中標津町の災害リスクと過去の被害|洪水・地震・津波で「統合スコア79」が示す複合リスクの実態

北海道・根室振興局に属する中標津町は、人口約2万2千人、北海道有数の酪農地帯として知られる。広大な根釧台地に広がる牧草地と、碁盤目状に区画された市街地。その穏やかな景観に反して、防災DBの分析では統合リスクスコアが79点(100点満点)に達し、「極めて高い」と評価されている。

洪水・地震・津波という主要3リスクがいずれもスコア100——この三冠の高リスクが、中標津町の防災を語る上での核心だ。1994年の北海道東方沖地震では建物被害3,499棟、2013年の大雪では5名の命が失われた。NIEDの記録には1933年から2013年にかけて64件の災害記録が残されており、この地が「安全地帯」でないことを80年分のデータが物語っている。

中標津町の災害リスクスコア一覧

リスク種別 スコア(0〜100) 評価概要
統合リスク 79 極めて高い
洪水 100 標津川最大浸水深10m・継続7日間
津波 100 沿岸部最大浸水深10m
地震 100 30年以内震度6弱以上確率 最大87.8%
土砂災害 50 警戒区域6箇所
液状化 40 泥炭地分布エリアで中程度
高潮 0

出典:防災DB 2024年時点データ(元データ:国土交通省・気象庁・地震調査研究推進本部等)

なぜ中標津町はここまでリスクが高いのか

「河岸段丘の街」が抱える洪水の二面性

中標津という地名はアイヌ語の「ナカサペツ(川の中ほどにある)」に由来するとされ、標津川の中流域に発展した街だ。標津川は清里町との境にある標津岳を源流とし、根釧台地を縦断して野付半島北部でオホーツク海に注ぐ全長約77.9km・流域面積671km²の大河川である。

市街地の中心部は標津川が開析した河岸段丘の上に立地しており、段丘上は自然の高台という利点がある。しかし段丘の縁から一段下がった低地部は洪水の直撃を受ける。加えて、根釧台地に広く分布する泥炭地・火山灰土壌は雨水の浸透能力が低く、大雨時には地表流が急増して河川水位が短時間で上昇しやすい。酪農地帯として広大な土地を持つ中標津では、ひとたび大規模氾濫が起きた場合の浸水面積も必然的に広範囲に及ぶ。

「根室沖地震の巣」の直近に位置する

中標津町の東〜南側には、根室沖から千島海溝にかけての日本有数の地震発生帯が控える。地震調査研究推進本部(HERP)の2024年版確率論的地震動予測地図によれば、中標津町域内には30年以内に震度6弱以上の揺れが発生する確率が最大87.8%に達するメッシュが存在する。域内の平均値でも44.9%であり、全国比較で極めて高いリスク水準だ。

「内陸部」なのに津波スコア100

中標津町の市街地は直接の海岸線を持たない内陸部にある。それでも津波スコアが100になっているのは、町の東端に標津沿岸・野付半島が接しており、北海道東方沖でM8〜9級の超巨大地震が発生した場合の津波浸水想定が町内の一部低地に及ぶためだ。防災DBの125mメッシュ解析では、津波影響を受けるメッシュが373箇所確認されている。

過去の主要災害

1994年北海道東方沖地震:建物被害3,499棟

1994年(平成6年)10月4日22時22分、根室半島東方沖約200kmを震源とするM8.2の巨大地震が発生した。最大震度は釧路・厚岸で震度6を記録し、中標津は震度4〜5とされているが、軟弱地盤の影響から実際の揺れは震度5強〜6弱相当と推定する研究もある。

中標津町地域防災計画(資料編)によれば、この地震で中標津町の建物被害は3,499棟に及んだ(全壊・半壊・一部損壊の合算と推定)。国道・道道が複数箇所で損傷し、液状化現象や崖崩れも発生。北海道全体では重傷32名・軽傷404名・住宅全壊61棟・一部損壊7,095棟(内閣府データ)と記録されており、中標津・別海・標津の3町を中心に根室・釧路地方が広域で被災した。

この地震と同タイプの超巨大地震が根室沖〜千島海溝で再び発生することは確実視されており、内閣府は2022年に千島海溝M9.3の被害想定を公表している。

2013年大雪:死者5名

2012年11月末から続いた記録的な大雪は、2013年3月2日付で「大規模雪害」として認定を受けた。NIEDデータには死者5名が記録されている。除雪作業中の事故や屋根雪による圧死等が主な要因とみられる。

NIEDの1933〜2013年の記録では、積雪・大雪に関連する災害が少なくとも16件記録されている。中標津は年間降雪量が多く、長期間の積雪が続く気候条件にあり、雪害は最も頻繁に繰り返される災害のひとつだ。

1960年融雪洪水:死者3名・床下浸水200戸

1960年3月13日、融雪による大規模洪水が中標津を直撃した。死者3名、床上浸水42戸、床下浸水200戸という深刻な記録が残る。泥炭地が広がる根釧台地では春季の融雪期に地盤が水を吸収しきれず、大規模な表面流となって低地を浸水させることがある。60年以上前の記録だが、地形と土壌の条件は変わっておらず、このリスクは現在も潜在的に存在する。

繰り返す地震被害の記録(1952〜2013年)

地震名 規模 中標津の主な被害
1952 十勝沖地震 M8.2 被害記録あり
1973 根室半島沖地震 M7.4 2回の地震記録
1993 釧路沖地震 M7.5 被害記録あり
1994 北海道東方沖地震 M8.2 建物被害3,499棟
2003 十勝沖地震 M8.0 一部損壊2棟
2013 十勝地方南部の地震 被害記録あり

出典:中標津町地域防災計画 資料編(NIED自然災害データベース経由)

61年間に6回の地震被害記録。「地震が来るかどうか」ではなく「いつ来るか」という問いが正確だ。

洪水・浸水リスクの詳細

標津川:最大浸水深10m・7日間継続のシナリオ

防災DBの125mメッシュ解析(国土交通省洪水浸水想定区域データ)が示す洪水リスクの全体像は以下のとおりだ。

河川名 影響メッシュ数 最大浸水深 最大継続時間
標津川 2,965 10.0m 168時間(7日間)
西別川 2,243 5.0m
春別川 664 5.0m
俣落川 441 5.0m
ケネカ川 406 5.0m
武佐川 332 0.5m 168時間
ウラップ川 300 0.5m 168時間
クテクンベツ川 205 3.0m
忠類川 196 3.0m
ポンベツ川 187 5.0m

標津川が氾濫した場合、最大浸水深10m・168時間(7日間)継続という想定がある。浸水深10mは3階建て建物が丸ごと水没するイメージ、5mは2階の床上まで浸水するイメージだ。西別川・春別川・ケネカ川でもそれぞれ5m以上の想定がある点に注意が必要だ。

洪水が複数の河川で同時発生することもあり得る。近年、大型台風が北海道を直撃するケースも増加しており、従来の「北海道は台風被害が少ない」という認識を改める必要がある。

地震・地盤リスクの詳細

千島海溝ではM9超の超巨大地震の発生が政府の長期評価で示されており、内閣府の2022年被害想定では北海道太平洋沿岸の壊滅的被害が予測されている。中標津は強い揺れによる建物倒壊・道路損壊のリスクが非常に高い。

防災DBのデータから読み取れる中標津の地盤特性(Vs30平均311.3 m/s)は比較的良好だが、泥炭地が分布する低地では液状化リスク(スコア40)が無視できない。1994年の北海道東方沖地震でも一部エリアで液状化が確認されている。

30年以内の地震動確率(防災DB / HERP 2024年版データ):
- 震度5弱以上:平均97.6%・最大99.99%
- 震度6弱以上:平均44.9%・最大87.8%

震度5弱以上はほぼ確実。震度6弱以上も4〜8割の確率というのは、全国でも最高水準のリスクレベルだ。

避難施設一覧

2024年時点、中標津町には指定緊急避難場所・避難施設が48箇所登録されている(国土交通省 国土数値情報)。主な施設は以下のとおりだ。

施設名 住所 種別
中標津小学校 西九条北1-2 緊急避難場所・避難施設
中標津東小学校 東七条南7-15 緊急避難場所・避難施設
中標津高等学校 西六条南5-1 緊急避難場所・避難施設
丸山小学校 丸山2-4 緊急避難場所・避難施設
中標津町老人福祉センター 計根別本通東6-17 緊急避難場所・避難施設
武佐小中学校 字武佐15線85-1 緊急避難場所・避難施設
俣落小学校 字俣落405-1 緊急避難場所・避難施設
俵橋小学校 字俵橋938-3 緊急避難場所・避難施設
拓友館 字俣落1915番地1 緊急避難場所・避難施設
中標津町交流センター 計根別南1条東2丁目1番地1 緊急避難場所・避難施設

※他38箇所は中標津町公式の避難所マップを参照。広域避難場所の指定はなし(2024年時点)。

「いざとなれば避難所に行けばいい」ではなく、自宅から最寄りの避難施設までの経路を日頃から歩いて確認しておくことが重要だ。特に大雪・洪水・地震が重なる複合災害時は、平時の経路が使えなくなる可能性がある。

今からできる備え

公式防災情報を確認する

中標津町は洪水・土砂災害ハザードマップをやさしい日本語版・6か国語版でも公開しており、外国籍住民への情報提供にも力を入れている。

防災DBで自宅のリスクを確認する

防災DB(bousaidb.jp)では、中標津町を125mメッシュ単位で分析した洪水・地震・津波リスクデータを無料で参照できる。「自宅の土地が何m浸水するか」「地盤は硬いか軟らかいか」をピンポイントで確認できる。

備蓄・避難計画のポイント

  • 地震対策:家具の固定、ガラス飛散防止フィルム、非常持出袋(3日分+余裕分)の準備
  • 洪水対策:ハザードマップで自宅の浸水深を確認。標津川・西別川の低地に住む場合は早期避難が最重要。標津川氾濫シナリオでは7日間継続が想定されるため、最低7日分の備蓄を推奨
  • 雪害対策:屋根の雪下ろしは必ず2人以上で安全確保しながら実施。除雪機の取り扱い事故にも注意
  • 津波対策:町東部(標津沿岸近く)に居住・勤務する場合は、津波警報発令時の内陸避難ルートを事前に確認

過去の全災害記録(1933〜2013年)

以下は防災DBが収録するNIED自然災害データベースから抽出した中標津町の全記録(64件)の主要部分だ(元データ:中標津町地域防災計画 資料編)。

月/日 災害名・種別 主な被害
2013 3/2 大雪(平成24年冬) 死者5名
2013 2/2 十勝地方南部の地震
2012 3/6 大雪(平成23年冬)
2010 8/7 暴風雨
2009 10/8 台風第18号
2007 9/6 台風第9号
2006 10/7 暴風雨 一部損壊25棟、河川被害4件
2004 台風第18号
2003 9/26 十勝沖地震(M8.0) 一部損壊2棟
2003 8/9 台風第10号
2002 10/1 台風第21号
2001 9/12 台風第15号 床上1・床下1浸水
2000 7/9 台風第3号
1998 9/16 台風第5号 床上1・床下6浸水
1994 10/4 北海道東方沖地震(M8.2) 建物被害3,499棟
1993 1/15 釧路沖地震(M7.5)
1984 9/9 暴風雨
1982 7/12 台風第10号(豪雨)
1981 8/22 台風第15号
1981 9/4 台風第18号
1973 6/17 根室半島沖地震(M7.4)
1972 9/15 台風第20号 床上2・床下43浸水
1965 9/18 台風第24号 床下62浸水
1961 9/16 第2室戸台風
1960 3/13 融雪洪水 死者3名・床上42・床下200
1954 洞爺丸台風
1952 3/4 十勝沖地震(M8.2)
1933 1 大雪

データ出典

データ種別 出典
統合リスクスコア・各リスクスコア 防災DB(独自算出)
洪水浸水想定区域(125mメッシュ) 国土交通省 水害リスクライン
津波浸水想定区域(125mメッシュ) 北海道・国土交通省 津波浸水想定データ
地震動予測確率 地震調査研究推進本部 確率論的地震動予測地図(2024年版)
過去の災害記録64件 国立研究開発法人 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース(元データ:中標津町地域防災計画 資料編・本編)
避難施設情報 国土交通省 国土数値情報 避難施設データ
地形・地質情報 国土地理院・Wikipedia「標津川」「中標津町」
自治体防災ページ 中標津町公式HP(防災情報ハザードマップ
北海道東方沖地震の被害 内閣府防災データベース、Wikipedia「北海道東方沖地震」

作成日: 2026年4月5日
データ時点: 2024年
著者: 防災DB編集部


本記事のデータは防災DB(bousaidb.jp)独自の125mメッシュ解析(国土交通省・気象庁・地震調査研究推進本部等の公開データに基づく)によるものです。最新情報は中標津町公式ページおよびハザードマップをご確認ください。数値・ファクトに誤りを見つけた場合はお知らせください。