報の確認(必須)
- 串間市防災・ハザードマップページ:https://www.city.kushima.lg.jp/main/safety/cat/cat4/
- 土砂災害・洪水ハザードマップ:https://www.city.kushima.lg.jp/main/safety/cat/cat4/cat/
- 津波ハザードマップ(福島地区):https://www.city.kushima.lg.jp/main/city/66a98f62e91f4bcc931c72256f3b02386bf2f48a.pdf
- 地域防災計画:https://www.city.kushima.lg.jp/main/safety/cat/cat5/post-108.html
具体的な行動
- 自宅の浸水リスクを確認:防災DB(bousaidb.jp)または市公式ハザードマップで現住所の浸水深・土砂リスクを確認する
- 避難経路の事前確認:津波の場合は「高台」、洪水の場合は「浸水区域外の建物」が基本。市内は83箇所の避難場所があるが、津波・洪水では目的地が変わる
- 早期避難の習慣化:串間市の過去の被害記録が示すように、気象警報・避難指示が出た場合は「様子を見る」ではなく即座に避難する判断が命を守る
- 備蓄:最低3日分(できれば1週間)の食料・飲料水・医薬品。台風接近時は事前備蓄が特に重要
- 南海トラフ地震への備え:地震発生後は即座に高台へ。津波が到達するまでの時間は海岸から数分の場合もある
データ出典
| データ | 出典 |
|---|---|
| 統合リスクスコア・各種リスクスコア | 防災DB(bousaidb.jp) / 防災科学技術研究所・国土交通省等のオープンデータを集約・解析 |
| 洪水浸水想定区域 | 国土交通省 洪水浸水想定区域(防災DBが125mメッシュに集約) |
| 津波浸水想定区域 | 国土地理院・各都道府県公表データ(防災DBが集約) |
| 土砂災害ハザード区域 | 国土交通省 土砂災害警戒区域データ(防災DBが集約) |
| 地震動予測 | 地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版 |
| 活断層データ | 地震調査研究推進本部 活断層評価 |
| 過去の災害事例 | NIED 自然災害データベース(1959〜2020年) |
| 地理・地形情報 | 国土地理院、串間市公式ウェブサイト |
| 避難場所情報 | 国土交通省 国土数値情報 避難施設データ(2024年版) |
| 串間市公式防災情報 | https://www.city.kushima.lg.jp/main/safety/cat/cat4/ |
本記事は防災DB編集部が2026年4月時点の公開データをもとに作成しました。数値は最大クラスの想定(L2)を含み、実際の被害はハザードマップの条件に依存します。最新情報は必ず自治体公式ページでご確認ください。
著者:防災DB編集部
防災DB