松阪市の災害リスクと歴史年表|洪水・南海トラフ地震・津波が重なる三重の要注意エリア

松阪市は三重県中部に位置する人口約16万人の都市だ。「松阪牛」や江戸時代の豪商・三井高利の出身地として知られる一方、洪水・地震・津波・高潮の4つのリスクが重なる日本でも有数の複合災害危険地帯でもある。防災DBの125mメッシュ解析による統合リスクスコアは100点満点中89点(評価:極めて高い)。洪水スコア・津波スコア・高潮スコア・地震スコアはいずれも満点の100点を記録している。

過去500年以上に遡る記録には、明応地震(1498年)の津波、宝永地震(1707年)、東南海地震(1944年)、昭和57年7月豪雨(1982年、死者19名)など、繰り返し甚大な被害が刻まれている。本記事では、防災DBの一次データと自治体の公式情報をもとに、松阪市の災害リスクを徹底的に解説する。


なぜ松阪市はこれほど危険なのか

松阪市の市街地は、雲出川・櫛田川などが形成した低平な沖積平野に広がっている。国土地理院の地形分類では「氾濫平野」に該当するエリアが市域の大半を占める。平野部は海抜が低く、川と海の両方に囲まれた地形が洪水・津波双方のリスクを高める。

さらに、松阪市は南海トラフ巨大地震の震源域に近い。防災DBの解析では、市内の一部エリアでは30年以内に震度6弱以上の揺れが発生する確率が最大79.9%に達する。全市平均でも28.6%と、全国平均を大きく上回る。

加えて、市南部・山間部には急峻な斜面が多く、土砂災害ハザードメッシュ数は1,825メッシュ(125m換算)。津波・高潮の影響メッシュ数は30,606に上り、市の相当部分が沿岸リスクにさらされている。


過去の主要災害

昭和57年7月豪雨(1982年7月)― 戦後最大の水害

1982年7月11日、梅雨前線と台風第10号が重なり、三重県を中心に記録的な豪雨が発生した。松阪市では死者19名、負傷者8名、行方不明2名という深刻な被害が出た。

床上浸水3,965棟、全壊38棟、半壊42棟という被害規模は、市の戦後最大の水害として記録される。JR(当時国鉄)名松線の伊勢竹原〜伊勢奥津間が甚大な被害を受け、1983年6月まで長期間バス代替運行を余儀なくされた。市内を流れる雲出川流域の氾濫が主な原因とみられている。

この豪雨は気象庁の公式名称「昭和57年7月豪雨」として知られ、全国では死者427名・行方不明12名を出した。松阪市はその三重県内被害の中心地の一つだった。

東南海地震(1944年12月7日)・南海地震(1946年12月21日)

1944年12月7日に発生したM7.9の東南海地震と、約2年後の1946年12月21日に発生したM8.0の南海地震は、いずれも松阪市に記録として残る。南海トラフが震源となるこれらの巨大地震は、強い揺れに加えて津波も引き起こした。松阪市内での具体的な被害数はNIEDデータセットには未収録だが、三重県沿岸部では両地震により津波被害が発生したことが知られている。

次の南海トラフ地震は「30年以内の発生確率70〜80%」と政府が公表している。松阪市にとって、1944・1946年の連続地震は「歴史の教訓」ではなく「近未来のシナリオ」として捉えるべきだ。

伊勢湾台風(1959年9月26日)

昭和最大の台風被害をもたらした伊勢湾台風は、松阪市にも記録が残る。三重県・愛知県・岐阜県を中心に全国で死者・行方不明者5,000名超という戦後最悪の自然災害で、伊勢湾沿岸部は高潮により大規模な浸水が発生した。

チリ地震津波(1960年5月24日)

太平洋の反対側、チリで発生したM9.5の巨大地震による津波が、約22時間後に日本沿岸を襲った。三重県の沿岸部も被害を受けており、松阪市もその記録に含まれる。遠地津波の恐ろしさを示す出来事として、松阪市の防災史に刻まれている。

安政東海地震・安政南海地震(1854年)

1854年12月23日と24日、わずか32時間の間に安政東海地震(M8.4)と安政南海地震(M8.4)が連続して発生した。松阪市も被害を受けており、津波が伊勢湾沿岸を繰り返し襲ったと伝えられる。南海トラフの連続地震は歴史的に繰り返されていることを、この事例が示している。

宝永地震(1707年10月28日)

宝永地震はM8.6〜9.3と推定される巨大地震で、南海トラフの東側から西側まで一度に破壊した。津波は伊勢湾沿岸にも到達し、三重県内に多くの被害をもたらした。松阪市の記録にも残る、近世最大規模の地震である。

明応地震(1498年9月11日)

約500年前の明応地震(推定M8.2〜8.4)は、紀伊半島を中心に甚大な津波被害をもたらしたとされる。松阪市を含む三重県沿岸にも大きな被害が及んだとみられており、南海トラフ地震の歴史的な「繰り返し」の記録として重要だ。


全災害年表

発生年月日 災害名 種別 主な被害
1498年9月11日 明応地震 地震・津波 記録あり
1605年2月3日 慶長地震 地震・津波 記録あり
1707年10月28日 宝永地震 地震・津波 記録あり
1854年12月23日 安政東海地震 地震 記録あり
1854年12月24日 安政南海地震 地震・津波 記録あり
1854年7月9日 安政伊賀上野地震 地震 記録あり
1891年10月28日 濃尾地震 地震 記録あり
1899年3月7日 紀伊大和地震 地震 記録あり
1944年12月7日 東南海地震 地震 記録あり
1946年12月21日 南海地震 地震・津波 記録あり
1953年9月26日 台風 風水害 記録あり
1959年8月11日 台風 風水害 記録あり
1959年9月26日 伊勢湾台風 台風・高潮 記録あり
1960年5月24日 チリ地震津波 津波 記録あり
1982年7月11日 昭和57年7月豪雨 豪雨・洪水 死者19、行方不明2、床上浸水3,965、全壊38
2004年9月5日 東海道沖地震(紀伊半島沖) 地震 記録あり
2007年4月15日 三重県中部を震源とする地震 地震 記録あり

出典:NIED自然災害データベース(防災DBが整理)


洪水・浸水リスク ― 7水系が市内を流れる危険地帯

松阪市の洪水リスクは全国水準で見ても極めて深刻だ。防災DBの125mメッシュ解析では、洪水スコアが満点の100点。市内で洪水影響を受けるメッシュ数は823,206に達する。

主要河川の浸水想定

河川名 浸水影響メッシュ数 最大想定浸水深 平均浸水深 最大継続時間
雲出川 3,706 20.0m 2.39m 336時間(14日間!)
櫛田川 3,318 10.0m 1.78m 336時間
宮川 1,760 10.0m 3.70m 168時間
阪内川 1,218 5.0m 0.85m 336時間
蓮川 1,168 10.0m 3.25m 24時間
木津川 926 10.0m 2.02m 72時間
岩田川 703 20.0m 3.24m 72時間
穴倉川 555 20.0m 4.91m 168時間

出典:防災DB 125mメッシュ洪水浸水想定(国土交通省洪水浸水想定区域データをもとに算出)

数字が示す現実は厳しい。 雲出川では最大浸水深20m(5〜6階建てビルの屋上付近)、浸水継続期間が最大336時間(14日間)という想定がある。1m以上で歩行不可能、2mを超えると車両も水没する。3mは1階天井まで、5mなら2階の床上まで水が来る計算だ。

松阪市は雲出川水系の中村川・波瀬川・赤川を対象に「特定都市河川浸水被害対策法」に基づく30年計画の水害対策を推進している。ただし計画がどれだけ進んでも、超過洪水や複数河川の同時氾濫への備えは個人レベルでも欠かせない。


南海トラフ地震と津波リスク ― 想定浸水深20mの現実

松阪市の津波スコアは満点の100点。これは松阪市の沿岸部が、南海トラフ巨大地震(Mw9クラス)による「理論上最大クラスの津波」の直撃を受けると想定されているためだ。

松阪市の津波ハザードマップは、2014年3月の三重県新地震被害想定をベースに作成されている。市内で津波の影響を受けるメッシュ数は254,695に達し、最大浸水深は20mという極めて深刻な水準だ。

加えて高潮スコアも満点の100点。台風や低気圧が伊勢湾を直撃した場合、海面上昇と台風の暴風が重なり市街地への浸水が起きる。1959年の伊勢湾台風はその典型的な事例だ。

防災DBの解析では、市内の30年以内に震度6弱以上の揺れが発生する確率の平均が28.6%、最高値は79.9%に達する。市街地の一部では「30年以内にほぼ確実に」大きな揺れが来ると言っても過言ではない水準だ。


活断層リスク

松阪市周辺には以下の活断層が確認されている。

断層名 想定マグニチュード 備考
伊勢湾断層帯主部北部 M6.7 伊勢湾底の断層帯
伊勢湾断層帯主部南部 M6.4
伊勢原断層 M6.6 神奈川県だが影響範囲が広い

出典:防災DB fault_master(地震調査研究推進本部データをもとに整理)

伊勢湾断層帯はM6.4〜6.7クラスの地震を引き起こす可能性のある断層系で、30年発生確率は現時点では「ほぼ0〜数%以下」とされている。ただし確率が低いことは「起きない」ことを意味しない。南海トラフ地震との連動も想定し、複合的なシナリオで備えることが重要だ。


土砂災害リスク

松阪市南部から山間部にかけては急峻な地形が続く。防災DBの125mメッシュ解析では土砂災害影響メッシュ数は1,825。市内には土砂災害警戒区域・特別警戒区域が複数指定されており、大雨や地震の際には斜面崩壊の危険がある。

土砂災害スコアは50点(5段階評価で「中程度」)と、洪水・津波に比べれば相対的に低いが、1982年の豪雨でも山間部で被害が出ており油断は禁物だ。


避難施設一覧(主要施設)

松阪市内には387カ所の避難施設が設置されている(防災DBより、2024年時点)。うち広域避難場所は鈴の森公園(松阪市外五曲町1)の1カ所のみ。広域避難場所が1カ所しかない点は、津波・洪水の同時発生を想定した避難計画を立てる上で重要な制約になる。

施設名 住所 種別
鈴の森公園 松阪市外五曲町1 震災時広域避難所
ハートフルみくもスポーツ文化センター 松阪市曽原町2678 一時避難所・収容避難所
三重県農業大学校 松阪市嬉野川北町530 一時避難所・収容避難所
三重高等学校 松阪市久保町1188 一時避難所・収容避難所
三雲中学校 松阪市中道町345 一時避難所・収容避難所
三重県中央卸売市場 松阪市小津町800 一時避難所
ワークセンター松阪 松阪市上川町212-1 一時避難所・収容避難所

※全387施設の詳細は松阪市公式避難所マップで確認できる。

津波発生時は「垂直避難」が重要だ。平野部では水平移動による避難が間に合わない可能性がある。事前に自宅・職場・通勤経路上の津波避難ビルや高台を把握しておくことが、命を守る第一歩となる。


今からできる備え

1. ハザードマップで自宅のリスクを確認する

松阪市は洪水・土砂・津波・高潮の各ハザードマップを公式サイトで公開している。7水系を重ね合わせた洪水ハザードマップも公開中だ。

また、防災DB(bousaidb.jp)では125mメッシュ単位で洪水・津波・地震確率を横断的に確認できる。

2. 避難経路・避難場所を事前に決める

  • 大雨・台風時と地震・津波時で避難先が異なる場合がある
  • 津波の場合は「高台」「津波避難ビル」への垂直避難が基本
  • 浸水が始まる前に早めの避難を

3. 南海トラフ地震への備え

  • 7日分以上の食料・飲料水・医薬品の備蓄
  • 家具の転倒防止
  • 非常用持ち出し袋の準備
  • 家族の集合場所・安否確認手段の事前決定

4. 防災アプリ・情報源の登録

  • Lアラート(松阪市防災行政無線): 緊急情報の受信
  • Yahoo!防災速報 / NHKニュース・防災アプリ
  • 防災みえ.jp: https://www.bosaimie.jp/(三重県公式防災サイト)

データ出典

データ 出典 備考
統合リスクスコア・洪水・津波・地震メッシュ 防災DB(bousaidb.jp) 国土数値情報・J-SHISをもとに算出
過去の災害記録 NIED自然災害データベース(防災DBで整理) 一部記録あり(被害数は記録がある年のみ)
洪水浸水想定区域 国土交通省・三重河川国道事務所 雲出川・櫛田川等の想定最大規模
地震確率 J-SHIS(地震ハザードステーション)2024年版 30年確率・震度6弱以上
活断層データ 地震調査研究推進本部(防災DBで整理) 伊勢湾断層帯等
避難施設 国土数値情報 避難施設(2024年時点) 防災DBで整理
ハザードマップ 松阪市公式(2025年4月時点) 各種ハザードマップURL記載
昭和57年7月豪雨の記録 NIED自然災害データベース 死者19・行方不明2の数値はNIEDデータより
地形情報 国土地理院 地形分類 氾濫平野に関する記述
雲出川水系水害対策計画 松阪市(特定都市河川浸水被害対策法) https://www.city.matsusaka.mie.jp/soshiki/41/kasenkeikaku.html

本記事は防災DB編集部が公的データ・一次情報をもとに作成しました。情報の正確性には万全を期していますが、最新の状況は各自治体・機関の公式情報をご確認ください。ご意見・修正提案は防災DB(bousaidb.jp)までお寄せください。

著者:防災DB編集部 / 更新日:2026年4月