直下型地震・河川氾濫・津波——日本有数の多重リスク都市・堺市

大阪府第二の都市・堺市。人口約82万人を擁する政令指定都市は、世界遺産・百舌鳥古墳群で知られる歴史の街であると同時に、日本有数の災害リスクを抱える都市でもある。

防災DBの統合リスクスコアは92点(極めて高い)。洪水100、津波100、高潮100、土砂災害50——これらの数字が示すのは、大和川の氾濫リスク、大阪湾からの津波・高潮、そして市域直下を走る上町断層帯という、都市型災害の三重構造である。

特に注目すべきは地盤の脆弱さだ。表層地盤のS波速度(Vs30)は平均233.6m/sと極めて軟弱であり、地震動が大きく増幅される条件が揃っている。30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は平均45.3%、最大68.9%。これは南海トラフ地震と上町断層帯の直下型地震の双方を織り込んだ数字だ。


堺市の災害構造——なぜここまでリスクが高いのか

大和川がもたらす洪水リスク

堺市の北部境界を流れる大和川は、奈良盆地から大阪平野を横断して大阪湾に注ぐ一級河川。防災DBの125mメッシュ解析では、大和川関連の浸水想定メッシュが6,371に達し、最大想定浸水深は10.0m、平均1.36mとなっている。

大和川に加え、堺市内を流れる石津川(642メッシュ)、大津川(977メッシュ、最大浸水深10.0m)、西除川(484メッシュ)なども洪水リスクを抱える。これら中小河川は市街地の中を流れており、氾濫時には住宅密集地に直接被害が及ぶ。

浸水深1.36m(平均値)は「1階の窓が水没する深さ」であり、高齢者や幼児の避難が困難になるレベルだ。大津川流域では最大10.0mという深刻な想定値もあり、2階建て住宅でも水没する可能性がある。

軟弱地盤が増幅する地震動

堺市の地盤は大阪平野の沖積低地に位置し、平均Vs30が233.6m/sと軟弱である。Vs30が300m/s以下の地盤は地震動を大きく増幅する特性を持ち、同じ地震でも揺れが格段に大きくなる。

指標 平均値 最大値
30年以内に震度6弱以上の確率 45.3% 68.9%
30年以内に震度5弱以上の確率 91.7% 96.6%
表層地盤のS波速度(Vs30) 233.6m/s

30年以内に震度5弱以上の確率が91.7%——ほぼ確実に強い揺れに見舞われるという数字だ。さらに、軟弱地盤は液状化のリスクも高く、大規模地震時には地盤沈下やマンホールの浮上、建物の傾斜が発生する恐れがある。

大阪湾からの津波・高潮

堺市の西側は大阪湾に面しており、堺泉北港などの臨海部を抱える。125mメッシュ解析では15,982メッシュもの沿岸リスクが検出されている。

南海トラフ巨大地震が発生した場合、堺市には地震発生から約100分後に最大1mの津波が到達すると想定されている(堺市公式発表)。津波高1mは「腰の高さの水流」だが、流速を伴うため、歩行は不可能であり、瓦礫を含んだ津波は建物1階を破壊する威力を持つ。堺市は「JR阪和線を目標に、東の高い所へ徒歩避難」を推奨している。


堺市直下の活断層——上町断層帯の脅威

堺市の地震リスクで最も警戒すべきは上町断層帯だ。大阪市中央区から堺市にかけて南北に延びるこの活断層は、M7.0の直下型地震を引き起こす可能性がある。

断層名 想定M 30年発生確率
上町断層帯 M7.0 2.89%
生駒断層帯 M6.9 ほぼ0%
中央構造線断層帯(五条谷区間) M6.8 0.31%
大阪湾断層帯 M6.9 ほぼ0%

30年確率2.89%は、活断層の評価基準で「高い」に分類される(地震調査研究推進本部の基準)。上町断層帯が活動した場合、堺市北部では震度7に達する可能性があり、軟弱地盤による増幅効果も加わって、阪神・淡路大震災に匹敵する被害が想定される。

加えて、南海トラフ地震(今後30年以内の発生確率60〜90%程度以上)では堺市全域で震度6弱が予想されている。直下型地震と海溝型地震という性質の異なる2つの地震リスクが重なる点が、堺市の地震防災を難しくしている。


過去の主要災害——堺市を襲った災害の記録

NIEDの災害事例データベースには25件の災害が記録されている。その多くは風水害(台風・豪雨)と地震の有感記録だ。

1998年(平成10年)台風第7・8号

1998年9月22日の台風では、堺市で一部損壊143棟の建物被害が記録されている。強風による屋根の損傷が多く、臨海部の工業地帯でも施設被害が発生した。

2008年8月5日の集中豪雨

2008年8月5日の集中豪雨では、堺市で床上浸水3棟、床下浸水29棟の浸水被害が発生。都市型内水氾濫の典型例で、排水能力を超えた降雨が低地に集中した。

1995年(平成7年)阪神・淡路大震災

1995年1月17日の兵庫県南部地震では、堺市でも震度5弱〜5強を観測。NIEDデータには被害数値の記録がないが、建物の一部損壊やブロック塀の倒壊が報告されている。震源から約50km離れた堺市でこの揺れだった事実は、直下で上町断層帯が動いた場合の被害を想像する上で示唆に富む。

1854年(安政元年)安政南海地震

歴史的な災害では、1854年の安政南海地震(M8.4)で堺の港町に津波が押し寄せ、甚大な被害をもたらしたと記録されている。堺は中世から「環濠都市」として繁栄したが、地震と津波のリスクとは常に隣り合わせだった。

災害年表

月日 災害名 種別 主な被害 出典
1854 12月24日 安政南海地震 地震・津波 堺港に津波、甚大な被害 大阪府防災資料
1934 9月21日 室戸台風 風水害 大阪湾岸に高潮、広域浸水 気象庁
1961 9月16日 第二室戸台風 風水害 大阪湾高潮、堺臨海部浸水 気象庁
1995 1月17日 阪神・淡路大震災 地震 震度5弱〜5強、建物損壊 NIED
1998 9月22日 台風第7・8号 風水害 一部損壊143棟 NIED
2008 8月5日 集中豪雨 風水害 床上浸水3棟、床下浸水29棟 NIED
2018 6月18日 大阪府北部地震 地震 堺市でも揺れ観測 気象庁
2018 9月4日 台風第21号 風水害 関西空港浸水、堺も強風被害 NIED

洪水・浸水リスクの詳細

防災DBの125mメッシュ解析による堺市の洪水リスク。

河川名 浸水想定メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深
大和川 6,371 10.0m 1.36m
大津川 977 10.0m 1.51m
石津川 642 5.0m 1.13m
石川 578 10.0m 2.68m
西除川 484 5.0m 0.56m
東除川 221 5.0m 0.84m

堺市の防災マップは堺市公式サイトで確認できる。大和川・石津川・大津川の各洪水ハザードマップのほか、内水ハザードマップも整備されている。


津波リスク——南海トラフ地震への備え

堺市は南海トラフ地震に備えた防災ページを開設し、市民への啓発を進めている。

  • 南海トラフ巨大地震発生時、堺市には約100分後に最大1mの津波が到達
  • 前回の昭和南海地震(1946年)から約80年が経過
  • 今後30年以内の発生確率は60〜90%程度以上
  • 堺市の避難方針: JR阪和線を目標に東の高い所へ徒歩避難

臨海部の堺区西部や西区の低地は浸水リスクが高く、津波避難ビルの位置を事前に把握しておくことが重要だ。


避難施設一覧

堺市内には1,584箇所の避難場所が指定されており、うち48箇所が広域避難地として整備されている。

主な広域避難地

施設名 所在区 種別
大仙公園及びその周辺 堺区 広域避難地
三宝公園及びその周辺 堺区 広域避難地

各区の避難所情報は堺市防災マップで確認できる。堺市では『ゴルゴ13』版防災マップやシニア世代向け、妊産婦・子育て世帯向けなど多様な版を用意しており、市民の防災意識向上に取り組んでいる。


今からできる備え

1. ハザードマップの確認

2. 耐震診断の実施

上町断層帯の直下型地震では震度7が想定される。1981年以前の旧耐震基準の建物は倒壊リスクが極めて高い。堺市の耐震改修補助制度を活用し、早期の対策を推奨する。

3. 液状化への備え

軟弱地盤の堺市では液状化被害が広範囲に発生する恐れがある。家財の固定、水・食料の備蓄に加え、液状化時に自宅が使えなくなった場合の避難先を決めておくことが重要だ。

4. 津波避難計画

臨海部に住む場合は「JR阪和線より東へ」の避難ルートを事前に歩いて確認しておこう。約100分の猶予はあるが、地震の揺れで道路が損壊し、混雑が発生する可能性を考慮すると、早い行動が命を守る。

5. 防災情報の入手手段


データ出典

データ項目 出典 時点
統合リスクスコア・各災害スコア 防災DB(bousaidb.jp) 2024年時点
125mメッシュ洪水浸水想定 防災DB(国土交通省洪水浸水想定区域データに基づく) 2024年時点
125mメッシュ地震確率 防災DB(J-SHIS地震ハザードステーション2024年版に基づく) 2024年時点
災害事例(NIED) 国立研究開発法人防災科学技術研究所 災害事例データベース 記録年
活断層情報 地震調査研究推進本部「上町断層帯の評価」 2024年時点
南海トラフ地震想定 堺市公式「南海トラフ地震に備えて」 2024年時点
避難場所データ 国土数値情報 避難施設データ(国土交通省) 2022年時点
防災マップ 堺市公式防災マップ 2023年版