登米市の災害リスクと過去の被害年表|北上川・迫川が生む洪水リスクと東日本大震災の記録

防災DB編集部 / 2026年4月更新


宮城県北部に位置する登米市(とめし)は、北上川・迫川・鳴瀬川が市域を縦横に流れる低平地の都市だ。防災DB(bousaidb.jp)の125mメッシュ解析による統合リスクスコアは81点(極めて高い)。洪水・地震・津波の3カテゴリで、いずれも100点満点——日本全国でも最高水準のリスク集積地のひとつである。

2011年の東日本大震災では震度6強を観測し、北上川を遡上した津波が市内に到達した。2019年の令和元年台風第19号では北上川が氾濫危険水位を突破し、1名が死亡、床上浸水89棟・床下浸水212棟の被害が出た。記録に残るだけで過去50年に数十回を超える風水害が登録されている。

本記事では、防災DBの定量データと公的機関の記録を組み合わせ、登米市の災害リスクの全体像を解説する。


なぜ登米市は繰り返し水害に見舞われるのか

登米市の地形を理解すれば、そのリスクの本質が見えてくる。

市の西部から南部にかけては、北上川とその支流が形成した沖積低地(登米耕土)が広がる。この低地は海抜数メートルという平坦な地形で、農業には適しているが、大雨のたびに複数の河川から同時多発的に浸水する構造を持つ。北上川(幹川延長249km、流域面積10,150km²)は東北最大の一級河川で、上流域の豊富な降水がそのまま流下してくる。

特に迫川(はさまがわ)は、歴史的に「宮城県で最も治水が難しい川」とされてきた。流域が盆地状になっており、増水時に水が逃げにくい地形だ。防災DBの洪水メッシュデータでは、北上川沿いに14,526メッシュ(1メッシュ=125m×125m)、迫川沿いに10,137メッシュが浸水危険域として特定されており、想定最大浸水深は北上川で最大10m、迫川で最大20mに及ぶ。

浸水深の目安:1m=人が立つと胸まで水が来る。3m=1階天井まで水没(1階内からの脱出不可)。5m=2階床上まで浸水。10m=2階建て建物が完全に水没するレベル。


東日本大震災(2011年)——震度6強と北上川を遡上した津波

2011年3月11日14時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の超巨大地震が発生した。登米市は最大震度6強を観測。建物の倒壊・損傷が市内各所で相次ぎ、ライフラインが寸断された。

この地震で特筆すべきは、地震動の被害に加えて北上川を遡上した津波が登米市域に到達したことだ。北上川は石巻市で太平洋に注いでいる。2011年の津波は北上川の河道を遡上し、内陸深くまで遡上した——その距離は、石巻河口から数十kmに及んだとされる。登米市南端の河川沿い地区はこの遡上津波の影響圏に入っており、津波ハザードスコア100点の根拠のひとつとなっている。

登米市は「東日本大震災の記録」を発刊しており、震災当時の対応・復旧経緯が詳細に記録されている(登米市公式)。

注:2011年東日本大震災の市単位被害データはNIEDの本DBには未収録のため、公式記録等を参照して補完。


令和元年台風第19号(2019年)——北上川が氾濫危険水位突破

2019年10月12日夜から13日にかけて、台風第19号(令和元年東日本台風)が東日本に上陸した。宮城県では記録的な大雨となり、北上川・吉田川・阿武隈川など県内の主要河川が軒並み氾濫危険水位を超えた。

登米市では北上川が氾濫危険水位を超過し、市内で1名が死亡。床上浸水89戸、床下浸水212戸、一部損壊12棟の被害が記録された(NIEDデータベース収録)。市は避難指示を発令し、市内92か所の避難施設に住民が避難した。

この台風では、隣接する大崎市・石巻市でも甚大な洪水被害が発生。北上川・江合川・鳴瀬川という主要3河川が同時に増水するという、登米市が抱える複合的な洪水リスクの典型的なシナリオが現実化した。


洪水・浸水リスクの詳細

主要河川別のリスク

防災DBの125mメッシュ解析によると、登米市内の洪水浸水ハザードに関わる主な河川は以下の通り(2024年データ)。

河川名 浸水メッシュ数 想定最大深さ 平均浸水深 最大浸水継続時間
北上川 14,526 10.0m 2.34m 336時間(14日)
迫川 10,137 20.0m 1.05m 336時間(14日)
鳴瀬川 4,722 5.0m 2.47m 336時間
夏川 2,932 20.0m 1.52m 336時間
荒川 1,777 5.0m 1.98m 336時間
旧迫川 1,718 5.0m 0.92m 336時間
小山田川 951 10.0m 2.81m 336時間
三迫川 893 5.0m 0.74m 168時間
江合川 724 3.0m 0.52m 168時間
二迫川 357 10.0m 2.47m 168時間

つまり、登米市では北上川・迫川だけで合計24,663メッシュ(面積にして約385km²)が洪水浸水危険域として特定されている。浸水継続時間が336時間(14日間)に及ぶシナリオも想定されており、一度浸水したら長期間水が引かないリスクがある点は見逃せない。

洪水スコア100点の根拠はここにある——洪水浸水区域の最大深さは20mに達し、エリアカウントは829,654メッシュに上る(広域含む)。


地震リスク

登米市における地震確率は、防災DBの125mメッシュ地震確率データ(2024年版)によると以下のとおりだ。

  • 30年以内に震度6弱以上が発生する確率:市域平均21.5%、最大63.2%
  • 30年以内に震度5弱以上が発生する確率:市域平均88.0%、最大99.99%

震度5弱以上の地震については「30年以内に9割近い確率で発生する」という数字は、防災計画上は「想定内」として対処しておくべき水準だ。

市域の地盤は、平均Avs30(地表30mまでの平均S波速度)が405.6 m/s。一般的な目安では、300 m/s未満を「軟弱地盤」、400 m/s以上を「比較的硬い地盤」と区分するため、平均的には中程度の地盤といえる。ただし、北上川・迫川沿いの沖積低地では局所的に地盤が軟弱で、液状化リスクスコアは60点(100点満点)と中程度以上に位置づけられている。

近傍の活断層

宮城県内で防災DBに登録されている主な活断層は以下の通り(2024年時点)。

断層名 想定マグニチュード 30年発生確率
長町-利府線断層帯 M6.9 約0.6%
滝沢鵜飼西断層(北上残部) M6.9 約0.1%
北上低地西縁断層帯 M7.2 ほぼ0%(詳細未評価)

上記のほか、登米市が位置する北上低地には複数の地質構造が存在し、過去には1978年宮城県沖地震(M7.4)や2011年東日本大震災(M9.0)など、内陸断層ではなく太平洋プレート境界型の大規模地震が繰り返し発生してきた。活断層による局地的な直下型地震よりも、プレート境界型の広域地震リスクが特に高い地域である。


土砂災害リスク

登米市の土砂災害ハザード区域数は24箇所、防災DBの125mメッシュ解析では1,166メッシュが土砂災害危険域として特定されている。

市東部の山間部(東和地区・津山地区など)では土石流・地すべり・急傾斜地崩壊の危険区域が点在する。土砂災害リスクスコアは50点(100点満点)で「中程度」の評価だが、24箇所という具体的な危険区域数は住民が把握しておくべき情報だ。

宮城県が指定する登米市の土砂災害警戒区域の詳細は宮城県公式サイトで確認できる。


過去の主要災害年表

年月 災害名・種別 主な被害
2019年10月 令和元年台風第19号(洪水) 死者1名、床上89棟・床下212棟・一部損壊12棟
2011年3月 東日本大震災(地震・津波遡上) 震度6強、北上川遡上津波、建物多数損壊
1999年10月 台風・前線(洪水) 床上浸水16戸・床下74戸、河川被害17件
1999年6月 洪水 河川被害2件
1998年8月 洪水(複数) 床下浸水39戸
1997年6月 台風8号(洪水) 床上1戸・床下2戸、河川被害21件
1993年8月 梅雨前線・台風7・11号 河川被害2件
1991年9月 台風17・18・19号(洪水) 河川被害10件
1991年8月 洪水 河川被害
1988年8月 洪水 床上6戸・床下312戸、河川7件
1986年8月 台風10号(洪水) 床上53戸・床下176戸、全壊3棟、河川10件
1981年8月 台風15号(洪水) 全壊16棟・床上2戸・床下20戸、河川8件
1978年6月 宮城県沖地震(M7.4) 全壊合計90棟以上・半壊260棟以上・一部損壊3,000棟超
1982年9月 台風18号・豪雨(洪水) 床下浸水9戸、河川6件
1976年8月 昭和51年夏の低温 農業被害

出典: NIEDデータベース(登米市地域防災計画収録データ)および公的記録。2011年東日本大震災はNIED本DBに未収録のため公式記録を参照。

宮城県沖地震(1978年)の被害は市内旧10町村で分散して記録されており、合計すると全壊90棟以上・半壊260棟以上・一部損壊3,000棟超に及ぶ(登米市地域防災計画・震災対策編収録データより集計)。


主な避難施設(登米市)

登米市内には92か所の避難施設が登録されている(防災DBおよびGIS避難場所データ)。以下は代表的な施設(一部抜粋)。

施設名 所在地 種別
佐沼中学校 登米市迫町佐沼字沼向4 避難場所
佐沼小学校 登米市迫町佐沼字錦108 避難場所
佐沼高等学校 登米市迫町佐沼字末広1 避難場所
中田総合体育館 登米市中田町宝江黒沼字浦38-3 避難場所
中田中学校 登米市中田町宝江黒沼字新西野70 避難場所
上沼ふれあいセンター 登米市中田町上沼字弥勒寺大下90番地1 避難場所
南方中学校 登米市南方町西山成前21-1 避難場所
北方公民館 登米市迫町北方字富永109番地2 避難場所

ただし注意が必要なのは、洪水発生時には避難場所自体が浸水する可能性がある点だ。北上川・迫川沿いの低地に位置する施設は、大規模洪水時には避難先として機能しない恐れがある。ハザードマップで各避難場所の浸水リスクを事前に確認しておくことが重要だ。

最寄りの避難場所と浸水想定は登米市公式ハザードマップで確認できる。


今からできる備え

公式防災情報の確認

防災DBで自分の家のリスクを確認

防災DB(bousaidb.jp)では、住所や座標を入力することで、居住地点の洪水・地震・土砂災害リスクを125mメッシュ単位で確認できる。自治体のハザードマップと合わせて活用することを推奨する。

日常の備え

  • ハザードマップで自宅・職場・学校のリスクを確認する
  • 洪水時の早期避難ルートを事前に家族で確認する(特に北上川・迫川沿い居住者)
  • 最低72時間分(3日分)の食料・飲料水を備蓄する
  • 市から届く避難指示・警戒レベルを速やかに受け取るため、登米市の防災情報メール等に登録する

データ出典

データ 出典
統合リスクスコア・メッシュ別洪水・地震・土砂データ 防災DB(bousaidb.jp) / MLIT不動産情報ライブラリ・J-SHIS(NIED)
洪水浸水想定(河川別) 国土交通省 浸水想定区域データ(MLIT不動産情報ライブラリ経由)
過去の災害記録 自然災害情報室(NIED)データベース / 登米市地域防災計画
東日本大震災の記録 登米市東日本大震災に関する情報
活断層データ 地震調査研究推進本部(主要活断層帯の長期評価)
避難施設データ 国土数値情報(MLIT)/登米市公式
ハザードマップ 登米市公式ハザードマップ
土砂災害警戒区域 宮城県公式(登米市)

本記事の統計データは2024年時点のものを基本とする。災害リスクは自然条件・社会状況の変化に伴い変動するため、最新の自治体ハザードマップと組み合わせて参照されたい。