那賀町では過去80年間に13件の災害が記録されている。2004年の台風10・11号では死者2名・全壊9棟、床上浸水3棟・床下浸水23棟という深刻な被害が発生した。防災DBの統合リスクスコアは92点(極めて高い)。徳島県内でも最上位クラスのリスク自治体だ。

那賀町は「国内無双の暴れ川」と呼ばれる那賀川の上中流域に位置し、四国山地の急峻な地形と崩れやすい秩父帯の地質が、洪水と土砂災害の温床となっている。さらに南海トラフ巨大地震では震度6強以上の揺れと津波が想定されており、水害・地震・土砂災害の三重のリスクを抱える町だ。

この町の災害リスクの特徴

なぜ那賀町は災害に弱いのか

那賀町の面積は約695km²で徳島県最大だが、その約95%が山林だ。町域は那賀川とその支流に沿って東西約50kmにわたり細長く伸びている。平地はほとんどなく、集落は川沿いの狭い段丘や谷底に点在する。

地質的には、上流部の木頭地区が秩父帯に属する。秩父帯は砂岩・頁岩の互層からなる非常に崩れやすい地質であり、豪雨時には大量の土砂が那賀川に流入する。この地質的特性が、那賀川を「暴れ川」たらしめている根本的な要因だ。

那賀川の年間降水量は上流部で3,000mmを超え、台風シーズンには短時間に500mm以上の集中豪雨に見舞われることも珍しくない。急峻な地形と脆い地質、そして豊富な降水量。この三つの条件が揃うことで、那賀町は洪水と土砂災害に対して構造的に脆弱な状態にある。

地震リスク:南海トラフの影

防災DBの125mメッシュ解析によると、那賀町内の地震動予測は以下の通りだ(2024年時点)。

指標 平均値 最大値
30年以内に震度6弱以上の確率 40.7% 80.5%
30年以内に震度5弱以上の確率 81.3% 96.9%
表層地盤のS波速度(AVS30) 720.0 m/s

震度5弱以上が30年以内に約81%という数値は、南海トラフ地震の影響を如実に示している。AVS30が720m/sと比較的高い値を示しているのは山地の岩盤地盤であるためだが、谷底の沖積地盤では局所的に揺れが増幅される可能性がある。

1946年の南海地震(M8.0)では那賀町でも被害が記録されており、次の南海トラフ巨大地震では震度6強以上の揺れが想定されている。

過去の主要災害

2004年 台風10・11号 ── 死者2名、那賀川が暴れた夏

2004年7月29日から8月にかけて、台風10号と11号が相次いで四国を直撃した。那賀川流域では記録的な豪雨となり、那賀川の流量は古庄観測所で約8,100m³/sに達した。

那賀町(当時は木沢村を含む旧5町村)での被害は甚大だった。

被害項目 数値
死者 2名
全壊 9棟
半壊 13棟
一部損壊 7棟
床上浸水 3棟
床下浸水 23棟

この災害は激甚災害に指定された。四国全体では死者3名、経済損失103億円に上り、那賀川流域が被害の中心地となった。上流部の木沢村(現・那賀町木頭地区)では大規模な土砂崩れが発生し、道路が寸断されて集落が孤立した。

出典:那賀町地域防災計画一般災害対策編(徳島県資料)、NIED災害事例データベース

2011年 台風12号 ── 紀伊半島大水害と那賀川の増水

2011年9月2日、台風12号が高知県東部に上陸。紀伊半島を中心に全国で死者・行方不明者98名という甚大な被害をもたらした「紀伊半島大水害」として記録される災害だ。

那賀町では床上浸水16棟・床下浸水16棟の被害が発生した。紀伊半島ほどの壊滅的被害には至らなかったものの、那賀川流域の脆弱性が改めて浮き彫りになった。

同年7月には台風6号でも被害を受けており、わずか2ヶ月の間に2度の台風被害に見舞われた。

2009年 台風9号 ── 全壊1棟、床上浸水31棟

2009年8月6日の熱帯低気圧・台風9号による大雨で、那賀町では全壊1棟、床上浸水31棟、床下浸水7棟の被害が発生した。全壊が1棟発生している点は、土砂災害の直撃を受けた可能性を示唆する。

2004年 台風23号 ── 床上浸水19棟

2004年10月19日、台風23号が上陸。同年の台風10・11号からわずか3ヶ月後の再被災となった。床上浸水19棟という被害は、復旧途上にあった住民にとって二重の打撃だった。

1946年 南海地震 ── M8.0の巨大地震

1946年12月21日、南海地震(M8.0)が発生。那賀町でも被害が記録されている。具体的な被害数値はNIEDデータセットに収録されていないが、那賀町地域防災計画では主要災害として位置づけられている。

次の南海トラフ巨大地震はM8〜9クラスが想定されており、1946年の南海地震を大きく上回る可能性がある。

全災害年表

月日 災害名 種別 主な被害
2020 7/4 令和2年7月豪雨 風水害 道路被害
2011 9/2 台風12号 風水害 床上浸水16棟、床下浸水16棟
2011 7/19 台風6号 風水害 記録あり(詳細不明)
2011 3/11 東日本大震災 地震 記録あり(詳細不明)
2009 8/6 台風9号 風水害 全壊1棟、床上浸水31棟、床下浸水7棟
2005 9/5 台風14号 風水害 床上浸水11棟
2004 10/19 台風23号 風水害 床上浸水19棟
2004 8/27 台風16号 風水害 一部損壊2棟
2004 7/29 台風10・11号 風水害 死者2名、全壊9棟、半壊13棟
1995 1/17 阪神・淡路大震災 地震 記録あり(詳細不明)
1960 5/23 チリ地震津波 地震・津波 記録あり
1955 7/27 (不明) その他 記録あり
1946 12/21 南海地震 地震 記録あり

出典:NIED災害事例データベース、那賀町地域防災計画一般災害対策編

過去の災害を概観すると、那賀町の災害は圧倒的に台風・豪雨による風水害が多い。13件中8件が風水害であり、那賀川流域の水害リスクの高さが年表からも明確に読み取れる。

洪水・浸水リスク ── 那賀川の最大想定浸水深は20m

那賀川は幹川流路延長125kmの一級河川で、流域面積は874km²。上流部は四国山地の急峻な谷を刻み、年間降水量3,000mmを超える多雨地帯を流域に持つ。

防災DBの125mメッシュ解析による河川別の浸水リスクは以下の通りだ。

河川名 浸水メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大浸水継続時間
那賀川 2,122 20.0m 4.52m 336時間(14日)
桑野川 660 10.0m 3.15m 72時間
勝浦川 339 10.0m 4.15m 72時間
福井川 218 5.0m 2.54m 72時間
日和佐川 168 5.0m 1.17m 72時間
海部川 81 5.0m 3.91m 72時間
派川那賀川 64 5.0m 3.14m 168時間

那賀川の最大想定浸水深20mという数値は衝撃的だ。これは4階建てビルの屋上に達する水深であり、V字谷の地形が水を集中させることで生じる極端な浸水想定を反映している。

平均浸水深4.52mは「2階の床上まで完全に水没」する深さだ。浸水継続時間が最大336時間(14日間)という点も見逃せない。山間部の谷底に位置する集落では、洪水が引くまでに2週間近くかかる可能性がある。

桑野川や勝浦川も最大浸水深10mと、通常の河川氾濫では考えにくい深さが想定されている。那賀川流域の河川は総じて急流で水量が多く、いずれも洪水時には極めて危険な状態となる。

土砂災害リスク ── 294区域のハザードゾーン

那賀町の土砂災害警戒区域は294区域に上る。防災DBの125mメッシュ解析では、土砂災害リスクのあるメッシュが25,800に達しており、町域の広範囲が土砂災害の影響下にある。

リスクスコアは50点(中程度)だが、これは町域全体に対する割合の評価であり、集落が位置する谷底や斜面際では局所的に極めて高いリスクとなる。実際、2004年の台風10・11号では木沢村(現・那賀町)で大規模な土砂崩れが発生し、道路が寸断されている。

秩父帯の砂岩・頁岩は風化が進みやすく、長時間の降雨で地盤が飽和すると一気に崩壊するパターンが多い。那賀川上流部では渓流からの土石流の堆積で沖積錐が形成されており、こうした地形そのものが過去の土石流の痕跡だ。

津波・高潮リスク

那賀町の大部分は内陸の山間部だが、那賀川河口を通じた遡上津波のリスクがある。防災DBのデータでは津波スコア100点、沿岸メッシュ数13,054と算出されている。

この高いスコアは、那賀川下流域(阿南市との境界付近)に隣接する地域のリスクを反映したものだ。南海トラフ巨大地震による津波は、那賀川河口から遡上して上流域にまで影響を及ぼす可能性がある。1946年の南海地震でも那賀川河口付近で津波被害が記録されている。

高潮スコアも100点となっており、台風接近時には高潮と河川増水の複合的なリスクに警戒が必要だ。

避難施設一覧

那賀町には134か所の避難所が指定されている。広域避難場所はなく、地区ごとの集会所や公民館、学校が避難所として機能する。主な施設は以下の通り。

施設名 住所 種別
上那賀中学校 那賀町小浜197 避難所
上那賀公民館 那賀町小浜196 避難所
上那賀東体育館 那賀町小浜字立石164-2 避難所
上那賀福祉センター 那賀町平谷字ツヱノ下モ1-1 避難所
健康センター 那賀町延野字王子原31-1 避難所
北川体育館 那賀町木頭北川字イモジ屋敷7 避難所
北川小学校 那賀町木頭折宇字六地蔵89 避難所
中山公民館 那賀町中山字とふめん36 避難所
もみじ川ふれあい館 那賀町西納字上平間3-1 避難所

那賀町は東西約50kmにわたる広大な町域に集落が点在しているため、災害時には道路の寸断により避難所へのアクセスが困難になるリスクがある。自宅から最寄りの避難所までのルートを複数確認しておくことが重要だ。

今からできる備え

那賀町は「暴れ川」那賀川と南海トラフ地震という二つの大きなリスクを抱えている。台風シーズンは毎年確実に訪れ、南海トラフ地震は今後30年以内に70〜80%の確率で発生するとされている。

確認すべきリンク

備えのポイント

山間部の那賀町では、豪雨時に道路が寸断されて孤立するリスクが高い。最低3日分、できれば1週間分の食料・水・医薬品の備蓄が必要だ。特に木頭地区など上流部の集落では、孤立が長期化する可能性を考慮すべきだ。

那賀川の水位情報は那賀町公式サイトの河川ライブカメラでリアルタイムに確認できる。台風接近時には早めの避難行動を心がけてほしい。

防災DB(bousaidb.jp)では那賀町の125mメッシュ単位の詳細なリスク情報を無料で確認できる。自宅周辺のピンポイントリスクを事前に把握しておくことが、命を守る第一歩だ。

データ出典

本記事のデータは以下の情報源に基づいています。

出典 内容 時点
防災DB 統合リスクスコア・125mメッシュ解析 2024年時点
NIED 災害事例データベース 過去の災害記録・被害数値 1946〜2020年
那賀町地域防災計画一般災害対策編 災害履歴・防災方針 徳島県資料
国土交通省 那賀川河川事務所 那賀川の洪水記録・流量データ 2004年時点
徳島県 防災・減災マップ ハザードマップ・浸水想定 2024年時点
国土数値情報 避難施設データ 避難所位置・種別 2022年時点
地震調査研究推進本部 南海トラフ地震発生確率 2024年時点
水土の礎(農業農村整備情報総合センター) 那賀川の歴史・地質

本記事は防災DB編集部が作成しました。記載内容は各データソースの公開時点の情報に基づいており、最新の状況とは異なる場合があります。防災対策の判断にあたっては、必ず自治体の最新情報をご確認ください。