東京都利島村の災害リスクと防災情報|1498年明応地震から令和の台風まで

東京から南へ約140km、伊豆七島の一角に浮かぶ利島村(とうきょうとりとうそん・人口約300人)は、島全体が一つの活火山から成る孤絶した島だ。防災DBの統合リスクスコアは92点(極めて高い)—洪水・津波・高潮の3指標がいずれも満点の100点という、都内でもきわめて異質なリスクプロファイルを示す。

この島に暮らすとはどういうことか。1498年の明応地震津波から2019年の令和台風まで、500年を超える災害の記録が「利島村史 通史編」(出典:自然災害情報室、NIEDデータベース)に刻まれている。36件の災害記録が語る、海と山と火山に囲まれた離島の現実を整理する。


なぜ利島村はこれほどリスクが高いのか——地形・地質が生む複合リスク

利島は直径約4kmの円形に近い小島で、島全体が宮塚山(標高507.5m)を主峰とする単成火山(あるいは複成火山)で形成されている。島の外周はほぼ全周にわたって高さ約200mの海食崖に囲まれており、平地はほとんど存在しない。河川も湧水も乏しく、歴史的に水不足が慢性化してきた島でもある。

この地形が生む防災上の問題は大きく4つある。

第一に、逃げ場が極めて限られていること。 海食崖に囲まれた急峻な地形では、津波や高潮が来たとき、高台への避難が唯一の選択肢となる。しかし利島の全周が崖で囲まれているということは、沿岸から急勾配の崖を登る以外に逃げ道がない。

第二に、孤立リスクが高いこと。 定期船・ジェット船が唯一の交通手段だが、台風時や荒天時は長期にわたって欠航が続く。台風が接近すると事前に島が孤立状態になるため、被災後の救援物資や医療支援が届くまでに数日かかることがある。

第三に、火山島であること。 利島は気象庁の火山監視対象(火山番号336)であり、最後の噴火活動の痕跡として「カジアナ」「ミアナ」と呼ばれる火口の溶岩流が残る。過去の「利島村史 通史編」には、江戸時代に記録された火山または高波関連と推測される事象が複数含まれている(出典:NIEDデータベース、種別コード32)。

第四に、地盤が軟弱であること。 防災DBの地震確率データによると、利島周辺の平均地表地盤S波速度(AVS30)は188.5m/sで、軟弱地盤の目安となる200m/s以下にあたる。地震動の増幅が起きやすい地盤だ。


地震リスク——震度5弱以上が30年以内に起きる確率94%

防災DBが125mメッシュで集計した確率的地震動予測によると、利島村周辺では震度5弱以上の揺れが30年以内に発生する確率は平均94.14%(最大値99.73%)にのぼる。これは「ほぼ確実」と言っていい水準だ。

震度6弱以上(建物に大きな被害が出るレベル)となると、平均15.94%・最大56.64%。確率的には小さく見えるが、50年・100年のスパンで考えると無視できない数値だ。

利島に近い活断層として、本データに収録された北伊豆断層帯(想定M6.8)が存在する。ただし、この断層の30年発生確率はほぼ0%と評価されており、利島の地震リスクはむしろ伊豆諸島周辺のプレート境界型地震や、相模トラフ沿いの大規模地震(南関東直下地震)が主な源と考えられる。

NIEDデータベースに記録された最古の地震被害は1498年9月11日の明応地震(M8.2〜8.4、南海トラフ型)だ。この地震は伊勢・志太(現在の焼津周辺)などで数万人規模の津波被害をもたらした記録があるが、利島における具体的な被害規模は「利島村史 通史編」から記録はあるものの詳細数値は不明だ。また、1731年・1751年・1873年にも地震被害が記録されている。


津波・高潮リスク——想定浸水深20m超、島の低地はすべてが浸水域

防災DBの津波スコアは100点(満点)、想定浸水深の下限値が20m以上というデータが示す通り、利島は日本国内でも最上位の津波リスクを持つ地域に分類される。

20mとはどれほどの深さか。 一般的な建物で言えば6〜7階建ての高さに相当する。島の低地部分に立地する集落は、最大級の津波が来た場合、完全に水没する危険性があることを意味する。

津波・高潮の影響を受けうるメッシュ数は134メッシュ(125mメッシュ単位)に及ぶ。これは島の低地部のほぼ全域がリスク域に入ることを示している。

高潮リスクも同様にスコア100点だ。台風が接近したとき、波浪と高潮が重なれば低地への浸水が現実的な脅威となる。なお、防災DBの洪水スコアも100点(想定浸水深20m以上)を示しているが、河川のない島での「洪水」は事実上、波浪・高潮・津波による浸水を指している点を留意されたい。

利島村では津波ハザードマップが作成されており、村の公式防災ページ(https://www.toshimamura.org/disaster/disaster/disaster.html)からPDFで確認できる。


台風・暴風雨リスク——江戸時代から続く台風被害の記録

36件の災害記録の中で最も多いのが、台風・暴風雨(NIEDコード4)による被害だ。「利島村史 通史編」が伝える江戸時代の記録を含め、主な台風被害を年表で示す。

発生年 被害概要
1745年 6月 台風被害(詳細不明)
1783年 7月 台風被害(詳細不明)
1786年 8〜12月 台風被害(複数回)
1791年 9〜10月 台風被害(詳細不明)
1816年 9月25日 全壊2棟
1817年 9月 台風被害(詳細不明)
1837年 9月12日 台風被害(詳細不明)
1904年 11月 台風被害(詳細不明)
1917年 不明 一部損壊2棟
1942年 不明 台風被害(詳細不明)
1955年 不明 台風被害(2件記録)
1960年 11月24日 洪水:全壊3棟、床上3世帯、床下40世帯
1970年 9月 台風被害(詳細不明)
1975年 11月10日 台風被害(詳細不明)
1979年 不明 台風被害(詳細不明)
1984年 不明 台風被害(詳細不明)
1992年 6月30日 台風被害(詳細不明)
2019年 9月 令和元年台風第15号(一部損壊15棟)
2019年 10月 令和元年台風第19号(一部損壊3棟)

(出典:自然災害情報室NIEDデータベース「利島村史 通史編」および気象庁)

この表が示す通り、利島では江戸時代中期(18世紀)から台風被害が記録に残されている。「利島村史 通史編」という地元の資料を出典とする記録が多く、全国統計には現れない地域固有の詳細が含まれている点が特徴的だ。

直近の重大被害は2019年の令和台風だ。 2019年9月の台風第15号(房総半島台風)は利島村でも15棟の一部損壊をもたらした。同年10月の台風第19号(東日本台風)でも3棟が一部損壊。わずか1カ月の間に2つの大型台風が連続上陸したことで、島のインフラと建物に複合的な打撃を与えた。

1960年11月の洪水被害は、利島の記録の中でも被害数値が残る数少ない事例だ。全壊3棟・床上浸水3世帯・床下浸水40世帯という被害は、人口300人規模の島にとって甚大だった。


土砂災害リスク——島に34か所の土砂災害危険箇所

利島の土砂災害スコアは50点(5段階評価で中程度)だが、土砂災害警戒区域等は34箇所に及ぶ。急峻な斜面と海食崖に囲まれた地形上、大雨や地震の際に崖崩れや土石流が発生するリスクがある。

村では土砂災害ハザードマップが整備されており、公式防災ページで確認できる。台風時の大雨時には特に斜面近くに住む住民の注意が必要だ。


火山リスク——気象庁監視対象の活火山島

利島は気象庁の常時観測火山(火山番号336)に指定されている。島全体が玄武岩質の溶岩でできており、島の北北西と北東方向に過去の溶岩流(「カジアナ」「ミアナ」火口からの流出)の痕跡が残る。

「利島村史 通史編」のNIEDデータには、1765〜1817年にかけて複数の「その他・高波または火山関連」と思われる記録(種別コード32)が含まれている。この種別コードは火山噴火・高波・その他に対応する可能性があり、詳細は不明な部分もある(出典:NIEDデータベース)。

気象庁のデータ(https://www.data.jma.go.jp/vois/data/tokyo/336_Toshima/336_index.html)では利島の火山活動状況が随時更新されており、現在の噴火警戒レベルの確認が必要だ。

また、隣接する伊豆諸島には三宅島(2000年大噴火)や新島など火山活動が活発な島が多く、連動した火山活動のリスクも排除できない。


過去の地震・津波履歴(年表)

発生年 月日 災害種別 主な被害
1498年 9月11日 地震(明応地震) 伊豆諸島を含む広域津波(被害詳細は不明)
1731年 不明 地震 詳細不明
1751年 不明 地震 詳細不明
1765〜1817年 複数回 火山・高波関連(推測) 詳細不明(利島村史に記録)
1873年 7月8日 地震 死者0名(記録あり)

(出典:自然災害情報室NIEDデータベース「利島村史 通史編」)

1498年の明応地震は、東海・東南海・南海の連動型とされるM8.2〜8.4の巨大地震で、伊勢志摩では死者約10,000人、志太郡(現焼津周辺)では約26,000人の記録がある(Wikipediaおよび名古屋大学研究資料)。利島への直接被害規模は記録が乏しいが、津波が到達したことはほぼ確実だ。


避難施設と孤立リスク——島内に3か所のみ

利島村の避難施設は、防災DBが把握している範囲で以下の3か所だ(出典:国土数値情報 避難施設データ)。

施設名 住所 種別
利島小中学校 東京都利島村13番地 避難所
勤労福祉会館 東京都利島村1351番地 避難所
高齢者在宅サービスセンター 東京都利島村105番地 避難所

人口約300人の島に3か所の避難所が整備されているが、いずれも広域避難場所の指定はなく、大津波発生時の避難先として十分かは島の地形と照らして確認が必要だ。

最重要の注意点は孤立リスクだ。 台風接近時には数日前から欠航が続き、島が孤立状態になる。大きな災害が発生した場合、本土からの救援が届くまでに数日以上かかる可能性があり、島内での自立的な初動対応が命を左右する。

利島村では島民全員が顔見知りの小規模コミュニティを活かした共助体制が不可欠だ。


今からできる備え

利島村に住む人・訪れる人が今すぐ確認すべき情報源:

  • 利島村公式防災ページ: https://www.toshimamura.org/disaster/disaster/disaster.html
    (津波ハザードマップ・土砂災害ハザードマップ・新島火山ハザードマップをPDFで公開)
  • 気象庁 利島火山情報: https://www.data.jma.go.jp/vois/data/tokyo/336_Toshima/336_index.html
  • 国土地理院 重ねるハザードマップ: https://disaportal.gsi.go.jp/
  • 防災DB 利島村リスク詳細: https://bousaidb.jp/

島外から利島を訪れる場合は、台風シーズン(6〜10月)の欠航リスクを必ず事前確認すること。滞在中の大型台風接近時は島に取り残される可能性があり、3〜5日分の備蓄食料と常備薬の携帯が推奨される。

島民・訪問者ともに:
1. 最寄りの避難所の場所を事前確認(上記3か所)
2. 津波警報発令時は即時高台避難(猶予は数分以内の可能性)
3. 台風時は外出を控え、荒天前に対策を完了する
4. 緊急時の連絡先(村役場・海上保安庁)を確認


データ出典

データ種別 出典 備考
統合リスクスコア・メッシュリスクデータ 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ解析、2024年時点
過去の災害記録 自然災害情報室(NIED)自然災害データベース 出典:「利島村史 通史編」
地震確率データ 防災科学技術研究所・確率論的地震動予測地図(J-SHIS)2024年版 防災DBが集計
避難施設情報 国土数値情報 避難施設データ(国土交通省) 2024年時点
火山情報 気象庁 火山監視情報(利島、火山番号336)
活断層データ 産業技術総合研究所 活断層データベース(北伊豆断層帯) 防災DBが集計
明応地震関連 Wikipedia「明応地震」ほか 参考情報

本記事は防災DB編集部が公的データに基づき作成しました。データの時点・精度には限界があります。最新情報は各公式ページでご確認ください。利島村役場(電話: 04992-9-0011)にもお問い合わせいただけます。

著者:防災DB編集部 / 公開日:2026年4月4日 / データ基準日:2024年