1703年元禄地震の津波で旧蓮沼村だけで102人が溺死した記録が残る。現在の山武市が位置する九十九里浜一帯は、この地震で九十九里沿岸全体に2,150人以上の死者を出した。それから320年余り経った今、防災DBの125mメッシュ解析によって、山武市は関東全域の中でもトップクラスの総合リスクスコア89(極めて高い)を記録している。洪水・津波・高潮・地震・液状化の5項目中、洪水・津波・高潮・地震の4項目がスコア100満点——これは「弱点がない」ではなく「あらゆる方向から攻められる」地形に置かれていることを意味する。

山武市は2006年に成東町・山武町・蓮沼村・松尾町の4町村が合併して誕生した。九十九里平野の北部から内陸方向に広がり、東側は九十九里浜に接する。市内を南白亀川・栗山川・作田川など複数の河川が縦断し、地盤の大半は砂丘や沖積低地で構成される。NIEDデータベースには1604年から2019年にわたる42件の災害記録が残っており、地震・風水害・洪水に繰り返し見舞われてきた歴史が刻まれている。


なぜ山武市はこれほど多くのリスクを抱えるのか

答えは地形にある。市の東端は太平洋(九十九里浜)に直接面しており、沖合で発生した津波が何の遮蔽物もなく陸上に到達する。市域の大半は標高数メートルの九十九里平野で、排水が難しく洪水・浸水が起きやすい。地盤は砂・砂礫が主体で、地震時の液状化リスクも高い(液状化スコア40)。さらに関東南東部という地理的条件から、太平洋側プレート境界の地震活動帯にも近い。

防災DBの集計では、山武市域の125mメッシュにおける震度6弱以上の30年発生確率は平均66.74%、最大値99.68%に達する。全国平均と比較すると極めて高い水準だ。地盤のS波速度(AVS30)の平均は248.8m/sで、岩盤(600m/s超)と比べて揺れが大幅に増幅されやすいことも示している。


過去の主要災害:詳細

元禄地震(1703年12月31日)——九十九里浜を襲った大津波

元禄16年11月23日深夜(1703年12月31日)、房総半島南東沖でM7.9〜8.2の巨大地震が発生した。現在の山武市域では旧蓮沼村で102人、旧成東町域で84〜96人が津波によって命を落としたと記録されている(「★旧蓮沼村史」「★旧成東町史」)。九十九里浜沿岸全体では2,150人以上が死亡し、鷲山寺(茂原市)の供養碑にはその数が刻まれている。津波高は5〜10mに達したとされ、低平な砂浜海岸が壊滅的な打撃を受けた。この災害は現代の津波ハザード想定を策定する際の基準の一つになっている。

千葉県東方沖地震(1987年12月17日)——3,040棟の住宅被害

昭和62年12月17日、千葉県東方沖を震源とするM6.7の地震が発生した。山武市域では一部損壊3,040棟、半壊10棟の住宅被害が記録されている(「山武市地域防災計画 資料編」)。死者ゼロではあったが、建物への影響の大きさは市内の軟弱地盤と当時の木造家屋の脆弱性を物語っている。

関東大震災(1923年9月1日)——全壊2棟・旧山武町史に記録

1923年の関東大震災でも山武市域(旧山武町)は被害を受け、全壊2棟が記録されている。震源から距離があったにもかかわらず、軟弱地盤による揺れの増幅が建物被害につながったと考えられる。

台風25号(1971年9月7日)——405戸が床上浸水

昭和46年9月の台風25号では、旧成東町で床上浸水405戸、床下浸水632戸の記録が残る(「★旧成東町史」)。市内を流れる河川が氾濫し、低地部の集落が広範囲に浸水した。この規模の被害が戦後も繰り返し発生してきたことを示す記録の一つだ。

1902年9月28日の台風——全壊150棟の壊滅的被害

明治35年9月の台風は市域(旧成東町)に全壊150棟、半壊24棟という壊滅的な被害をもたらした(「★旧成東町史」)。現代の耐震・耐風基準が整備される以前の時代とはいえ、この地域が台風に対しても繰り返し甚大な被害を受けてきた歴史を裏付ける。

令和元年台風15号(2019年9月9日)——1,421棟が一部損壊

「令和元年房総半島台風」と呼ばれるこの台風では、山武市で全壊4棟、半壊43棟、一部損壊1,421棟、床上浸水9戸、床下浸水3戸の被害が発生した。県内では大規模な停電と屋根の損壊が相次ぎ、山武市でも多くの住宅で屋根材が飛散した。翌月に来襲した台風19号(令和元年東日本台風)と合わせ、2019年は歴史的な台風被害の年となった。


洪水・浸水リスク——市内12河川が交差する危険地帯

防災DBの解析では、山武市域で洪水浸水想定が設定されている河川は12河川にのぼる。主要河川の浸水規模を以下に示す。

河川名 影響メッシュ数 最大浸水深 最大浸水継続時間
南白亀川 3,278 5.0m 336時間(14日間)
栗山川 2,770 10.0m 168時間(7日間)
木戸川 2,375 3.0m 168時間
真亀川 2,228 5.0m 168時間
作田川 1,858 5.0m 168時間
利根川 616 5.0m(平均3.21m) 336時間
高崎川 253 20.0m 168時間

浸水深の数値を具体的に想像するには目安が必要だ。浸水深0.5mで大人の膝下、1mで腰まで、2mで1階が水没、3mで1階天井まで、5mで2階床上、10mで3階建て建物が完全水没する水位に相当する。高崎川では最大20mという想定があり、これは5〜6階建てビルが水中に沈む規模だ。

南白亀川と利根川は浸水継続時間が最大336時間(14日間)に達する想定で、一度浸水が始まると長期間の孤立・水没が続く可能性がある。避難は浸水が始まってからでは手遅れになりやすい。


津波・高潮リスク——九十九里浜を直撃する外洋波

山武市域の津波・高潮想定は9,542メッシュ(約148km²相当)に及ぶ。スコアは洪水と同様に100満点で、最大浸水深は20m以上が想定されている。市の東側、九十九里浜に面した地域では、外洋からの津波が防潮堤などの遮蔽なしに直接陸上に到達しうる。

1703年元禄地震と同規模の地震が発生した場合、津波到達まで数十分しかない。海岸から内陸へ向かう高台への迅速な避難が不可欠だ。山武市のWEB版ハザードマップでは津波浸水想定区域が確認できる(後述)。


地震リスク——震度6弱以上の確率が平均66%

市内の震度6弱以上30年確率は平均66.74%、最大99.68%に達する(防災DB 2024年版)。これは全国平均を大幅に上回る高確率だ。震度5弱以上については市域全体がほぼ100%の確率となっており、「次の30年間に強い揺れを経験する」ことはほぼ確実な状況にある。

地盤のAVS30(表層S波速度)の平均248.8m/sは軟弱地盤の指標値に近く、地震動の増幅が起きやすいことを示している。千葉県東方沖地震(1987年)で3,000棟超の建物が被害を受けた背景には、この地盤特性も関わっていると考えられる。

土砂災害については市域内に28か所の危険箇所があり、382メッシュにわたる土砂災害ハザード区域が設定されている。山武市は基本的に平野部の市だが、内陸側の台地斜面では崖崩れの危険がある。


避難場所一覧

山武市には37か所の避難場所が指定されているが、広域避難場所は0か所となっている。主な避難場所を以下に示す。

施設名 住所 種別
成東総合運動公園 山武市五木田3241 避難場所
さんぶの森公園 山武市(北部) 避難場所
千葉県立成東高等学校 山武市成東3596 避難場所
千葉県立松尾高等学校 山武市松尾町大堤546 避難場所
山武中学校 山武市埴谷1855 避難場所
成東中学校 山武市和田567 避難場所
成東保健福祉センター 山武市殿台296 避難場所
松尾ふれあい館 山武市松尾町松尾47-3 避難場所
松尾運動公園 山武市(松尾地区) 避難場所
さんぶの森公園文化ホール 山武市(北部) 避難場所

重要: 津波警報が発令された場合、海岸付近の避難場所では不十分な場合がある。市のハザードマップで浸水域外の施設を事前に確認しておくこと。


過去の災害年表(全42件)

災害名 種別 主な被害 出典
1604 地震 山武市防災計画
1605 2 3 慶長地震 地震 山武市防災計画
1606 11 津波 山武市防災計画
1677 地震 旧成東町史
1703 12 31 元禄地震 地震・津波 死者102人(蓮沼村)、84〜96人(成東町域) 旧蓮沼村史・旧成東町史
1704 2 29 津波 山武市防災計画
1707 10 28 宝永地震 地震 山武市防災計画
1782 8 23 地震 山武市防災計画
1855 11 11 江戸地震 地震 山武市防災計画
1877 5 11 地震 山武市防災計画
1902 9 28 台風 全壊150棟・半壊24棟 旧成東町史
1903 8 19 台風 旧成東町史
1906 1 21 地震 山武市防災計画
1923 9 1 関東大震災 地震 全壊2棟 旧山武町史
1948 9 15 アイオン台風 台風 旧成東町史
1963 10 25 台風 旧成東町史
1971 9 7 台風25号 台風・洪水 床上浸水405戸・床下632戸 旧成東町史
1972 12 24 台風 山武市防災計画
1973 10 28 台風 山武市防災計画
1974 7 8 洪水 山武市防災計画
1977 9 19 台風 山武市防災計画
1977 11 17 台風 山武市防災計画
1979 10 7 台風 山武市防災計画
1979 10 19 台風第20号 台風 山武市防災計画
1985 6 30 台風第6号・梅雨前線 台風 山武市防災計画
1987 12 17 千葉県東方沖地震 地震 半壊10棟・一部損壊3,040棟 山武市防災計画
1991 10 6 洪水 山武市防災計画
1996 9 21 台風第17号 洪水 山武市防災計画
1999 10 27 台風 山武市防災計画
2001 10 10 台風 山武市防災計画
2004 10 9 台風第22号・前線 台風 山武市防災計画
2019 6 下旬 洪水 一部損壊1棟 6月下旬大雨被害
2019 9 9 令和元年台風15号 台風 全壊4棟・半壊43棟・一部損壊1,421棟・床上浸水9戸 令和元年台風15号第101報
2019 10 台風第19号 台風 災害救助法適用

今からできる備え

ハザードマップで自宅のリスクを確認する

山武市公式のWEB版ハザードマップでは、洪水・津波・土砂災害・地震の4種別を住所検索で確認できる。まず自宅と職場がどの浸水深の範囲にあるかを把握することが防災の第一歩だ。

  • 山武市WEB版ハザードマップ: https://www.city.sammu.lg.jp/hazardmap/index.html
  • 山武市防災ページ(総合): https://www.city.sammu.lg.jp/bousai-syobo/bousai/page000786.html
  • ハザードマップPDF(洪水・土砂災害編): https://www.city.sammu.lg.jp/data/doc/1617785413_doc_256_0.pdf

また防災DB(bousaidb.jp)では山武市を含む全国市区町村の統合リスクスコアと125mメッシュ別のリスクデータを無料で参照できる。

具体的な備え

  • 非常用持ち出し袋の準備(3日分の水・食料、医薬品、充電器)
  • 避難経路の事前確認:津波の場合、最寄りの高台への経路を実際に歩いて確認する
  • 早期避難の徹底:洪水は浸水深が増してからでは車も徒歩も危険になる。警報が出た時点で迷わず動く
  • 地震保険の加入検討:液状化・建物倒壊リスクを考慮した保険設計を検討する
  • 家具の固定:震度6弱以上の発生確率が高い地域では、家具転倒による死傷を防ぐ対策が特に重要

データ出典

データ 出典 時点
総合リスクスコア・各ハザードスコア 防災DB(bousaidb.jp) 2024年版
125mメッシュ地震確率データ J-SHIS(地震調査研究推進本部)、防災DB加工 2024年版
洪水浸水想定(125mメッシュ) 国土交通省・千葉県 洪水浸水想定区域、防災DB加工 2024年版
津波・高潮浸水想定 千葉県 津波浸水想定、防災DB加工 2024年版
土砂災害警戒区域 千葉県 土砂災害警戒情報、防災DB加工 2024年版
避難場所データ 国土数値情報(NLFTP P20) 2024年版
過去の災害記録 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース、山武市地域防災計画資料編、旧成東町史・旧蓮沼村史・旧山武町史 各年
元禄地震津波被害 千葉県、Wikipedia元禄地震項目、J-STAGE学術論文(九十九里浜平野旧片貝村における1703年元禄関東地震津波) 2024年参照
山武市ハザードマップ 山武市公式ウェブサイト(令和3年3月改訂版) 2021年

本記事は防災DB編集部が公的データに基づいて作成しました。掲載データの時点については各出典欄を参照してください。記事に関するご意見・訂正依頼は防災DB(bousaidb.jp)までお寄せください。