豊山町の災害リスクと歴史|庄内川洪水・伊勢湾台風・南海トラフを徹底解説

愛知県西春日井郡豊山町は、面積わずか6.18km²で愛知県最小の自治体でありながら、防災DB(bousaidb.jp)の統合リスク評価でスコア89(極めて高い)を記録している。洪水・高潮・地震・津波の全4分野でスコア100を叩き出すという、全国でも希な「全リスク最高水準」の地域だ。

名古屋空港(県営名古屋空港)が町の約29%を占める小さな町で、ここに住む・働く・訪れるすべての人が知っておくべき災害の実態を、過去400年分のデータで解説する。


豊山町はなぜこれほど災害リスクが高いのか

豊山町が「全リスク最高水準」である理由は、地理的な条件に尽きる。

まず地形。濃尾平野の沖積低地に位置し、地面はほぼ平坦。周囲を庄内川・矢田川・木曽川といった大河川に囲まれた低地帯で、海抜はほぼ0メートルかそれ以下のゼロメートル地帯に相当する地区を抱える。大規模洪水が起きれば、水が流れ込んでも自然に排出されない地形だ。

次に位置。名古屋市の北部に隣接し、南海トラフ地震の強い揺れが予測される「東海・東南海・南海」の三連動地震の影響圏の真っ只中にある。さらに名古屋市付近断層(M6.6想定)も近傍に存在する。

防災DBの125mメッシュ解析によれば、豊山町の主要リスクは以下の通りだ。

リスク種別 スコア(0-100) 主要指標
洪水 100 最大浸水深10m超、浸水継続336時間
高潮 100 最大浸水深10m超
津波 100 最大浸水深10m超
地震 100 震度6弱以上30年確率 平均53.5%
土砂災害 50 ハザード区域9か所
液状化 40 沖積低地特有の中程度リスク

つまり、豊山町の住民が直面するリスクは「特定の災害」ではなく「すべての自然災害」だ。


過去400年の主要災害年表

NIEDの防災科研データと愛知県・豊山町の地域防災計画をもとに、記録された主要災害を整理した。

1586年(天正14年)天正地震 ― 岐阜城を崩した直下型

1586年1月18日、推定M8.1とも言われる「天正地震」が発生した。震源は飛騨・白川郷付近とされ、帰雲城(現・岐阜県白川郷)が山ごと崩落して城主ら200余名が即死したとされる巨大地震だ。尾張(現・愛知県北西部)でも激しい揺れが記録されており、豊山町を含む濃尾平野全体に甚大な被害が及んだと記録されている(出典:第2編 風水害等災害対策計画編)。

1707年(宝永4年)宝永地震 ― 富士山噴火を引き起こした南海トラフ

1707年10月28日、M8.6の宝永地震が南海トラフ沿いで発生した。四国・紀伊半島を中心に津波が襲い、49日後には富士山の宝永噴火を引き起こした歴史上でも稀な連鎖災害だ。愛知県内でも津波・揺れによる被害が記録されている(出典:第2編 風水害等災害対策計画編)。

1854年(安政元年)安政東海・南海地震 ― 2日連続の巨大地震

1854年12月23日に安政東海地震(M8.4)、翌24日に安政南海地震(M8.4)が発生。2日連続で南海トラフ東側・西側が連動したほぼ最悪のシナリオで、紀伊半島の串本では津波波高8mが記録された。尾張も2度の揺れに見舞われた(出典:第2編 風水害等災害対策計画編)。

1891年(明治24年)濃尾地震 ― 日本最大の内陸地震

1891年10月28日、岐阜県を震源とするM8.0の濃尾地震が発生した。国内観測史上最大の内陸直下型地震で、愛知県内での記録では死者2,638名、負傷者7,705名、全壊家屋85,511棟、半壊55,655棟に及んだ(出典:第2編 風水害等災害対策計画編 ※愛知県内の広域被害値)。震源に近い岐阜県側では根尾谷断層が最大6mの垂直変位を形成した。豊山町の位置する濃尾平野は軟弱地盤のため、震源から離れていても強い揺れに見舞われたとされる。

1919年(大正8年)6月大水害

1919年6月7日、豊山町では床上浸水10戸、床下浸水350戸に及ぶ大規模な水害が発生した(出典:豊山町地域防災計画)。記録に残る近代以降の洪水の中でも特に浸水規模が大きかった事例だ。

1944年(昭和19年)東南海地震

1944年12月7日、M7.9の東南海地震が発生した。愛知・三重・静岡を中心に大きな被害が出た。愛知県内の記録では負傷者1,148名、全壊16,532棟、半壊35,298棟(出典:第2編 風水害等災害対策計画編 ※愛知県内の広域被害値)。当時は太平洋戦争の真っ只中で、被害情報の多くが報道統制により伏せられたため、実際の被害はさらに大きかったとされる。

1945年(昭和20年)三河地震 ― 戦時中に隠された直下型地震

1945年1月13日午前3時38分、三河湾を震源とするM6.8の直下型地震が発生した。愛知県内の記録では死者2,306名、負傷者3,866名、全壊16,408棟、半壊31,679棟(出典:第2編 風水害等災害対策計画編 ※愛知県内の広域被害値)。三河地方(現・豊川市・蒲郡市付近)に被害が集中したが、濃尾平野も強い揺れに見舞われた。報道統制下で「地震あり、被害軽微」と発表され、実態が明らかになるのは戦後だった。

1959年(昭和34年)伊勢湾台風 ― 豊山町を直撃した20世紀最大の台風

1959年9月26日に上陸した伊勢湾台風(最大瞬間風速45.7m/s、名古屋港の高潮記録3.89m)は、全国で死者・行方不明者5,098名を出した戦後最大の自然災害だ。愛知県だけで死者・行方不明3,351名(全国の65.7%)を記録した。

豊山町(当時の西春日井郡豊山村)での記録は、負傷者32名、全壊22棟、半壊42棟、一部損壊610棟(出典:豊山町地域防災計画)。当時の豊山村の人口規模(推定1万人弱)に対して、一部損壊610棟という数字は、住宅のほぼ全戸が何らかの被害を受けたことを意味する。名古屋市南部の高潮直撃に比べれば注目されにくいが、伊勢湾台風は豊山村も深刻に傷つけた。

1971〜1991年の繰り返す水害

1971年以降、豊山町は断続的に水害を受け続けている。

発生年月日 原因 豊山町の被害
1971年8月30日 台風 床上浸水20戸、床下浸水100戸
1973年8月4日 大雨 床上浸水2戸、床下浸水100戸
1976年9月8日 昭和51年台風17号 床下浸水35戸
1991年9月18日 平成3年台風17・18・19号 床上浸水23戸、床下浸水70戸

(出典:豊山町地域防災計画)

1991年の台風では庄内川支川の大山川が氾濫し、豊山橋付近を越えて流れ出したとされる。低地に広がる農地・住宅地に水が滞留し、排水に長時間を要した。


洪水・浸水リスク ― 町全体が「最大浸水深10m超」の想定区域

防災DBの125mメッシュ解析が示す豊山町の洪水リスクは、日本の市区町村の中でも最高水準だ。

主要河川ごとの洪水想定

河川 影響メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大浸水継続時間
庄内川 2,438 10m超 2.81m 336時間(14日間)
矢田川 679 5.0m 1.89m 336時間(14日間)
木曽川 1,527 5.0m 0.86m 168時間(7日間)
八田川 920 3.0m 0.33m 72時間(3日間)

最大の脅威は庄内川だ。名古屋市北部から流れる庄内川が氾濫した場合、豊山町では最大10m超の浸水が想定される。平均でも2.81mという数値は、木造1階建て住宅は屋根まで水没する水深だ。

浸水深のイメージ:
- 0.5m: 車のドアが開かなくなる水位
- 1m: 大人が流される危険がある
- 2m: 2階建て木造住宅の1階が完全水没
- 5m: 2階建て住宅の屋根まで水没
- 10m超: ビルの3〜4階レベルまで水没

さらに深刻なのが浸水継続時間。庄内川・矢田川とも最大336時間(14日間)の浸水が想定されている。一度水が入れば2週間近く引かない可能性がある。これは「水が引いてから避難」が成立しない状況を意味する。

豊山町公式のハザードマップでは、庄内川・新川・大山川・八田川の最大規模外水氾濫のほか、内水氾濫シミュレーションも公開されている。内水氾濫(排水能力を超えた雨水の滞留)は外水氾濫より軽視されがちだが、豊山町の地勢では集中豪雨のたびに発生しやすいリスクだ。


地震リスク ― 30年以内に震度6弱以上の確率は平均53.5%

防災DBの地震確率データ(2024年版)では、豊山町の30年以内震度6弱以上確率は平均53.5%、最大メッシュで73.7%に達する。震度5弱以上では平均91.4%と、ほぼ確実に大きな揺れが来ると予測されている(J-SHIS確率評価マップに基づく)。

南海トラフ地震の脅威

愛知県は南海トラフ地震の「超高確率発生域」に位置する。政府の地震調査委員会によれば、南海トラフ地震は今後30年以内の発生確率が70〜80%とされており、豊山町では震度6強〜7の揺れが想定されている。

過去の南海トラフ地震では、1707年宝永地震(M8.6)→1854年安政東海・南海地震(M8.4)→1944年東南海・1946年南海地震(M7.9・M8.0)と、概ね100〜150年間隔で繰り返してきた。前回の南海トラフ地震(1944〜46年)から既に80年が経過している。

名古屋市付近断層

豊山町から約3km圏内には名古屋市付近断層(想定M6.6、30年発生確率0.34%)が存在する。確率は低いが、直下型地震は震源が近いほど揺れが強烈になる。1945年三河地震(M6.8)が三河湾付近で起きて愛知県内に甚大な被害をもたらしたことを考えると、名古屋市付近断層の活動による直下型地震のリスクも無視できない。

地盤については、豊山町の平均Avs30(表層地盤の剪断波速度)は245.9m/s。固い岩盤が600m/s程度であることを考えると、濃尾平野の軟弱な沖積地盤が地震動を増幅しやすいことがわかる。


高潮・津波リスク ― 内陸部でも「最大浸水深10m超」

豊山町は海から約15km離れた内陸部だが、高潮・津波スコアは100(最大浸水深10m超)を記録している。これは伊勢湾の地形的特徴に起因する。

伊勢湾は湾奥部に向かって水深が浅くなるため、台風時の高潮は湾奥部で極端に増幅される。1959年の伊勢湾台風では名古屋港で高潮3.89mが記録され、名古屋市南部の海岸低地が広範囲に浸水した。南海トラフ地震による津波が伊勢湾を遡上した場合も、豊山町まで到達するシナリオがハザードマップに示されている。

防災DBの125mメッシュ解析では、豊山町エリアで3,127メッシュ(約4.88km²相当)が津波・高潮の影響範囲に含まれることが確認された。町の総面積に近い規模が水没するシナリオだ。


土砂災害リスク ― 平坦地形のため低リスク

土砂災害については、豊山町は濃尾平野の平坦地形のため、土砂災害警戒区域は9か所と少なく、スコアも50(中程度)に留まる。125mメッシュ解析でも土砂災害メッシュはゼロ件だった。山沿いの地域に比べればはるかに低いリスクだが、急傾斜地がある地区では注意が必要だ。


豊山町の避難施設一覧

2024年時点、豊山町には指定緊急避難場所・避難所が計13か所登録されている(広域避難場所の指定はなし)。

施設名 住所 種別
豊山小学校 豊場字中之町10 避難所・一時避難場所
豊山中学校 豊場字前池39 避難所・一時避難場所
志水小学校 豊場字下戸1 避難所・一時避難場所
新栄小学校 青山字東川100 避難所・一時避難場所
社会教育センター 豊場字和合72 避難所・一時避難場所
総合福祉センターしいの木 豊場字諏訪270 避難所・福祉避難所・一時避難場所
総合福祉センター北館さざんか 青山字東栄12 避難所・一時避難場所
総合福祉センター南館ひまわり 豊場字神戸188 避難所・一時避難場所
東部学習等供用施設 豊場字諏訪261 避難所・一時避難場所
新栄学習等供用施設 豊場字新栄64 避難所・一時避難場所
冨士学習等供用施設 豊場字下戸51 避難所・一時避難場所
冨士保育園 豊場字流川46 避難所・一時避難場所
豊山保育園 豊場字新栄68 避難所・一時避難場所

(出典:国土数値情報 避難施設データ)

重要: 洪水時は「避難所に逃げる」前に、避難所自体が浸水していないか確認が必須だ。庄内川氾濫の最大規模想定では、上記施設の多くも浸水圏内に入る可能性がある。早めの「垂直避難(上層階への移動)」か「近隣の高い建物への避難」が有効な場合もある。豊山町の地形では「できるだけ早い段階での広域避難(春日井市・小牧市方面の高台方向)」が推奨される。


今からできる備え

公式防災情報の確認

  • 豊山町防災情報(公式): https://www.town.toyoyama.lg.jp/kurashi/bousai/1000661.html
  • 豊山町ハザードマップ(国土地理院 わがまちハザードマップ): https://disaportal.gsi.go.jp/hazardmap/index.html?citycode=23342
  • 防災DB 豊山町のリスク詳細: https://bousaidb.jp/

今すぐできる行動チェックリスト

  1. 家族で避難経路を確認する — 洪水時は最低限「2階以上」への垂直避難先を決めておく
  2. 警戒レベルを理解する — 豊山町の洪水ハザードマップで自宅の浸水想定深を確認する
  3. 防災無線・安心安全メールに登録する — 豊山町の緊急情報を確実に受け取る体制を整える
  4. 非常用持ち出し袋を準備する — 3日分の食料・水・薬・貴重品
  5. 車の駐車場所を確認する — 洪水時に浸水する低地の駐車場は使わない計画を立てる

南海トラフ地震の「臨時情報(巨大地震警戒)」が発令された際の行動計画も、事前に家族で確認しておくことを強く推奨する。


データ出典

データ 出典 取得時点
統合リスクスコア(洪水・地震・津波・高潮) 防災DB(bousaidb.jp)、125mメッシュ解析 2024年時点
過去の災害事例(水害・地震) 防災科学技術研究所 自然災害データベース(NIED) 2024年時点
豊山町固有の被害記録(伊勢湾台風・近代水害) 豊山町地域防災計画 参照日2024年
愛知県広域の被害記録(濃尾地震・東南海地震等) 第2編 風水害等災害対策計画編(愛知県) 参照日2024年
地震確率(震度6弱以上30年確率) J-SHIS確率評価マップ(防災科研)、2024年版 2024年版
活断層データ(名古屋市付近断層) 活断層データベース 2024年時点
避難施設データ 国土数値情報 避難施設データ(p20) 2024年時点
伊勢湾台風の全国・愛知県被害 内閣府 伊勢湾台風報告書 参照日2024年
地形・地勢情報 豊山町Wikipedia、庄内川河川事務所資料 参照日2024年

記事作成:防災DB編集部 / 最終更新:2026年4月

本記事の数値・リスク評価は記載の出典データに基づいており、実際の被害を保証・予測するものではありません。最新の避難情報は豊山町公式サイトおよび気象庁発表情報を必ず確認してください。