千葉県栄町の災害リスクと過去の被害年表|利根川洪水・地震・高潮リスクの実態

千葉県印旛郡栄町では、1698年から現在まで46件の災害記録が残されています。防災DBの125mメッシュ解析による統合リスクスコアは89点(極めて高い)——これは全国でも上位クラスの水準です。利根川右岸の低地に広がる町域の特性上、洪水・地震・高潮の3リスクが全て最高水準を示しており、「どの災害も他人事ではない」と言い切れる自治体です。


この街の災害リスクの特徴

利根川がつくった「水の町」の宿命

栄町は千葉県北西部、印旛郡に位置する人口約2万人の町です。町の北側には利根川が流れ、南側には印旛沼が広がります。標高はほぼ3〜10m程度の低平地で、利根川と印旛沼に挟まれた水路網が張り巡らされています。

この地形が、栄町を洪水に対して構造的に脆弱にしています。利根川が増水すれば南下する水が低地を浸す。印旛沼が溢れれば北上する水が来る。江戸時代から続く「水との闘い」の歴史は、現代の防災データにもそのまま反映されています。

防災DBが示す5つのリスクスコア(2024年データ)

リスク種別 スコア(0-100) 評価
洪水 100 最高レベル
津波・高潮 100 最高レベル
高潮 100 最高レベル
地震 100 最高レベル
土砂災害 50 中程度
液状化 40 やや低い

出典:防災DB(bousaidb.jp)

洪水・地震・高潮の3カテゴリが揃って最高スコアというのは、珍しい組み合わせです。海から遠い内陸部ながら高潮スコアが100を示す背景には、利根川を逆流して遡上する高潮・河川津波の影響があります。

地震リスク:震度6弱以上の30年確率は平均77%

防災DBの125mメッシュ解析では、栄町内の平均地盤S波速度(AVS30)は188.4 m/sと、関東の沖積低地としては軟弱な水準です。

  • 震度6弱以上の30年確率:メッシュ平均 77.4%、最大 99.6%
  • 震度5弱以上の30年確率:メッシュ平均 99.99%(ほぼ確実)

77%という数字は「100年に一度」どころではなく、多くの住民が生涯1回以上、震度6以上を体験する可能性を示しています。関連する活断層として弥栄断層(想定M7.1、30年発生確率0.27%)が確認されています。


過去の主要災害

2019年:令和元年台風15号・19号の連続直撃

2019年は栄町にとって試練の年でした。

台風15号(令和元年房総半島台風)は9月9日未明に千葉市付近に上陸。最大瞬間風速57.5 m/s(千葉市)という記録的な暴風が房総半島を直撃し、栄町では一部損壊182件を記録しました(NIEDデータ)。台風上陸後、千葉県全体で74,900棟超の住家被害が発生しており、栄町も大規模な停電と屋根被害に見舞われました。

続く台風19号(令和元年東日本台風)は10月12〜13日に東日本を縦断。栄町では一部損壊15件を追加記録しています。1ヶ月のうちに2つの台風に相次いで被災した住民にとって、2019年の秋は忘れがたい体験となったはずです。

1910年:明治43年の大水害——床上浸水750件

1910年(明治43年)8月、梅雨前線と相次ぐ台風が重なった「明治43年の大水害」は、利根川流域全体を飲み込みました。関東地方全体で死者847人、行方不明78人、家屋全壊・流出4,917戸という空前の被害をもたらした大水害です(内閣府防災情報)。

栄町域では、NIEDデータに負傷者13名、床上浸水750件が記録されています。利根川の左岸(茨城側)を守っていた中条堤が破堤し、濁流が低地に流れ込んだとされています。床上浸水750件は、当時の栄町域の戸数からすると、集落のかなりの部分が浸水したことを示します。

1855年:安政江戸地震

1855年(安政2年)11月11日、マグニチュード6.9〜7.4とされる「安政江戸地震」が関東を直撃。NIEDのデータには栄町域での被害記録があります。気象庁が「江戸地震」と分類するこの地震は、江戸市中で死者4,000〜10,000人とも言われる近世最大級の都市直撃地震でした。

1783年:浅間山天明噴火と利根川氾濫

1783年(天明3年)は、浅間山の大噴火が遠く栄町域にも影響を及ぼした年です。噴火による泥流が吾妻川→利根川に流入し、下流域の洪水被害を増幅させました。栄町史史料編によれば、同年7月に風水害記録があります。江戸時代の利根川水系は現在よりも防護が弱く、上流の火山噴火が下流域の洪水リスクを急増させるという連鎖が起きていました。

過去の災害年表(全記録)

種別 主な被害 出典資料
2019 9 台風(15号) 一部損壊182件 令和元年台風15号第101報
2019 10 台風(19号) 一部損壊15件 同上
1941 7 風水害 河川被害 栄町の歴史第2号
1938 6 風水害 河川被害 栄町の歴史第2号
1923 9 風水害 記録あり 郷土
1910 8 洪水 負傷者13名・床上浸水750件 郷土
1898 8 風水害 記録あり 郷土
1896 8 洪水 河川氾濫1件 郷土
1870 風水害 河川被害 栄町史資料集(一)
1855 11 地震 安政江戸地震 栄町史史料編一
1849 洪水 水害 栄町史史料編一
1846 8 風水害 河川氾濫1件 郷土
1824 風水害 記録あり 栄町史史料編一
1792 その他 記録あり 栄町史史料編一
1786 6 洪水 河川被害 栄町史史料編一
1785 地滑り 記録あり 栄町史史料編一
1783 7 台風・洪水 浅間山噴火影響 栄町史史料編一
1770 その他 記録あり(3件) 栄町史史料編一
1762 7 風水害 記録あり 栄町史資料集(一)
1760 5 その他 記録あり 栄町史史料編一
1757 6 風水害 記録あり 郷土
1734 9 風水害 河川氾濫1件 郷土
1733 11 風水害 記録あり 栄町史資料集(一)
1732 7-8 台風・洪水 河川被害 郷土・栄町史資料集(一)
1730 10 風水害 河川氾濫(複数記録) 郷土・栄町史資料集(一)
1729 9 風水害 記録あり 栄町史資料集(一)
1723 風水害 記録あり 栄町史史料編一
1721 8 洪水 河川氾濫1件 郷土
1715 風水害 記録あり 栄町史史料編一
1698 洪水 河川氾濫1件 郷土
1696 その他 記録あり 栄町史史料編一

記録は1698年からの300年以上にわたり、風水害・洪水が圧倒的多数を占めます。この事実そのものが、栄町の地理的宿命を示しています。


なぜ栄町は洪水に弱いのか

3つの河川が重なる浸水リスク

防災DBの125mメッシュ解析で、栄町域に影響する主要河川別の浸水リスクを集計しました。

河川 影響メッシュ数 最大想定浸水深 最大浸水継続時間
利根川 7,565 5.0 m 336時間(14日)
小貝川 2,049 5.0 m 336時間(14日)
根木名川 726 20.0 m 168時間(7日)
高崎川 262 5.0 m 168時間
新利根川 212 3.0 m 336時間
霞ヶ浦(流域) 181 3.0 m 336時間

出典:防災DB(bousaidb.jp)125mメッシュ洪水浸水想定データ

根木名川の最大浸水深20mという数値に目が止まります。これは5〜6階建てビルの高さに相当します。根木名川は印旛沼に注ぐ小河川ですが、最悪のシナリオでは周辺低地が完全に水没するレベルの浸水深が想定されています。

利根川の浸水継続時間336時間(14日間)は特に深刻です。水が引くまでの2週間、自宅から動けない状況は孤立・物資不足・二次被害を生じさせます。「水が来た後の長期孤立」への備えも、栄町では必須と言えます。

浸水深の生活への影響

  • 浸水深0.5m:膝上まで。歩行困難、車はエンジンが止まる
  • 浸水深1m:腰まで。屋外移動が非常に危険
  • 浸水深3m:1階天井まで。1階は完全水没
  • 浸水深5m:2階天井まで。2階建て住宅は屋根のみ露出
  • 浸水深20m(根木名川最大想定):6〜7階建て相当。低地全域が完全水没

地震リスク:南関東直下型の脅威

弥栄断層と首都直下型地震の重なり

栄町周辺の活断層として確認されているのが弥栄断層(想定M7.1、30年発生確率0.27%)です。数値だけを見ると「確率が低い」と感じるかもしれませんが、M7.1の地震が起きれば栄町の軟弱地盤では甚大な被害が予想されます。

さらに重要なのは、首都直下型地震(南関東地震)のリスクです。内閣府の推計では、今後30年以内の首都直下型M7クラス地震の発生確率は70%とされています。栄町はこの震源域に近く、30年で震度6弱以上の確率が77%という高水準を示す背景の一因となっています。

地盤のAVS30(平均188.4 m/s)は、東京の山手線内側(200〜400 m/s)より軟弱で、地震動が増幅しやすい特性があります。


高潮・津波リスク

栄町は海岸から直線距離で約30km内陸に位置しますが、高潮スコアは最高の100を示しています。これは利根川を遡上する高潮・河川津波の影響です。

南海トラフや相模トラフを震源とする巨大地震が発生した場合、津波が利根川河口から遡上し、内陸まで浸水被害をもたらす可能性があります。125mメッシュ高潮・津波解析では、栄町域に1,039メッシュの影響範囲が確認されています。


土砂災害リスク

土砂災害ハザード区域は4箇所(スコア50、中程度)と、洪水・地震に比べると限定的です。「下総台地」の縁辺部に急傾斜地崩壊危険箇所が集中しており、台地と低地の境界付近に居住する方は特に注意が必要です。土砂災害警戒メッシュ数は179と確認されています。


避難施設一覧

2024年時点のデータでは、栄町内に11箇所の避難場所が確認されています(広域避難場所の指定はデータ上未確認)。

施設名 住所 種別
ふれあいプラザさかえ 栄町安食938 避難場所
北辺田小学校 栄町北辺田212 避難場所
安食台小学校 栄町安食台4丁目34番1号 避難場所
安食小学校 栄町安食305 避難場所
布鎌小学校 栄町請方157 避難場所
栄中学校 栄町安食55 避難場所
栄東中学校 栄町龍角寺1112 避難場所
矢口青年館 栄町矢口6-6 避難場所
竜角寺台小学校 栄町竜角寺台6丁目26番1号 避難場所
酒直小学校 栄町請方157 避難場所
麻生青年館 栄町麻生182-1 避難場所

出典:国土数値情報 避難施設データ(p20)

洪水時は「避難場所が浸水する」可能性があります。栄町では最大浸水深5m(2階天井)が想定されるエリアがあり、平屋・2階建ての避難場所は「垂直避難先」として機能しない場合があります。事前にハザードマップで最寄りの避難場所の浸水リスクを確認してください。


今からできる備え

栄町の公式防災ページを確認する

栄町特有のリスクへの対策

  1. 早期避難の徹底:利根川の水位情報を常にチェック。レベル3(高齢者等避難)が出たら即動く
  2. 長期避難への備え:浸水継続14日間を想定し、2週間分の食料・水・薬を備蓄
  3. 浸水深を想定した垂直避難:近隣の高い建物・3階以上の構造物を事前に把握
  4. 地震対策:震度6超を想定した家具固定、ブロック塀の点検
  5. 地域の防災訓練への参加:栄町では自主防災組織の活動が重要

データ出典

データ種別 出典
統合リスクスコア・125mメッシュ解析 防災DB(bousaidb.jp)、2024年データ
洪水浸水想定区域 国土交通省 洪水浸水想定区域(想定最大規模)
過去の災害記録 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース、栄町史・郷土資料
地震30年確率 地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版
活断層データ 地震調査研究推進本部 活断層データベース
避難施設 国土数値情報 避難施設データ(p20)
明治43年大水害被害 内閣府防災情報「過去の災害に学ぶ」
令和元年台風15号被害 総務省消防庁、千葉県資料
防災・ハザードマップ情報 栄町公式ホームページ

著者:防災DB編集部
公開日:2026年4月5日
データ基準日:2024年(統合リスクスコア)、1698年〜2019年(災害記録)