つがる市は、青森県西部の津軽平野に位置する人口約3万人の市である。2005年に木造町・森田村・柏村・稲垣村・車力村の5町村が合併して誕生した。西は日本海に面し、南東から北西にかけて一級河川の岩木川が市域を貫流する。津軽平野の中核をなす広大な低地に市街地と農地が広がり、豪雪地帯に指定されている。

防災DBの統合リスクスコアは87点(極めて高い)。洪水・津波・高潮がいずれもスコア100、地震85、液状化60という複合的なリスクを抱える。最大の特徴は、岩木川氾濫時の浸水継続時間が最大336時間(14日間)という異例の長さにある。また、1983年の日本海中部地震では津波と地震動の複合被害で全壊32棟、半壊62棟、一部損壊347棟の甚大な被害を記録している。

この町の災害リスクの特徴――「水が引かない」津軽平野

つがる市の災害リスクを理解する鍵は、地形にある。

津軽平野は岩木川の堆積作用で形成された広大な沖積低地で、つがる市の大部分は標高10m未満の平坦地である。防災DBの125mメッシュ解析によると、岩木川氾濫時の影響は12,789メッシュに及び、これはつがる市の市域の大部分に相当する。最大浸水深5.0m(2階床上)、平均浸水深1.21mという想定だけでなく、浸水継続時間が最大336時間(14日間)に達する点が深刻だ。

14日間水が引かないということは、避難が長期化し、農地・住宅への被害が壊滅的になることを意味する。平坦な地形ゆえに排水が進みにくく、岩木川下流域の宿命的なリスクといえる。

地盤も極めて軟弱である。平均Avs30は211.3m/sで、一般に「軟弱地盤」に分類される値だ。液状化スコアも60と高く、大地震時には広範囲で液状化が発生するおそれがある。1983年の日本海中部地震では、実際に液状化現象が津軽平野一帯で観測されている。

日本海に面する西側海岸線は、津波・高潮のリスクも高い。125mメッシュ解析で11,137メッシュが津波・高潮の影響域として検出されており、海岸から内陸へ広範囲に浸水が想定されている。

過去の主要災害

日本海中部地震(1983年5月26日)――津波と液状化の複合被害

つがる市の災害史上、最も甚大な被害をもたらしたのが日本海中部地震である。1983年5月26日午前11時59分、秋田県能代市沖80kmを震源とするマグニチュード7.7の地震が発生した。日本海側に10mを超える津波が押し寄せ、全国で104名が死亡(うち100名が津波による)、全半壊3,049棟という壊滅的な被害をもたらした。青森県だけで津波による死者17名を記録している。

つがる市(当時の木造町・車力村など)では、全壊32棟、半壊62棟、一部損壊347棟、床上浸水1棟、床下浸水2棟の被害が発生した(出典:つがる市地域防災計画 地震編)。日本海沿岸の車力地区を中心に津波被害が発生したほか、津軽平野の軟弱地盤上で液状化現象が広範囲に観測された。建物被害の多くは地震動と液状化によるものとみられる。

この地震は、日本海側でも大規模な津波が発生しうることを社会に突きつけた災害として、防災史上重要な位置づけにある。

1977年2月 融雪洪水――床下浸水264棟

1977年2月18日、融雪に伴う洪水でつがる市(当時の各町村)に大きな被害が発生した。床上浸水7棟、床下浸水264棟という被害規模は、冬季の融雪がもたらすリスクの大きさを示している(出典:つがる市地域防災計画 風水害編)。

豪雪地帯であるつがる市では、春先の急激な気温上昇で大量の雪が一気に融け、岩木川水系の水位が急上昇する。この融雪洪水は、台風や集中豪雨とは異なる時期(2〜4月)に発生する点に注意が必要だ。

1990年11月 暴風――一部損壊113棟

1990年11月4日の暴風では、半壊1棟、一部損壊113棟の被害が記録されている(出典:つがる市地域防災計画 風水害編)。日本海に面する市域は冬季の季節風が強く、暴風による建物被害も無視できないリスクである。

1979年3月 融雪災害――半壊11棟

1979年3月30日には、融雪に伴う災害(災害種別コード20=その他)で半壊11棟、一部損壊55棟の被害が発生している(出典:つがる市地域防災計画 風水害編)。融雪期の災害が繰り返し記録されている点は、つがる市の特徴的なリスクといえる。

災害年表

年月日 災害名 種別 主な被害 出典
1977年2月18日 融雪洪水 洪水 床上浸水7棟、床下浸水264棟 つがる市地域防災計画 風水害編
1977年8月5日 風水害 風水害 床上浸水4棟、床下浸水42棟 つがる市地域防災計画 風水害編
1979年3月30日 融雪災害 融雪 半壊11棟、一部損壊55棟 つがる市地域防災計画 風水害編
1983年5月26日 日本海中部地震 地震・津波 全壊32、半壊62、一部損壊347棟 つがる市地域防災計画 地震編
1990年11月4日 暴風 風水害 半壊1棟、一部損壊113棟 つがる市地域防災計画 風水害編
1991年9月28日 台風第17・18・19号 風水害 被害記録あり つがる市地域防災計画 風水害編
1993年7月12日 北海道南西沖地震 地震 被害記録あり つがる市地域防災計画 地震編
2020年7月11日 令和2年7月豪雨 風水害 床下浸水2棟 内閣府被害状況報告

洪水・浸水リスク――岩木川の氾濫は14日間水が引かない

つがる市を流れる河川の洪水リスクを、防災DBの125mメッシュ解析データで整理する。

河川名 影響メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大継続時間
岩木川 12,789 5.0m 1.21m 336時間(14日間)
旧大蜂川 1,219 0.5m 0.5m 168時間(7日間)
旧十川 1,117 5.0m 1.28m 168時間(7日間)
飯詰川 509 3.0m 0.55m 168時間(7日間)
金木川 276 5.0m 0.59m 168時間(7日間)

岩木川は流域面積2,540km²の一級河川で、青森県最大の河川である。つがる市では12,789メッシュ(市域の大部分)が浸水想定区域に含まれる。最大浸水深5.0mは2階床上に達する水位だが、それ以上に深刻なのは浸水継続時間の長さだ。

336時間(14日間)という想定は、通常の洪水と次元が異なる。2週間にわたって水が引かないということは、事実上、避難先での生活再建を余儀なくされることを意味する。津軽平野の平坦な地形では、一度浸水すると排水に極めて長い時間を要する。

他の河川も軒並み浸水継続時間が168時間(7日間)と長い。つがる市での洪水は「翌日には水が引く」タイプの災害ではなく、長期戦を覚悟すべきものである。

地震リスク――日本海側も例外ではない

1983年の日本海中部地震は、日本海側にも大規模地震・津波のリスクがあることを実証した。防災DBの125mメッシュ解析による地震リスクデータ(2024年時点)は以下の通りである。

指標 平均値 最大値
30年以内 震度6弱以上確率 6.54% 12.64%
30年以内 震度5弱以上確率 74.25% 91.20%
表層地盤S波速度(Avs30) 211.3m/s

Avs30が211.3m/sと極めて低く、軟弱地盤が広がっている。このため、同じ地震でも揺れが増幅されやすい。1983年の地震では、この軟弱地盤上で液状化が広範囲に発生した。液状化スコア60は全国的にも高い値である。

周辺の主要活断層は以下の通りである。

断層名 想定M 30年発生確率
岩木山南麓断層帯 6.6 0.85%
津軽山地西縁断層帯北部北方延長 6.8 0.06%
津軽山地西縁断層帯北部 6.4 ほぼ0%
津軽山地西縁断層帯南部 6.6 ほぼ0%

岩木山南麓断層帯の30年発生確率0.85%は「やや高い」に分類される値であり、注意が必要だ。

津波・高潮リスク――日本海沿岸

つがる市の西側は日本海に面しており、125mメッシュ解析で11,137メッシュが津波・高潮の影響域として検出されている。1983年の日本海中部地震では、青森県の日本海側に5〜6mの津波が押し寄せた。旧車力村を中心とした沿岸地区は、津波の到達が比較的早い(地震発生から10〜20分程度)ため、即座の避難が求められる。

避難施設一覧

つがる市には161か所の避難施設が指定されている。合併前の5町村にまたがるため、施設数は多い。主要施設の一部を以下に示す。

施設名 住所 種別
三ツ館コミュニティセンター 木造三ツ館寿抱11-1 指定避難場所
ひなた児童会館 木造日向61-4 指定避難場所
おらほの湯 森田町森田月見野290-1 指定避難場所

(他158施設は、つがる市防災ハザードマップを参照)

今からできる備え

ハザードマップの確認 — つがる市は津波・洪水・土砂災害の防災ハザードマップを公開している。岩木川氾濫時の浸水想定区域と浸水継続時間を必ず確認すべきである。
つがる市防災ハザードマップ

長期避難への備え — 浸水継続時間が最大14日間に及ぶため、3日分の備蓄では不十分な場合がある。可能であれば1週間分以上の水・食料を備蓄したい。浸水時の避難先(親戚宅、広域避難所)を事前に決めておくことも重要だ。

津波への備え — 日本海沿岸に住む場合、地震を感じたら即座に高台へ避難する。日本海中部地震では地震発生から津波到達までの時間が短く、避難の遅れが犠牲者を増やした。揺れの大きさに関わらず、津波警報には直ちに対応する必要がある。

液状化対策 — Avs30が211.3m/sと軟弱な地盤のため、液状化リスクが高い。新築時には地盤改良を検討し、既存建物は基礎の状態を確認しておきたい。

データ出典