斜里町の災害リスクと歴史|洪水・津波・地震が重なるオホーツク最高リスク地帯
防災DB編集部 / 2026年4月
北海道オホーツク海沿岸の最東端に位置する斜里町。世界自然遺産「知床」の玄関口として知られるこの町は、防災DBの統合リスクスコアで81点(極めて高い)を記録する北海道有数のハイリスク地帯でもある。洪水・津波・地震のすべてが最高スコアを示し、1911年以降だけで63件の災害記録が残る。知床の雄大な自然は美しいが、その地形こそが複合的な災害リスクの根源でもある。
斜里町の災害リスクの全体像
防災DBが算出した斜里町の統合リスク評価(2024年時点のデータ)は以下の通りだ。
| リスク種別 | スコア(0〜100) | 評価 |
|---|---|---|
| 統合リスク | 81 | 極めて高い |
| 洪水 | 100 | 最高 |
| 津波 | 100 | 最高 |
| 地震 | 100 | 最高 |
| 液状化 | 60 | 中〜高 |
| 土砂災害 | 50 | 中程度 |
| 高潮 | 0 | 低い |
洪水・津波・地震の3分野が同時に満点という自治体は全国でも少ない。これは斜里町が太平洋プレートとオホーツクプレートの境界に近いオホーツク海に面し、かつ複数の中小河川が山岳から平野部へ一気に流れ下る地形を持つためだ。「観光地として安全」と「防災上のリスク」は全く別の話であることを最初に強調しておく。
なぜ斜里町は複合災害に弱いのか?
知床半島がもたらす地形的リスク
斜里町は知床半島(全長65km、幅25km)を羅臼町と共有する。この半島は急峻な知床連山(最高峰羅臼岳1,660m)が海岸線まで迫る地形で、内陸部の降水が短距離で海に流れ込む急勾配の河川地形を生んでいる。
斜里川・止別川・幾品川・忠類川・植別川など9本の河川がオホーツク海に注いでいる。いずれも流域面積に比して流下速度が速く、大雨時の急激な増水が繰り返されてきた歴史がある。町内に「氾濫原」「低湿地」に相当するエリアが広がるのはこうした地形的必然だ。
オホーツク海という津波の回廊
斜里町はオホーツク海に面する約30kmの海岸線を持つ。千島列島・北海道東方沖では過去に繰り返しM8クラスの地震が発生しており、太平洋プレートの沈み込みに伴う巨大地震のリスクが常に存在する。防災DBの125mメッシュ解析では、斜里町内の沿岸エリアに1,236メッシュ(約2,000ha相当)が津波・高潮浸水リスク域として登録されている。特にウトロ地区は知床半島の先端付近にあり、津波の到達が早いことが警戒されている。
地震確率:最大69%という数値の意味
防災DBが保有する地震ハザードデータ(2024年版、全国地震動予測地図ベース)によれば、斜里町域での震度6弱以上が発生する30年確率は平均13.95%、町内の特定エリアでは最大69.05%に達する。
震度5弱以上の確率は平均87.45%(最大99.89%)と、「30年以内に震度5弱以上を経験する」ことはほぼ確実と言える水準だ。1994年に実際に体験した北海道東方沖地震M8.2は、このリスクが机上の数字ではないことを示している。
地盤のS波速度(Avs30)は平均424.3m/sと比較的硬質だが、沿岸の低地では液状化リスク(スコア60)も存在する。
過去の主要災害と年表
1966年10月:死者25名の大型台風・低気圧
斜里町の災害記録の中で最大の人的被害を記録したのが、1966年(昭和41年)10月28日の風水害だ。NIEDデータによれば死者25名を記録している。この年は台風や発達した低気圧がオホーツク沿岸を直撃し、強風と高波による被害が出た可能性が高い(詳細は気象庁昭和年代災害事例報告および斜里町史を参照)。なお、1966年は同年中に冷害の記録も残っており、この年が農業・漁業双方で壊滅的な被害を受けた年だった可能性がある。
1963年11月:「第2次オホーツク災害」で死者4名
1963年(昭和38年)11月8日、「第2次オホーツク災害」と記録された風水害で死者4名が発生した。1952年10月23日の「オホーツク災害」(第1次)に続く大規模な沿岸災害であり、秋〜冬の季節に発達した低気圧による暴風・高波がオホーツク海沿岸を繰り返し襲うパターンが当時から確認されている。
1994年10月4日:北海道東方沖地震M8.2
1994年(平成6年)10月4日22時22分、根室沖を震源とするM8.2の巨大地震(北海道東方沖地震)が発生した。太平洋プレートの内部破壊型の地震で、北海道全体で重傷32名・軽傷404名・家屋被害7,519棟の被害が生じた(内閣府防災情報ページより)。
斜里町では半壊11棟・一部損壊32棟の被害が記録されている(NIEDデータより)。この地震では気象庁が北海道太平洋沿岸に津波警報を発令したが、オホーツク海側への津波波高は網走で15cmと小さかった。しかし斜里町の位置するオホーツク海は千島列島プレート境界に近く、地震動そのものによる建物被害が発生した点が重要だ。
2006〜2007年:相次いだオホーツク海沿岸津波警報
2006年(平成18年)11月15日と2007年(平成19年)1月13日の2回、「オホーツク海沿岸津波警報」の発令が記録されている。いずれも千島列島付近の地震に伴うもので、実際の浸水被害は限定的だったとみられるが、津波避難の訓練・意識醸成の機会となった出来事だ。
1981年8月:台風連続上陸で全壊23棟
1981年(昭和56年)8月は台風が立て続けに北海道を直撃した。8月5日に台風12号に伴う北海道豪雨、同23日に台風15号が相次いで被害をもたらし、斜里町では全壊23棟(台風15号被害)が記録されている。
2008年6月:一部損壊418棟の大規模被害
2008年(平成20年)6月11日の風水害では、一部損壊418棟という近年最大規模の建物被害が記録されている。NIEDデータの記録では災害名が記載されていないが、この規模の被害は暴風・高波または大雨による複合的な被害と推測される(推測)。
斜里町 主要災害年表(1911年〜2009年)
| 年 | 月 | 災害名 | 種別 | 主な被害 |
|---|---|---|---|---|
| 1911 | 8 | — | 風水害 | 床上浸水43 |
| 1952 | 10 | オホーツク災害 | 風水害 | — |
| 1963 | 11 | 第2次オホーツク災害 | 風水害 | 死者4 |
| 1966 | 10 | — | 風水害 | 死者25 |
| 1972 | 11 | — | 風水害 | 全壊29棟 |
| 1975 | 5 | — | 雪害 | 死者2、行方不明1 |
| 1981 | 8 | 台風12号(北海道豪雨) | 洪水 | 全壊あり |
| 1981 | 8 | 台風15号 | 風水害 | 全壊23棟 |
| 1988 | 11 | — | 洪水 | 床上浸水1、床下浸水16、一部損壊39、河川被害3 |
| 1992 | 9 | — | 風水害 | 床上・床下浸水、河川被害6 |
| 1994 | 10 | 北海道東方沖地震 | 地震(M8.2) | 半壊11棟、一部損壊32棟 |
| 1998 | 9 | 台風5号 | 風水害 | 河川被害2 |
| 2001 | 9 | 台風15号 | 風水害 | — |
| 2002 | 10 | 台風21号 | 風水害 | — |
| 2006 | 11 | オホーツク海沿岸津波警報 | 地震 | — |
| 2007 | 1 | オホーツク海沿岸津波警報 | 地震 | — |
| 2007 | 9 | 台風9号 | 風水害 | — |
| 2008 | 6 | — | 風水害 | 一部損壊418棟 |
※「—」は災害名の記録なし。「-2」はNIEDデータ上の「確認不可」を除外して表示。出典:NIED自然災害データベース(斜里町地域防災計画収録データ)
洪水・浸水リスク:9つの河川が町を分断する
防災DBの125mメッシュ洪水解析によれば、斜里町内を流れる9河川すべてで浸水想定区域が設定されている。規模の大きいものから示す。
| 河川名 | 浸水想定メッシュ数 | 最大浸水深 | 平均浸水深 | 最長浸水継続時間 |
|---|---|---|---|---|
| 斜里川 | 5,120 | 5.0m | 1.47m | 336時間(14日) |
| 幾品川 | 1,313 | 5.0m | 0.66m | 336時間(14日) |
| 止別川 | 941 | 5.0m | 1.23m | — |
| 奥蘂別川 | 718 | 5.0m | 0.62m | 168時間(7日) |
| 忠類川 | 456 | 5.0m | 2.66m | — |
| 植別川 | 346 | 5.0m | 2.50m | — |
| チエサクエトンビ川 | 281 | 3.0m | 0.17m | — |
| エトンビ川 | 132 | 5.0m | 0.67m | — |
| 春苅古丹川 | 51 | 5.0m | 2.99m | — |
斜里川の洪水影響メッシュ5,120(約8km²)は町の中心部を含む広大な面積だ。最大浸水深5mは2階天井まで水が到達する深さであり、1階に取り残されれば生命の危機となる。特に忠類川・植別川・春苅古丹川は平均浸水深が2.5〜3mと高く、想定浸水区域内では2階以上への垂直避難が必須となる。
また最長336時間(14日間)の浸水継続が想定されている点も見落とせない。洪水後に長期間にわたり市街地が浸水したままになるシナリオが、現実的なリスクとして存在する。
斜里川の洪水ハザードマップは斜里町公式サイト(防災・ハザードマップページ)で確認できる。
津波リスク:オホーツク海岸線の1,200メッシュが浸水域に
防災DBの125mメッシュ沿岸解析では、斜里町内の1,236メッシュが津波・高潮の浸水想定区域に含まれる。統合リスクスコアの津波スコアが100点満点を示しており、最大想定浸水深は10m以上と記録されている。
特に警戒が必要なのはウトロ地区だ。知床半島先端方向に突き出た地形のため、千島列島方向からの津波が最初に到達する位置にある。斜里町はウトロ地区の津波避難マップ(PDF)を公開しており、避難経路の事前確認が不可欠だ。
2024年1月の能登半島地震では、「逃げる必要はないだろう」という思い込みによる津波避難の遅れが問題になった。斜里町は2006年・2007年に連続で津波警報を経験した町でもある。警報が発令されたら、迷わず即時避難が原則だ。
地震リスク:震度6弱以上が最大69%の確率で30年以内に発生する
防災DBが保有する地震動予測データ(2024年版)による斜里町の地震確率は衝撃的だ。
- 震度6弱以上の30年確率(平均): 13.95%
- 震度6弱以上の30年確率(最大): 69.05%
- 震度5弱以上の30年確率(平均): 87.45%
- 震度5弱以上の30年確率(最大): 99.89%
「30年以内に69%の確率で震度6弱以上」というエリアが町内に存在することは、生命・財産リスクとして極めて深刻だ。北海道東方沖・千島海溝沿いのプレート境界地震は、次の大規模地震の発生が科学的にも高確率とされている。
北海道ではこの地域を対象に「千島海溝沿いの巨大地震」の被害想定が行われており、内閣府は最大M9.3クラスの地震が発生した場合、北海道太平洋沿岸で甚大な被害が生じると警告している。オホーツク側の斜里町はその直接の影響域ではないが、地震動・津波の双方で大きな影響を受ける可能性がある。
fault_masterデータベースには斜里町周辺の活断層は登録されていないが、これはプレート境界型の大規模地震がより支配的なリスクであることを意味する。
斜里町の指定避難場所一覧
斜里町には42箇所の避難場所・避難施設が指定されている。主要な施設は以下のとおり。
市街地エリア(斜里本町周辺)
| 施設名 | 住所 | 種別 |
|---|---|---|
| ゆめホール知床 | 本町4番地 | 避難所・一時避難所 |
| 斜里中学校 | 文光町51番地 | 避難所・一時避難所 |
| 斜里小学校 | 文光町29番地 | 避難所・一時避難所 |
| 斜里高校 | 文光町5番地 | 避難所・一時避難所 |
| 朝日小学校 | 朝日町6番地 | 避難所・一時避難所 |
| 役場 | 本町12番地 | 避難所 |
| 海洋センター | 朝日町20番地 | 避難所・一時避難所 |
ウトロ地区
| 施設名 | 住所 | 種別 |
|---|---|---|
| ウトロ小中学校 | ウトロ高原20番地 | 避難所・一時避難所 |
| ウトロ漁村センター | ウトロ香川1番地 | 避難所・一時避難所 |
農村・周辺エリア
| 施設名 | 住所 | 種別 |
|---|---|---|
| 以久科小学校 | 以久科南24番地 | 避難所・一時避難所 |
| 峰浜小学校 | 峰浜69番地 | 避難所・一時避難所 |
| 朱円小学校 | 朱円32番地 | 避難所・一時避難所 |
| 大栄小学校 | 大栄90番地 | 避難所・一時避難所 |
| 川上小学校 | 川上122番地 | 避難所・一時避難所 |
| 富士コミュニティセンター | 富士56番地 | 避難所・一時避難所 |
重要な注意点:斜里町の42箇所の避難場所のうち、「広域避難場所」の指定はない(2024年時点)。洪水想定区域内にある施設は、大規模浸水時には使用できない可能性があるため、事前にハザードマップで各避難場所の浸水リスクを確認しておくことが重要だ。
今からできる備え
1. ハザードマップの確認(最優先)
斜里町の公式ハザードマップ(洪水・津波・地震・火山)は役場サイトで公開されている。
- 斜里町防災・ハザードマップ: https://www.town.shari.hokkaido.jp/soshikikarasagasu/somuka/somukakari/bousai/947.html
- 斜里町防災情報: https://www.town.shari.hokkaido.jp/kurashinojoho/bosai_kishojoho/index.html
- ウトロ地区津波避難マップ: https://www.shiretoko.asia/safety/map.pdf
- 防災DB 斜里町リスク詳細: https://bousaidb.jp/
自宅・職場・学校がどの浸水区域に入るかを必ず確認し、各浸水深に対応した垂直避難・水平避難の経路を家族で話し合っておくこと。
2. 複合災害への備え
斜里町のリスクは「洪水か津波か地震か」という選択問題ではなく、地震が津波を引き起こし、台風が洪水をもたらすという複合災害だ。以下の備えを優先する。
- 非常用持ち出し袋:3日分の食料・水、懐中電灯、救急セット、充電バンク
- 避難場所の事前確認:2か所以上(自宅浸水時の垂直避難先、広域避難の集合場所)
- 緊急連絡手段:家族の安否確認方法、NHKラジオ(電池式)の確保
- 気象情報の継続把握:台風接近時の早期避難(特に夜間到達が予想される場合)
3. 防災DBで詳細リスクを確認
防災DB(bousaidb.jp)では、斜里町の125mメッシュ単位でのリスク確認が可能だ。自宅・職場の住所で検索すれば、洪水・津波・地震の詳細リスクが無料で確認できる(登録不要)。
データ出典
| データ | 出典 | 時点 |
|---|---|---|
| 統合リスクスコア・各リスクスコア | 防災DB独自算出(国土交通省・内閣府データ統合) | 2024年 |
| 洪水浸水想定(125mメッシュ) | 国土交通省 洪水浸水想定区域データ(防災DBで再集計) | 2024年 |
| 津波・高潮浸水想定(125mメッシュ) | 国土交通省 津波浸水想定区域データ(防災DBで再集計) | 2024年 |
| 地震動予測(震度6弱以上30年確率) | 防災科学技術研究所 全国地震動予測地図 2024年版 | 2024年 |
| 過去の災害記録 | 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース(斜里町地域防災計画収録分) | 2009年まで |
| 北海道東方沖地震(1994年)の全道被害 | 内閣府 防災情報ページ | 1994年 |
| 避難場所データ | 国土数値情報 避難施設(P20)データ(防災DBで再集計) | 2024年 |
| 自治体防災情報 | 斜里町公式サイト(防災ページ) | 2024年確認 |
この記事は防災DB編集部が防災DB(bousaidb.jp)のデータと公的機関の資料をもとに作成しました。最新の避難情報・警報は斜里町公式サイトおよびNHK・気象庁の情報を参照してください。データの誤り・追加情報がある場合は防災DBまでフィードバックをお寄せください。
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