青森県三戸町の災害リスクと過去の災害年表|馬淵川の洪水が最大の脅威

青森県最南端の三戸町では、1777年から2020年にかけて26件の災害が記録されている。そのうち20件が風水害・洪水であり、「水の町」と言っても過言ではないほど、河川氾濫のリスクと隣り合わせで歩んできた歴史がある。

防災DB(bousaidb.jp)が算出する統合リスクスコアは 83点(極めて高い)。これは全国の市区町村の中でも上位に位置するレベルだ。中でも洪水スコアは満点の 100点。町の中心部を南北に貫流する馬淵川が、三戸町最大のリスク要因となっている。


三戸町の災害リスクの特徴:なぜ水害に弱いのか

三戸町は青森県の南端、岩手県・秋田県と接する山間の町だ。人口は約8,500人(2020年国勢調査)。面積は151.98km²で、その大半を山林と段丘が占める。

この地形が、洪水リスクを高める直接の要因になっている。馬淵川は岩手県葛巻町・袖山(標高1,215m)を源に持つ全長142kmの一級河川で、流域面積は2,050km²に及ぶ。この大きな流域から集められた水が三戸町内を流れる際、河成段丘と狭い谷間の地形によって流速が上がりやすく、上流部の大雨が時間をおいてからまとまって流れ込む「遅延増水」が起きやすい。

馬淵川に加え、支流の五戸川・浅水川も町内を流れており、大雨時には複数の河川が同時に増水する。防災DBの125mメッシュ解析では、馬淵川沿いの浸水想定区域は約2,597メッシュ(約40km²相当)に達し、最大浸水深は20m超が想定されている。平均でも4.39mという数字は、1階天井を大きく超える浸水を意味する。

さらに、三戸町は豪雪地帯に指定されており、年平均降雪量は367cmに及ぶ。融雪期の春先には河川が急激に増水する「融雪洪水」のリスクも重なる。


過去の主要災害

1981年6月:死者2名の洪水(昭和56年)

三戸町の歴史上、最も甚大な人的被害を出した水害がこの洪水だ。NIEDの災害データベースによると、1981年(昭和56年)6月23日に発生した洪水で2名が死亡している。馬淵川流域では昭和50年代を通じて幾度も洪水被害が繰り返されており、この事例はその中でも人的被害が確認された重大な災害として記録されている。

1994年12月:三陸はるか沖地震(M7.6)

1994年(平成6年)12月28日、岩手県・青森県沖を震源とするM7.6の三陸はるか沖地震が発生した。三戸町地域防災計画にはこの地震が記録されており、南部地方での揺れは震度4〜5に達したとされる。建物被害は記録に残っていないが、津波注意報が発令されるなど広域的な影響があった。この地震は三戸町の地震対策計画の基礎となっている想定地震の一つだ。

1968年5月:十勝沖地震(M7.9)

1968年(昭和43年)5月16日に発生した十勝沖地震(M7.9)も、三戸町の地域防災計画に記録されている。青森県南部から岩手県北部にかけて大きな被害をもたらした歴史的地震で、三戸町でも強い揺れが観測された。

2020年7月:令和2年7月豪雨

2020年(令和2年)7月12日、梅雨前線の影響で三戸町に記録的な大雨が降った。7月10日午後9時から12日午後4時までの累計降水量は159mmに達し、馬淵川が氾濫危険水位に到達。三戸町は川守田の橋ノ下・落合・関根川原地区(261世帯535人)に避難指示を発令した。幸い今回は浸水被害を最小限に抑えられたが、住民535人が夜間に避難を余儀なくされた。

2011年:台風15号(広域農業被害)

2011年(平成23年)の台風15号では、馬淵川流域全体で床上・床下浸水約300戸、農地被害約560haという大規模な被害が発生した(青森県河川整備計画より)。三戸町もこの台風で大きな影響を受け、農業被害は特に深刻だった。


三戸町の災害年表

月日 災害の種類 主な被害
2020 7月12日 豪雨・洪水(令和2年7月豪雨) 261世帯535人に避難指示
2006 10月6日 風水害 床下浸水15棟、河川被害5件
2004 9月30日 台風21号・秋雨前線 床上浸水14棟、床下浸水6棟
2001 9月12日 台風15号 床上浸水1棟、床下浸水3棟
1999 10月27日 風水害 床上浸水11棟、床下浸水43棟
1995 8月24日 風水害 床下浸水4棟
1994 12月28日 三陸はるか沖地震(M7.6) 地震被害(詳細記録なし)
1993 7月28日 洪水 一部損壊3棟
1986 8月5日 風水害 記録あり(被害詳細不明)
1981 6月23日 洪水 死者2名
1979 8月 風水害 記録あり
1977 4月 風水害 記録あり
1968 5月16日 十勝沖地震(M7.9) 強い揺れ
1961 5月29日 第2室戸台風 死者1名
1958 7月29日 風水害 記録あり
1956 3月19日 風水害 記録あり
1948 8月11日 風水害 記録あり
1940 9月6日 旱害・冷害 記録あり
1917 5月 風水害 記録あり
1902 1月30日 地震 記録あり
1901 8月9〜10日 地震 記録あり
1801 6月20日 風害 記録あり
1794 10月6日 風水害 記録あり
1777 7月8日 風水害 記録あり

出典:国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース、三戸町地域防災計画


洪水・浸水リスク:馬淵川の脅威

防災DBの125mメッシュ解析による三戸町の洪水リスクを河川別に示す。

河川名 浸水想定メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 浸水継続時間
馬淵川 2,597メッシュ 20m超 4.39m 最大168時間
五戸川 246メッシュ 5.0m 3.14m 最大168時間
浅水川 217メッシュ 5.0m 1.21m 最大72時間

2024年時点データ。想定最大規模(千年に一度の降雨)ベース。

馬淵川の最大浸水深「20m超」という数字は驚異的だが、これは支流との合流部や狭窄部での最悪シナリオを含む。それでも平均浸水深4.39mは、2階床上まで水が達する水準だ。浸水継続時間が168時間(7日間)に及ぶ想定は、洪水が引くまでに1週間を要する可能性を意味する。

浸水深のイメージ:
- 0.5m未満:大人の膝下。歩行困難
- 1.0m:大人の腰。車は走行不能
- 2.0m:1階天井まで。2階へ垂直避難が必要
- 5.0m:2階屋根まで。建物の上での避難も危険

馬淵川沿いに居住する場合、洪水ハザードマップを確認し、早期避難できる経路を事前に把握することが生命を守る最重要事項だ。

国土交通省東北地方整備局は馬淵川水系の洪水浸水想定区域図を公開している:馬淵川水系洪水浸水想定区域図(国交省)


土砂災害リスク

防災DBの解析では、三戸町内の土砂災害危険区域は41箇所(2024年時点)。土砂災害スコアは50点で「中程度」だが、125mメッシュ解析では2,733メッシュ(約43km²)が土砂災害リスクエリアに該当する。

三戸町の地形は河成段丘が発達しており、段丘の縁辺部や山地斜面では土砂崩れのリスクが潜在する。大雨や地震の際には、斜面崩壊と洪水が複合して発生するリスクに注意が必要だ。

土砂災害警戒区域の詳細は、三戸町のハザードマップ(地区別PDF)で確認できる:三戸町防災マップ(三戸町公式)


地震リスク:青森湾西岸断層帯に要注意

三戸町の地震スコアは85点と高い。防災DBの地震確率データでは、125mメッシュ全体の平均で30年以内に震度6弱以上の揺れが起きる確率が 4.42%、最大値では 35.84% に達するエリアが存在する。震度5弱以上では平均確率が 67.62% にのぼる。

三戸町周辺の主な活断層:

断層名 想定M 30年発生確率 備考
青森湾西岸断層帯 M6.8 0.664% 青森県下最大クラス
滝沢鵜飼西断層(北上残部) M6.9 0.104% 岩手北部〜南部青森に影響
北上低地西縁断層帯 M7.2 0.0% 主要断層帯(確率未評価)

青森湾西岸断層帯の30年発生確率0.664%は「やや高い」とされる水準で、M6.8の地震が発生した場合、三戸町でも強い揺れが想定される。また、過去の1994年三陸はるか沖地震(M7.6)・1968年十勝沖地震(M7.9)のように、沿岸部の海溝型地震も繰り返し三戸町に影響を与えてきた。地震後に馬淵川の堤防が損傷し、浸水リスクが高まる複合災害シナリオも想定しておく必要がある。

なお、三戸町は内陸に位置するため津波リスクは実質的にない


三戸町の指定避難場所一覧

三戸町内には23箇所の指定避難場所がある(2024年時点)。いずれも「避難場所」指定で、広域避難場所は未指定。

施設名 住所
三戸中学校 同心町字上川原16-1
三戸小学校 梅内字権現林1
三戸高等学校 川守田字白坂ノ上3
三戸町民体育館 川守田字関根川原55
三戸町中央公民館 川守田字関根川原55
アップルドーム 川守田字元木平8-1
ジョイワーク三戸 川守田字関根4-11
三戸町勤労者体育センター(武道館) 川守田字関根4-1
斗川小学校 斗内字清水田50
大舌交流センター 斗内字大舌9-2
目時さわやか会館 目時字中道89
豊川ほうえい会館 豊川字上村中13-1
梅内ふれあい会館 梅内字村中114-2
泉山あすなろ会館 泉山字泉山44
蛇沼やまびこ会館 蛇沼字馬場平88
杉沢小中学校 貝守字杉沢向平50
杉沢ふるさと会館 貝守字杉沢向平57-2
ウッド・ロフトかいもり 貝守字村ノ上11-1
三戸町基幹集落センター(猿辺支所) 貝守字北向下田32
三戸地区生活改善センター 袴田字下屋敷34
三戸町農村環境改善センター(斗川支所) 斗内字清水田14
三戸町老人福祉センター 梅内字権現林139
三戸町勤労青少年ホーム 川守田字関根4-1

注意:洪水ハザードマップで浸水区域に指定されている施設は、洪水時の避難場所として使えない場合がある。事前に自治体のハザードマップで各施設の浸水リスクを確認すること。


今からできる備え

まず確認すべきこと

  1. 三戸町公式防災ハザードマップを入手する
  2. 三戸町防災マップページから居住地区のPDFをダウンロードできる
  3. 全体図:防災マップ全体図PDF
  4. 問い合わせ:三戸町総務課防災危機管理室(0179-20-1119)

  5. 馬淵川の水位情報を把握する

  6. 国交省東北整備局 馬淵川洪水浸水想定区域図
  7. 大雨時は「川の防災情報」(国交省)で剣吉水位観測所の水位を確認する

  8. 防災DBで自宅の詳細リスクを確認する

  9. bousaidb.jp では125mメッシュ単位で洪水・土砂災害・地震リスクを確認できる

備蓄・行動のポイント

  • 三戸町は山間部で道路が一本化されているエリアも多く、浸水時の孤立リスクに備え最低7日分の食料・飲料水を備蓄する
  • 馬淵川の増水は上流(岩手県側)の大雨でも急激に起こる。地元の気象情報だけでなく、上流側(岩手・葛巻・二戸方面)の雨情報も確認する習慣をつける
  • 「避難指示」が出る前の「高齢者等避難」段階で行動を始める。2020年の事例でも夜間に避難指示が出ており、暗くなる前の早めの判断が命を守る

データ出典

データ 出典
統合リスクスコア・洪水・土砂・地震確率 防災DB(bousaidb.jp) — 国土数値情報、J-SHIS等を基に集計
過去の災害事例 国立研究開発法人 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース
市区町村マスタ 国土交通省 国土数値情報(行政区域データ)
指定避難場所 国土交通省 国土数値情報(避難施設データ)
馬淵川洪水浸水想定区域 国土交通省東北地方整備局 青森河川国道事務所
ハザードマップURL 三戸町公式ホームページ(2024年確認)
2020年洪水情報 デーリー東北「北奥羽で大雨 馬淵川、危険水位に」(2020年7月12日)
活断層データ 産業技術総合研究所 活断層データベース、地震調査研究推進本部
河川・地形情報 国土交通省「日本の川 東北 馬淵川」、馬淵川水系河川整備計画(青森県)

記事執筆:防災DB編集部 / 最終更新:2026年4月

本記事のリスクスコアおよび浸水想定データは、防災DBが公開データを基に算出したものです。実際の避難行動は市区町村が発令するハザードマップおよび避難情報に従ってください。