弥富市の災害リスク完全ガイド|ゼロメートル地帯が抱える洪水・津波・高潮・地震の複合リスク

著者:防災DB編集部 / 最終更新:2026年4月

愛知県弥富市は、防災DBの統合リスクスコアが91点(5段階評価:極めて高い)の市です。洪水・津波・高潮・地震の4つのリスクがすべてスコア100点という、全国でも類を見ない複合リスクを抱えています。その根本にあるのは「ゼロメートル地帯」という地形的宿命です。市域の大部分が海面より低く、過去には伊勢湾台風(1959年)という戦後最大の自然災害に直撃された歴史があります。

この記事では、防災DB(bousaidb.jp)の125mメッシュ解析データと公的資料をもとに、弥富市の災害リスクを網羅的に解説します。


弥富市の災害リスク統合評価

リスク種別 スコア(100点満点) 評価
洪水 100 最大浸水深10m超の区域あり
津波 100 最大浸水深10m超の区域あり
高潮 100 市域全体が高潮浸水想定区域内
地震 100 30年以内震度6弱以上の確率 最大77.3%
土砂災害 50 ハザード区域9カ所
液状化 60 市内全域が「極めて高い」と判定
統合スコア 91/100 極めて高い

出典:防災DB(2024年時点データ)


なぜ弥富市はこれほど危険なのか?——ゼロメートル地帯という地形的宿命

弥富市は、木曽川・長良川・揖斐川(いわゆる木曽三川)の河口部に広がるデルタ地帯の最下流に位置します。市域の大部分は江戸時代以降に干拓・埋め立てで造成された人工的な平地であり、市域の標高が海面より最大3メートル低い「ゼロメートル地帯」を形成しています。

この地形が意味することは深刻です。

  • 雨が降っても自然には川へ流れない: 市内の約2割の地域では、降った雨は自然排水できず、ポンプで強制排水しなければなりません。排水機が停止した瞬間、市内は浸水し始めます。
  • 川の水面が家屋より高い「天井川」: 市内を流れる河川は周囲の地面より水面が高く、堤防が決壊すれば逃げ場がありません。
  • 軟弱地盤による液状化リスク: 沖積層(砂・泥の堆積土)で構成された地盤は、地震の揺れで液状化しやすく、市内全域が液状化危険度「極めて高い」と判定されています。
  • 伊勢湾に直接面した沿岸部: 南部は伊勢湾に面しており、台風・高潮・津波に対して無防備に近い地形です。

この地形的条件が、すべてのリスクスコアを押し上げています。


過去の主要災害——1,000年単位の水との戦い

伊勢湾台風(1959年9月26日)——戦後最大の自然災害

弥富地域を語るうえで外せないのが、1959年(昭和34年)9月26日の伊勢湾台風です。中心気圧929hPaで志摩半島に上陸したこの台風は、伊勢湾沿岸に記録的な高潮をもたらしました。

  • 全国死者・行方不明者: 5,098名(台風被害としては明治以降最多、内閣府資料)
  • 愛知県内の死者・行方不明者: 3,300名以上(全国犠牲者の約65%を占める)
  • 弥富地域を含む木曽川河口デルタ地帯は、高潮と洪水が同時に発生
  • 短時間で大規模浸水が発生し、夜間だったため多くの住民が逃げる間もなかった

当時の弥富町・十四山村(現・弥富市)は、伊勢湾台風の高潮浸水の中心地帯に位置していました。この経験が、日本の防災行政の転換点となり、1961年の「災害対策基本法」制定につながりました。

(NIEDデータセットに単独記録はないが、内閣府・気象庁の資料で確認)

令和2年7月豪雨(2020年7月5日)——近年でも記録に残る被害

NIEDデータベースには、2020年(令和2年)7月5日の令和2年7月豪雨による弥富市への影響が記録されています(出典:「令和2年7月豪雨による被害状況等について(第6報)」)。令和2年7月豪雨は西日本〜中部に広がる線状降水帯を伴った記録的な大雨で、木曽川水系も危険な水位に達しました。

過去の水害年表(NIEDデータ)

NIEDデータベースに収録されている弥富地域の記録:

災害名 種別 資料
2020 7 令和2年7月豪雨 風水害 被害状況等第6報

※NIEDデータセットには収録されていない被害が多数存在します。伊勢湾台風(1959年)をはじめとする歴史的な大水害は、内閣府・気象庁・自治体史料から別途確認が必要です。


洪水・浸水リスク——木曽川氾濫時は最大10mの浸水

防災DBの125mメッシュ解析によると、弥富市周辺の洪水浸水リスクを持つ主要河川は以下の通りです。

河川名 リスクメッシュ数 想定最大浸水深 平均浸水深 継続時間(最大)
木曽川 18,092 10.0m 2.94m 336時間(約14日)
庄内川 3,190 5.0m 1.99m 336時間
矢田川 1,875 5.0m 0.53m 336時間
員弁川 1,133 5.0m 1.89m 336時間
朝明川 1,093 5.0m 1.58m 336時間
肱江川 182 10.0m 2.98m 336時間
鍋田川 62 0.5m 0.5m 336時間

出典:防災DB 125mメッシュ洪水浸水解析(2024年)

「最大浸水深10m」という数字が意味するもの

  • 0.5m:膝下。歩行困難、子ども・高齢者は転倒危険
  • 1.0m:腰まで。避難はほぼ不可能
  • 3.0m:1階天井まで。1階にいる人は全員命の危険
  • 5.0m:2階の床上まで。2階への垂直避難でも水没
  • 10.0m:3階建て建物の屋根まで。最上階への避難でも水没する可能性

木曽川の想定最大浸水深10mは、3階建て建物の屋根に達するほどの深さです。さらに浸水継続時間が最大336時間(14日間)という点も見逃せません。水が引くまでの間、孤立・低体温・食料不足という二次被害が長期化します。

弥富市がゼロメートル地帯である以上、木曽川が氾濫した際の浸水は「水が来るか来ないか」ではなく「どこまで来るか」の問題です。浸水ハザードマップで自宅の想定浸水深を必ず確認してください。


高潮・津波リスク——伊勢湾台風が証明した沿岸の脆弱性

防災DBの125mメッシュ解析では、弥富市周辺の沿岸リスクメッシュ数は31,757に上ります。津波スコア・高潮スコアともに100点満点、想定最大浸水深10m超の区域があります。

弥富市の南部は伊勢湾に直接面しており、以下のリスクがあります:

高潮リスク: 伊勢湾は半閉鎖的な内湾地形のため、台風接近時に「吹き寄せ効果」と「吸い上げ効果」が重なり、湾奥部(名古屋・弥富方面)での水位上昇が特に大きくなります。1959年の伊勢湾台風では、この効果が最大限に働き、名古屋潮位観測点で3.89mの潮位偏差が記録されました。

南海トラフ地震に伴う津波リスク: 政府の想定では、南海トラフ地震(M9クラス)が発生した場合、弥富市の沿岸部には数mの津波が到達する可能性があります。ゼロメートル地帯である弥富市では、津波と地盤沈下の複合効果により、被害がさらに拡大する恐れがあります。


地震リスク——30年以内に震度6弱以上が起きる確率77%の地域も

地震確率データ(2024年全国地震動予測地図)

防災DBの125mメッシュ解析による弥富市の地震リスク:

指標 市内平均 市内最大値
30年以内に震度6弱以上となる確率 62.7% 77.3%
30年以内に震度5弱以上となる確率 93.0% 97.5%
表層地盤S波速度(AVS30) 209.5 m/s

出典:防災DB 125mメッシュ地震確率解析(2024年全国地震動予測地図データ)

平均62.7%という数字は、「30年以内にほぼ確実に震度6弱以上の揺れを経験する」ことを意味します。AVS30(表層地盤のS波速度)の平均209.5 m/sは「軟弱地盤」の域であり、同じ地震でも揺れが増幅されやすい地盤条件です。

主要活断層

弥富市周辺の主要活断層:

断層名 想定規模 30年発生確率
養老−桑名−四日市断層帯 M7.2 ほぼ0%〜0.003%
養老山地西縁断層帯 M7.0 0.50%
鈴鹿沖断層 M6.7 0.73%
鈴鹿西縁断層帯 M7.0 0.11%
伊勢湾断層帯主部南部 M6.4 ほぼ0%
伊勢湾断層帯主部北部 M6.7 ほぼ0%

出典:防災DB 活断層マスタ(J-SHIS 産業技術総合研究所 2024年)

養老−桑名−四日市断層帯(M7.2)は弥富市の直近を走る断層帯で、発生すれば広域にわたる大規模な被害が予想されます。また、弥富市は南海トラフ地震の想定震源域にも近く、政府は30年以内の発生確率を70〜80%と評価しています。


液状化リスク——全市域が「極めて高い」

ゼロメートル地帯特有のリスクとして、液状化が挙げられます。弥富市は市内全域が液状化危険度「極めて高い」と判定されています。液状化が発生すると:

  • 建物が傾斜・沈下する
  • ライフライン(水道・ガス管・下水道)が破断する
  • 道路が通行不能になり、救助・避難が困難になる
  • 液状化した砂が噴出し、一帯が泥沼化する

伊勢湾台風後の1960年代、弥富地域では干拓地の整備が進みましたが、軟弱地盤という本質的な脆弱性は変わっていません。南海トラフ地震発生時には、液状化と浸水が同時多発する最悪シナリオが現実のものとなり得ます。


土砂災害リスク

防災DBの土砂災害データによると、弥富市内の土砂災害ハザード区域数は9カ所(スコア50点)です。平坦なゼロメートル地帯が大部分を占めるため、土砂災害の危険は他のリスクに比べると限定的ですが、市内の一部丘陵地・盛土造成地ではリスクがあります。


弥富市内の避難場所一覧

防災DBが収集した弥富市の避難場所データ(2024年時点):

避難場所の概要
- 指定避難所数:54カ所
- 広域避難場所:0カ所(広域避難場所の指定なし)

施設名 住所 施設種別
市民ホール 弥富市前ケ須町南本田347番地 避難所
弥富中学校 弥富市鎌島七丁目52番地2 避難所・一時避難場所
十四山中学校 弥富市鳥ヶ地一丁目176番地 避難所
大藤小学校 弥富市芝井十四丁目1175番 避難所・一時避難場所
十四山東部小学校 弥富市神戸二丁目4番地 避難所
十四山西部小学校 弥富市六條町大山94番地 避難所
十四山スポーツセンター 弥富市神戸三丁目20番地 避難所
南部コミュニティセンター 弥富市稲狐町151番地 避難所
ひので保育所 弥富市平島町南広畑23番地 避難所・一時避難場所
大藤保育所 弥富市寛延二丁目17番地 避難所・一時避難場所
十四山保育所 弥富市坂中地一丁目34番地 避難所
南部保育所 弥富市前ケ須町野方802番地1 避難所・一時避難場所
富浜緑地 弥富市富浜一丁目1番地 一時避難場所
のびのび園 弥富市境町307番地1 避難所・一時避難場所
あいち海部農業協同組合十四山支店 弥富市子宝四丁目47番地 避難所
あいち海部農業協同組合鍋田支店 弥富市寛延二丁目96番地 避難所

(全54カ所は弥富市公式ハザードマップでご確認ください)

出典:国土数値情報 避難施設データ(2024年)

重要な注意点: 弥富市には広域避難場所(大規模災害時に市全体で使う大型避難拠点)が指定されていません。また、ゼロメートル地帯の多くの避難所は浸水リスクを持つ区域内にある可能性があります。木曽川が氾濫した場合、避難所自体が浸水する事態も想定されます。市のハザードマップで、自宅近くの避難所の浸水深を必ず確認してください。


今からできる備え——ゼロメートル地帯での生き延び方

1. まず自宅のリスクを知る

弥富市の公式防災情報と各種ハザードマップは以下から確認できます。

2. 「逃げる場所がない」前提の備え

ゼロメートル地帯で特に重要なのは、浸水が始まる前に高台・市外への水平避難を完了させることです。

  • 早期避難の鉄則: 市から避難指示が出る前でも、気象情報・河川水位情報を見て自主的に避難する
  • 垂直避難(3階以上)の限界を知る: 木曽川氾濫時の想定浸水深は最大10m。2〜3階への垂直避難では生存できない可能性がある
  • 車は早めに移動: 道路が浸水すれば車での避難は不可能。浸水前に駐車場所を高台に移す

3. 最低限の備蓄と装備

準備品 理由
飲料水(1人7日分) 浸水継続時間が最大14日(336時間)の場合も
非常食(7日分) 孤立時の長期サバイバル
浮き輪・ライフジャケット 浸水時の脱出手段
防水バッグ 重要書類・薬・スマホを守る
ラジオ(電池式) 停電時の情報収集
携帯トイレ(50回分以上) 避難生活の長期化に備える

4. 家族で決めておくこと

  • 避難先(高台の親族宅・遠方ホテル等)
  • 集合場所(自宅が使えない場合の連絡方法)
  • 「自主避難」の発動ルール(例:「大雨特別警報が出たら動く」ではなく「木曽川の水位がXに達したら動く」)

データ出典一覧

データ 出典 備考
統合リスクスコア・メッシュ別浸水深・活断層データ 防災DB(bousaidb.jp) 2024年時点
地震動予測(30年確率) 地震調査研究推進本部「全国地震動予測地図2024年版」 防災DB経由
活断層マスタ 産業技術総合研究所 J-SHIS 防災DB経由
過去の災害事例 国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース 2024年収録分
避難場所データ 国土数値情報 避難施設データ 2024年
弥富市ハザードマップ 弥富市公式HP 洪水:令和3年9月、高潮・浸水津波:令和4年3月
伊勢湾台風被害データ 内閣府防災情報 1959年(昭和34年)
ゼロメートル地帯情報 愛知県、弥富市公式HP
令和2年7月豪雨 国土交通省「令和2年7月豪雨による被害状況等について(第6報)」

このデータは防災DBが収集・整理した公的オープンデータに基づいています。最新の情報は弥富市公式HP・各種ハザードマップでご確認ください。データの誤りや更新情報は 防災DB(bousaidb.jp) までお知らせください。