大分県中津市の災害リスクと過去の災害年表|洪水・津波・土砂崩れが重なる"三重危険地帯"

著者: 防災DB編集部|最終更新: 2026年4月


中津市は日本有数の複合災害リスクを抱える

大分県北部に位置する中津市は、人口約7万9,000人を擁する豊前地域の中核都市だ。中津城や「中津からあげ」で知られ、観光地としても人気を集めるこの街は一方で、防災DB(bousaidb.jp)が算出した統合リスクスコアが83点(極めて高い)という、全国でも有数の高リスク地域でもある。

洪水・津波・高潮の3リスクがいずれもスコア100(最高値)、地震スコアも85と、複数の深刻な災害リスクが重なり合う。2018年4月には耶馬渓町で6名が死亡する大規模崩落が発生しており、「降雨がなくても崩れる」という山間部特有のリスクが市内に潜んでいることも見逃せない。

市内で記録された主な災害は過去数十年でNIEDデータベースに4件が収録されているが、2018年の耶馬渓崩落はNIED当該データセット未収録であり、本記事ではWeb調査の公的情報をもとに別途記述する。


なぜ中津市はこれほど災害リスクが高いのか

地形が生む「3つの弱点」

中津市の地形は、沿岸平野・丘陵・山間部という3つの地形帯が凝縮した構造になっている。

① 沿岸平野部(中津市街地・三光地区): 周防灘に面した海岸低地が広がり、山国川・城井川が運んだ砂が堆積してできた平野だ。地盤は軟弱で、津波・高潮・洪水の3つのリスクにさらされる。防災DBの地震メッシュデータでは、この平野部で震度6弱以上の30年確率が最大32.2%に達するエリアがある(市全体の平均は3.1%)。

② 山国川・城井川の河川流域: 山国川は熊本県との県境を水源とし、中津市を横断して周防灘に注ぐ一級河川だ。流域の地形は急峻で、上流で大雨が降ると短時間に水位が急上昇する。防災DBの125mメッシュ解析では、山国川流域で最大浸水深20m(想定最大規模)が記録されており、1,968メッシュ(約3,000ha相当)がハザードゾーンに含まれる。城井川も同様に1,983メッシュが対象で、市内最大の浸水リスクを持つ河川として位置づけられる。

③ 耶馬渓・山国地区(山間部): 「日本三大奇勝」に数えられる耶馬渓は、溶岩台地が侵食されてできた岩壁が連なる景観で知られる。しかし同時に、この軽石質の火山性堆積物は崩壊しやすい地質でもある。2018年の崩落事故はまさにこの特性が招いた悲劇だった。


過去の主要災害(詳細)

2018年4月11日 耶馬渓町金吉地区 山地崩落(NIEDデータ未収録)

「雨が降っていないのに山が崩れた」——この事実が、耶馬渓崩落の深刻さを象徴する。

2018年4月11日午前3時40分頃、中津市耶馬溪町金吉地区で突然、大規模な山地崩落が発生した。崩落幅は約200m、崩落長は約220mに及び、3世帯の住宅4棟が土砂に飲み込まれた。男女6名が死亡し、捜索には自衛隊・警察・消防・建設業組合などが総動員され、延べ約5,580人が参加。最後の行方不明者が発見されたのは4月23日のことだった。

この崩落の特異な点は、発生直前に降雨がなかったことだ。産総研地質調査総合センターの調査では、崩落地点は約100万年前の耶馬渓火山礫流(軽石質の溶結凝灰岩)が台地表面に堆積した地質であり、長期的な地下水の浸透と風化によって崩壊が進行していたと推定されている。「晴れていても崩れる」という山間部のリスクを、この災害は日本中に知らしめた。

出典: 大分県防災ポータル(https://www.pref.oita.jp/site/bosaiportal/yabakei-houkai.html)、産総研(https://www.gsj.jp/hazards/landslide/20180411-oita.html)


2020年7月 令和2年7月豪雨(NIED収録)

2020年7月6日、熊本・大分を中心に記録的な大雨をもたらした「令和2年7月豪雨」は、中津市でも甚大な被害を引き起こした。NIEDデータによると、中津市では河川被害26か所が報告されており、床上浸水3件・床下浸水2件を記録。その後も7月下旬(28日)の降雨で床下浸水14件が追加発生し、長期的な浸水被害が続いた。

山国川の急激な増水は市街地への浸水を招き、国土交通省山国川河川事務所がリアルタイムで防災カメラ映像を公開している現在でも、この川が市内最大の洪水リスク要因であることに変わりはない。

出典: NIED自然災害データベース「令和2年7月豪雨に関する災害情報について(最終報)」


2020年9月6日 令和2年台風第10号(NIED収録)

同年9月6日には台風第10号が九州地方に接近・上陸し、中津市でも暴風・大雨等の被害が記録されている。NIEDには被害の数値記録が未入力だが、気象庁命名の正式な災害名称「令和2年台風第10号による暴風、大雨等」として収録されている。


1975年4月21日 大分中部地震(NIED収録)

1975年4月21日、大分県中部を震源とするマグニチュード6.4の「大分中部地震」が発生した。中津市でも揺れが観測されているが、NIEDデータでは具体的な被害数値は未収録。大分県は内陸部に複数の活断層が確認されており、過去に繰り返し地震被害を受けてきた。


過去の災害年表

発生年月日 災害名 種別 主な被害 出典
1975年4月21日 大分中部地震 地震 記録あり(詳細未収録) NIED
2018年4月11日 耶馬渓町金吉地区山地崩落 土砂 死者6名、家屋4棟被害 大分県・産総研
2020年7月6日 令和2年7月豪雨 洪水 床上浸水3件、床下浸水2件、河川被害26か所 NIED
2020年7月28日 令和2年7月豪雨(後続) 洪水 床下浸水14件 NIED
2020年9月6日 令和2年台風第10号 風水害 暴風・大雨(詳細未収録) NIED

洪水・浸水リスク:山国川と15本の河川が市域を覆う

中津市の洪水リスクを一言で表せば「複数の大河川が市内を流れ、想定浸水エリアが市域全体に広がる」だ。

防災DBの125mメッシュ解析が算出した主要河川別の洪水リスクは以下のとおりだ。

河川名 影響メッシュ数 想定最大浸水深 最大継続時間
城井川 1,983 20m 24時間
山国川 1,968 20m 24時間
駅館川 1,568 10m 72時間
佐井川 1,324 5m 24時間
今川 1,267 20m 72時間
筑後川 999 10m 168時間(7日間)
祓川 844 10m 168時間(7日間)
伊呂波川 826 5m 24時間
犬丸川 706 5m 72時間
玖珠川 252 20m(平均7.98m) 24時間

出典: 防災DB(bousaidb.jp)125mメッシュ浸水解析、国土交通省浸水想定区域データに基づく

浸水深のイメージはこうだ。0.5mで膝上まで達し歩行が困難になる。1mで腰、2mで大人の頭を超え1階が水没する。3mで1階天井まで、5mになると2階床上に達する。そして20mは7〜8階建てのビルに相当する深さだ。

城井川・山国川・今川で想定される最大浸水深は20mだ。これは木造2階建て住宅が完全に水没する深さをはるかに超え、2階への避難では命が守れないことを意味する。

特に注目すべきは筑後川と祓川の浸水継続時間だ。168時間(7日間)という長期浸水は、孤立した場合の食料・飲料水の確保が極めて困難になることを示す。


土砂災害リスク:47,030メッシュに危険区域

防災DBの125mメッシュ解析では、中津市の山間部を中心に47,030メッシュ(約約730km²相当)が土砂災害の影響を受けるゾーンに含まれる。これは市域の相当部分を占め、耶馬渓・山国・本耶馬渓地区など、観光客が多く訪れるエリアもその対象だ。

2018年の耶馬渓崩落が示したように、この地域の地質(耶馬渓火山礫流:軽石質の溶結凝灰岩)は、雨がなくても崩壊する特性を持つ。「きれいな景観=安全な場所」ではないことを認識する必要がある。

中津市は土砂災害ハザードマップを公開している(https://www.city-nakatsu.jp/doc/2015020200543/)。山間部に居住または訪問する際は必ず確認してほしい。


地震リスク:30年以内に震度6弱以上の確率

地震リスクについて、防災DBのデータ(地震調査研究推進本部・確率論的地震動予測地図2024年版に基づく)では以下のとおりだ。

30年以内に震度6弱以上の揺れが発生する確率は市全体の平均で3.1%、最大値では32.2%に達するエリアがある。震度5弱以上に広げると平均54.3%、最大94.7%と、ほぼ確実に強い揺れを経験する地域も含まれる。地盤の平均S波速度(Avs30)は504.8 m/sと比較的硬い地盤だが、沿岸平野部では軟弱地盤も混在しており一様ではない。

活断層については、防災DBのfault_masterデータでは中津市近傍で直接命名された活断層は現時点で検索されていないが、大分県内陸部には別府湾-日出生断層帯などが存在し、広域的な地震影響圏内にある。1975年の大分中部地震(M6.4)はその一例だ。


津波・高潮リスク:周防灘に面した沿岸部

中津市は周防灘に面しており、南海トラフ地震等による津波リスクが高い。防災DBの沿岸メッシュ解析では20,017メッシュが津波・高潮影響ゾーンに含まれ、津波スコア・高潮スコアはともに100(最高値)を記録している。

大分県が令和5年11月に公表した南海トラフ地震等による最大津波想定では、中津市沿岸部で最大浸水深10mが想定されている。中津市は津波ハザードマップを更新しており(https://www.city-nakatsu.jp/doc/2025041400075/)、津波避難ビルの位置も掲載されている。

南海トラフ地震が発生した場合の津波到達時間は、震源・規模によって異なるが数分〜数十分以内とされる。沿岸部の居住者・訪問者は「揺れたら即座に高台へ」という行動原則を徹底することが不可欠だ。


中津市内の主な避難施設

防災DBのデータによると、中津市内には207か所の避難場所が登録されている。以下に主要施設を示す。

施設名 住所 種別
ダイハツ九州アリーナ 大分県中津市大貞377-1 二次避難所
三光福祉保健センター 大分県中津市三光成恒421-1 一次避難所
三保交流センター 大分県中津市福島1902 一次避難所
上津地区公民館 大分県中津市本耶馬渓町折元1233-3 一次避難所
下郷地区公民館 大分県中津市耶馬溪町大字大島126 一次避難所

※207か所全リストは防災DB(bousaidb.jp)で確認できます。

重要: 洪水ハザードゾーン内にある避難所は、洪水時には使用できない場合がある。事前に「どの避難所がどの災害に対応しているか」を中津市の防災マップで確認しておくことが必須だ。


今からできる備え

公式防災ページを確認する

中津市は防災情報をWEB上で公開している。まず中津市防災マップ(WEB版)防災ポータルサイトで自宅周辺のリスクを確認しよう。

各ハザードマップへの直リンクは以下のとおりだ。

  • 内水ハザードマップ(時間100mm想定): https://www.city-nakatsu.jp/doc/2019042400035/
  • 津波ハザードマップ(令和5年11月更新): https://www.city-nakatsu.jp/doc/2025041400075/
  • 土砂災害ハザードマップ: https://www.city-nakatsu.jp/doc/2015020200543/

具体的に確認・準備すること

まず自宅がハザードゾーンに含まれるかを確認することが出発点だ。中津市の防災WEBマップで住所を入力し、洪水・土砂・津波の各ゾーンを重ね合わせると、自宅が複数のリスクに該当するケースも多い。

次に最寄りの避難所と避難ルートを2つ以上把握しておくことが重要だ。山国川・城井川の増水時は橋が使えなくなる可能性がある。

浸水深20mが想定されるエリアでは、警戒レベル3(高齢者等避難)の段階で避難を開始すること。「まだ大丈夫」と様子を見ることが最も危険な行動だ。

備蓄については最低72時間分、できれば7日分を目標にしたい。筑後川・祓川では168時間(7日間)の長期浸水が想定されており、孤立した場合に備えて食料・水・医薬品を確保しておく必要がある。

最後に、耶馬渓エリアを訪問する際は晴天でも地盤崩壊リスクを意識すること。2018年の崩落は無降雨時に発生した。大雨後の山間部観光は、岩壁付近への接近を特に慎重にするべきだ。

防災DB(bousaidb.jp)では、中津市の125mメッシュ別リスクデータや避難場所の詳細情報を無料で参照できます。


データ出典

データ 出典 備考
統合リスクスコア・各種ハザードメッシュ 防災DB(bousaidb.jp) 国土数値情報・国交省浸水想定区域データに基づく125mメッシュ解析
地震確率データ 地震調査研究推進本部「確率論的地震動予測地図2024年版」 防災DBが引用
過去の災害事例(4件) 自然災害データベース(NIED:防災科学技術研究所) 1975年・2020年の記録
2018年耶馬渓崩落 大分県防災ポータル、産総研地質調査総合センター NIEDデータセット未収録のため公的ウェブ情報から補完
令和2年7月豪雨 NIED「令和2年7月豪雨に関する災害情報について(最終報)」
ハザードマップ 中津市公式ウェブサイト(https://www.city-nakatsu.jp/) 津波ハザードマップは令和5年11月更新
避難場所データ 国土数値情報「避難施設」、中津市公開データ 207か所登録

この記事は防災DB編集部が作成しました。データの正確性の確保に努めていますが、最新の情報は各自治体の公式ページをご確認ください。データに誤りがあればフィードバックをお寄せください。