苫小牧市の災害リスクと歴史——繰り返す水害と千島海溝津波への備え

苫小牧市は、防災DBの統合リスクスコアで81点(極めて高い)を記録する北海道随一の高リスク都市だ。洪水スコア100・津波スコア100・地震スコア100と、主要3項目すべてで満点に近い評価を受けており、これほど複合的にリスクが集中する市区町村は道内でも稀である。

1950年8月の大水害では死者17人・行方不明57人を出し、2018年北海道胆振東部地震(M6.7)では震度5強の揺れと全道ブラックアウトが同時に直撃した。さらに千島海溝沿いで最大クラス(M9.3)の地震が発生すれば、市街地・港湾・工業地帯が広がる沿岸低地帯に大津波が押し寄せる——。勇払原野という低湿地帯に立地する苫小牧市が抱えるリスクは、まさに洪水・地震・津波の「三重奏」だ。


この街がなぜ高リスクなのか——勇払原野と太平洋沿岸の地形

苫小牧市の地形的弱点は、太平洋沿岸の低地帯に市街地・港湾・工業地帯が集積している点に尽きる。背後には勇払原野が広がり、泥炭地盤と軟弱な地質が市域の大半を占める。この地形が、水害・地震・津波のすべてにおいてリスクを高めている。

防災DBの125mメッシュ解析によると、苫小牧市内の平均表層地盤S波速度(Avs30)は264.5 m/sと比較的軟弱だ。軟弱地盤は地震動を増幅させるほか、液状化を引き起こしやすい。実際、2018年の胆振東部地震では苫小牧港コンテナターミナルで液状化が発生している。

安平川・美々川・勇払川など多数の河川が低地を流れており、内陸から流れ込む洪水と、太平洋から押し寄せる津波の両方に対して、市域に「逃げ場」がほとんどない。

地震確率データ(防災DB・2024年時点):
- 今後30年以内に震度6弱以上を経験する確率:平均10.7%、最大値36.1%
- 今後30年以内に震度5弱以上を経験する確率:平均75.3%、最大値98.8%

震度6弱以上の確率10.7%は、「気にしなくていい確率」ではない。30年で10%超とは、1棟のビルが30年で10%以上の確率で大きな揺れに見舞われる——という感覚値に近い。


過去の主要災害

1950年8月——戦後最大の水害(死者17人・行方不明57人)

苫小牧市の災害史で最大の被害を出したのが、1950年8月1日の大水害だ。107件の災害記録を持つNIEDデータセット(苫小牧市地域防災計画 風水害対策編)によると、この水害での被害は以下のとおりだ。

項目 数値
死者 17人
行方不明者 57人
床上浸水 1,530棟
床下浸水 4,075棟
全壊 4棟
半壊 3棟
河川被害 45か所

床上・床下浸水を合わせて約5,600棟という規模は、当時の苫小牧の家屋数を考えると市の相当部分が浸水したことを示している。河川被害が45か所に及んだ点からも、市内を流れる多数の河川が同時に氾濫したことが読み取れる。

この災害は苫小牧市の地域防災計画に「風水害対策の原点」として記録されており、その後の河川整備・治水対策の契機となった。

1923年12月——冬の水害(死者12人)

1923年12月21日の災害では12人が亡くなっている。資料は「苫小牧市地域防災計画 風水害対策編」に記録されているが、詳細な発生状況は同資料に記述がなく、冬期の強風・高波・融雪による複合災害の可能性がある(推測)。明治末期から大正期にかけての苫小牧は、現在の防潮・治水インフラが整備されておらず、海岸・河川氾濫に対して無防備に近い状態だった。

1954年9月26日——洞爺丸台風(半壊200棟)

洞爺丸台風は北海道全体を直撃し、青函連絡船「洞爺丸」が転覆して1,155人が犠牲になった日本最大の台風海難事故として知られる。苫小牧市でも半壊200棟の建物被害が記録されており、暴風による構造的被害の深刻さが伝わる。死者・行方不明の記録はNIEDデータに明示されていないが、道内全体では数百人規模の被害が出た。

1965年9月17日——大規模浸水(床上41棟・床下1,455棟)

1965年の風水害では床下浸水が1,455棟に達した。床上浸水41棟というのは1950年の1,530棟より大幅に少ないが、床下浸水の規模は依然として大きく、1950年代以降に進んだ市街地開発が浸水リスクを内包したまま進んでいたことを示している。

1968年5月16日——十勝沖地震(M7.9・死者1人)

1968年の十勝沖地震(M7.9)は、青森・岩手を中心に死者52人を出した大地震だ。苫小牧市では震度4程度の揺れを観測し、死者1人・半壊4棟・一部損壊6棟の被害が記録されている(NIEDデータセット)。津波も到達したが、苫小牧での浸水被害は限定的だった。

2018年9月6日——北海道胆振東部地震(NIEDデータセット未収録・Web調査結果)

2018年9月6日午前3時7分、北海道胆振地方中東部でM6.7の地震が発生した。震源近くの厚真町では最大震度7を観測し、山腹崩壊によって42人が犠牲になった。

苫小牧市の観測震度は震度5強。被害は以下のとおりだ。

項目 数値
死者 2人
重傷者 9人
軽傷者 15人
住宅半壊 5件
住宅一部損壊 340件
苫小牧港 液状化発生

この地震で深刻だったのは直接的な揺れだけではない。震源近くにある苫東厚真火力発電所(厚真町)が緊急停止したことで、北海道全域の約295万戸が停電する「全道ブラックアウト」が発生した。これは日本で初めて経験する大規模電力網の全域喪失であり、苫小牧市内の停電は翌9月7日夜までに概ね解消されたものの、信号・病院・水道といったライフラインへの影響は深刻だった。

苫東厚真火力発電所は苫小牧市内の施設ではないが、その立地と電力網への依存関係が、苫小牧市の「電力リスク」を如実に示した事例として防災計画上の重要な教訓になっている。


全災害年表(NIED記録より主要事例)

月日 種別 死者 行方不明 床上浸水 全壊 主な被害内容
1909 4/6 風水害 9 一部損壊45棟
1911 7/26 風水害 34 河川氾濫
1923 12/21 風水害 12 冬期災害
1925 12/8 風水害 14 全壊14棟
1950 8/1 風水害 17 57 1,530 4 河川被害45か所
1954 9/26 台風 洞爺丸台風・半壊200棟
1965 9/17 風水害 41 床下1,455棟
1968 5/16 地震 1 十勝沖地震M7.9
1979 10/3 風水害 71 床下974棟
1981 8/3 風水害 24 床下272棟
1984 9/18 風水害 19 床下96棟
1987 8/26 風水害 46 河川被害23か所
2018 9/6 地震 2 胆振東部M6.7・全道停電

出典:苫小牧市地域防災計画 風水害対策編・震災対策編(NIED自然災害データベース)、2018年については内閣府被害報告


なぜ苫小牧市は洪水に弱いのか

防災DBの125mメッシュ解析では、苫小牧市は洪水スコア100を記録している。浸水想定メッシュ数は777,035(市内の広大なエリアが洪水浸水想定区域に該当する)。

洪水リスクのダントツ第1位は安平川だ。

河川名 浸水想定メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最長浸水継続時間
安平川 6,549 10m 1.81m 336時間(14日間)
美々川 1,151 3m 1.25m
遠浅川 779 3m 0.36m 336時間
幌内川 660 3m 0.41m 336時間
苫小牧川 503 3m 0.53m 72時間
千歳川 471 3m 0.96m 24時間
厚真川 422 3m 0.40m 72時間
明野川 322 5m 0.59m 336時間

出典:防災DB(bousaidb.jp)125mメッシュ洪水浸水想定解析

安平川の最大浸水深10mという数値は、2階建て住宅(軒高約6m)を完全に水没させる規模だ。さらに浸水継続時間が最長14日間に及ぶ点は見逃せない。一度氾濫すれば2週間近く水が引かないシナリオが想定されており、短期の避難ではなく長期の避難生活への備えが求められる。

浸水深の具体的なイメージ:

  • 0.5m:歩行困難、子供は流される危険
  • 1m:通常の乗用車が水没
  • 2m:1階全体が水没(1階天井まで)
  • 3m:2階床上まで浸水
  • 5m:2階天井まで浸水
  • 10m:3〜4階建て建物が完全水没

津波リスク——千島海溝M9.3が現実の脅威

苫小牧市の津波スコアは100。これは洪水と並ぶ最高リスク評価だ。防災DBの解析では津波浸水想定メッシュ数が586,122に達し、最大浸水深は10mに及ぶ。

北海道が2021年7月に公表した新たな津波浸水想定では、千島海溝沿いの最大クラス(M9.3)を基準シナリオとして採用している。苫小牧市はこれを受けてハザードマップを全面改訂し、地区別の17種の津波ハザードマップを2023年(令和5年)に更新した。

特に勇払地区は海岸に近く、標高も低い。千島海溝地震発生後の津波到達時間は沖合震源のため比較的短く、強い揺れを感じたら「揺れが収まってから」ではなく揺れている最中から高台・避難ビルへの移動を開始することが市の防災計画で強調されている。


地震リスクと活断層

防災DBの地震データによると、苫小牧市内で30年以内に震度6弱以上を経験する確率は平均10.7%、最大値36.1%にのぼる(2024年時点)。

近傍の活断層は以下のとおりだ(防災DB fault_masterより):

断層名 想定マグニチュード 30年発生確率
石狩低地東縁断層帯南部 M7.1 0.18%
石狩低地東縁断層帯主部 M7.2 ほぼ0%

直接の起因断層による確率は低いものの、苫小牧市は2018年のように震源が遠くても強い揺れに見舞われる地域だ。胆振東部地震では震源から約60km離れた苫小牧で震度5強が観測されており、活断層の発生確率だけでは地震リスクを過小評価する危険がある。

また平均Avs30(264.5 m/s)は一般的に「中軟弱」に分類される地盤で、2018年地震で実際に港湾地区での液状化が発生した事実からも、液状化スコア60の評価は現実に即している。


土砂災害リスク

防災DBの解析では土砂災害の危険メッシュ数は2と非常に少なく、土砂スコアは50(中程度)。苫小牧市の市街地は平野部に位置しているため、山間部と比較して土砂災害リスクは限定的だ。ただし市西部・北部の丘陵地では土石流危険渓流・急傾斜地崩壊危険箇所が存在しており、注意が必要な地域もある。


苫小牧市の避難施設

苫小牧市内には53か所の避難施設が登録されている(防災DB・国土交通省NLFTPデータより)。小中学校・高等学校が中心で、公共施設も指定されている。なお、広域避難場所(複数の避難所が満員になった際に機能する場所)の指定は現時点でデータに反映されておらず、最新情報は苫小牧市の公式ページで確認されたい。

主要避難施設(一部):

施設名 住所 種別
工業高等学校 苫小牧市字高丘6番地の22 避難所
東高等学校 苫小牧市清水町2丁目12番20号 避難所
南高等学校 苫小牧市のぞみ町2丁目1番2号 避難所
和光中学校 苫小牧市双葉町1丁目11番3号 避難所
明野中学校 苫小牧市明野新町3丁目13番1号 避難所
拓勇小学校 苫小牧市拓勇東町4丁目8番 避難所
ウトナイ小学校 苫小牧市字沼ノ端930番地の1 避難所
教育福祉センター 苫小牧市本幸町1丁目2番21号 避難所
勇払中学校 苫小牧市字勇払132番地 避難所
グランドホテルニュー王子 苫小牧市表町4丁目3番1号 一時避難所

全避難施設のリストは苫小牧市Web防災マップまたは防災DB(bousaidb.jp)で確認できる。


今からできる備え

ハザードマップで自宅のリスクを確認する

苫小牧市は洪水・津波・土砂災害それぞれのハザードマップを整備している。まず自宅の立地を確認することが最優先だ。

停電への備えを最優先に

2018年のブラックアウトが示したとおり、苫小牧市は電力インフラの脆弱性が特有のリスクだ。蓄電池・ポータブル電源・乾電池式ラジオは、地震後の情報収集と生活維持に不可欠の装備だ。

洪水・津波の場合は「水平避難」を選ぶ

苫小牧市の多くの地区では垂直避難(建物の上階へ逃げる)よりも水平避難(より高い場所・安全な地域への移動)が基本だ。安平川や津波の場合、最大浸水深が10mを超えるため、3〜4階建て以下の建物では垂直避難では命が守れない可能性がある。あらかじめ避難経路を2ルート以上確認し、夜中に避難が必要になっても動けるよう準備しておこう。

7日分の備蓄

洪水が最長14日間継続する想定を踏まえると、一般的に推奨される3日分の備蓄では不十分だ。食料・水は7日分以上、できれば2週間分の備蓄を目標としたい。


データ出典

データ 出典 備考
統合リスクスコア・洪水・津波・地震・液状化スコア 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ解析、2024年時点
過去の災害被害記録 NIED自然災害データベース(苫小牧市地域防災計画 風水害対策編・震災対策編)
2018年北海道胆振東部地震被害 内閣府非常災害対策本部資料、Wikipedia(北海道胆振東部地震) NIEDデータセット未収録のため別途調査
洪水浸水想定(河川別) 防災DB(国土交通省洪水浸水想定区域データを125mメッシュ変換)
活断層データ 防災DB fault_master(地震調査研究推進本部データ準拠)
地震確率・地盤データ 防災DB(地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版)
避難施設データ 防災DB(国土交通省 国土数値情報 避難施設データ)
津波浸水想定 北海道建設部(令和3年7月公表)、苫小牧市津波ハザードマップ(令和5年改訂)
地形・地質・自治体防災情報 苫小牧市公式HP、勇払川(Wikipedia)

著者:防災DB編集部 / 最終更新:2026年4月
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