高原町(宮崎県)の災害年表と防災リスク|霧島山噴火・大淀川洪水・土砂災害の全記録
宮崎県西諸県郡高原町は、霧島山(御鉢・新燃岳)の東麓に位置する山間の町だ。防災DBの統合リスクスコアは85点(極めて高い)——九州・沖縄地方の市区町村のなかでも最上位クラスのリスクを抱えている。
その理由は明確だ。洪水スコア100・高潮スコア100・地震スコア85という数値が示すとおり、複数の災害リスクが重なり合う地域であり、なかでも1200年以上にわたって繰り返されてきた霧島山の噴火が、他の地域にはない固有のリスクを生み出している。1894年から1923年の約30年間だけで、噴火による死者が合計12名にのぼった記録が高原町地域防災計画に残されている。
この記事では、防災DBが独自に収集・分析した125mメッシュデータと、NIEDの歴史災害データベースをもとに、高原町の災害リスクを可能な限り詳細に解説する。
なぜ高原町は「極めて高い」リスクを持つのか
高原町の地形を一言で表すと「霧島火山群の東麓、大淀川の源流域に広がる山岳・高原地帯」だ。町域の大部分は標高400〜900mの高原と山林に覆われており、町の西端には霧島山(御鉢標高1,574m、新燃岳標高1,421m)がそびえる。
この地理的条件が、三重のリスクを生み出している。
第一に、活火山の直近に位置すること。 霧島山は気象庁が常時観測する活火山であり、御鉢・新燃岳・えびの高原(硫黄山)周辺など複数の火口が現在も活動を続けている。高原町は新燃岳の東側に位置し、偏西風の影響で降灰の主要な到達方向となる。
第二に、急峻な地形による土砂災害リスク。 防災DBの125mメッシュ解析によれば、高原町内の土砂災害危険メッシュ数は22,727メッシュにのぼる。町域のほぼ全域が急傾斜地・土石流危険区域と重なっており、土砂災害警戒区域(イエローゾーン・レッドゾーン)の数は54か所が記録されている。
第三に、大淀川・岩瀬川の洪水リスク。 高原町は大淀川の源流域にあたり、岩瀬川・高崎川・本庄川などの支流が山間を縫う。豪雨時には急激な増水が発生しやすく、岩瀬川沿いでは最大浸水深10mという想定浸水域が確認されている。
この街の災害リスクデータ
| リスク区分 | スコア(0-100) | 主な指標 |
|---|---|---|
| 総合リスク | 85(極めて高い) | 九州・沖縄最上位クラス |
| 洪水リスク | 100 | 岩瀬川・大淀川で最大浸水深10m |
| 高潮・津波リスク | 100 | 火山泥流・土石流の流下域として評価 |
| 地震リスク | 85 | 震度5弱以上30年確率・最大96.68% |
| 土砂災害リスク | 50 | 警戒区域54か所 |
地盤の特徴: 防災DBの地盤解析(AVS30)によれば、高原町の平均表層S波速度は433.7m/s。火山性岩盤が主体で、宮崎県の平均と比較しても比較的硬い地盤が多いが、一部の低地・沢沿いでは軟弱地盤が分布する。
地震確率(2024年時点・30年以内):
- 震度5弱以上: 平均71.84%、最大96.68%
- 震度6弱以上: 平均6.71%、最大23.41%
霧島山噴火の歴史——1200年以上の記録
高原町が他の市区町村と決定的に異なるのは、8世紀から現代まで継続する噴火の記録だ。NIEDの歴史災害データベースと高原町地域防災計画には、以下の噴火が記録されている。
古代〜江戸時代の噴火(788年〜1771年)
| 年 | 月 | 内容 |
|---|---|---|
| 788年 | 4月 | 御鉢噴火(文献最古の記録) |
| 1112年 | 3月 | 噴火 |
| 1167年 | — | 噴火 |
| 1234年 | 1月 | 噴火 |
| 1235年 | — | 大規模噴火(霧島火山歴史時代最大規模とされる) |
| 1566年 | — | 噴火 |
| 1592年 | — | 噴火 |
| 1637年 | — | 噴火 |
| 1706年 | — | 噴火 |
| 1716年 | — | 新燃岳噴火 |
| 1771年 | — | 噴火 |
1235年の御鉢噴火は、霧島火山の有史時代において最大規模とされる。
明治時代の噴火——連続する犠牲者(1894年〜1923年)
19世紀末から20世紀初頭にかけて、御鉢は激しい活動期を迎えた。高原町地域防災計画に記録された死者数は以下のとおりだ。
| 年 | 月 | 死者数 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1894年 | 10月 | 4名 | 御鉢噴火 |
| 1895年 | — | 4名 | 御鉢噴火 |
| 1896年 | — | 1名 | 御鉢噴火 |
| 1900年 | — | 2名 | 御鉢噴火 |
| 1923年 | — | 1名 | 御鉢噴火 |
合計12名が、この30年間の噴火で命を落とした。御鉢の火口は現在も活動中であり、2014年以降は噴火警戒レベルが繰り返し引き上げられている。
2011年 新燃岳噴火——52年ぶりの爆発的噴火
2011年1月26〜27日、新燃岳が52年ぶりの爆発的噴火を起こした。1月27日午後3時41分、噴煙は火口上9,000mに達し、高原町を含む周辺地域に大量の火山灰が降下した。
高原町では屋外の農地・施設が深刻な降灰被害を受け、宮崎県全体の農業被害額は約12億円に達した(農林水産省資料)。降灰の除去作業によって農業管理に遅れが生じ、作物の収量・品質が大幅に低下した。高原町地域防災計画には2011年1月〜2月にわたって複数回の噴火として記録されている。
2018年には御鉢が活発化し、高原町・都城市・小林市・鹿児島県霧島市で避難準備が発令された。同年3月、噴火警戒レベルが1(活火山であることに留意)に引き下げられ、解除された。
噴火対策の現状
宮崎県は霧島山火山防災マップ(2019年2月改訂)を作成しており、火砕流・熱風・溶岩流・火山泥流・降灰の各シナリオに応じた避難区域が設定されている。高原町は霧島山火山防災協議会の構成自治体として、噴火時の広域避難計画を策定している。
過去の主要災害——台風・豪雨・地震の年表
噴火以外にも、高原町は繰り返し台風・豪雨・地震に見舞われてきた。高原町地域防災計画(NIEDデータベース収録)による主な記録を年代順に示す。
地震・火山性地震
| 年 | 月 | 災害名 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1662年 | 10月 | 外所地震 | |
| 1769年 | 8月 | 地震 | |
| 1854年 | 12月 | 安政南海地震 | |
| 1899年 | 11月 | 地震 | |
| 1929年 | 5月 | 地震 | |
| 1946年 | 12月 | 昭和南海地震 | |
| 1968年 | 2月 | えびの地震 | 火山性地震 |
| 1968年 | 4月 | 日向灘地震 | M7.5 |
| 1978年 | 7月 | 地震 | |
| 1984年 | 8月 | 地震 |
1968年2月のえびの地震(M6.1)は、えびの市・小林市・高原町に被害をもたらした。同年4月には日向灘地震(M7.5)が発生し、宮崎県南部全域に影響が及んだ。
台風・豪雨
| 年 | 月 | 災害名 |
|---|---|---|
| 1945年 | 9月 | 枕崎台風 |
| 1945年 | 10月 | 阿久根台風 |
| 1951年 | 10月 | ルース台風 |
| 1989年 | 7月 | 平成元年台風第11・12・13号 |
| 1993年 | 9月 | 平成5年台風第13号 |
| 1997年 | 9月 | 平成9年台風第19号 |
| 2004年 | 8〜10月 | 台風第16・18・23号(同年3台風) |
| 2005年 | 9月 | 平成17年台風第14号 |
| 2006年 | 9月 | 平成18年台風第13号 |
| 2020年 | 7月 | 令和2年7月豪雨 |
| 2020年 | 9月 | 令和2年台風第10号 |
2005年の台風14号は、大淀川水系で観測史上最大の洪水を引き起こした台風であり、下流の宮崎市で甚大な浸水被害が発生した。源流域にある高原町でも強風・豪雨による農林業被害が記録されている。
2020年9月の台風10号は、高原町で一部損壊の建物被害が発生した(台風第10号による被害状況最終報)。令和2年7月豪雨では床下浸水・一部損壊の被害が報告されている。
洪水・浸水リスク——岩瀬川・大淀川の脅威
高原町の洪水リスクで最も注目すべきは、岩瀬川の想定浸水深10mだ。防災DBの125mメッシュ洪水解析によれば、岩瀬川沿いの最大浸水深は計画規模で10mに達し、最大72時間継続する浸水が想定されている。
| 河川名 | 影響メッシュ数 | 最大浸水深 | 平均浸水深 | 最大継続時間 |
|---|---|---|---|---|
| 岩瀬川 | 327 | 10.0m | 3.97m | 72時間 |
| 大淀川 | 246 | 10.0m | 3.20m | 72時間 |
| 高崎川 | 223 | 5.0m | 0.73m | 24時間 |
| 綾北川 | 22 | — | — | 72時間 |
| 本庄川 | 15 | — | — | 72時間 |
浸水深のイメージ:
- 0.5m: 大人の膝上まで。徒歩での避難が困難になり始める水位
- 3m: 1階天井まで。2階への垂直避難が必要
- 5m: 2階床上まで。木造家屋は倒壊の危険
- 10m: 3階天井以上。ビル3〜4階の高さ
岩瀬川・大淀川沿いで最大浸水深10mが実現した場合、建物の多くが完全に水没する水位だ。この数値は「想定最大規模(1000年に一度の降雨)」に基づいており、計画規模(100〜200年に一度)では数値が異なるが、大淀川水系全体で頻繁に洪水が発生してきた歴史(2005年台風14号で観測史上最大)を踏まえると、洪水リスクへの備えは欠かせない。
高原町の公式ハザードマップは高原町役場ホームページで確認できる。
土砂災害リスク——ほぼ全域が危険区域
防災DBの125mメッシュ土砂災害解析では、高原町内で22,727メッシュが土砂災害危険域に該当する。これは解析対象の全メッシュ数22,742メッシュのほぼ100%にあたり、町域のほぼ全域が何らかの土砂災害危険と隣接している実態を示している。
土砂災害警戒区域(宮崎県指定)の合計は54か所。急傾斜地崩壊・土石流・地すべりの3種類に分類されており、霧島山麓の急峻な地形と火山性の地質(砂礫・軽石を多く含む)が、土砂移動の起きやすい環境を作り出している。
特に注意が必要なのは、噴火後の土石流リスクだ。霧島山が噴火して大量の火山灰が降積した後に豪雨が重なると、火山灰が土石流として山麓を流下するケースがある。2011年の新燃岳噴火後も、宮崎県内の噴火後土石流リスクが警告された。
地震リスク——日向灘・霧島山系の火山性地震
日向灘地震帯: 高原町の東方には日向灘が位置し、同海域のプレート境界では定期的にM7クラスの地震が発生する。防災DBによれば、高原町の一部地域では震度6弱以上の30年発生確率が23.41%に達する。
えびの地震(1968年): 高原町に近接するえびの市を震源とする地震(M6.1)が1968年2月に発生した。火山性地震に分類されるこの地震は、当時の地域社会に大きな影響を与えた。高原町は震源の直近に位置しており、同種の火山性地震への備えが必要だ。
霧島山の地震活動: 霧島山では火山活動に伴う地震が常時観測されており、2011年の新燃岳噴火前後には多数の火山性地震・微動が記録された。噴火と地震は連動して発生するリスクがある点を認識しておく必要がある。
地盤のAVS30平均値は433.7m/sと比較的硬い地盤が多いが、沢沿いや火山噴出物の堆積地では軟弱な地盤も分布し、地震時の液状化・地盤沈下への注意が必要な箇所がある(防災DB液状化スコア: 40)。
主な避難場所(高原町)
高原町内には35か所の避難場所が指定されている(防災DBデータ)。以下に代表的な施設を示す。
| 施設名 | 住所 | 種別 |
|---|---|---|
| 広原小学校 | 高原町大字広原1472 | 避難場所 |
| 後川内小学校 | 高原町大字後川内2666 | 避難場所 |
| 後川内中学校 | 高原町大字後川内2651 | 避難場所 |
| 上広原地区多目的活動施設 | 高原町大字広原2072番地5 | 避難場所 |
| 下後川内多目的集会施設 | 高原町大字後川内4203番地の1 | 避難場所 |
| 川平多目的研修集会施設 | 高原町大字後川内5623-3番地 | 避難場所 |
| 上後川内地区多目的活動施設 | 高原町大字後川内2903番地 | 避難場所 |
| 並木児童館 | 高原町大字蒲牟田1154 | 避難場所 |
| 出口農業構造改善センター | 高原町大字西麓2885番地 | 避難場所 |
注意: 現在、高原町の指定避難場所に広域避難場所(最も収容規模が大きい大規模避難場所)は設定されていない(2024年時点)。噴火発生時には、霧島山火山防災マップで指定された区域外への広域避難が必要となる場合がある。
最寄りの避難場所の詳細な位置・収容規模・対応災害種別は、高原町ハザードマップおよび高原町地震ハザードマップで確認されたい。
今からできる備え
公式防災情報の確認
- 高原町ハザードマップ: https://www.town.takaharu.lg.jp/soshiki/7/1156.html
- 宮崎県霧島山火山防災マップ: https://www.pref.miyazaki.lg.jp/kiki-kikikanri/bosai/saigai/kazan_bousai_map.html
- 高原町地震ハザードマップ: https://www.town.takaharu.lg.jp/uploaded/life/220504_9736662_misc.pdf
- 防災DB 高原町リスクデータ: https://bousaidb.jp/
高原町特有の備え
噴火対応:
- 防塵マスク・ゴーグル(降灰対策)の備蓄
- 霧島山火山防災マップで自宅の避難区域を確認
- 噴火警戒レベルに応じた行動基準を家族と共有
- 農業者は降灰後の土石流警戒(噴火後の豪雨時)
洪水・土砂災害対応:
- 岩瀬川・大淀川・高崎川の氾濫リスクを自宅の位置で確認
- 川沿いや急斜面付近の住宅は、大雨の際には早めの避難
- 高原町の地形上、豪雨時は急激な増水が起きやすいため、気象情報を早め早めに確認
備蓄・避難準備:
- 水(1人1日3L目安で最低3日分)・食料(3〜7日分)
- 非常用持ち出し袋の常備(噴火時はマスク・ゴーグルを追加)
- 避難場所までのルートを複数確認(土砂災害で通行止めになる可能性を考慮)
データ出典
| 分類 | 出典 | 説明 |
|---|---|---|
| 統合リスクスコア | 防災DB(bousaidb.jp) | 125mメッシュ解析による独自スコアリング |
| 洪水浸水想定 | 国土交通省 洪水浸水想定区域(大淀川水系ほか) | 計画規模・想定最大規模 |
| 土砂災害警戒区域 | 宮崎県 土砂災害警戒区域等マップ | 2024年時点 |
| 地震確率 | 地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版 | 30年確率 |
| 地盤データ | J-SHIS(地震ハザードステーション)AVS30データ | 2024年時点 |
| 歴史災害記録 | NIED 自然災害データベース | 高原町地域防災計画収録データ |
| 噴火記録 | 産総研 地質調査総合センター「霧島火山の活動記録」 | 有史時代〜現代 |
| 2011年噴火被害 | 内閣府 防災情報ページ(霧島山噴火被害状況) | 令和3年2月資料 |
| 農業被害 | 農林水産省「新燃岳の噴火に伴う降灰等による宮崎県の農業被害」 | J-STAGE掲載 |
| 大淀川水系 | 国土交通省 宮崎河川国道事務所「大淀川の主な災害」 | 2024年確認 |
| 避難場所 | 国土数値情報 避難場所データ(P20) | 高原町分 |
| 防災ハザードマップ | 高原町公式ホームページ | https://www.town.takaharu.lg.jp/soshiki/7/1156.html |
本記事のリスクスコア・メッシュ解析データは防災DB(bousaidb.jp)が独自に収集・分析したものです。データの誤りやご意見は、防災DBのフィードバックフォームからお寄せください。
著者: 防災DB編集部 / 最終更新: 2026年4月
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