西米良村の災害リスクと過去の被害記録|宮崎県児湯郡
宮崎県西米良村は、防災DBの統合リスク評価で92点(100点満点)、「極めて高い」と判定されている。 九州山地の深部に抱かれたこの山村は、面積の96%が森林に覆われた急峻な地形を持ち、一ツ瀬川沿いの狭い谷底に集落が点在する。台風が来るたびに河川が氾濫し、斜面からは土石流が下る——その繰り返しが、1963年以降だけで12件の災害記録として残っている。
最も被害が深刻だったのは1971年8月の洪水で、死者1名・全壊20棟・半壊13棟という甚大な被害をもたらした。それから50年以上が経過した現在も、洪水浸水の想定最大水深は20mに達し、防災DBの洪水スコアは満点の100を記録している。
なぜ西米良村は「極めて高い」リスクを抱えるのか
宮崎県の北西部、児湯郡に属する西米良村(面積266km²)は、市房山・石堂山・天包山の「米良三山」に三方を囲まれた山村だ。一ツ瀬川が村内を縦断し、村所地区の役場周辺に唯一の市街地が形成されている。
この地形が、災害リスクを高める三つの要因を生んでいる。
第一は洪水脆弱性。 一ツ瀬川は流域の急峻な山地から雨水を一気に集める。上流に一ツ瀬ダムがあるものの、台風による累積雨量が記録的になると河川水位は急激に上昇する。村所地区は川沿いの狭い低地に開けており、逃げ場がない。2008年に村が作成した洪水ハザードマップでは、役場周辺の村所地区が一ツ瀬川の浸水想定区域として指定されている。
第二は土砂災害の恒常的リスク。 防災DBの125mメッシュ解析では、西米良村を含む地域で土砂災害リスクのあるメッシュが57,109件に達する。急峻な斜面に深い植生があるにもかかわらず、台風による集中豪雨は斜面の保水力を超えてしまう。2005年の台風14号では宮崎県内で土砂災害が139箇所発生し、西米良村でも崖崩れ・土石流の被害が記録されている。
第三はフェーン現象による豪雨の増幅。 九州山地は太平洋側からの湿潤な空気をせき止める壁として機能し、山の南西側にあたる西米良村は台風接近時にフェーン現象が起きやすい。これが台風時の降水量を極端に増幅させる要因となっている。
過去の主要災害(詳細)
1971年8月の洪水——最大被害の記録
西米良村の災害史上、最も深刻な被害をもたらしたのが1971年8月29日の洪水だ。NIEDの自然災害データベースによれば、この洪水で死者1名、床上浸水33棟、床下浸水44棟、全壊20棟、半壊13棟の被害が確認されている。全壊20棟という数字は、当時の小規模な村にとって壊滅的な打撃だったと考えられる。出典資料は「西米良村地域防災計画」であり、村自身がこの教訓を防災計画の基礎データとして位置づけていることがわかる。
同年8月4日にも洪水が発生しており、わずか1か月で二度の大水害に見舞われた夏だった。
2005年9月——台風14号の連続被害
平成17年台風第14号は、2005年9月4日から8日にかけて宮崎県を直撃した。県全体では土砂災害が139箇所(土石流49、崖崩れ73、地すべり17)、死者11名を出した記録的な台風だ(土木学会調査報告より)。
西米良村では床上浸水7棟・床下浸水28棟・半壊1棟・一部損壊4棟の建物被害が記録されている(西米良村地域防災計画より)。前年2004年にも台風16号(床下12棟・一部損壊20棟)と台風18号(床下7棟・全壊1棟・一部損壊3棟)が相次いで上陸しており、2004〜2005年の2年間は特に被害が集中した。
2020年7月——令和2年豪雨
2020年7月3日に始まった令和2年7月豪雨では、隣接する熊本県の球磨川流域が壊滅的な被害を受けた。西米良村でも全壊1棟・半壊3棟・床下浸水1棟の被害が確認されている(農林水産省被害報告より)。同年9月の台風10号でも農水産業に被害が出た。
過去の全災害年表
| 年月 | 災害名・気象庁名称 | 主な被害 |
|---|---|---|
| 1963年2月 | 昭和38年1月豪雪 | — |
| 1965年7月 | 豪雨 | 床上浸水2棟 |
| 1968年9月 | 第3宮古島台風 | 全壊11棟・半壊2棟・床上浸水8棟 |
| 1971年8月4日 | 洪水 | — |
| 1971年8月29日 | 洪水 | 死者1名・全壊20棟・半壊13棟・床上浸水33棟・床下浸水44棟 |
| 1993年9月 | 台風第13号 | 全壊6棟 |
| 2004年8月 | 台風第16号 | 半壊1棟・一部損壊20棟・床下浸水12棟 |
| 2004年9月 | 台風第18号 | 全壊1棟・一部損壊3棟・床下浸水7棟 |
| 2005年9月 | 台風第14号 | 半壊1棟・一部損壊4棟・床上浸水7棟・床下浸水28棟 |
| 2019年6月 | 大雨 | 宮崎県管理道路通行止め |
| 2020年7月 | 令和2年7月豪雨 | 全壊1棟・半壊3棟・床下浸水1棟 |
| 2020年9月 | 台風第10号 | 農水産業被害 |
出典:NIED自然災害データベース、西米良村地域防災計画、農林水産省被害報告
洪水・浸水リスク——一ツ瀬川の脅威
防災DBの125mメッシュ解析によれば、西米良村周辺では14の河川について洪水浸水想定データが整備されている。なかでも最も深刻なのが一ツ瀬川だ。
| 河川名 | 想定最大浸水深 | 平均浸水深 | 最大浸水継続時間 |
|---|---|---|---|
| 一ツ瀬川 | 20m | 12.85m | 72時間 |
| 湯山川 | 10m | 3.79m | 72時間 |
| 大平川 | 10m | 3.16m | — |
| 平谷川 | 5m | 3.62m | — |
| 湯の原川 | 5m | 3.48m | — |
| 白水滝川 | 5m | 1.23m | — |
一ツ瀬川の想定最大浸水深20mは、2階建て住宅の屋根を完全に超える高さだ。浸水深の目安として:0.5mで歩行が困難になり、1mで自動車のエンジンが止まる。2mを超えると1階からの脱出が不可能になり、3mは1階天井まで、5mは2階床上まで達する。20mとは6〜7階建てビルの屋上に相当する水位であり、最大規模の洪水が発生した場合、村所地区では早期避難が唯一の選択肢となる。
浸水継続時間が72時間(3日間)に及ぶと推定されている点も重要だ。孤立状態が長期化することで、避難所での備蓄が命綱になる。
村は2008年3月に一ツ瀬川の洪水ハザードマップを作成・配布している。最新のハザードマップは西米良村公式サイトから確認できる。
土砂災害リスク——山地率96%が意味すること
西米良村の面積266km²のうち96%が森林という極端な山岳地形は、土砂災害のリスクを構造的に高めている。防災DBの125mメッシュ解析では、この地域の土砂災害リスクメッシュ数は57,109件に及ぶ。
2005年の台風14号では、宮崎県全体で崖崩れ73箇所・土石流49箇所が記録された。西米良村でも崖崩れが多発し、主要道路(国道219号)の通行止めが繰り返された。2019年6月の大雨でも宮崎県管理道路の通行止めが確認されており、道路被害による孤立リスクは現在も継続している。
土砂災害のリスクが高い場所に居住している場合は、宮崎県の土砂災害警戒区域マップで自宅の位置を確認することが強く推奨される。
地震リスク
防災DBの125mメッシュ解析によれば、西米良村周辺の地盤のS波速度(Avs30)の平均は640.6 m/sで、岩盤質の硬い地盤であることを示している。これは地震動の増幅が相対的に小さいことを意味し、山地特有の岩盤地形の影響だ。
今後30年以内に震度6弱以上の揺れが起きる確率は平均1.65%(エリア内最大値18.61%)。宮崎県は日向灘を震源域とする巨大地震が想定されており、日向灘地震(M8クラス)が発生した場合、揺れによる土砂災害との複合リスクに注意が必要だ。
避難場所一覧
西米良村では4か所が避難場所として指定されている。人口規模が小さい村とはいえ、4か所という数は非常に限られており、大規模災害時の混雑が懸念される。洪水ハザードマップを事前に確認し、自宅からのルートと複数の避難先を把握しておくことが重要だ。
| 施設名 | 住所 | 種別 |
|---|---|---|
| 基幹集落センター | 宮崎県児湯郡西米良村村所19番地 | 避難所 |
| 村所小学校(へき地集会室) | 宮崎県児湯郡西米良村村所2-1番地 | 避難所 |
| 菊池記念館 | 宮崎県児湯郡西米良村村所2-2番地 | 避難所 |
| 錬心館(柔剣道場及び管理棟) | 宮崎県児湯郡西米良村村所1-7番地 | 避難所 |
いずれの施設も村所地区に集中していることに注意が必要だ。大規模洪水が発生した場合、村所地区自体が浸水想定区域内にある可能性があるため、垂直避難(建物の上層階への避難)や早期の高台への避難が求められる。
今からできる備え
1. ハザードマップで自宅のリスクを確認する
西米良村が作成した一ツ瀬川洪水ハザードマップを必ず確認すること。
→ 西米良村公式 一ツ瀬川洪水ハザードマップ
国土地理院のハザードマップポータルサイト(disaportal.gsi.go.jp)では、洪水・土砂災害・地震などを重ね合わせて確認できる。
2. 早期避難の習慣をつける
一ツ瀬川の浸水継続時間は最大72時間と想定されている。「もう少し様子を見よう」という判断が命取りになる。気象庁の大雨・洪水警報が出たら、避難指示を待たずに行動することが原則だ。
3. 3日分以上の備蓄と連絡手段の確保
山地が多い西米良村では、台風・大雨時に道路が寸断されて孤立するリスクが高い。食料・水・医薬品は最低3日分、できれば1週間分を備蓄する。停電時にも使える防災ラジオや衛星電話なども重要だ。
4. 防災DBで最新リスクデータを確認する
防災DB(bousaidb.jp)では、西米良村のリスクスコアや125mメッシュ単位の詳細データを無料で閲覧できる。家族での防災会議の資料として活用してほしい。
データ出典
| データ | 出典 |
|---|---|
| 統合リスクスコア(92点) | 防災DB(bousaidb.jp)disaster_risk_db_gold.risk_by_municipality |
| 洪水浸水想定(125mメッシュ) | 防災DB 国土交通省浸水想定区域データより作成 |
| 土砂災害メッシュ | 防災DB 国土交通省土砂災害警戒区域データより作成 |
| 地震確率データ(2024年版) | 防災DB J-SHIS(地震ハザードステーション)より作成 |
| 過去の災害事例 | 自然災害データベース(NIED)、西米良村地域防災計画 |
| 一ツ瀬川洪水ハザードマップ | 西米良村公式ウェブサイト(2008年3月作成) |
| 2005年台風14号の土砂災害統計 | 土木学会西部支部論文、気象庁災害時気象速報 |
| 地形・地質情報 | 産総研 地質調査総合センター |
本記事のデータは2024年時点のものです。最新の防災情報は西米良村公式ウェブサイトおよびハザードマップポータルサイトを参照してください。
著者:防災DB編集部
防災DB