山口県長門市の災害リスクと過去の被害記録|洪水・津波・地震ハザードを徹底解説

長門市は山口県の北部に位置し、日本海(山陰側)に面するリアス式海岸と深い山地が入り組んだ地形を持つ市です。防災DBの統合リスク分析では、統合リスクスコア81・リスクレベル「極めて高い」と評価されており、これは全国市区町村の中でも上位に入る深刻な水準です。

洪水スコア100・津波スコア100・高潮スコア100という「三冠」は、この街の地理的な宿命を示しています。仙崎湾・深川湾・油谷湾の3つの湾に臨む沿岸部と、急峻な山地から流れ下る複数の河川が組み合わさることで、多方向から災害リスクが迫る構造になっています。

1676年以降、長門市(旧長門国)には少なくとも10件の有感地震・大規模自然災害が記録されています。近代に入ってからも2009年の中国・九州北部豪雨や1997年の山口県北部地震(M6.6)を経験しており、この地に暮らす・不動産を持つ・事業を展開するすべての人にとって、リスクの実態を正確に把握することが欠かせません。


なぜ長門市はこれほど多様なリスクを抱えるのか

地形がリスクを生む構造

長門市の面積は約357km²。市域の大部分は山地で占められており、市街地は深川川・三隅川・粟野川などの河川沿いの狭い谷底や、仙崎・油谷半島の海岸平野に集中しています。

この地形の特徴は「山から海まで距離が短い」ことです。大雨が降ると、山に降った雨水が急勾配の河川を一気に下り、短時間で市街地を直撃します。同時に、日本海に面した海岸部は台風・発達した低気圧による高波・高潮にさらされ、津波の入射角も複数方向から想定されます。

3つの湾が津波リスクを複合させる

長門市の沿岸は仙崎湾・深川湾・油谷湾の3湾から成ります。湾の形状は津波の伝播に大きく影響します。入り江型の湾は波が収束・増幅しやすく、仙崎湾周辺では特に警戒が必要です。

山口県が公表する津波浸水想定(日本海沿岸、2015年)によると、最大クラスの津波(見島付近の断層群が連動した場合)が長門市に到達した際、浸水面積1cm以上で384ha、1m以上で132ha、2m以上で36haに及ぶとされています。


防災DBが捉えた長門市のリスクスコア

防災DBが全国125mメッシュ解析から算出した長門市のリスク数値を以下に示します。

リスク種別 スコア(0-100) 主な数値
洪水 100 最大浸水深 20m超、浸水区域 219,377メッシュ
津波 100 最大浸水深 5m以上、津波区域 181,348メッシュ
高潮 100 沿岸3湾すべてに浸水想定区域
地震 85 30年以内震度6弱以上確率 最大12.8%
土砂災害 50 土砂災害ハザード区域 1,264メッシュ
液状化 5 山地が多く沖積地が限られるため低め
統合スコア 81 リスクレベル「極めて高い」

洪水最大浸水深「20m超」という数値は、木屋川の想定氾濫(最大10m)と粟野川の想定氾濫(最大5m、平均3.65m)が重複する場合を含むシミュレーション結果です。これは木造2〜3階建て住宅がほぼ水没するスケールを意味します。


過去の主要災害と年表

2009年7月 — 中国・九州北部豪雨

2009年7月19日〜26日にかけて梅雨前線が活発化し、中国地方・九州北部を中心に記録的な大雨が降り続きました。山口県内では防府市を中心に大規模な土砂災害が発生(特別養護老人ホーム裏で土石流、入所者7名死亡)。長門市でも豪雨による河川氾濫・浸水被害が記録されています(長門市固有の死者数は公表資料では確認できていませんが、NIEDデータベースには「平成21年7月中国・九州北部豪雨」として長門市が記録)。

この豪雨を契機に、山口県内各地でハザードマップの見直しが進み、長門市も令和2年度(2020年度)に洪水ハザードマップを「想定最大規模降雨」対応に全面改訂しています。

1997年6月 — 山口県北部地震(M6.6)

1997年6月25日18時50分、山口県と島根県の県境付近(阿武郡むつみ村付近)を震源とするM6.6の地震が発生しました。20世紀以降、山口県内を震源とする地震としては最大規模です。

長門市は震源から約60〜70kmの距離にあり、市内では震度4程度の揺れが観測されたとみられます。山口県全体では負傷者2人・建物の一部損壊243棟が記録されました。死者は出ていませんが、建物被害は阿東町・むつみ村を中心に広がりました。

2001年3月 — 芸予地震(M6.7)

2001年3月24日、広島県・愛媛県にまたがる芸予地域を震源とするM6.7の地震が発生。山口県全域も強い揺れに見舞われ、NIEDデータベースは長門市への影響を記録しています。死者は広島・愛媛を中心に2人、負傷者は全国で288人に達しました。

江戸〜明治期の地震履歴(歴史記録)

長門地方(旧長門国・現山口県北部)は歴史的にも地震が多い地域です。NIEDデータベースには以下の有感地震が長門市に影響した記録として残されています。

年月日 災害名 種類
1676年7月12日 石見の地震 地震
1707年11月21日 防長の地震 地震
1778年2月14日 石見の地震 地震
1793年1月13日 長門・周防の地震 地震
1857年7月8日 萩の地震 地震
1859年1月5日 石見の地震 地震
1898年4月3日 見島の地震 地震

特に1793年の「長門・周防の地震」は、長門市の名が直接付いた史料が残る重大な地震です。1707年の「防長の地震」は、同年10月に発生した宝永地震(南海トラフ、M8.6推定)と時期が近く、西日本全体が地震活動の活発な時期に置かれていたことを示します。


洪水・浸水リスク — 河川ごとの危険度

長門市を流れる主要河川の浸水リスクを防災DBの125mメッシュ解析で整理すると、次のとおりです。

河川名 浸水メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大継続時間
厚東川 716 5m 1.64m 72時間
阿武川 585 5m 1.52m 72時間
粟野川 437 5m 3.65m 24時間
掛淵川 390 5m 1.32m 72時間
木屋川 378 10m 2.63m 24時間
三隅川 377 5m 1.68m 72時間
深川川 319 5m 1.27m 24時間
大田川 285 5m 1.47m 72時間
明木川 140 5m 2.67m 72時間

粟野川の平均浸水深3.65mは特に深刻です。3mの浸水は木造住宅の1階天井まで水が達する深さで、1階に人が残っていれば逃げ場を失います。避難のタイミングは「浸水が始まってから」ではなく「雨が強まる前」でなければなりません。

木屋川の最大浸水深10mは2階建て住宅が完全に水没するレベル。木屋川は長門市内から下流にかけて流域が広く、上流域の集中豪雨が下流部に集中します。

長門市は令和2年度に洪水ハザードマップを全面改訂しており、深川川・音信川を対象に「想定最大規模降雨」対応の浸水想定区域図が公開されています。自宅・職場のハザードマップ上の位置確認は必須です(→ 長門市 河川洪水ハザードマップ)。


津波・高潮リスク — 3つの湾が抱える危険

長門市の北部沿岸は仙崎湾・深川湾・油谷湾に面しており、日本海に開口しています。山口県の津波浸水想定(2015年公表)では、最大クラスの津波が到来した場合、長門市沿岸の浸水面積は次のように想定されています。

浸水深 浸水面積
1cm以上 384 ha
30cm以上 293 ha
1m以上 132 ha
2m以上 36 ha

想定断層は見島付近西部断層・見島北方沖西部断層・西山断層とその北方延長部の3モデルです。仙崎漁港周辺は津波災害警戒区域(イエローゾーン)に指定されており、長門市のウェブ版ハザードマップでも浸水区域として図示されています(→ 長門市WEB版ハザードマップ)。

防災DBの125mメッシュ解析では、津波・高潮の影響を受けるメッシュが14,728メッシュに上ることが確認されています。これは市内の相当広い面積が沿岸リスクにさらされていることを意味します。

高潮については、山口県が高潮浸水想定区域図を整備しており、長門市北部沿岸(仙崎・油谷湾周辺)が対象区域に含まれています。台風接近時には事前の避難行動が不可欠です。


土砂災害リスク — 急峻な山地に囲まれた集落

長門市は市域の大部分が山地で構成されており、河川沿いの集落は急斜面を背負う形で立地しているケースが多くあります。防災DBの解析では、長門市内の土砂災害ハザード区域に含まれるメッシュは1,264メッシュに達します。

土砂災害は洪水と同じ大雨トリガーで発生するため、大雨時には洪水と土砂崩れのリスクが同時に高まる点が見逃せません。長門市は土砂災害ハザードマップを公表しており(→ 土砂災害ハザードマップ)、山沿いに居住する方は必ず確認が必要です。


地震リスク — 山口県北部の活断層と地盤

30年以内の揺れの確率

防災DBの解析によると、長門市の地震確率は以下のとおりです(2024年版・全国地震動予測地図ベース)。

指標 市内平均 市内最大値
震度6弱以上(30年以内) 1.2% 12.8%
震度5弱以上(30年以内) 22.9% 84.5%

平均1.2%という数値は全国的に見ても低い水準ですが、最大値12.8%のエリアが存在することには注意が必要です。市内でも特定のエリアでは震度6弱以上の揺れが起きやすい地点があります。

地盤特性

AVS30(地表から30mまでの平均S波速度)の市内平均は579.6m/sで、比較的硬い地盤を示しています。一般に200m/s未満の軟弱地盤と比べると揺れが増幅しにくい傾向がありますが、河川沿いの低地では局所的に軟弱な地盤が存在するため、一律には安心できません。

活断層の状況

防災DB解析(山口県周辺の活断層情報)では、長門市に直接影響する活断層の確認はできていません(不明)。ただし、1997年の山口県北部地震(M6.6)が示すように、地震本部が把握していない活断層(未知断層)が存在する可能性は否定できません。


主要避難施設

長門市内には145か所の避難場所が整備されています(広域避難場所の指定はなし)。主要な施設を以下に示します。

施設名 住所
ながと総合体育館 長門市仙崎818-1
仙崎中学校 長門市仙崎1181-1
仙崎小学校 長門市仙崎新屋敷1230
仙崎公民館 長門市仙崎1374
三隅中学校 長門市三隅中1504
中央公民館 長門市東深川1326-6
俵山中学校 長門市俵山2305

沿岸部(仙崎地区)の避難場所は津波・高潮が想定される区域に位置している可能性があります。自宅近くの避難場所が浸水想定区域内にないか、長門市ウェブ版ハザードマップで必ず確認してください(→ 長門市WEB版ハザードマップ)。


今からできる備え

まず確認すべき公式情報

  • 長門市 各種ハザードマップ一覧: https://www.city.nagato.yamaguchi.jp/soshiki/4/23349.html
  • 長門市 WEB版ハザードマップ: https://www.city.nagato.yamaguchi.jp/soshiki/4/35257.html
  • 河川洪水ハザードマップ: https://www.city.nagato.yamaguchi.jp/soshiki/4/1076.html
  • 土砂災害ハザードマップ: https://www.city.nagato.yamaguchi.jp/soshiki/4/21213.html
  • 防災DB 長門市のリスク詳細: https://bousaidb.jp/

具体的なアクション

  1. ハザードマップで自宅・職場の浸水想定深を確認する — 粟野川・木屋川・深川川の浸水想定区域は特に要確認。
  2. 津波避難場所の海抜を確認する — 沿岸部の避難場所は高台にあるかを事前に確認する。
  3. 避難のタイミングを決めておく — 「大雨特別警報発表」ではなく「大雨警報(土砂災害)または河川の氾濫危険情報が出た段階」での行動を家族で決めておく。
  4. 備蓄の確認 — 72時間分(3日分)の水・食料・医薬品・懐中電灯・充電バッテリー。
  5. マイ・タイムラインの作成 — 長門市防災危機管理課(0837-22-0220)で相談可能。

データ出典

データ 出典
統合リスクスコア・各種ハザードメッシュ 防災DB(bousaidb.jp) / 国土交通省ハザードマップポータルサイト
地震動予測確率(2024年版) 地震調査研究推進本部「全国地震動予測地図2024年版」
過去の災害事例 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース
津波浸水想定 山口県「山口県津波浸水想定図(日本海沿岸)」(2015年公表)
1997年山口県北部地震の詳細 気象庁・地震調査研究推進本部
ハザードマップURL 長門市公式ウェブサイト(防災危機管理課)
避難場所情報 国土交通省 国土数値情報(避難施設データ)・長門市公式サイト

最終更新: 2026年4月 / 著者: 防災DB編集部
本記事のリスクデータは防災DB(bousaidb.jp)が独自に集計・解析したものです。ハザードマップや避難場所の最新情報は必ず長門市公式サイトおよび各ハザードマップで確認してください。