三重県明和町の災害リスクと過去の被害記録 ― 伊勢湾岸に広がる多重リスクの実態

著者:防災DB編集部 | 最終更新:2026年4月 | 対象エリア:三重県多気郡明和町


三重県多気郡明和町は、斎宮跡(さいくうあと)で知られる歴史のある町だが、防災の観点からは国内でも有数の「多重リスクエリア」でもある。防災DBの統合リスクスコアは89点(100点満点)、リスクレベルは「極めて高い」と評価されている。洪水・津波・高潮・地震の全指標で最高水準のスコアが記録されており、この4つのリスクが複合的に重なる地域は全国でも限られる。

1959年の伊勢湾台風では三重県全体で死者・行方不明者が1,200人を超え、明和町が位置する伊勢湾沿岸は壊滅的な被害を受けた。さらに南海トラフ巨大地震が発生すれば、最大8mの津波がわずか30分で到達すると三重県は想定している。

この記事では、BQデータベースと公的資料をもとに、明和町の災害リスクと過去の被害記録を詳述する。


なぜ明和町はここまでリスクが高いのか

明和町は三重県のほぼ中央部、多気郡の北西端に位置する。面積は約69km²、人口は約2万人の小さな町だが、その地形的条件がリスクを押し上げている。

町の北部から東部にかけては伊勢湾に向かって開けた低平地が広がり、宮川・外城田川(とどがわ)・祓川(はらいがわ)・中川などの河川が複数流れる。宮川は上流に大滝ダムや蓮ダムを持つが、それでも大雨時の洪水リスクは高い。外城田川は明和町東部を南北に貫き、低地の農地帯を形成している。

標高が低く、海岸に近い地形は高潮リスクとも直結する。加えて、伊勢湾岸特有の軟弱地盤(平均AVs30: 278.9 m/s)は地震動を増幅しやすく、南海トラフ地震が発生した際の地盤の揺れや液状化も懸念される。

防災DBの125mメッシュ分析では、明和町内で津波・高潮の影響を受けるメッシュ数は4,164(全メッシュの大部分)に達する。洪水影響メッシュは河川ごとに数百〜2,700超に及び、複数河川の氾濫が同時発生した場合、町のほぼ全域が浸水する可能性がある。


過去の主要災害

1959年 伊勢湾台風 ― 近代最大の高潮災害

1959年9月26日、台風15号(伊勢湾台風)が和歌山・潮岬付近に上陸した。当時観測史上最大級の規模を誇り、名古屋港では高潮が最高3.89mに達した。三重県では死者・行方不明者が1,211人(内閣府記録)に上り、被災者は約32万人を超えた。全国の建物被害の73%が愛知・三重両県に集中した。

明和町(当時は明和町・大淀村などが合併前後)は伊勢湾に面した低地であり、高潮と河川氾濫が複合した浸水被害を受けたと地域防災計画は記録している。具体的な死者数・浸水戸数の数値は公開資料では個別に確認できないが、三重県沿岸部全体に壊滅的な被害が広がった状況から、明和町周辺も甚大な影響を受けたことは疑いない。

この台風を教訓に、日本では「災害対策基本法」(1961年)が制定された。伊勢湾台風は現代防災制度の出発点となった歴史的事象である。

1947年 カスリーン台風 ― 記録に残る最古の数値

明和町の地域防災計画(平成28年4月版)に具体的な被害数値が残る最古の災害が、1947年9月のカスリーン台風だ。

  • 死者:1名
  • 床上浸水:85戸
  • 床下浸水:181戸
  • 全壊:2棟
  • 半壊:14棟

カスリーン台風は関東に壊滅的な洪水をもたらした台風として知られるが、三重県・明和町にも被害をもたらした記録が残っている。

1944年 昭和東南海地震(NIEDデータ外、Web調査で補完)

1944年12月7日、熊野灘を震源とするM7.9の地震が発生した(昭和東南海地震)。三重県では死者・行方不明者406人、負傷者607人、全壊11,558戸の甚大な被害が記録されている。伊勢地区(明和町に隣接)では津波が約20分後に到達したとされる。

明和町固有の記録はNIEDデータセットに収録されていないが、三重県全域に津波被害が及んでいることから、海岸低地に位置する明和町も影響を受けたと推測される。

全災害年表

災害種別 災害名 主な被害(明和町)
1910 風水害 記録あり
1935 9 風水害 記録あり
1938 8 風水害 記録あり
1941 7 風水害 記録あり
1944 12 地震・津波 昭和東南海地震(Web補完) 三重県全体で死者406名以上
1947 9 風水害 カスリーン台風 死者1名・床上浸水85戸・床下浸水181戸・全壊2棟
1949 9 風水害 キティ台風 記録あり
1959 9 風水害(高潮) 伊勢湾台風 三重県全体で死者・行方不明1,211名
1964 6 地震 新潟地震 地震動を観測
1966 6 風水害 記録あり
1966 9 風水害 記録あり
2007 9 風水害 台風第9号 記録あり
2011 3 地震 東北地方太平洋沖地震 地震動を観測

出典: 明和町地域防災計画(平成28年4月)、NIED自然災害データベース、内閣府。NIEDデータ外の昭和東南海地震はWeb調査による補完。


洪水・浸水リスク ― 9本の河川が交差する低地

明和町を流れる河川の数は多く、防災DBの125mメッシュ分析では、町域の広い範囲が複数河川の洪水浸水想定区域に重複して指定されている。

主要河川の洪水リスク(防災DB 125mメッシュ分析)

河川名 影響メッシュ数 最大浸水深 最長浸水継続時間
宮川 863 10.0m 168時間(7日間)
外城田川 546 5.0m 72時間(3日間)
櫛田川 2,740 5.0m 336時間(14日間)
笹笛川 551 3.0m 168時間
大堀川 281 3.0m 72時間
阪内川 26 5.0m 24時間
祓川 352 0.5m 72時間
江川 207 0.5m 72時間
金剛川 56 3.0m 168時間

出典: 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ洪水浸水クラスター解析(国土交通省洪水浸水想定区域データ基準)

宮川の最大浸水深10mは2階建て住宅が完全に水没する水位だ。1階天井まで届く浸水深が約3m、2階床上に達するのが約5m——これが実際に想定されているリスクの水準である。

また、櫛田川の浸水継続時間336時間(14日間)という数値も見逃せない。洪水後2週間にわたって浸水が続く可能性があり、避難の長期化が想定される。2019年台風19号(令和元年東日本台風)では長野県や宮城県で数日にわたる浸水が問題になったが、明和町では同規模以上の浸水継続が起こり得る。

明和町は令和2〜5年にかけて洪水・高潮のハザードマップを順次整備しており、特に祓川と中川のマップは令和5年11月に更新されたばかりだ。


津波・高潮リスク ― 南海トラフから30分で到達

南海トラフ巨大地震の津波想定

三重県は平成26年(2014年)3月に最大クラス(M9.1想定)の津波浸水想定を公表している。明和町への影響は以下の通りだ。

  • 最大津波高:8m(満潮位・地殻変動考慮)
  • 津波到達時間:約30分(旧想定の55分から大幅短縮)
  • 指定区分:南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域

30分という到達時間は、避難を開始してから安全地帯に到達するための余裕がほとんどないことを意味する。防災DBの分析でも、明和町域の津波・高潮影響メッシュは4,164に達しており、町のほぼ全域が浸水想定エリアに含まれる可能性がある。

高潮についても明和町は令和2年9月に高潮ハザードマップを作成しており、台風接近時の高潮と津波が複合するシナリオが懸念される。

過去の津波被害

1944年の昭和東南海地震では、熊野灘から伊勢湾口にかけて津波が押し寄せ、隣接する宇治山田市(現・伊勢市)でも大湊地区に約2mの津波が記録されている。当時の明和町周辺への影響詳細は公開資料から確認できていないが(不明)、同様の地形を持つエリアとして影響を受けたとみられる。


地震リスク ― 震度6弱以上の確率72%

地震動確率

防災DBの125mメッシュ分析(2024年時点)によると、明和町内の地震リスクは以下の水準だ。

指標 平均値 最大値
30年以内に震度6弱以上の確率 72.4% 79.8%
30年以内に震度5弱以上の確率 89.9% 96.5%
平均S波速度(AVs30) 278.9 m/s

震度6弱以上が30年以内に起きる確率72.4%は、日本全国の中でも極めて高い水準だ。この確率の主要因は、南海トラフ巨大地震の発生確率(政府試算70〜80%)と一致する。

地盤の特性

平均AVs30(S波速度)278.9 m/sは「やや軟弱な地盤」に相当する。硬い岩盤(AVs30=700 m/s以上)に比べると、地震動が2〜3倍に増幅される可能性があり、液状化リスクも伴う。明和町の液状化スコアは40/100と中程度だが、低地部では注意が必要だ。

近傍の活断層

明和町近傍に存在する主な活断層は以下の通りだ。

断層名 想定マグニチュード 30年発生確率
伊勢湾断層帯主部北部 M6.7 ほぼ0%
伊勢湾断層帯主部南部 M6.4 ほぼ0%
伊勢原断層 M6.6 ほぼ0%

出典: 防災DB(bousaidb.jp)fault_masterテーブル(J-SHIS・地震調査研究推進本部データ基準)

これらの断層は30年発生確率が公表数値上ではほぼ0%だが、それはあくまで確率評価。南海トラフ地震のトリガーになる可能性や、地震後の地盤変動による影響は排除できない。


避難施設一覧

明和町内には22箇所の避難場所が整備されている(2025年時点)。広域避難場所の指定は現時点では確認されていない。

主要避難場所

施設名 住所 種別
明和町中央公民館 多気郡明和町馬之上944-6 避難場所
総合体育館 多気郡明和町坂本1216-1 避難場所
斎宮ふれあいプラザ 多気郡明和町斎宮891-5 避難場所
上御糸小学校 多気郡明和町佐田2026 避難場所
下御糸小学校 多気郡明和町内座367 避難場所
修正小学校 多気郡明和町有爾中816-1 避難場所
斎宮小学校 多気郡明和町斎宮3385-2 避難場所
大淀小学校 多気郡明和町大淀2650 避難場所
明星小学校 多気郡明和町明星1553 避難場所

重要: 南海トラフ地震発生時は、津波が30分以内に到達する。水平避難(高台への移動)が困難な場合は、鉄筋コンクリート造の高層階(津波避難ビル)への垂直避難が有効だ。最寄りの避難場所がどの災害種別に対応しているかは、明和町公式ハザードマップで事前に確認しておくこと。


今からできる備え

まず確認すべき公式資料:

  • 明和町 防災情報: https://www.town.meiwa.mie.jp/main/soshiki/bousai/shouboubousai/bousai/1452220940078.html
  • 三重県 津波浸水予測図: https://www.pref.mie.lg.jp/D1BOUSAI/84188007991.htm
  • 三重県 ハザードマップ一覧: https://www.pref.mie.lg.jp/D1BOUSAI/75148007862.htm

南海トラフ特有の備え(30分以内避難が前提):

  1. 避難場所と避難経路を今すぐ確認する ― 昼夜・季節で経路が異なる場合もある。徒歩避難を想定する
  2. 家族との連絡手段を決める ― 被災時は電話がつながりにくい。集合場所を事前に決める
  3. 非常持ち出し袋を玄関に置く ― 津波は30分で来る。荷物を取りに戻る時間はない
  4. 地震発生直後に揺れが収まったら即時避難を開始 ― 津波警報を待たずに避難を判断する

洪水・水害への備え:

  1. ハザードマップで自宅の浸水深を確認する ― 宮川氾濫で10m浸水の可能性がある地区では、垂直避難(上階への移動)は機能しない
  2. 早めの避難行動 ― 大雨の予報があれば、河川の増水前に避難所へ移動する
  3. 浸水継続期間を考慮した備蓄 ― 最長2週間の浸水継続が想定されるため、避難所での長期生活を前提とした備蓄(水・食料・薬など)を準備する

データ出典

データ種別 出典
総合リスクスコア・洪水/津波/高潮メッシュ分析 防災DB(bousaidb.jp)125mメッシュ分析(国土交通省・地震調査研究推進本部データ準拠)
過去の災害記録(年表) 明和町地域防災計画(平成28年4月)、NIED自然災害データベース
1947年カスリーン台風の被害数値 明和町地域防災計画-風水害編
伊勢湾台風(1959年)の三重県被害 内閣府「伊勢湾台風報告書」
昭和東南海地震(1944年)の三重県被害 内閣府「昭和東南海地震報告書」、三重県史料
南海トラフ津波想定(8m・30分) 三重県「平成26年地震被害想定調査」(2014年3月)
地震動30年確率 防災DB(bousaidb.jp)(地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版準拠)
活断層データ 防災DB(bousaidb.jp)fault_masterテーブル(J-SHIS・地震調査研究推進本部)
避難場所情報 国土数値情報 避難施設データ(p20)、明和町
ハザードマップ整備状況 明和町公式ウェブサイト防災情報ページ