名古屋市の災害リスクと過去の主要災害|洪水・地震・高潮の脅威を徹底解説
名古屋市は、日本全国の市区町村の中でも際立って複合的な災害リスクを抱える都市だ。防災DBの統合リスクスコアは100点満点中92点(極めて高い)。洪水・津波・高潮の3スコアがいずれも満点の100を記録する市区町村は全国でも限られる。
人口約230万人が暮らすこの都市では、1959年の伊勢湾台風で3,168人が命を落とした。南区だけで1,417人が犠牲になり、完全に水が引くまで港区で79日を要した。それから65年以上が経過した今も、都市の根幹に潜む地形的な脆弱性は変わっていない。
本記事では、防災DB(bousaidb.jp)の125mメッシュ解析データと過去の災害記録をもとに、名古屋市の災害リスクの全貌を解説する。
なぜ名古屋市はこれほど災害リスクが高いのか
濃尾平野という「水を溜める器」
名古屋市が位置する濃尾平野は、3つの断層帯(養老断層・猿投山北断層・天白川河口断層)に囲まれた地殻の落ち込み地形に、木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)が100万年以上かけて土砂を堆積させてできた平野だ。言い換えれば、平野全体が「お椀の底」に相当する地形であり、一度洪水が発生すると水が逃げにくい。
名古屋市の市街地主部が乗る熱田台地は洪積台地で、東部の標高が約30m程度あるものの、西に向かって緩やかに傾斜し、港区・南区方面ではゼロメートル以下にまで落ち込む。
日本最大のゼロメートル地帯
名古屋市のゼロメートル地帯(海抜0m以下の地域)は市域全体の約14%(約46km²)に及び、日本最大規模とされる。港区・南区・熱田区以南が主な範囲で、海抜マイナス3mを下回る地点も存在する。
さらに、昭和40年代から急速に進んだ地盤沈下が事態を悪化させた。昭和48年(1973年)には港区の水準点で年間23cmという記録的な沈下が観測された。昭和36年(1961年)から令和2年(2020年)までの累積沈下量は、名古屋市南部で20〜140cmに達している。
地盤沈下と低地の組み合わせは、洪水・高潮・津波のいずれの災害に対しても脆弱性を高める。
複合するリスク:洪水・高潮・地震
防災DBのデータが示す名古屋市のリスク構造は以下の通りだ。
| リスク種別 | スコア(0-100) | 主要指標 |
|---|---|---|
| 洪水 | 100 | 最大浸水深10m以上想定(庄内川・矢作川)、浸水想定メッシュ200,430件 |
| 津波 | 100 | 最大浸水深10m以上想定、浸水想定メッシュ168,098件 |
| 高潮 | 100 | 伊勢湾台風時に名古屋港で潮位5.31mを記録 |
| 土砂災害 | 50 | ハザード区域26箇所 |
地震リスクについては別途後述するが、震度6弱以上の揺れが30年以内に発生する確率は市内平均で58.2%、最大地点では80.5%に達する(防災DBメッシュ解析、2024年データ)。全国平均と比較して著しく高い水準だ。
名古屋市の過去の主要災害
1959年9月26日|伊勢湾台風:3,168人の命を奪った国内最大の台風災害
台風15号(伊勢湾台風)は1959年(昭和34年)9月26日、和歌山県潮岬付近に上陸。名古屋では最低気圧958.2hPa、最大瞬間風速45.7m/sを観測した。
問題は風よりも高潮だった。南寄りの暴風が伊勢湾最奥部に海水を吹き寄せ、名古屋港の潮位は観測史上最高の5.31mを記録した。当時の堤防高は4.8mであり、0.5m以上溢れた海水が港区・南区を水没させた。
名古屋市の被害は壊滅的だった。
- 死者:3,168人(行方不明92人)
- 負傷者:59,045人
- 住宅全壊:23,334棟、半壊:97,049棟
- 南区死者:1,417人(ほぼ全域が海抜ゼロメートルの干拓地)
- 港区は完全排水まで79日を要した
この災害を直接の契機として、翌1961年に災害対策基本法が制定された。現在の日本の防災法制の根幹をなす法律が、名古屋市の惨禍から生まれたといえる。
2000年9月11日|東海豪雨:死者4人、床上浸水9,818棟
2000年(平成12年)9月11日から12日にかけて、名古屋市周辺に台風14・15・17号と停滞前線が重なり、記録的な豪雨(東海豪雨)が発生した。降水量は24時間で589mmに達し(東海地方の観測史上最大)、庄内川・新川等が次々と溢水・破堤した。
名古屋市での被害:
- 死者4人、負傷47人
- 床上浸水:9,818棟
- 床下浸水:21,852棟
- 住宅半壊:98棟
名古屋市西部の低地を中心に広大な浸水域が形成され、一部地域では1週間以上水が引かなかった。伊勢湾台風後に整備が進んだはずの治水インフラが、短時間の集中豪雨の前に限界を露呈した事例として記録されている。
1976年9月8日|51.9豪雨:床下浸水62,959棟
1976年(昭和51年)9月8日の台風17号(51.9豪雨)では、名古屋市内で床上浸水3,610棟、床下浸水62,959棟という戦後最大規模の浸水被害が発生した。住宅半壊217棟。
この災害の特徴は被害の広域性にある。市域全体が浸水の影響を受け、特に低地部の中川区・港区・南区・熱田区で甚大な被害が集中した。
1891年10月28日|濃尾地震:M8.0、内陸地震最大級
1891年(明治24年)10月28日の濃尾地震は、マグニチュード8.0という日本の歴史上最大級の内陸直下型地震だ。震源は岐阜県根尾谷(現在の本巣市)付近で、濃尾断層帯根尾谷断層の活動によるとされる。
全国の死者は7,273人(推計)、家屋倒壊は14万棟以上。名古屋市内でも建物被害が広範囲に及んだ。この地震は「濃尾地震断層帯」として現在も活断層調査の主要対象であり、再活動した場合の被害想定が防災計画の重要な前提となっている。
1944年12月7日|東南海地震:M7.9、三重〜静岡を広域に直撃
1944年(昭和19年)12月7日の東南海地震(M7.9)は、紀伊半島沖〜遠州灘を震源とする海溝型地震だった。愛知県・三重県・静岡県を中心に広域の被害が発生し、名古屋でも揺れと津波の影響が確認されている。
戦時中の報道統制から被害の詳細は長年不明確だったが、後の調査では全国の死者は1,251人(公式)〜数千人という推計もある。南海トラフ巨大地震のひとつであり、現在の防災想定の重要な参照事例だ。
過去の主要災害年表
| 年月日 | 災害名 | 種別 | 主な被害(名古屋市) |
|---|---|---|---|
| 1586年1月18日 | 天正地震 | 地震 | M7.9〜8.1(東海〜畿内を直撃) |
| 1707年10月28日 | 宝永地震 | 地震 | M8.6、南海トラフ全域破壊 |
| 1854年12月23日 | 安政東海地震 | 地震 | M8.4、津波 |
| 1891年10月28日 | 濃尾地震 | 地震 | M8.0、最大級内陸地震 |
| 1944年12月7日 | 東南海地震 | 地震 | M7.9 |
| 1945年1月13日 | 三河地震 | 地震 | M6.8 |
| 1959年9月26日 | 伊勢湾台風 | 高潮 | 死者3,168人、全壊23,334棟 |
| 1961年6月23日 | 梅雨前線豪雨 | 洪水 | 床上2,752棟、床下53,387棟 |
| 1971年8〜9月 | 集中豪雨(2回) | 洪水 | 床上3,291棟〜2,599棟 |
| 1976年9月8日 | 51.9豪雨 | 洪水 | 床上3,610棟、床下62,959棟 |
| 1979年9月24日 | 集中豪雨 | 洪水 | 床上1,613棟、床下30,290棟 |
| 1983年9月28日 | 台風10号 | 洪水 | 死者4人、床上672棟、床下15,291棟 |
| 1991年9月18日 | 台風17〜19号 | 洪水 | 床上1,955棟、床下6,731棟 |
| 1998年9月21日 | 台風7・8号 | 洪水 | 死者2人、負傷56人 |
| 2000年9月11日 | 東海豪雨 | 洪水 | 死者4人、床上9,818棟 |
| 2008年8月28日 | 平成20年8月末豪雨 | 洪水 | 床上1,175棟、床下9,929棟 |
| 2020年7月5日 | 令和2年7月豪雨 | 洪水 | 河川被害1件 |
出典:防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース、防災DB集計(2024年時点)
洪水・浸水リスクの詳細
なぜ名古屋は繰り返し洪水に見舞われるのか
名古屋市を取り囲む主要河川は、木曽川・長良川・揖斐川(木曽三川)、庄内川、矢作川、そして市内を流れる矢田川・天白川・香流川など多数に及ぶ。これらが平野部に流れ込む際、地形的な「出口」が伊勢湾という一点に集中している構造が、洪水の際に水の逃げ場を失わせる。
防災DBの125mメッシュ解析(2024年時点)による、名古屋市域に影響する主要河川の洪水浸水想定は以下の通りだ。
| 河川名 | 最大浸水深 | 平均浸水深 | 最大継続時間 | 影響メッシュ数 |
|---|---|---|---|---|
| 木曽川 | 5.0m | 1.93m | 336時間 | 14,265 |
| 庄内川 | 10.0m | 2.47m | 336時間 | 5,946 |
| 矢作川 | 10.0m | 2.56m | 336時間 | 5,848 |
| 矢田川 | 5.0m | 0.88m | 336時間 | 2,576 |
| 天白川 | 5.0m | 1.25m | — | 1,970 |
| 香流川 | 5.0m | 0.64m | 336時間 | 1,812 |
出典:防災DB(bousaidb.jp)125mメッシュ解析、国土交通省洪水浸水想定データ(2024年時点)
浸水深3mは「1階の天井まで水没」することを意味し、2階への垂直避難でも命を落とす可能性がある。庄内川・矢作川の最大浸水深10mは「3階建て建物が完全水没」する規模だ。
この浸水深10mの想定は「最悪ケース(千年に一度規模)」だが、東海豪雨(2000年)のような「百年に一度規模」でも数mの浸水が想定されており、現実の脅威として捉える必要がある。
内水氾濫のリスク
名古屋市は「外水氾濫(河川の溢水・破堤)」に加え、「内水氾濫(排水能力を超えた降雨による浸水)」のリスクも高い。市内の下水道排水能力を超える集中豪雨が発生すると、河川が溢れなくても道路・低地が浸水する。特にゼロメートル地帯では、大雨時に降った雨がそのまま低地に滞留する。名古屋市は内水氾濫ハザードマップも公開しており、確認が推奨される。
地震リスクの詳細
震度6弱以上が「ほぼ確実」に来る
防災DBの125mメッシュ解析では、名古屋市内で30年以内に震度6弱以上の揺れが起きる確率の平均は58.2%、最大80.5%(2024年データ)に達する。これは全国の主要都市の中でも上位水準だ。
仮に今後30年間ずっと名古屋に住み続けると仮定した場合、震度6弱以上の地震を経験する可能性は五分五分以上ということになる。「いつか来る」ではなく「来る可能性の方が高い」という認識が必要だ。
名古屋市を取り囲む活断層
防災DBの断層マスタに登録された、名古屋市域に影響する主要活断層は以下の通りだ。
| 断層帯名 | 想定M | 30年発生確率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 養老山地西縁断層帯 | M7.0 | 0.499% | 岐阜・三重県境から伊勢湾に至る |
| 名古屋市付近断層 | M6.6 | 0.344% | 市街地直下 |
| 濃尾断層帯(三田洞) | M6.5 | 0.200% | 濃尾断層帯の一部 |
| 恵那山-猿投山北断層帯 | M7.2 | 0.123% | — |
| 養老−桑名−四日市断層帯 | M7.2 | 0.003% | 伊勢湾に近接 |
| 猿投-高浜断層帯 | M7.1 | — | 1891年濃尾地震の関連断層系 |
出典:防災DB(bousaidb.jp)断層マスタ、地震調査研究推進本部(2024年時点)
「30年発生確率0.499%」と聞くと小さく感じるかもしれないが、文部科学省の地震調査研究推進本部が「要注意」と位置づける目安は0.1〜3%の範囲であり、養老山地西縁断層帯・名古屋市付近断層・濃尾断層帯はいずれもその範囲に入る。
さらに、最も大きなリスクとして認識すべきは南海トラフ巨大地震だ。30年以内の発生確率は70〜80%とされており、名古屋市は強い揺れと高潮・津波への複合的な備えが求められる。
地盤の脆弱性:Vs30平均273m/s
防災DBが解析した名古屋市内の地盤データでは、地表面付近の地盤のS波速度(Vs30)の平均が273.2m/sと、軟弱地盤の指標となる200〜300m/sの範囲に収まる。地震動の増幅率は平均1.44倍、最大2.41倍に達する地点もある。
軟弱地盤は揺れを増幅させるだけでなく、液状化のリスクも高める。ゼロメートル地帯の埋立地・干拓地では、大規模地震の際に液状化が広範囲で発生することが想定される。
高潮・津波リスク
伊勢湾台風の記憶が示す「本物のリスク」
高潮スコア100・津波スコア100という数値は、1959年の伊勢湾台風が証明したリスクそのものだ。防災DBの解析では、名古屋市域の高潮・津波浸水想定メッシュは34,091件に達する。
南海トラフ巨大地震発生時には、地震動に加えて津波が伊勢湾に到達する。名古屋港から市内中心部までは直線距離で10km程度しかなく、津波到達時間は短い。海岸部・港区・南区では「揺れが収まったらすぐ高台へ」が基本行動となる。
避難施設・避難場所一覧
名古屋市内には963箇所の避難施設が登録されており、うち79箇所が広域避難場所だ(防災DBデータ、2024年時点)。
主要な広域避難場所(一部抜粋):
| 施設名 | 住所 | 種別 |
|---|---|---|
| 名城公園一帯 | 北区名城一丁目〜中区三の丸 | 広域避難場所 |
| 久屋大通公園 | 中区丸の内三丁目〜栄三丁目 | 広域避難場所 |
| ナゴヤドーム・愛教大附属小中学校一帯 | 東区大幸南一・二丁目 | 広域避難場所 |
| 千種公園一帯 | 千種区若水一・二丁目 | 広域避難場所 |
| 吹上公園 | 昭和区御器所町 | 広域避難場所 |
| 大高緑地 | 緑区大高町・鳴海町 | 広域避難場所 |
| 天白公園 | 天白区天白町島田平針 | 広域避難場所 |
| 国際展示場 | 港区金城ふ頭二丁目 | 広域避難場所 |
重要:洪水・高潮・津波では「垂直避難(高い建物へ)」が有効なケースがある。特に低地部では、広域避難場所への移動が困難な場合に備えて、自宅周辺の頑丈な高層建物を確認しておくことが推奨される。
最新の避難場所情報・ハザードマップは名古屋市の公式ページから確認できる。
今からできる備え
公式ハザードマップの確認
- なごや防災ポータル(ハザードマップ統合ページ):https://www.city.nagoya.jp/bousaiportal/hazardmap/1036428.html
- 洪水ハザードマップ:https://www.city.nagoya.jp/bousaiportal/hazardmap/1035122/index.html
- 地震ハザードマップ:https://www.city.nagoya.jp/bousaiportal/hazardmap/1035126/index.html
- 内水氾濫ハザードマップ:https://www.city.nagoya.jp/bousaiportal/hazardmap/1035124/index.html
名古屋市は令和5年(2023年)3月に「なごやハザードマップ防災ガイドブック」を全戸配布した。洪水・内水氾濫・高潮・地震・津波・ため池氾濫を網羅し、「わが家のマイ・タイムライン」も収録している。
チェックリスト
- [ ] 自宅の浸水想定深・震度を防災DBまたはハザードマップで確認する
- [ ] 最寄りの広域避難場所・避難所を2箇所以上把握する
- [ ] 洪水・高潮時の「垂直避難できる建物」を近隣で確認する
- [ ] 7日分以上の飲料水・食料を備蓄する(南海トラフ地震時は物流が長期停止する可能性)
- [ ] 地域のハザードマップと「マイ・タイムライン」を家族で共有する
- [ ] 地震保険・火災保険の補償内容を確認する(水害特約の有無)
データ出典
| データ種別 | 出典 |
|---|---|
| リスクスコア・メッシュ解析 | 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ解析(2024年) |
| 過去の災害記録 | 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース |
| 活断層データ | 地震調査研究推進本部、防災DB断層マスタ |
| 避難施設データ | 国土数値情報(避難場所データ)、防災DB(2024年) |
| ゼロメートル地帯情報 | 愛知県・名古屋市公式資料、防災科学技術研究所 |
| 伊勢湾台風の被害 | 内閣府防災情報ページ、名古屋市公式ページ |
| ハザードマップ | 名古屋市公式ウェブサイト(令和5年版) |
| 地形・地質 | 国土地理院、防災科学技術研究所 |
この記事は防災DB編集部が、防災DBの125mメッシュ解析データと公的一次資料をもとに執筆しました。データの誤りや最新情報の更新依頼はbousaidb.jpからお知らせください。
最終更新:2026年4月
防災DB