宮崎県諸塚村の災害リスクと防災|九州山地の山村が抱える複合リスク
宮崎県諸塚村は東臼杵郡に位置する人口約1,500人の純山村だ。防災DBの統合リスクスコアは92点(極めて高い)で、宮崎県内でも最上位に位置する危険地帯である。
九州山地の中心部に位置し、平地がほとんどない急峻な地形は、大雨のたびに河川氾濫・土砂崩落・集落孤立という複合災害を引き起こしてきた。なかでも2005年(平成17年)台風14号では耳川沿いの集落が壊滅的な浸水被害を受け、その後に最大約6メートルの宅地かさ上げ工事が実施されるほどの記録的な被害となった。この経験が、諸塚村の防災の原点になっている。
この村の地形と災害リスクの特徴
諸塚村の面積は256.85km²、そのほぼ全域が山地で構成されている純山村だ。主要な山岳として諸塚山(1,342m)・黒岳・真弓岳・九郎山が連なり、耳川とその支流(柳原川・七ツ山川など)が深い谷を刻みながら流れる。沿川の狭隘な谷底地が唯一の生活可能空間となっており、集落はこの限られた土地に密集している。
急峻な山地が生み出す災害リスクは主に3つある。
第一に、山地から集落へ一気に水が流れ込む「鉄砲水型の洪水」。急傾斜の山地では雨がそのまま河川に流れ込み、上流での大雨が数時間後に一気に下流集落へ到達する。貯留する平地がないため、降雨から洪水発生までの猶予時間が極めて短い。
第二に、急傾斜地の土砂崩落リスク。防災DBの125mメッシュ解析では約61,000メッシュが土砂災害危険エリアとして抽出されており、これは村の地表面積のほぼ全域に相当する規模だ。林業が主産業の村であるため林道・作業路が山中に縦横に走っており、豪雨時にはこれらが崩壊の起点にもなる。
第三に、道路寸断による孤立リスク。山あいの谷沿いを通る主要道路が土砂崩落や橋梁被害で寸断されると、集落が外部から完全に切り離される。2005年台風14号でも複数集落が孤立し、救助・物資輸送が困難を極めた経緯がある。
過去の主要災害
平成17年(2005年)台風14号——村の歴史を変えた最大の水害
2005年9月に宮崎県を直撃した台風14号は、諸塚村に記録的な被害をもたらした最大の災害だ。宮崎県内では総雨量が1,000〜1,300mmを超える地点が相次ぎ、耳川上流域に位置する諸塚村でも集中した降雨により河川が氾濫。村中心部の商店街が浸水し、耳川沿いの住宅に甚大な被害が集中した。
この被害の深刻さを端的に示すのが、その後に実施された復旧工事の規模だ。護岸整備に加え、最大約6メートルの宅地かさ上げ工事が行われた。これは同じ場所で再び同規模の洪水が起きた場合でも住宅が浸水しないようにするためのものだ(宮崎日日新聞、2005年報道)。かさ上げ工事と護岸整備は後年に完了しており、2005年の水害がいかに壊滅的だったかを物語っている。
令和2年(2020年)7月豪雨——林業インフラへの打撃
2020年7月3日から12日にかけて発生した令和2年7月豪雨。九州・四国・中部地方に大きな被害をもたらしたこの豪雨で、諸塚村でも林業インフラへの被害が記録されている。農林水産省の被害状況速報によれば、林道・作業路の損壊が相次ぎ、山林へのアクセスが困難になった。主産業である林業への直撃は、村の経済基盤にも影響を与えた。
令和2年(2020年)台風第10号——隣村の救援にも出動
同年9月、台風10号が九州に上陸し甚大な被害をもたらした。諸塚村では森林・林業インフラへの被害が報告されている(農林水産省 令和2年台風第10号による森林・林業関係被害速報)。また、隣接する椎葉村で発生した土砂災害に対し、諸塚村消防団がドローン・ボートを用いた救助・捜索活動に参加したことが記録されている。山間部の市町村が互いに支え合うこの地域連携は、孤立リスクへの現実的な対応策でもある。
過去の災害年表
| 年月 | 災害名 | 主な被害内容 |
|---|---|---|
| 2005年9月 | 台風14号 | 耳川沿い集落浸水・家屋被害、宅地かさ上げ6m実施 |
| 2020年7月 | 令和2年7月豪雨 | 林道・作業路の損壊、林業インフラ被害 |
| 2020年9月 | 台風第10号 | 森林・林業インフラ被害、椎葉村土砂災害の救助参加 |
NIED(自然災害情報室)データベースに登録された諸塚村関連の記録: 2件(2020年台風10号・7月豪雨の林業被害)。2005年台風14号の詳細被害数値は宮崎日日新聞・宮崎県公式資料に基づく。
なぜ諸塚村は洪水に弱いのか——4河川のリスクデータ
防災DBの125mメッシュ解析によると、諸塚村内では以下の4河川で洪水浸水想定区域が設定されている。
| 河川名 | 浸水想定メッシュ数 | 最大浸水深 | 平均浸水深 | 最大継続時間 |
|---|---|---|---|---|
| 五ヶ瀬川水系 | 360 | 20.0m | 9.4m | — |
| 五十鈴川 | 168 | 20.0m | 4.7m | 12時間 |
| 小丸川 | 98 | 10.0m | 2.6m | 24時間 |
| 三ヶ所川 | 53 | 5.0m | 3.8m | 72時間 |
防災DB(国土交通省 洪水浸水想定区域データを独自解析)、2024年時点
最大浸水深20メートルという数値は、平地の水害では聞かない水準だ。浸水深の目安として、3mは1階天井まで、5mは2階床上まで、10mは3〜4階相当、20mは6〜7階相当に達する深さだ。これは急峻な山地における河川の最悪シナリオ(上流部の土砂崩落が河道を塞ぎ、天然ダムが決壊するような事態)を想定したものと考えられる。
三ヶ所川では最大72時間(3日間)の浸水継続が想定されている。孤立リスクと組み合わさると、長期にわたる避難生活への備えが必要になる。
土砂災害リスク——村の全域が斜面地という現実
諸塚村の土砂災害スコアは防災DBで50(中程度)と算出されているが、これは他の洪水・浸水リスクが突出して高いため相対的に低く見えているにすぎない。実態として、125mメッシュ解析では村域全体に約61,000の土砂災害危険メッシュが分布しており、これは村の地表面積のほぼ全域に相当する。
宮崎県は2005年の台風14号以降、土砂災害警戒区域の指定と砂防施設の整備を進めてきた。しかし急峻な山地地形を抱える諸塚村では、大雨のたびに新たな土砂崩落リスクが生まれる。特に注意が必要なのが、「斜面崩壊→河道閉塞→天然ダム形成→決壊型洪水」という連鎖リスクだ。山間部の河川ではこのメカニズムによる二次的洪水被害が発生しやすく、2005年台風14号でも九州各地でこのパターンが確認されている。
林業の作業により山腹が切り開かれている箇所は、未開発の斜面より崩壊リスクが高い場合もある。林道脇の斜面状況の確認も、日常的な防災意識として重要だ。
地震リスク——南海トラフと活断層のダブルリスク
近隣の活断層
諸塚村近辺には「日向峠-小笠木峠断層帯」が存在する。想定規模はM6.7、30年以内の発生確率は約0.1%とされている(産業技術総合研究所 活断層データベース)。確率だけ見ると低く感じるかもしれないが、地震が発生した場合は斜面崩落の誘因となるため、複合リスクとして備えておく必要がある。
地震動の発生確率(防災DBの125mメッシュ解析)
| 指標 | 平均値 | 最大値 |
|---|---|---|
| 震度6弱以上の30年確率 | 2.04% | 21.99% |
| 震度5弱以上の30年確率 | 59.66% | 94.26% |
| 地盤のS波速度(AVS30) | 707m/s | — |
防災DB(防災科学技術研究所 全国地震動予測地図2024年版を独自解析)
地盤のS波速度が平均707m/sと高い値を示しており、山間部の岩盤地盤は地震動の増幅が起きにくい特性がある。一方で、最大値では震度6弱の30年確率が約22%に達するメッシュも存在しており、局所的なリスクには注意が必要だ。
諸塚村のハザードマップ(令和3年版)は南海トラフ地震を想定対象として明示している。村は内陸部に位置するため津波の直接被害はないが、南海トラフ地震発生時には強震動と余震による土砂災害の二次被害リスク、および道路寸断による長期孤立が懸念されている。
孤立リスクへの備え——山間部ならではの防災対策
諸塚村の防災を考えるうえで、孤立リスクへの備えは欠かせない。山あいの道路が土砂崩落や橋梁被害で寸断されると、集落が外部と数日間以上、場合によっては1〜2週間にわたって隔絶される可能性がある。
村内に設置された指定避難場所は23か所だが、広域避難場所(他市区町村への大規模避難に対応)は設定されていない。これは、孤立状態でも村内で避難生活を維持できる体制を前提としていることを意味する。
孤立時に必要な備え(最低1週間分):
- 飲料水(1人1日3リットル × 7日分)
- 非常食・レトルト食品
- 医薬品・慢性疾患の処方薬
- 携帯ラジオ・懐中電灯・予備電池
- 毛布・防寒具(山間部は平地より気温が低い)
- ポータブル電源・ソーラーパネル(停電対策)
指定避難場所一覧(23か所)
諸塚村内の指定避難場所(2024年時点):
| 施設名 | 所在地 |
|---|---|
| 諸塚村役場 | 大字家代字諸塚2683 |
| 諸塚村中央公民館 | 大字家代字滝の下3066 |
| 諸塚中学校体育館 | 大字家代字滝の下3292 |
| 諸塚村民体育館 | 大字家代字塚原3094 |
| 諸塚多目的集会所 | 大字家代字諸塚4367-13 |
| 家代公民館 | 大字家代字家代3788 |
| 塚原伝統芸能伝習館 | 大字家代字塚原2850 |
| 川の口公民館 | 大字家代字川の口296 |
| 荒谷公民館 | 大字家代字荒谷6389 |
| 荒谷小学校体育館 | 大字家代字荒谷6159 |
| 黒葛原公民館 | 大字家代字黒葛原801 |
| 南川生活改善センター | 大字家代字南川5245 |
| 諸塚村老人福祉館 | 大字家代字諸塚3066 |
| 諸塚村商工会 | 大字家代字諸塚2640-8 |
| 七ツ山公民館 | 大字七ツ山字七ツ山2106 |
| 七ツ山小学校僻地集会室 | 大字七ツ山字七ツ山2549 |
| 立岩公民館 | 大字七ツ山字立岩6280 |
| 立岩小学校 | 大字七ツ山字立岩6988 |
| 小原井公民館 | 大字七ツ山字小原井4458-7 |
| 穂白尾公民館 | 大字七ツ山字穂白尾1144-12 |
| 松の平公民館 | 大字七ツ山字松の平357-12 |
| 飯干公民館 | 大字七ツ山字飯干8028 |
| 只石生活改善センター | 大字七ツ山字飯干8272-5 |
出典: 国土交通省 国土数値情報 避難施設データ(2023年版)
今からできる備え
まず公式情報を確認する
- 諸塚村公式サイト(防災情報): https://www.vill.morotsuka.miyazaki.jp/
- 国土地理院 ハザードマップポータル: https://disaportal.gsi.go.jp/
- 防災DB(諸塚村の詳細リスク情報): 各ハザードを地図で確認できる
村のハザードマップは令和3年(2021年)3月版が発行されている。洪水・土砂災害・地震(南海トラフ地震想定含む)を網羅した内容で、村役場または公式サイトから入手可能だ。
山間部特有の5つの備え
- 警戒情報が出たら即行動: 大雨警報・土砂災害警戒情報が発令された場合は躊躇なく避難する。「まだ大丈夫」と思っているうちに道路が寸断される可能性がある。
- 1週間分以上の備蓄を確保する: 孤立時に備え、食料・水・医薬品の備蓄は平地より多めに。山間部は道路復旧に時間がかかる。
- 避難経路を複数確認しておく: 主要道路が土砂崩落で寸断された場合の代替ルートを平時に確認しておく。
- 地域の連絡網を維持する: 集落単位の相互確認体制(電話連絡網・SNSグループ等)を整備し、孤立した高齢者の安否確認を組み込む。
- 河川・斜面の変化に気づく: 大雨後に河川の濁り・水位上昇・斜面からの湧水・地鳴りなどの前兆がある場合は、直ちに避難を検討する。
データ出典
| データ | 出典 |
|---|---|
| 統合リスクスコア(92点) | 防災DB(bousaidb.jp) — 国土交通省・内閣府等オープンデータを独自集計 |
| 洪水浸水想定区域(河川別浸水深・継続時間) | 国土交通省 水管理・国土保全局 洪水浸水想定区域データ |
| 土砂災害危険区域(約61,000メッシュ) | 国土交通省 砂防部 土砂災害警戒区域等データ |
| 地震動確率(2024年版) | 防災科学技術研究所 全国地震動予測地図2024年版 |
| 活断層(日向峠-小笠木峠断層帯 M6.7) | 産業技術総合研究所 活断層データベース |
| 過去の災害事例(2020年2件) | 自然災害情報室(NIED)過去の災害データベース |
| 避難場所データ(23か所) | 国土交通省 国土数値情報 避難施設(2023年版) |
| 台風14号(2005年)被害・宅地かさ上げ情報 | 宮崎日日新聞(2005年報道)、宮崎県公式資料 |
| 令和2年7月豪雨 林業被害 | 農林水産省 令和2年7月豪雨による被害状況等速報 |
| 令和2年台風第10号 林業被害 | 農林水産省 令和2年台風第10号による森林・林業関係被害について(速報) |
データ収集時点: 2024〜2025年。出典元のデータ更新により数値が変更される場合があります。
著者: 防災DB編集部 / 最終更新: 2025年4月
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