柳井市の災害リスクと歴史|洪水・津波・地震のすべてが「極めて高い」

山口県南東部に位置する柳井市は、周防灘(瀬戸内海)に面した沿岸低地と、背後に迫る中国山地末端の丘陵地が接する地形をもつ。防災DBが算出した統合リスクスコアは86点(極めて高い)。洪水・津波・高潮・地震の4リスクがいずれもスコア100を記録しており、これは全国でも上位に入る複合リスク集中エリアだ。

柳井市では、近年だけでも2020年(令和2年)7月豪雨による浸水被害が記録されているほか、昭和28年(1953年)の西日本水害では市域全体が壊滅的な被害を受けた。125mメッシュ解析では、一部エリアで洪水時の最大浸水深が20mに達することが示されている。

この記事では、防災DBの一次データと公的資料をもとに、柳井市の災害リスク全体像を解説する。


柳井市の地形が生み出す複合リスク

柳井市の地形は、大きく3つのゾーンに分かれる。

沿岸低地(市街地中心部): 柳井駅周辺の市街地は、柳井川・土穂石川の沖積低地・三角州状低地にあたる。海抜が0〜2m程度の区域が広がり、洪水・高潮・津波・液状化という複数のリスクが重なる典型的な「ゼロメートル地帯」だ。

内陸丘陵(急傾斜地): 市域の北側・東側には急傾斜地が連なり、土砂災害警戒区域の指定数は75か所に上る。丘陵裾部に住宅地が迫っているエリアでは、大雨時の土石流・崖崩れリスクが高い。

島嶼部(平郡島): 市域の南端に平郡島(ひょうぐんじま)を含む。孤立した島嶼部は避難の選択肢が限られるため、特別な備えが必要となる。

この地形的特性が、単一ではなく複合的な災害リスクを柳井市に集中させている。

リスクスコア一覧(防災DB、2024年時点)

リスク種別 スコア(0-100) 評価
洪水 100 最高リスク
津波 100 最高リスク
高潮 100 最高リスク
地震 100 最高リスク
土砂災害 50 中程度
液状化 5 低い
統合スコア 86 極めて高い

洪水・津波・高潮・地震の4項目が満点というのは、単一ハザードの問題ではない。どの方向から災害が来ても被害を受けやすいという、地理的な宿命ともいえる状況だ。


過去の主要災害

昭和28年(1953年)西日本水害

1953年6〜7月、梅雨前線の長期停滞と集中豪雨が西日本一帯を直撃した。全国で死者・行方不明者1,013名に達した「昭和28年西日本水害」は、戦後最大規模の水害として記録されている。山口県内では柳井で263mm、岩国で280mmの降水量を記録。柳井川・土穂石川が氾濫し、市街地は広範囲にわたって浸水した。

この水害は、柳井市の低地部がいかに河川増水に脆弱かを歴史的に示した最初の大規模事例となった。

令和2年(2020年)7月6日 令和2年7月豪雨

2020年7月4〜6日にかけて、九州から山陽地方を襲った記録的豪雨。球磨川(熊本県)では甚大な被害が生じたが、山口県内でも各地で被害が発生した。

NIEDの災害記録によると、柳井市では7月6日に床上浸水2棟・床下浸水19棟の被害が記録されている(2020年7月6日からの大雨警報に伴う記録)。NIEDデータセットには死者数・行方不明者数の記録はなく、人的被害の詳細は不明。

過去の災害年表(NIEDデータセット掲載分)

年月日 災害名 種別 床上浸水 床下浸水
2020年7月6日 令和2年7月豪雨 風水害 2棟 19棟

: NIEDデータセットは全国の市区町村を対象とするが、軽微な被害や古い時代の記録には漏れがある。昭和28年西日本水害など歴史的な大規模災害については、文中に別途記載した。


洪水・浸水リスク ─ 最大浸水深20m、6つの河川が氾濫リスク

防災DBの125mメッシュ解析では、柳井市内で15河川の洪水浸水リスクが計算されている。浸水区域メッシュ数は219,377(洪水スコア100)に達し、市域の広範囲が浸水ハザードゾーンに含まれる。

主要河川別の浸水リスク(防災DB 125mメッシュ解析)

河川名 浸水メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大浸水継続時間
島田川 879 5.0m 2.31m 72時間
田布施川 362 3.0m 0.81m 72時間
柳井川 280 5.0m 1.32m 72時間
灸川(きゅうがわ) 220 3.0m 0.59m 72時間
東川 208 5.0m 1.61m 72時間
由宇川 192 5.0m 1.24m 336時間(14日)
平田川 183 3.0m 0.57m 168時間
屋代川 180 3.0m 1.05m 24時間
土穂石川(とほいしがわ) 153 3.0m 0.87m 72時間
錦川 121 3.0m 0.53m 72時間

浸水深の目安: 0.5m=膝下、1m=腰、3m=2階床上、5m=2階天井近く

市街地を流れる柳井川と土穂石川は、海抜が低い中心市街地を貫流している。上流域での集中豪雨が発生すると、速やかに水位が上昇し、ゼロメートル地帯の住宅地を直撃する。

特筆すべきは由宇川の浸水継続時間336時間(14日間)だ。一時的な浸水ではなく、長期間の孤立状態に備えた備蓄・避難計画が必要であることを示している。

洪水ハザードマップが整備されている対象河川(柳井市公式): 柳井川・土穂石川・灸川・田布施川の4河川。詳細は柳井市公式洪水ハザードマップで確認できる。


土砂災害リスク ─ 75か所の警戒区域、丘陵裾部に住宅が密集

柳井市の土砂災害スコアは50(中程度)だが、これは「安全」を意味しない。背後丘陵の急傾斜地沿いには土砂災害警戒区域が75か所指定されており、防災DBの125mメッシュ解析では市内の土砂災害リスクメッシュ数が45,212に上ることが示されている。

特に大畠地区・余田地区・伊陸地区・日積地区などの内陸部では、丘陵と住宅地が接する箇所が多い。大雨時には土石流・崖崩れ・地すべりの複合リスクが高まる。

土砂災害ハザードマップは柳井市公式サイトで確認できる。


地震リスク ─ 周防灘断層群M7.0、震度6弱の確率は最大50%

柳井市の地震スコアは100で、地震リスクも最高水準にある。その最大の要因は、市の南側の周防灘海底に位置する周防灘断層帯だ。

周辺の主要活断層(防災DB 断層マスタ)

断層名 想定最大マグニチュード 30年発生確率
周防灘断層帯(主部区間) M7.0 2.93%
周防灘断層帯(秋穂沖断層区間) M6.6 0.747%
広島湾-岩国沖断層帯 M6.9 0.374%
岩国-五日市断層帯(己斐断層区間) M6.6 0.653%
岩国-五日市断層帯(岩国断層区間) M7.0 0.283%
岩国-五日市断層帯(同時活動・最大規模) M7.3 0.094%

周防灘断層帯は「主要活断層」に分類され、地震調査研究推進本部が長期評価を公表している断層だ。M7.0の地震が30年以内に発生する確率は2.93%。一見小さく見えるが、年換算すると約0.1%/年で、これは「いつ起きてもおかしくない」水準だ。

防災DBの125mメッシュ解析による柳井市内の地震確率(2024年時点):

  • 震度6弱以上30年確率: 平均8.63%、最大エリアで50.92%
  • 震度5弱以上30年確率: 平均67.48%、最大95.99%
  • 表層地盤S波速度(AVS30): 平均436.9m/s(中程度の硬さ)

震度6弱以上30年確率の最大値50.92%は極めて高い。周防灘沿岸の低地部で地盤が軟らかい箇所では、同じM7クラスの地震でも揺れが増幅される可能性がある。


津波・高潮リスク ─ 最大5m、周防灘に面した沿岸低地の宿命

津波スコア・高潮スコアはともに100。津波浸水想定区域のメッシュ数は181,348、最大想定浸水深は5mに達する。これは一般的な2階建て住宅の1階部分が完全に水没するレベルだ。

周防灘を震源とする地震が発生した場合、津波が柳井市沿岸に到達するまでの時間は短い。周防灘断層帯(M7.0)で地震が発生した場合、津波到達時間は数十分以内とされる。揺れを感じたら即座に高台への避難を開始することが不可欠だ。

高潮については、強力な台風が周防灘に北進した場合、南向きの海岸線が高潮を正面から受ける構造になっている。最大規模の台風では、浸水深5m超の高潮浸水が市街地に及ぶシナリオが存在する。

詳細は津波ハザードマップ高潮ハザードマップで確認を。


避難施設一覧

柳井市内には89か所の避難施設が指定されている(2024年時点、防災DBより)。主な施設は以下の通り。

施設名 住所 区分
バタフライアリーナ(柳井市体育館) 柳井市柳井3714-3 生活避難所・一時避難場所
サンビームやない 柳井市柳井3670-1 生活避難所・一時避難場所
アクティブやない 柳井市柳井3718番地16 生活避難所
伊陸小学校 柳井市伊陸5856-1 生活避難所・一時避難場所
余田小学校 柳井市余田1419 生活避難所・一時避難場所
小田小学校 柳井市伊保庄4853-1 生活避難所・一時避難場所
大畠中学校 柳井市神代4273 生活避難所
伊保庄公民館 柳井市伊保庄2564番地 生活避難所
大畠公民館 柳井市大畠1500番地 生活避難所
平郡東体育館 柳井市平郡東 生活避難所

重要: データ上、広域避難場所の指定は確認されていない。避難先と避難経路は事前に複数確認しておくこと。特に津波・高潮時には低地の避難所は使えない場合があるため、海抜の高い避難所を優先すること。

最新の避難所情報は柳井市防災・避難所ページで確認してください。


今からできる備え

公式ハザードマップを確認する

柳井市は洪水・土砂災害・津波・高潮・地震の全種別でハザードマップを整備している。まず自宅がどのゾーンに入るかを確認することが最初の一歩だ。

具体的な備え

柳井市のように複合リスクが高いエリアでは、単一の災害種別だけを想定した備えでは不十分だ。

水害(洪水・津波・高潮)対策:
- 警戒レベル3(高齢者等避難)が出たら迷わず避難を開始する
- 浸水深が0.5m超になると歩行が困難になるため、増水前の早期避難が命を守る
- 沿岸低地に住む場合は、津波・高潮発生時の垂直避難先(3階以上の建物等)を事前に確認しておく

地震対策:
- 周防灘断層帯が活動した場合、発生から数十分で津波が到来する可能性がある
- 「揺れたらすぐに高台へ」の行動を家族で繰り返し確認しておく

備蓄:
- 由宇川の浸水継続336時間(14日)を考慮すると、2週間分の食料・水の備蓄が現実的な目標
- 平郡島など孤立リスクがある地域では、さらに長期の備蓄が必要

防災DB(bousaidb.jp)では、柳井市の125mメッシュ単位の詳細リスクデータを無料で参照できる。自宅・職場・学校のリスクを正確に把握するためにぜひ活用してほしい。


データ出典

出典 内容
防災DB(bousaidb.jp)125mメッシュ解析 洪水・津波・高潮・土砂・地震・液状化スコア、浸水深、メッシュ別地震確率
地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版 震度6弱以上30年確率
地震調査研究推進本部 活断層情報 周防灘断層帯・岩国-五日市断層帯の長期評価
国土交通省 ハザードマップポータルサイト 洪水浸水想定区域(各河川管理者公表データ)
内閣府 防災情報のページ(NIED災害事例) 柳井市過去災害記録(2020年令和2年7月豪雨)
柳井市公式ハザードマップ各種 洪水・土砂・津波・高潮・地震防災マップ
国土数値情報(避難場所データ p20) 避難施設名・住所・種別
昭和28年西日本水害記録(山口県・気象庁) 1953年水害被害概況

本記事のデータは2024年時点のものです。ハザードマップや避難場所情報は更新される場合があるため、柳井市公式サイトで最新情報をご確認ください。


著者: 防災DB編集部 | 公開: 2026年4月5日 | 防災DB(bousaidb.jp)