茂原市の災害リスクと歴史年表|一宮川氾濫と台風被害が繰り返される街

千葉県のほぼ中央、房総半島の内陸低地に広がる茂原市は、水害に対して日本屈指の脆弱性を抱える自治体のひとつです。防災DB(bousaidb.jp)が算出した統合リスクスコアは89点(極めて高い)。洪水・津波・高潮・地震の4リスクがすべてスコア100という、関東地方でも稀な複合高リスク地帯です。

NIEDが収録する茂原市の災害記録は80件以上。2019年の10月25日には一宮川が市役所と中央公民館をも飲み込み、避難者がゴムボートで再避難するという事態が起きました。「また来る」と誰もが知りながら、繰り返しの被害に向き合い続けてきた街の全貌を、防災DBのデータと一次資料で解説します。


茂原市の災害リスク概要

リスク種別 スコア(0〜100) 評価
洪水 100 最大浸水深20m超の想定区域あり
津波 100 最大浸水深10m超
高潮 100 外房太平洋沿いの影響域
地震 100 30年以内震度6弱以上確率 最大92.8%
土砂災害 50 ハザード区域10箇所
液状化 40 天然ガス採掘による地盤沈下歴あり
統合スコア 89 / 100 極めて高い

これほど多面的なリスクが重なる背景には、茂原市固有の地形と地質がある。


なぜ茂原市は水害に弱いのか――地形と地質の構造的問題

茂原市の市街地は、一宮川とその支流が形成した沖積低地の上に広がっている。標高は市街中心部で10m前後と低く、上流からの雨水が集まる「受け皿」の形状をしている。

房総半島中央部の丘陵から流れ下る一宮川は、流域面積が約242km²。上流の長柄町・長南町から降った雨が一気に茂原市内に流れ込む構造で、市内の水はけが悪くなると即座に氾濫につながる。防災DBの125mメッシュ解析によると、一宮川流域の洪水ハザードメッシュは5,037区画に上り、最大浸水深は10mを超える。これは2階建て家屋の屋根まで水が届く水深だ。

さらに茂原市の地盤には天然ガス(ヨードも含む)の産出地帯という側面がある。昭和30年代から40年代にかけて活発だった天然ガス採掘と地下水揚水は地盤沈下を招き、一部地域では地表が数十センチ低下したとされる。1973年に千葉県が採掘会社と覚書を締結して以降、沈下は緩和傾向にあるが、もともと低い地盤が採掘でさらに沈んだ地域では、現在も浸水しやすい地形が残っている。

また、市の東側は外房の太平洋に面した九十九里浜へと開けており、津波と高潮の影響を直接受ける位置関係にある。南海トラフ巨大地震が発生した場合、茂原市の海側エリアには10mを超える津波浸水想定がある。


茂原市の過去の主要災害

令和元年10月25日大雨(2019年)――「想定外」が起きた日

茂原市の近現代災害史において、この日の記憶は特別な重みを持つ。台風21号に伴う低気圧が引き起こした記録的な大雨で、一宮川と支流の豊田川が同時に氾濫。流域約1,762haが浸水し、千葉県全体で7名が死亡した(うち関連死1名)。

特筆すべきは、浸水想定区域外にあった市役所と中央公民館が浸水したことだ。中央公民館は避難所として開設されていたにもかかわらず床上70cmが水没し、避難者16名がゴムボートと木製ボートで市役所に再避難する事態になった。しかしその市役所も浸水しており、避難者は二転三転を強いられた。

この災害は同年の台風15号(9月9日・房総半島台風)と台風19号(10月12日・東日本台風)による被害の復旧途上で発生した。茂原市では台風15号だけで半壊22棟・一部損壊591棟の被害が記録されており、3か月連続の被災となった。

平成25年台風第26号(2013年10月16日)

床上浸水563戸・床下浸水646戸・全壊40棟という大規模被害が記録されている(茂原市地域防災計画資料編より)。市の防災史においてこの台風は一宮川流域の水害対策強化の契機となり、翌年以降の河川改修計画が加速した。

平成23年東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)

東日本大震災では、茂原市で全壊68棟の建物被害が記録された。主な原因は液状化現象とみられる。千葉県内では同地震による液状化被害が約42km²に及んだとされ、茂原市も天然ガス採掘による地盤改変が影響したとの見方がある。死者・行方不明者の記録はないが、インフラ被害と建物被害の規模から、生活への打撃は甚大だった。

平成14年台風第21号(2002年10月)

全壊172棟という被害規模は、近年の台風被害と比較しても突出している。2002年台風21号は房総半島に接近し、一宮川流域を中心に大規模な浸水被害をもたらした。この被害を受け、茂原市では地域防災計画の大幅な見直しが行われた。


過去の災害年表(主要記録)

以下は、NIEDデータベースに記録された茂原市の主要な被害記録(建物被害・浸水被害が確認できるもの)をまとめた年表です。

発生年 災害名称・種別 主な被害
2002 10 台風第21号(洪水) 全壊172棟
2004 10 台風第22号(洪水) 床上10・床下73・全壊1
2006 12 洪水 床下浸水1棟
2011 3 東日本大震災(地震) 全壊68棟
2013 10 台風第26号(風水害) 床上563・床下646・全壊40
2019 9 台風第15号・房総半島台風(風水害) 半壊22・一部損壊591
2019 10 台風第19号・東日本台風(風水害) (千葉県全体で複合被害)
2019 10 10月25日大雨(洪水) 1,762ha浸水・市役所・公民館浸水

出典: NIED自然災害データベース、茂原市地域防災計画資料編


洪水・浸水リスクの詳細

一宮川――茂原市最大の洪水リスク

防災DBの125mメッシュ解析では、一宮川流域に帰属する洪水リスクメッシュが5,037区画(約78.7km²相当)に上る。最大浸水深は10mで、平均でも約1mという広大な浸水想定域だ。

浸水深のイメージ:
- 0.5m: 道路冠水・車両通行困難
- 1m: 1階部分が浸水、玄関ドアが開かない
- 3m: 1階天井まで水没
- 5m: 2階床上まで水没
- 10m: 2階建て住宅の屋根まで水没

一宮川の最大浸水深10mという想定は、500年に1度レベルの洪水(L2規模)での数値だが、2019年の10月25日は「想定外の浸水」が市役所レベルで発生している。ハザードマップの「安全エリア」を過信しないことが重要だ。

また、浸水継続時間は最大168時間(7日間)と想定されており、長期の浸水に備えた垂直避難と備蓄が必要になる。

南白亀川――もうひとつの洪水リスク

南白亀川流域のハザードメッシュは4,834区画と一宮川に匹敵する規模。最大浸水深5m、浸水継続時間336時間(14日間)という長期浸水想定は、実質的に居住不能状態が2週間続く可能性を示している。

村田川・真亀川・堀川

市内を流れる小規模河川も洪水リスクを持つ。村田川(最大5m・72時間)、真亀川(最大0.5m・168時間)、堀川(最大0.5m・168時間)がハザードマップに掲載されている。


地震リスク――震度6弱以上が30年で最大93%

防災DBの125mメッシュ地震確率データによると、茂原市における30年以内の震度6弱以上発生確率は平均60.3%、最大92.8%に達する。これは日本の市区町村の中でもトップクラスの確率だ。

震度5弱以上は市内全域でほぼ確実(平均99.9%)で、何らかの揺れによる被害は「いつ起きるか」ではなく「どの規模か」の問題になっている。

表層地盤のS波速度(AVS30)の平均値は273.2m/s。岩盤(600m/s以上)と比べると軟弱な地盤であり、地震動が増幅されやすい特性がある。

液状化リスク

茂原市の液状化スコアは40と中程度だが、地下水位が高く、砂質地盤が多い市内の一部では、大地震時の液状化発生が想定される。2011年の東日本大震災では実際に全壊68棟の建物被害が記録されており、天然ガス採掘による地盤変質が影響している可能性も否定できない。茂原市では地震ハザードマップで液状化危険度マップを公開しているため、自宅の液状化リスクを事前に確認することを強く推奨する。


津波・高潮リスク

茂原市の東端は外房の九十九里浜に接しており、南海トラフ巨大地震が発生した場合の津波浸水想定区域が市内に広がる。防災DBの沿岸ハザードメッシュは7,796区画に及び、最大津波浸水深は10mに達する。

市の中心部は海から10km以上離れているため、直接的な津波リスクは限定的だが、九十九里浜沿いの地区では早期の避難が不可欠だ。一方で高潮リスクのスコアが100であることは、台風時の高波と潮位上昇の複合リスクを示しており、2019年の台風被害との連関で読む必要がある。


避難施設

茂原市には82か所の避難施設(一次避難所・二次避難所)が指定されている。広域避難場所の指定は確認できていない(2024年時点のデータに基づく)。

主な避難施設(一部):

施設名 住所 区分
中の島公園 千葉県茂原市中の島33-5 一次避難所
中の島小学校 千葉県茂原市中の島町451 二次避難所
中央公民館 千葉県茂原市茂原101 二次避難所
二宮小学校 千葉県茂原市国府関1415-1 二次避難所
五郷小学校 千葉県茂原市綱島1185 二次避難所
冨士見中学校 千葉県茂原市押日1468 二次避難所

重要: 2019年の台風・大雨被害では、中央公民館(二次避難所)が浸水して機能不全になった実績がある。避難先が浸水する可能性を考慮し、より高台にある施設や、自宅の2階への垂直避難も選択肢に入れておくことが重要だ。


今からできる備え

まず確認すること

  1. 茂原市洪水ハザードマップを確認し、自宅の浸水リスクと避難経路を把握する
    茂原市公式サイト: 洪水ハザードマップ
    茂原市公式サイト: ハザードマップ等
    茂原市: 地震ハザードマップ(液状化危険度含む)

  2. 防災DB(bousaidb.jp) で自宅の正確な座標ベースのリスクを確認する。ハザードマップの「安全エリア」でも2019年のように実際に浸水するケースがある。

  3. 避難のタイミングを事前に決める。一宮川は上流で大雨が降ると市内が浸水するまでのタイムラグが短い。気象警報・河川水位情報を定期的にチェックする習慣を。

具体的な備蓄・準備

  • 飲料水: 1人1日3リットル、7日分以上(浸水継続14日の想定がある)
  • 非常食: 最低7日分
  • 避難袋: 貴重品・薬・充電バッテリー・防水袋
  • 垂直避難グッズ: 2階以上への移動が最初の選択肢。浸水深0.5mを超えると徒歩避難が困難になる
  • 地盤沈下・液状化対策: 家屋の基礎点検と液状化対策工事の検討

一宮川流域の情報収集

  • 国土交通省「川の防災情報」: 一宮川の水位をリアルタイムで確認
  • 千葉県「一宮川流域通信」: 流域全体の防災情報を定期発信
  • 茂原市防災メール・防災無線: 大雨時は早めに登録・確認

データ出典

データ種別 出典
統合リスクスコア・洪水/地震/津波メッシュデータ 防災DB(bousaidb.jp) / 国土交通省ハザードマップポータルサイト・J-SHIS(2024年)
過去の災害記録 国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース
一宮川流域の被害規模(令和元年10月25日) 国土交通省(防災・安全交付金資料、2023年)
茂原市・長柄町等1,762ha浸水 一宮川流域水害対策資料(千葉県)
液状化・地盤沈下の歴史 茂原市公式サイト「地盤沈下について」/千葉県防災危機管理部
避難施設データ 国土数値情報(nlftp)避難施設データ(p20)/茂原市
洪水ハザードマップ 茂原市公式サイト(令和3年度版)

本記事は防災DB編集部が、公的データおよびWebリサーチに基づき作成しました。数値データは記載の時点のものです。最新情報は各一次資料をご確認ください。

著者: 防災DB編集部 / 最終更新: 2026年4月