大分県津久見市の災害リスクと歴史——洪水・津波・地震・高潮、4つが全て「最高リスク」の港町

大分県津久見市には、684年の白鳳地震から直近の2020年まで、記録上41件を超える災害が刻まれている。防災DBが算出した統合リスクスコアは86点(極めて高い)。洪水・津波・高潮・地震の4指標が全てスコア100に達する市区町村は、全国でも珍しい。

豊後水道を正面に受けるリアス式の入り江地形。山間部が市域の大半を占め、平地に人口と産業が集中する地形構造。この2つが重なることで、あらゆる種類の自然災害リスクが最高水準に積み重なっている。


なぜ津久見市はすべての災害に弱いのか——地形と地質から読む

津久見市は大分県東南部、豊後水道に面した海岸線に位置する。市域の形は複雑な入り江で構成され、津久見湾を三方から囲む地形は津波エネルギーを湾奥に集中させる典型的な「ファネル構造」をもつ。リアス式海岸特有の地形は観光資源でもあるが、同時に災害の増幅装置でもある。

市域のほぼ全域が山間部の急斜面で、住宅地と商業地は津久見川・青江川などの河川沿いに形成された、幅の狭い低地帯に密集している。集中豪雨の際、山からの流水が狭いV字谷を経由して市街地に一気に流れ込む構造だ。河川延長が短く、上流からの反応が素早いことが、避難時間の短さにつながる。

防災DBの125mメッシュ解析では、津久見市内の洪水浸水ハザードメッシュが168,386区画(最大浸水深20m)、津波・高潮ハザードメッシュが145,487区画(最大浸水深10m)を記録している。土砂災害の危険メッシュも5,750区画にのぼる。


1,300年の災害記録——津久見市の歴史年表

慶長豊後地震(1596年9月1日)

豊後水道付近を震源とする推定M7.0〜8.0の巨大地震。別名「慶長地震」とも呼ばれ、豊後沿岸に大規模な津波を発生させた。津久見市地域防災計画にも記録されており、現在に至る津波想定の歴史的基準点とされている。

宝永地震(1707年10月28日)

南海トラフ沿いで発生した推定M8.6の超巨大地震。東海・南海連動型で発生した津波は太平洋沿岸全域を襲い、津久見を含む豊後沿岸にも甚大な被害をもたらした。この地震の49日後に富士山が宝永噴火を起こしている。

安政南海地震(1854年12月24日)

M8.4と推定される南海トラフ巨大地震。前日の安政東海地震(12月23日)に続いて発生した連動地震で、紀伊半島から九州東岸にかけて最大10m規模の津波が到達した。津久見市地域防災計画にも記録されており、今後の南海トラフ地震想定の重要な参照事例となっている。

南海地震(1946年12月21日)

M8.0の南海地震。太平洋沿岸に津波を発生させ、津久見市を含む大分県東海岸にも影響が及んだことが記録されている。戦後直後の復興期における大規模地震であり、市の防災計画に必ず登場する。

チリ地震津波(1960年5月23日)

チリ沖を震源とするM9.5の超巨大地震による津波が太平洋を横断し、日本沿岸に到達。最も遠い外洋からの津波でも津久見市沿岸に影響を及ぼした事実は、豊後水道の「津波の入りやすさ」を示す重要な事例だ。

平成17年台風第14号(2005年9月6日)

九州をゆっくり縦断した台風14号は、大分県を含む九州各地で記録的な大雨をもたらした。全国で61箇所の日雨量観測史上最高記録を更新した豪雨で、全国被害は死者・行方不明29人、全壊1,178棟に及んだ。津久見市でも浸水・土砂被害が発生している(市の防災計画に記録)。

平成29年台風第18号(2017年9月)——近年最大の水害

津久見市にとって直近最大の水害は、2017年9月の台風18号による記録的豪雨だ。市街地を中心に住家1,496棟、非住家481棟が浸水し、市内全域に甚大な被害をもたらした。ふるさと納税による全国からの災害支援が集まるほどの規模で、市の防災体制が根本から見直されるきっかけとなった。

平地が少なく、河川沿いの低地に市街地が集中する津久見市の地形的弱点が、そのまま被害の拡大に直結した事例だった。

令和2年7月豪雨(2020年7月)・台風第10号(2020年9月)

2020年は梅雨前線による記録的豪雨(令和2年7月豪雨)と、超大型の台風10号が相次いで発生。津久見市は両方の災害記録に名を連ねており、近年の気候変動による豪雨の激甚化が市のリスクをさらに高めている。


過去の主要災害 年表

災害名 種別
684 11 白鳳地震 地震
1596 9 慶長豊後地震 地震・津波
1605 2 慶長地震 地震・津波
1698 10 (地震) 地震
1703 12 (地震) 地震
1705 5 (地震) 地震
1707 10 宝永地震 地震・津波
1749 5 (地震) 地震
1769 8 (地震) 地震
1841 11 (地震) 地震
1854 12 安政南海地震 地震・津波
1855 8 (地震) 地震
1855 12 (地震) 地震
1857 10 (地震) 地震
1891 10 (地震) 地震
1898 12 (地震) 地震
1899 11 (地震) 地震
1909 11 (地震) 地震
1921 4 (地震) 地震
1939 3 (地震) 地震
1941 11 (地震) 地震
1946 12 南海地震 地震・津波
1960 5 チリ地震津波 津波
1968 4 日向灘地震 地震
1968 8 (地震) 地震
1969 4 (地震) 地震
1970 7 (地震) 地震
1972 12 八丈島東方沖地震 地震
1993 9 台風第13号 風水害
1994 (自然現象)
1998 10 台風第10号・前線 風水害
2004 10 台風第23号・前線 風水害
2005 9 台風第14号 風水害
2010 12 (地震) 地震
2011 3 東日本大震災 地震
2011 9 台風第15号 風水害
2017 9 台風第18号 洪水・浸水
2020 7 令和2年7月豪雨 風水害
2020 9 台風第10号 風水害

出典: 防災科学技術研究所(NIED)自然災害情報室、津久見市地域防災計画


洪水・浸水リスク——番匠川・津久見川が示す脅威

防災DBの洪水浸水ハザードデータ(125mメッシュ)によると、津久見市周辺では15本の河川について浸水リスクが算出されている。

河川名 危険メッシュ数 最大浸水深 最長浸水継続時間
番匠川 1,155 5.0m 72時間
臼杵川 343 5.0m 24時間
大野川 166 5.0m 72時間
丹生川 154 5.0m 12時間
熊崎川 148 5.0m 24時間
末広川 143 5.0m 24時間
小猫川 125 5.0m 12時間
床木川 101 5.0m 24時間
青江川 89 3.0m 12時間
津久見川 76 0.5m 24時間

浸水深5mとは、一般的な2階建て住宅の1階天井部分(床上約2.7m)を超え、2階の床上にまで達する深さだ。番匠川沿いでは最長72時間にわたる浸水継続が想定されており、災害後の復旧にも大きな支障をきたす可能性がある。

2017年台風18号の経験を踏まえると、短時間の集中豪雨でも市街地が容易に浸水するリスクがある。高台への早期避難が不可欠だ。


津波リスク——豊後水道が生む「津波の通り道」

2023年3月31日、大分県は津久見市を含む臼杵市・佐伯市を「津波災害警戒区域」に正式指定した。国の南海トラフ巨大地震想定に基づく指定で、津久見湾の「入り江が津波エネルギーを増幅する構造」が改めて公式に認定された形だ。

防災DBの125mメッシュ解析では、市内の津波・高潮ハザードメッシュが10,097区画に及び、想定最大浸水深は10.0mに達する。海抜の低い市街地の大部分が浸水域に含まれる。

過去の記録を振り返ると、南海トラフを震源とする地震(宝永地震、安政南海地震、南海地震、慶長地震)のほか、チリ地震(1960年)や日向灘地震(1968年)でも津久見市沿岸が影響を受けている。豊後水道は東西から山に囲まれた「水路」の形状をしており、外洋からの津波が集中しやすい地形だ。

津波の場合、沿岸からの避難時間は極めて短い。津久見市の津波ハザードマップでは、高台への移動を念頭においた垂直避難も推奨されている。


地震リスク——震度6弱以上30年確率は平均11.9%

防災DBの地震動データ(J-SHIS 2024年版)によると、津久見市の震度6弱以上地震の30年以内発生確率は平均11.9%、最大75.9%に及ぶメッシュも存在する。震度5弱以上の平均確率は77.5%で、30年以内に震度5弱以上の揺れを経験する可能性は極めて高い。

近隣の歴史的地震では、1968年の日向灘地震(宮崎県の日向灘沖、M7.5)が大分県東海岸に揺れを観測させている。日向灘は南海トラフの西端に位置し、単独での地震発生リスクも高い。

津久見市地域防災計画が参照する活断層については、豊後水道沿いの地震活動域が注目されている。南海トラフ巨大地震(M8〜9級)への備えが市の防災計画の中核を占めている。


土砂災害リスク——5,750メッシュが危険区域

防災DBの125mメッシュ解析では、津久見市内の土砂災害危険メッシュが5,750区画に達する。市域の大部分が急峻な山間部であることを考えると、台風・豪雨のたびに市内各所で土砂崩れが発生するリスクは常に高い。

2005年台風14号や2017年台風18号でも、洪水被害と並行して土砂災害が発生したことが津久見市の防災計画に記録されている。山際に迫った住宅地では、洪水と土砂災害が同時に発生するリスクに注意が必要だ。


避難施設一覧(一部)

防災DBの避難施設データによると、津久見市には271ヶ所の避難場所が登録されている。なお、現時点のデータでは広域避難場所(市全域規模の大規模避難に対応)は0件となっており、避難場所の収容力と分散配置が課題となっている。

施設名 住所 種別
つくみん公園 津久見市港町4142-153 一時避難所
えびす公園 津久見市津久見浦3825-98 一時避難所
キリン公園 津久見市入船西町22 一時避難所
たからじま公園 津久見市入船東町11-10 一時避難所
中村八大神社 津久見市八戸1489 一時避難所
中町会館 津久見市中町4 一時避難所
しおさい 津久見市長目2715-5 一時避難所

最新の全避難場所リストは津久見市総合防災マップ(令和7年3月)または防災DBの避難施設検索でご確認ください。


今からできる備え

自治体公式防災情報を確認する

具体的な行動チェックリスト

  • 自宅の海抜・洪水浸水想定深を確認する(防災DBで検索可)
  • 最寄りの避難場所(高台含む)への経路を家族全員で確認する
  • 津波発生時の「即時避難」を習慣化する(揺れを感じたら高台へ)
  • 食料・水・薬の7日分備蓄(内閣府推奨)
  • 市配布の総合防災マップを手元に置く(市外への通勤・通学者向けQRコードも活用)

2017年台風18号の教訓として、津久見市では「早期避難の重要性」が強調されている。気象情報が発表されたタイミングでの行動開始が、自分と家族の命を守る最大の備えだ。


データ出典

データ 出典
統合リスクスコア・125mメッシュ解析 防災DB(bousaidb.jp)
災害事例(1596〜2020年) 防災科学技術研究所(NIED)自然災害情報室
市区町村マスタデータ 国土数値情報(国土交通省)
避難施設データ 国土数値情報 避難施設(P20)
地震動確率データ 全国地震動予測地図 2024年版(地震調査研究推進本部)
洪水浸水想定区域 国土数値情報 浸水想定区域(国土交通省)
土砂災害警戒区域 国土数値情報 土砂災害警戒区域(国土交通省)
津波浸水想定 大分県津波浸水想定(2023年)
津波災害警戒区域指定 大分県(2023年3月31日指定)
ハザードマップ情報 津久見市防災危機管理室
2017年台風18号被害 ふるさとチョイス災害支援ページ

本記事のデータは特記ない限り2024年〜2025年時点のものです。最新情報は各出典機関のウェブサイトをご確認ください。


著者: 防災DB編集部 | 最終更新: 2026年4月